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2-1 セドナはキュプラの質問に「はい」とは言ってない

ここはブラス王子のもう一人の婚約者候補、キュプラの私室。



「まずいわね。このままじゃ……私の玉の輿の計画がおじゃんになってしまいますわ……」


そう呟きながら、苛立つような表情で爪を噛んでいた。

その姿には、昨日ブラス王子のもとで見せていた健気な女性の面影はない。


「まさか、ドアをぶち壊して王子を引きずり出すなんて……くそ、散々賄賂をばら撒いて、ようやく婚約者候補になれたっていうのに……あの『金づる』を手放してなるものですか!」


キュプラがブラス王子を狙っているのは無論玉の輿が目当てだ。


この世界で女性が玉の輿を狙うこと自体は悪ではない。というのも、彼女は没落貴族の出身であり婚約者候補として入り込んだ際も『故郷にいる領民の保護』という理由を掲げていた。……だが、これは無論表向きの理由であり、本心は……。


「あの、大人しそうで頭の悪そうな王子ならきっと、私が何をやっても怒れないわよね! そしてドレスもアクセサリーも集め放題、パーティも開き放題の生活……そう思ってたのに……くそ、サチカ、あの女が……!」


……といったところだ。

そしてバン! と机を叩きながら呟いた。


「なんとか逆転して、王子の好感度を上げないと……。何かいい手は? ……そうだ。セドナ! いるの?」


そう彼女は叫んだ。



「へい、あっしはここに」


すると、天井から忍者のごとくストン、と降りてきた。


「キュプラさん。また『お助けキャラ』のあっしの知識が必要なんすか? いっときやすけど、あっしは『中立』っす。サチカさんの味方でもありやすからね?」

「そんなことは前から聞いてるから知ってるわよ。……また異世界の知識を貸して」

「おやすいごようっす」


没落貴族である彼女が婚約者候補として取り入るための多額の賄賂は、無論彼女の才覚で稼いだものではない。


ある日突然『お助けキャラ』としてキュプラのもとにやってきた、異世界転移者のセドナ。彼に異世界の料理を色々と教わり、それを自領で振る舞ったところ王国中に評判となったことで稼いだものだ。



「あんたのことは信頼してるわ。ところで、なんで私の方にだけ先に来てくれたの?」

「サチカさんは異世界からの『転生者』だからっすよ。だから、キュプラさんにはハンデとして、早い段階から手を貸すようにしないと不公平ってことらしいっす。転移する際にそういわれやした」

「へえ……転生者ねえ……」


因みに前の章で王子が口元にケチャップを付けていたのを見て『なぜトマトが中世ファンタジーの世界にあるのか』と思った読者も多いだろうが、理由はセドナがサチカの転生前前にこの大陸に広めたからである。


「そんでキュプラさん。今度はどんな願いを叶えてほしいんすか?」

「ええ。あの引きこもり王子をなんとか立ち直らせるために協力してほしいの」

「あの引きこもり王子ってブラス王子のことっすよね」

「ええ。そのためなら、どんな手段も問わないわ」


そうニヤリと笑うキュプラ。

だが、セドナはそれを聞いて一瞬躊躇するような表情をみせた。


「え? ……本当に……『どんな手段も問わない』んすか?」

「当然よ。もうなりふり構ってられないもの」


「……念のため、もう一度聞きやす。キュプラさんの望みは『ブラス王子を引きこもりから復帰させること』でいいんすね? で『そのためには手段を選ばない』と」

「あのねえ! 同じことを何度も言わせないで! あんたは黙って私の言うとおりにしていればいいの!」



ブラス王子の時とは異なる高圧的な態度で彼女はセドナに詰め寄る。……まあ、これがキュプラの本来の性格なのだが。

そしてセドナは彼女の発言に対して、決意を固めたような表情で頷いた。


「……わかりやした、では、あっしが異世界で学んだ知識を利用しやしょう。そうすればきっと、王子はひきこもりから復帰しやすから」

「へえ、どんなこと?」


目を輝かせるキュプラに、セドナは笑みを浮かべて答える。


「キュプラさんのはやるべきことは3つ。王子には『条件付きの愛』を与えること。そして『期待を常にかけ続けること』。そして『ひきこもりの原因を究明すること』。この3つを徹底してつかあさい」

「なるほど。……それが理論的に正しいやり方なのね?」

「…………」


セドナはそれには答えず続ける。


「それと栄養学に根ざした料理を作りやす。栄養満点で、かつ脂質や糖質の少ない完璧な食事を作りやしょう」

「頼むわ。私が作ったことにするけどいいわよね?」

「ええ、もちろんっす」



そういいながらセドナはニコニコと笑って作戦を説明し始めた。



……だが、彼女は後に気づくことになる。

「『異世界転移者』とは必ずしも『現代日本から来た日本人』とは限らない」


ということに。

そして、彼女が自身の願いをセドナに伝えた際、致命的なミスをしていたということに。

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