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5-2 ごろつき編 この世界にも精霊は存在する

「バッチリっす、サチカさんは……ちゃんとおびきだされやした」

「やるわね、セドナ」

「ええ。護衛も連れてきていないようっすね」



こちらは修道院近くの裏通り。

そこでキュプラとセドナは、お互いにローブを身にまといながらひそひそと声を掛け合っていた。


キュプラは、隣にいた数人の男たちに声をかける。

彼らは傭兵崩れのごろつきたちだ。セドナの命令で集められた連中であり、彼らはサチカの肖像画を見ながらぼそぼそと仲間内で話し合いをしている。


そんな彼らにキュプラは高圧的な口調で声をかける。


「あんたたち、サチカの顔は分かったわね? 手はず通り頼むわよ。報酬は弾むわ」

「任せてくれ。……ようは、そのサチカという女に暴行を加えればいいんだな?」

「そういうこと。思いっきり傷つけてやっておきなさい。それと、それを証拠品として落とすようにね」


そういってキュプラは小さなブローチを渡す。これはセドナに頼み、ゴルド第一王子の部屋から盗ませたものだ。


「へいへい。貴族様の考えることは、えげつないねえ……なんであの小娘をそこまで目の敵にするんですかい?」


そういいながら男達は半ば皮肉るようにそうつぶやくとキュプラは彼らを露骨に見下すように答える。


「あんたら貧乏人には分からないわよ。黙って仕事だけしていればいいの」

「分かっていますよ、お嬢様。それに坊ちゃんも」


ごろつきは隣にいたセドナの方を見ながら、吐き捨てるように答える。


「へへ……。それじゃあっしらは、これで」

「精々きちんと仕事をやることね。上手くいったら残りの報酬を恵むわ」



そういって二人は裏通りを後にした。




「嫌な女だなあ……。ところで親分、どう思います、今回のしのぎ?」

「……正直、うさん臭いな」


先ほどのキュプラとのやり取りの中で唯一口を開かなかった老齢の男がそうぽつりと呟く。彼が、このチンピラ集団のリーダーだ。


「どういうことです?」

「どう見てもあのセドナという男の口ぶり……何かを隠しているようだった」

「何かを?」

「ああ。……そもそも、おかしいと思わないか? たかが小娘一人を襲う仕事に我々が駆り出される理由が。しかもこれほどの高額の報酬でな」

「確かに。前金だけで下手なモンスター退治の報酬を遥かに上回ります。そもそも、俺たちよりもっと安くて足のつかない連中は他にいますし」


彼らは、現在でこそごろつきに身を落としてはいるが、戦時は傭兵としていっぱしの成果を上げていた者たちだ。


そのため、今も仕事を頼まれることがあるが、安い依頼は受け付けない。親分と呼ばれた男は少し考え込む様子を見せてから答える。



「恐らくだが……罠かもしれないな」

「どういうことです?」

「このサチカという小娘……。肖像画だけ見てもわかるが、どこか得体のしれないものを感じる。まるで我々の世界とは異なる場所から来たのかもしれん……」

「精霊とか……神の類ってことですか」



ここは乙女ゲームの世界であり、精霊や神の類は実在する。また、彼女が『異なる世界』から来たこと自体は事実だ。そのため、彼らがそう考えること自体は、けっして的外れではなかった。


「その可能性は高い。……あのセドナという男、見たところかなりの使い手だ。にも拘らず、自分であの娘を襲わず我々を利用するということは……どう思う?」

「俺たちは捨て駒ってこと……ですか?」

「恐らくな。これは想像だが……サチカに手を出そうとした瞬間、我々は魔法で消し炭にされると考えるべきだろう。彼女が『襲われた』という事実を作り、さらに口封じにも繋がるということが目的と考えれば辻褄があう」

「ひ……」


そこまで聞いて、子分の男たちは顔色を変えた。



「だが、本当に彼女がただの小娘である可能性も否定できん」

「そ、そうですよね! じ、じゃあ俺たちはどうすれば……」

「案ずるな。あの小娘が少しでも不自然な言動をとったらワシが合図する。そうしたら、お前たちは全力で逃げろ」

「親分の合図で? それで逃げられますか?」

「ああ。精霊の類は力こそあるが『速さ』はさほどではない。お前らの装備なら振り切れるはずだ」


老兵としての貫録を見せるように、その男は表情を変えずに答えると、周りの子分たちは安堵したような表情を浮かべた。


「分かりやした! にしても、危ないところでしたね……」

「流石親分っす! 長年この世界で生き延びてきたってことはあります!」

「はっはっは! そうだろう? ……おや、どうやらターゲットが来たようだな……いくぞ、お前たち」

「「はい!」」


遠くからサチカの姿が見えたのを見て、ごろつき達は持ち場についた。

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