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2-2 オールブランをチョコレートと間違えたらこうなる

私がゴルド王子達と別れてから数時間後。部屋でのんびりと過ごしていると、こんこんとドアが叩かれる音が聞こえた。


ドアを開けると、そこにはセドナがいた。

先ほどまでどうやらキュプラと何やら話をしていたらしい。


「どうも、サチカさん。昼食の用意が出来たんで、来てくだせえ」

「おう! 飯だ、飯! やっとありつけるぜ……!」


今朝、寝坊した私は朝ごはんを食べ損ねたせいで今はすっかり腹ペコだ。

私ははしゃぐようにベッドから跳ね起きる。




そして軽く髪を整えながら私はセドナに尋ねた。


「なあ、セドナ?」

「なんすか?」

「あんたはこの『乙女ゲームの世界』の『お助けキャラ』なんだろ?」

「そうっすよ。キュプラさんとサチカさんの手助けをするのが、あっしの役割っす。なんか聞きたいことがあるんすか?」

「いや、別に今はないな」

「そうっすか? キュプラさんはガンガンあっしに『攻略情報』を聞きに来やすけどね」


私はそもそも『断罪エンド』を目指している。

だから全力を持って彼がキュプラをサポートすれば、きっと彼女がブラス王子とゴールインするだろう。



「なら、必要になったら私もあんたに何か聞くことにするよ」


そう言って私は食堂に足をすすめた。



ーーーーーーーーーーーーーーー



私が食堂に着くと、すでにブラス王子が食卓に座っていた。

そして隣にはコックコートを身にまとったキュプラがいた。


(へえ、決まってんじゃん)


ピカピカな服に身を包んだ、その『女前』な姿に思わず私は驚いた。


「あら、おはよう、サチカさん」

「お、おう……おはよう、キュプラ」

「……呼び捨て、ですか……まあ良いですわ。さあ、昼食の準備ができていますので、あなたもどうぞ!」


そういってキュプラはニコニコと私を椅子に案内してくれた。

するとブラス王子もこちらに気づいたらしく、恥ずかしそうに声をかけてきた。


「やあ、サチカさん」

「おう、ブラス王子! 相変わらずしけた顔じゃんか!」

「ハハ……さっきはごめんね、サチカさん」


ブラス王子は私を見て少し恥ずかしそうに顔を背けた。

……嫌われたのかな? ……いや、私に欲情してくれてるのか? 前者でも悪くないが、後者なら尚のこと嬉しい。



(うーん……王子が回復した時が楽しみだ……。思いっきりバカにして嫌われて、復讐セックスを思いっきり味わいてえなあ、おい……)



そう思いながらも、私は机の上に置かれた料理をチラリと見つめた。

机の上に並んでいるのは、茶色いチョコレートのような細いシリアルと牛乳。

メインディッシュは白くあぶった鶏肉に香ばしいハーブの匂いがする。

副菜は真っ赤なスープ……恐らくミネストローネだろう。


「へえ、美味そうじゃん」

「これは全て『私が』つくったんですの! さあ召し上がれ、ブラス王子! 私はもう食事を済ませたので、ご心配なく!」


ああ、なんていい子なんだろう、キュプラは。

この女がいれば、私なんてお役御免に違いない。


「ああ、いただきます!」

「いただきます……」


そう思いながら私は牛乳をシリアルにかけて一口飲んだ。……だが。


(ぐわ! ……なんだこりゃ!)


一口食べたとたんに思わず吐き出しそうになった。


「いかがです? この『オールブラン』のシリアルは? 栄養満点ですわよ? 脱脂粉乳と一緒なら、無駄な脂質も取らずに済んで一石二鳥ですから!」

「へ、へえ……」


どうやら、ブラス王子もまずそうな表情をしている。……よかった、この世界の基本的な味わいではないのか。


(くそ……こいつ、チョコレートじゃないじゃねーか!)


一見茶色くて美味しそうなシリアルだったが、なるほどオールブランだったか。

初めてこいつを食ったときに味わったあの『裏切られた感』をもう一度味わうことになるとは。


こいつの苦味はどうにも受け付けない。しかも脱脂粉乳を使っているなら猶更甘味がないので、もはやこれはただの栄養剤の出来損ないだ。


(ってことはこれも……)


そう思って私は鶏肉を口に含んだが、その瞬間に虚無の世界が広がった。

この鶏肉、ハーブの匂いはあるけれども肝心の塩味が殆どついていない。そもそも油が殆どないからぱさぱさだ。


「これは……なんだ、キュプラ?」


ブラス王子もどうやら同意見なのだろう、思わず尋ねた。

するとキュプラは一瞬困惑したような表情になった。


「えっと、それは……。そうだセドナ、こ、この料理の説明を頼みますわ?」

「へい。……こいつは鶏肉のハーブソテーっす。むね肉はタンパク質が豊富っすから。なので、筋肉を付けるのには最適な料理っすね。それに塩分を減らしているんで、健康にもバッチリっすよ?」

「……ってことですわ? 分かりました、王子? 私は王子が早く元気になって外でまた剣を触れるように、そう思って作ったのですわ?」

「そ、そうか……ありがとう、キュプラ……」


そういいながらブラス王子は頷いた。

最後に私は赤く美しいスープをチラリとみて口に含んだ。


(うお……! なんだこれは……!)


口の中一杯に苦味がほとばしる。

しかもそれが喉の中でぬるぬると撫でるように滑り落ちていく。

その余りの衝撃に思わず私はセドナを睨みつけた。


「お、おい、セドナ……こりゃなんだってんだ……!」

「へい、こいつはビーツを使ったスープっすよ。食物繊維が取れるように、皮もいれていやすし、栄養強化のためにケールもいれいやす。油分も少し欲しいんで、高級ななオリーブオイルを使ってやすから」

「な、なるほど……」


ここにある料理は全て栄養バランスは素晴らしいものなのだろう。

だが、流石にこれを食べるのは口が受け付けない。ブラス王子もあまりいい顔をしていないようだ。だが、それを見てキュプラは申し訳なさそうに尋ねる。


「ブラス王子……味は頑張ったのですが……やはり、美味しくないですよね?」

「そ、そんなことは……」


何とか食べようとするブラス王子を見て、哀しそうにキュプラは呟く。


「ううん? 私だってこれは美味しくないって分かっているもの! ……けど王子? これもみんな、王子に頑張って欲しいからです! ですので、私も心を鬼にしてこの食事を作ったんです!」

「……あ、ああ……」

「王子はひきこもり生活ですっかり体が弱ってしまって、周りに差を付けられてしまいましたよね? であれば、今から食事だけでも頑張らないとですから!」

「うん……」


なるほど、これは全部王子のために悪者になってくれていたのか!

キュプラは優しい子なんだな。


「私は王子のこと、やればできる人だって期待していますよ? それに、しっかり食べて元気を付けて! 『剣の修行と政治の勉強を頑張る王子の姿』こそが、私は好きなんですから! 今の姿を見ていても辛いだけですし、見たくありませんから!」

「……ああ……頑張れなくて……すまない……」


申し訳なさそうにスプーンを止めたブラス王子。

その姿に、キュプラは不思議そうに尋ねた。


「ブラス王子……。やはりまだ、剣を振るう力は出ないんですか? それとも、王子がひきこもりになった理由って、この前の試験の他にも理由があるんじゃないですか?」

「……いや、特には……」

「分かった! もしかして、剣の師匠に酷いことを言われたんですか? もしそうだったら、私がセドナと一緒に説得に行きますよ? 他には何か思い当たることがあります?」

「…………」

「それともやっぱりゴルド王子を気にして? いいんですよ! ゴルド王子はゴルド王子! 出来る範囲で頑張っていけばいいんですから! ね? そうだ、私も一緒に修行に付き合いますよ! だから……」

「もういい!」



だが、そこまで言ったところで、バン! と机を叩いて立ち上がった。



「お、王子……?」


ビクリと体を震わせたキュプラに対して、少し落ち着いたのかブラス王子は穏やかな声で答える。


「すまない、大声を出して……。だが、今日はもう食事は要らない。一人にさせてもらってくれないか?」

「え、ええ……」

「……キュプラ……頑張れなくて、すまない……君のいうことは分かるんだが……まだ、僕は……」


そういうと、泣き出しそうな声で言葉を漏らすとブラス王子は食卓を後にした。



「ブラス王子……やっぱり、まだまだ復帰には時間がかかるのね……まあいいわ。セドナ、その残飯、後片付けしておいて」

「へい、わかりやした」


その様子を見ながら私は思った。


(やっぱりキュプラがいれば……私は安心して『嘆きの修道院』に行けるんだな)


私はバカだから細かいことはよくわからない。

けど、キュプラがブラス王子のことを思う気持ちは本物だということは何となくわかった。


王子に期待をかけて社会復帰のために励ますことも忘れていない。

ひきこもりの原因を一緒に突き留めて『解決』しようと努力している。


……この調子なら、きっと彼女がブラス王子のハートを射止めて結婚することになる。そして私はめでたく『断罪ルート』に進める。


そう思いながらも、私はどさくさに紛れてセドナに昼食を片付けさせた。

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