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4-5 「私なんか言っちゃいました?」はやってみたかった

そして少しののち、私は救護室に到着した。


「よう、元気か? 衛生兵さん」

「あれ、姫! ……じゃなかった、サチカ様!」

「手伝いに来たけど、やることはあるか?」

「ええ、ちょうど手が足りないところだったんです、助かります!」



そこでは、女性の救護班が試合や練習で傷ついた兵士たちの包帯を取り換えたり、薬草を塗りこんだりしている。


(この世界では、こういう仕事は女が主にやってるんだよな……だから、私がここに来ても浮かないのは有難いな)


私はブラス王子の剣の練習に付き合う際には、よくこの救護室に顔を出してけが人の救護を手伝っている。衛生兵の一人が忙しそうにしながら尋ねてきた。



「本当に助かりますよ、サチカ様! みんな夫の試合を応援するために席を外していましたから。……けど、いいんですか? サチカ様も試合観戦を楽しみたかったでしょうに」

「別にブラスの試合の時には見に行くから問題ないだろ? それより私は、ここでケガしたやつらの治療をしたくてさ」

「サチカ様……何とお優しい……」

「別に優しさじゃねえよ。若い男性の体に包帯を自分の手で巻けるなんて、それだけで興奮するだろ? ただの下心だよ」

「……フフ、さすがサチカ様は冗談がお得意ですね。そんな風にお気を遣っていただきありがとうございます」


自己中の私が、そんな殊勝な気持ちでやるわけじゃなく、これはただ性欲を満たすためだ。そのことは毎回伝えているが、なぜか周りは冗談だと流してくる。

まあその方がこちらも有難いが。


「じゃあすみません、サチカさん。早速ですが、彼のケガの治療をお願いします」

「おう。……お、お目当ての奴じゃんか。ラッキーだな」


衛生兵が指さした先にいたのは、先ほどブラス王子と戦っていた元傭兵のクリフだ。



「……あんたは……噂に聞いてる、婚約者候補の『博愛の姫君』サチカさんか……」


彼は私と目が合うなり、少し粗野な口調でそう呟いてきた。


(なんだ、その随分な二つ名は……)


私のこと、どこまで誤解されてんだろう。

そう思いながらも私はクリフに笑みを浮かべる。


「おう、あんた。随分痛めつけられたな。……ブラスの奴、強かったろ?」

「ああ。……まさか、あそこまでやられるとは思わなかったぞ。ゴルドさんを追い抜くのも時間の問題だな」

「そうだろ? それじゃ治療するから、さっさと脱げよ、脱げ……はあ、はあ……」

「いいのか? ……すまないな」


この世界の男性たちは、私たち女に対して裸体を見せることに抵抗がない。

思わず興奮していた私に対して、彼は何のためらいもなく服を脱ぎ捨てた。


(うっひょーーーー! ブラスの華奢なほっそりした体もいいけど、こういうゴリマッチョもいいよなあ……まじ、こいつの筋肉最高じゃんか!)



そう、私がここに来た理由は先ほども言った通り『治療にかこつけて、男性たちの裸体を拝みながら、彼らの体に触ること』だ。我ながら最低な行為だとは思っているが、※女性読者も『イケメンの半裸の男に触れるチャンス』があったら、触りたいと思うだろう。


(※サチカは、読者のことも自分と同様『貞操逆転世界』の人間だと思っている)


「おお、いい肉体じゃんか。少し腹が出てんのもいいな」

「まあな。戦場で生き残るためには、筋肉だけじゃなくて脂肪も必要なんだよ。あんたらお偉いさんには分からんだろうがな」

「ああ、そうなんだよ。だから教えてくれて嬉しいぜ」

「お、おう……」


この『貞操逆転世界』の男性たちは私のこういうセクハラ発言をセクハラとも思わない。

また、私に体を触らせることに抵抗もしないでくれるのもありがたい。


……元の世界では、ケガの治療のために男子の体に触れただけで、号泣されたからな、私は。


「それにしても、ひでーな、このアザ。今日ついた傷だけじゃねーじゃんか」

「まあな。俺みたいな、はぐれもん出身の兵士は、酒場とかでも睨まれるからな」

「なるほどな。……じゃ、そいつも治療してやるよ。薬草、もう少し貰っていいか?」

「ええ、勿論です。お優しいですね、サチカ様」


にこやかな笑みを見せる衛生兵に対して、私は思わず答える。


「だからそうじゃねえよ。私はただ、こいつらの体を触りたいだけだっての!」

「……流石、素敵ですね! 『ご自身の手で、彼ら下賤のものであっても体に触れ、癒してやりたい』なんて。私もサチカ様のように思えるよう、精進します」

(ああ、だからそうじゃないんだけどなあ……)



この世界では『女が性欲を持って、見ず知らずの男性の体に触れること』はよほど珍しいのだろう、衛生兵も私の発言を本気で信じてくれない。流石に少し呆れながらも、私は彼の体にベタベタ触りながら湿布を張る。



「……よし、こんなもんか」

「ありがとうよ、サチカさん」

「気にすんなって……ん?」


そう話していると、救護室の入り口で誰かが立っている気配を感じた。

そこで私が外に出てみると、そこにはゴルド王子がいた。




ーーーーーーー


「あれ、ゴルド王子! どうしたんすか?」

「ああ、セドナに頼まれたんだ。薬品や治療薬が足りるかどうかを私も確認しておいてほしいとな」

「へえ、流石はゴルド王子だな」

「ところでサチカ殿はなぜここに?」

「ああ。試合でケガした奴らを治療してやりたいって思ったからさ」

「そうか……優しいんだな、サチカ殿は。負けたものにも心を砕くとは、流石だ」



……ああ、もう本当に誤解されてるな。


これ、結婚後に誤解が解けて、私が『ただのスケベ』と分かったら、ぶった切られないかな。何とかそれは避けて、かつ婚約も破棄されてうまい具合に『断罪エンド』になればいいのだが。


(そのためには、少しキュプラの株を上げておかないとな……)


そう思った私は首を振って答える。



「いやいや、私なんかよりキュプラのほうがずっとふさわしいと思うぜ?」

「キュプラ、か……」

「そうそう! 実は今日も応援に来てくれててさ! 見てただろ?」

「ああ……。父上たちから苦情が来たからな。あの鳴り物は少し控えてほしいと伝えておいた」


やはり、いくらなんでも音がでかすぎたか。

私のように野球観戦が趣味の女にとっては、あれくらいがちょうどよかったのだが。

だが、これでは彼女が気の毒だ。そう思い私はフォローすることにした。



「け、けどさ! キュプラの奴、ブラス王子を勝たせようとしてたのは本当だぜ! さっきだって、セドナと一緒にタオルと薬を持ってってくれたしさ!」

「薬? 一体、何の薬だ? 先ほどの戦いでブラスはケガをしていないだろう?」

「ああ。だから『力の霊薬』っていうアイテムを持ってったらしいぜ。優しいだろ?」

「な……!」


だが、それを聴いた瞬間にゴルド王子は固まった。


「……あれ、またなんか私言っちゃいました?」


私は思わずWeb小説の主人公のようなセリフを呟くが、ゴルド王子はそれを無視して、すぐに目の色を変えて私に尋ねてきた。



「それはいつの話だ?」

「さっきのことだけど」

「分かった。……すまない、急用を思い出した。それではな」


そういうと、ゴルド王子はすごい勢いで試合場に戻っていった。



「……ん、どうしたんだろう?」


そう思いながらも、私は救護室に戻ることにした。

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