5-1 サチカはいろいろ人生舐めてます
「ブラス王子の奴、まだかな……」
私はしばらくの間、会場の外でゆっくりと茶をすすりながら待っていた。
(あれだけ王子を罵倒したんだ、きっとムカついてるに違いないよなあ……さあ、憂さ晴らしに襲いに来い、ブラス王子!)
良識あるブラス王子のことだ、道端でいきなり『引き倒す』ようなことはしないだろう。
だが、今夜寝所で獣のように私に向かってくる可能性は十分にある。そのことを思い私はセドナからもらった『性病と妊娠の防止薬』をグビッと飲み干す。
(にしても、ここの男性たちは皆いい体だよなあ……うへへ……)
この薬はこの世界では『まずい』らしいが、私の感覚ではエナジードリンクのそれに近いので、こいつは毎日でも飲んでいられる。
この味を堪能しながら私は試合場を後にするイケメンたちをじっと見つめていた。
(いいよな、この世界の男性は体を隠さないから筋肉を見放題だし……。あんな連中が『嘆きの修道院』で私に抱かれてくれるのか……。マジ最高だな、この世界は……)
そう思いながら、しばらくのんびり過ごしていると急に私に声をかけるものが現れた。
「ごきげんよう、サチカさん」
キュプラの腰ぎんちゃくの一人である侍女だ。
「どうしたんだよ?」
「ブラス王子から言伝を預かっています。会場の北東にある修道院のシスターに、この手紙を渡してほしいとのことです」
「はあ? めんどくせえよ。なんでそんなことしないといけないんだ?」
ブラス王子が私にお使いを頼むのは珍しい。
正直そう思いながら答えたが、侍女は薄笑いを浮かべながら答えた。
「まあそういわないでください。恐らくサチカさんにしか頼めないってことなので」
「私にしか?」
「ええ。あの教会は男子禁制なんですよ。だからサチカさんを回すってことなのでしょうね。それに……」
「それに?」
「将来の婚約者を今のうちに教会の関係者に顔見せさせたいって思惑もあると思ういませんか?」
「はあ? なんで私が? 将来の婚約者?」
何を言ってるんだ。
将来の婚約者はキュプラに決まってるだろう。私はブラス王子にどこか好意を持たれてはいるのは知っているが、キュプラと違って何の努力もしていない。
それに、今日のあの罵倒で好感度は一気にマイナス評価になったはずだ。
だが彼女はニコニコと笑いながら答える。
「ええ、ブラス王子はサチカさんにだいぶお熱を上げてるみたいですよ? 私から見ても明らかですもの」
「うーん……なんでそんなに好かれるかなあ……演技だと思うぜ、それ」
「とにかく、そんなに時間もかからないはずなので、頼みますよ!」
そういうと侍女は手紙を渡して去っていった。
(うーん……なんか変だったな、今の態度……)
この世界の女たちは、やたらと同性同士でイチャイチャしている。
だが私はその雰囲気にどうしても馴染めないこともあり、彼女らとは仲があまり良くない。にも拘らず、あんなフレンドリーな接し方をされることに違和感を感じた。
(ということは……ひょっとして、これは罠!?)
となれば、考えられることは一つ。
私を人気のない裏道におびき寄せて暴行をはかる予定なのではないかということだ。
(誰が考えた? ブラス王子じゃないよな……)
そもそもブラス王子の立場であれば、わざわざ他のものに手を出させずとも、私を直接襲いにくればいい。
……となると、別の誰かか。ひょっとしたらキュプラか? なるほど、辻褄があう。
この世界の女は※私や読者の世界における『中世の男性』のように貞操を大事にしているようだ。そのため『傷物にされた』という噂が立てば、婚約を破棄するという一方的なやり口があると聞く。
(※サチカは、自分の現在いる世界の方が『貞操逆転世界』だと誤解している)
だがそんなことはどうでもいい。
私はパン! と膝を打った後に立ち上がった。
「いやあ、全くしょうがないよなあ! 頼まれちゃあ仕方ないし! しょうがない、届けに行ってあげないとなあ!」
普通だったら、誰か優秀な女剣士に護衛を頼めばいいのだろう。
だが『あいにく』私はその発想に至らなかったようだ。そして私はセドナのことを鵜呑みにしてしまい『運悪く』この裏通りに行ってしまう。
だからイケメンの男たちに私が襲われても不可抗力だ。うん、仕方がない。これで婚約破棄され、嘆きの修道院で毎日ハーレム生活……もとい、地獄の苦しみを受けるのも運命なのだ!
そう思いながら私は足取り軽く、手紙を握りしめて向かうことにした。




