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4-6 『一度しか使われない技名』を考えるのは正直面倒です

それからしばらくして、私は王子の試合の見物と救護室での治療で両方を行ったり来たりしていた。


「いやあ、眼福眼福!」


あらかた治療も終わったあと、私は客席にどっかりと大股開きで座りながら、たっぷりと男の肌と汗に触れた右手を見つめた。


(救護のためとはいえ、こんなに男性の体に触っても怒られないなんて、本当に貞操逆転世界万歳だな。ああ、はやく嘆きの修道院に行きたいな……)


やはりこの世界は乙女ゲームということもあり、モブの男性キャラたちも粒ぞろいのイケメンばかりだ。


……そんな彼らが私のことを『性欲を満たす対象』として見てもらえるうえに、家庭の責任を負うこともなく朝から晩までセックス三昧。

ああ、考えただけでも興奮する。まさに「女のロマン」だ。



「ふふ……ん?」


そんなふうに思っていると、隣で憔悴したような表情のキュプラに気がついた。


「どうしたんだよ、キュプラ。なんか元気ねーじゃん」

「ああ、サチカさん。実は……」


そういうと、隣からセドナが頬をかきながら続きを話してきた。


「アハハ……あっしら、先ほどゴルド王子にこってり絞られたんすよ。力の霊薬をブラス王子に飲ませようとしたことをね」

「どうしてだよ?」

「実は……。この試合のルールの第3条43項に書かれてたんすよ。『選手の身体能力を一時的に高めるアイテムについては、利用を一切禁ずる』ってね」

「そう……。私たちはそれを知らなかったから、ゴルド王子に水筒を叩き落とされたの。そのうえものすごい怒られて……もう最悪よ!」

「そうだったのか……」


よく見ると、先ほどセドナが持っていた革袋がなくなっている。

そういうとともに、キュプラは突然セドナに怒鳴りつける。



「それもこれもあんたのせいよ、セドナ! なんでちゃんと試合前に調べておかないの!」

「す、すいやせん! あっしも良かれと思ってやったことなんす!」

「あんたのせいで私まで怒られたじゃない! どうするのよ、これで私が玉……ごほん、結婚を逃したら!」

「だから申し訳なかったっすよ! けど、注意だけで済んだから良かったじゃないっすか!」

「いいわけないでしょ!」



(ん? 今、変じゃなかったか?)


さっきセドナは「大会の第3条41項」にその記載があるといった。禁止事項が『何条の何項に書かれていたのか』をスラスラ言えるのに、なぜそれを守らなかったのか?



(……まあいいか)


だが、そんなことはどうでもいい。

私は二人の肩をぽんと叩いて、試合場を指さした。



「ま、そういうこともあるよな。ほら、決勝戦始まるぜ」

「え? あ、本当! ブラス王子頑張って~~~~~!」


鳴り物を封じられたキュプラは、その得意の声量でブラス王子に声をかけた。




「やっぱり、決勝戦はゴルド王子とか……」


私は救護をする傍ら、他の選手の試合も見てきたが、ゴルド王子の動きは素人目に見ても頭一つ抜けていた。


単純に体格自体が大きいということもあるが、鎧を煌めかせながら神速の速さで剣を振るうその姿は、まさに戦神と呼ぶにふさわしかった。




「きゃあああああ! ゴルド様あああああ!」

「今回も優勝しちゃってくださあああい!」


そんな風に叫ぶ女性たちの黄色い声も、ゴルド王子の時にだけは何倍も大きくなっていた。



「ブラス王子! 負けるんじゃねえぞ!」

「てめーに夕飯代賭けてんだ! ぜってー勝ちやがれ!」

「王子! 私たちはあなたを応援しています!」



一方ブラス王子の応援は、ゴルド王子に比べると小さいものだった。

判官びいきで彼を応援するものや、恐らく賭けをしているであろう男性たち、そしてゴルド王子に比べると数が少ない『純粋なブラス王子のファン』である女連中。


(はあ、これは確かに、いたたまれないよね……)


なるほど、ブラス王子が劣等感を持つわけだ。

そう思っていたが、ブラス王子は一瞬困惑するような様子こそ見せたが、すぐに顔を上げてゴルド王子にニヤリと笑みを浮かべる。



「……あれ、ブラス様……前と雰囲気が違うわね……」


そんな風にキュプラもぽつりと呟いていたのをセドナはニヤニヤと笑いながらも頷く。

そしてブラス王子はすっと背筋を伸ばして剣を正眼に構えた。



(……ん、雰囲気が変わったな)



その瞬間、彼がいつもと少し違う雰囲気を見せたことに観客も気が付いたのだろう、一瞬声が消える。


そして、



「はじめ!」


という声とともに太鼓の音が鳴り響いた。





ーーーーーーー



「いけ、ブラス!」


決勝戦くらいは私も真面目に応援しよう。

そう思いながら声をあげると、ブラス王子はそれに呼応するように高く飛び上がる。



「うお、すげー!」


ゲームのキャラクターは、モブ雑魚ですら大抵高跳びの世界チャンピオンになれるような跳躍力を持つ奴が多い。


ブラス王子もその一人なのだろう、強力な飛び込み斬りを放つ。

……だが、その一撃をゴルド王子はすっとかわすと、右手を握りしめて、何やら気を集中させてきた。



そして次の瞬間、強烈な光弾が彼の手元から放たれる。



「きゃあああああ! カッコいい!」

「ほう、もう出すのか、閃光気弾を……」


その様子を見て観客たちがそんな風に騒ぎ出した。

私は一瞬何が起きたかわからなかったが、隣でセドナがそっと耳打ちしてくれた。



「あれは闘気術っす。このゲームの世界では、魔法が使えない剣士が学ぶ技なんすけどね。ゴルド王子は剣もそうっすけど闘気術の適性がとても高いんす」

「へえ。ブラスも使えんのか?」

「ええ。本来あまり得意じゃないんすけど……ん?」


そうセドナが指さすと、今度はブラス王子が剣を投げ上げて、ゴルド王子を目で捉えながら印を結ぶ。



「あの技……まさか!」



そうセドナが驚いた次の瞬間、ブラス王子が投げ上げた剣から凄まじい光の閃光がほとばしり、ゴルド王子めがけて飛んできた。


「あれは終盤で覚える技なのに……よっぽど頑張ったんすね、ブラス王子は……」


そうセドナが驚いた様子で私に教えてくれた。

……確かに恐ろしい技だ。だが、その一撃は残念ながら空を切った。



「くそ、当てろよバカ!」

「何やってんだ、ブラス王子~!」


観客たちがヤジる声が聞こえてきた。

だが素人の私から見ても、今の一撃は完璧なタイミングだった。


(いや、あれが当たらないのは、寧ろゴルド王子の方を褒めるレベルだろ……)



私はそう思いながらも、試合の行方を見守った。



「いけ、ゴルド王子!」

「おら、やれ! 負けるな、ブラス王子!」



剣をお互いに手放した王子たちは、その後は格闘術による戦いが続いた。

見たところ技術については互角だ。だが、体格に劣るブラス王子が徐々に押されているのが分かった。



「負けないで、ブラス王子~~~あんな堅物、ぶっ飛ばして!」


隣では、キュプラが凄まじい声を張り上げていた。……お前、さっきゴルド王子に怒られたの根に持ってるだろ。


そう思いながらも私も大声で応援する。



「ブラス! 頑張れ! やれ!」



……だが、そんな風に応援したが、現実は漫画のようにはいかない。



「勝負あり!」



それから数分後、ブラス王子はゴルド王子から強烈な闘気術を直接叩き込まれ、崩れ落ちるのを見た。



「きゃああああああ! すてきいいいいい!」

「ゴルド王子、結婚してくださああああい!」

「畜生、クソブラスがああ!」



そんな風に観客たちの悲喜こもごもといった声とともに、その試合は幕を閉じた。






ーーーーーーーー



「はあ……。ブラス様、負けちゃいましたね……」

「そうだな。けどいい試合だったじゃんか」


やはり、元の世界の格闘技もいいが、こういう特殊な映える『技』が出るような戦いは見ていて楽しい。ブラス王子が戦っている姿もかっこよかったし、私は十分楽しめた。

……それに、救護室で男性達にタップリと触れたし。



「サチカさんは悔しくありませんの? ブラス王子が負けてしまったのに……」

「どうして悔しがるんだ? かっこよかったじゃんか、ブラスの奴」

「……はあ……。まあいいですわ。とにかく慰めにいって差し上げませんと。……セドナ? また、タオルと今度は普通の水を用意して? 後治療薬もね」

「へい」


そういうと、彼女はセドナを連れて控室に向かっていった。



(……さて、私はどうしようか……)



ブラス王子の戦いは、見ごたえがあったしあの状況で 戦い抜いた彼には心から拍手を送りたい。だが、下手にここで出張ってしまうと、前以上に『素晴らしい女性だ』と誤解されてしまう可能性がある。


そう少し考えたのち、私の方針は決まった。



(よし! 前と同じで、王子を思いっきりバカにしてやろう。それでキュプラが私の分まで慰めれば、めでたしめでたしだ!)



よし、作戦は決まった。

そう思い私は控室に向かった。

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