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第二十八章 大和の地勢と敵情


 大和やまとは盆地である。

 守るに易く、攻めるに難い。——山に囲まれた平地。入り口が少ない。入り口を塞げば、中の者は安全で、外の者は入れない。

 我らは外の者だ。——東の山を越えて、外から覗いている。

 敵は三層ある。

 外側。八十梟帥やそたける。盆地の縁に散在する土豪たち。それぞれが小さなとりでを持ち、小さな兵を抱えている。一つずつは弱い。——しかし数が多い。蜂の巣のように。一つ潰しても隣が刺す。

 内側。磯城しきの兄弟。盆地の南を治める者たち。宇陀うだより大きい。兵は数百。——宇陀うだと同じく兄と弟がいる。兄が治め、弟がいる。弟が味方になるかは分からない。

 奥。長髄彦ながすねびこ。盆地の中央から西を押さえている。浪速なにわで我らを追い払った男。地の豪族。——我らが南から回り込んだことを知っているかどうか。知っているだろう。宇陀うだ兄宇迦斯えうかしに報せを出した男だ。我らの動きは筒抜けだと思った方がいい。

 最奥。邇芸速日命にぎはやひのみこと天磐船あまのいわふねで降りた天の子。長髄彦ながすねびこの主。——同じ天の血。

 三層と一人。外から順に崩す。あるいは——内から崩す。

 作戦を記す。

 宇陀うだで学んだことがある。正面からぶつかるな。調略を使え。兄弟がいれば、弟を味方にしろ。——全部が全部うまくいくとは思わない。しかし浪速なにわで正面からぶつかって負けた。同じことはしない。

 外側の八十梟帥やそたけるは——一つずつ潰すか、一つずつ味方にするか。飯で開く門もあれば、弓でしか開かない門もある。一つずつ聞いて判断する。

 磯城しきは——弟宇迦斯おとうかしから筋を通す。宇陀うだの弟と磯城しきの弟が知り合いかどうか。知り合いなら話が早い。知り合いでなくても、弟宇迦斯おとうかしの紹介で接触できるかもしれない。

 長髄彦ながすねびこは——最後に残る。最後まで対話を試みる。通じるかどうか分からない。分からないが——「俺の土地だ」と言った男の声を、俺は忘れていない。あの声は正しかった。正しい者との戦は——最後の手段にする。

 邇芸速日にぎはやひは——会えるかどうかすら分からない。長髄彦ながすねびこが門番をしている。門番を越えなければ会えない。

 兵の状態を記す。

 千二百五十人。宇陀うだで五十人加わった。

 士気は——回復している。吉野よしので魚を食い、宇陀うだで米を食い、高台から大和やまとを見た。見えるものがある。——着く場所が見える。それだけで足が動く。

 しかし——十七年の遠征だ。日向ひむかを出たときに四十五だった者が、もう六十を過ぎた。俺自身がそうだ。花の血が流れている。短い命の血が。——いつまで持つか分からない。

 急がない。しかし——遅すぎてもいけない。急がず遅れず。兄が生きていたら「面倒だな」と言うだろう。

 武器の状態を記す。

 布都御魂ふつのみたま。光らない地の剣。——俺が持っている。重い。左手で持つ。振るえない。しかし突き刺せる。地面に刺して使う剣だ。

 弓。稲飯命いなひのみことがいない。弓の長がいない。——日向ひむかの兵の中から最もうまい者を弓頭ゆみがしらに据えた。名は——覚えたが、稲飯命いなひのみことではない。誰を据えても、あの背中にはならない。

 旗。五色。赤は進め。白は止まれ。青は退け。黄は集まれ。黒は散れ。——日の丸の旗はない。まだ作っていない。新しい旗が何であるべきか、まだ分からない。

 右手。人差し指と中指が動く。薬指がかすかに動くようになった。小指は——まだ。はしは右手で持てるようになった。記すのは左手のままだ。

 足の裏の状態を記す。

 温かい。——宇陀うだに入ってから温かい。大国主命おおくにぬしのみことの道が太い。大和やまとに近づくほど太くなる。

 しかし上の層も厚い。人の仕事の層。長い年月をかけて耕された土地の層。——この層は温かさではなく冷たさとして感じる。拒んでいる。「ここは耕した者の土地だ」と。

 二重の土地。下が呼び、上が拒む。——この矛盾を抱えたまま進む。

 八咫烏やたがらすの状態を記す。

 いる。——木の上に。温かい声で鳴く。進め。まだ進め。

 山を抜けてからも、烏はいる。山の案内者だと思っていたが——盆地でも消えない。三本足の烏は、山だけの者ではないらしい。

 いつまでいるか分からない。——いる間は聞く。いなくなったら、足の裏で聞く。どちらもなくなったら——目と口で聞く。人に。

 記す。

 大和やまと攻略作戦、開始。

 日を背にして。西へ。

 兄の遺言を持って。三つの穴を抱えて。

 進む。

〈第二十八章・了〉


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