4-4 「サブキャラの方が人気」になるゲームも多いですよね
「キュプラ! あんたも応援に来てたんだな」
「勿論じゃない。私の未来の旦那様の応援に来るのは、婚約者として当然じゃなくって? どうせサチカさんは暇だから来たのでしょう?」
「ああ、そうだよ」
キュプラは私のことがよくわかってるな。
「ブラスに頼まれて、暇だったから来ただけだよ。キュプラもそうだろ?」
「あ……い、いえ……誘われては……。わ、私はただ、ブラス王子が試合に出ると聞いて、来ただけですから……」
そういいながらキュプラは少しバツが悪そうに笑みを浮かべてきた。
(フフ、やっぱりいい奴だよな、キュプラは……呼ばれてないのに試合に来るなんて)
まったく、私なんかよりもこいつの方がずっと婚約者にふさわしい。
本当は彼女が頑張ってくれたおかげでブラス王子が試合に出れるくらいにまで回復したと思うのだが、なぜかゴルド王子は誤解している。
「あ、試合始まるみたいだぜ?」
「あ、あら……そうですわね! 一回戦の相手は……クリフさん!? ついてないですわね……」
「クリフ? ああ、あいつがそうなのか」
彼は確か、昨年この国に仕官してきた凄腕の流れ者の元傭兵だったか。
セドナ曰く『サブキャラの中では人気キャラだった』とのことだ。なるほど、彼もワイルドながらもどこか気品のある容姿をしている。
「うお! あいつもいい男じゃん。見ろよ、あの腹の割れ方とか! なあ、キュプラ?」
「な……あなた、ブラス王子の応援に来たんじゃないの?」
「え? 別に応援するわけじゃねえよ。ただブラスの姿を見に来ただけだから」
「……それ、酷くありません? まったく……なんであなたみたいな人をあの男は……ゴホン! まあ、それなら私がその分応援しますわ。……セドナ!」
「へい!」
そう彼女がパンパンと手を叩くと、後ろからセドナがやってきた。
彼はトランペットやらホルンやら、様々な鳴り物を持っている楽団を引き連れている。
「さあ、ブラス王子に届くように、思いっきり応援しなさい!」
「分かりやした! さあいきやすよ、楽団のみなさん!」
「「「「はい!」」」」」
そういうとともに、セドナの指揮の手が振り下ろされるとともに、凄まじい爆音が海上中に響いた。
「うわあああ!」
「ひい!」
「うお! ……すげー爆音!」
懐かしいな。
私が元の世界で野球の応援に行ったときの感覚を思い出した。
その凄まじい爆音を聴いてブラスも此方の方を見つめてきた。
「……お、こっち見てるな、ブラスも」
きっと彼は、キュプラが自分を応援しているのを見て感激しているのだろう。
そして少しののち、
「はじめ!」
という声が、爆音の合間に聞こえてきた。
(お……すげーな、やっぱりクリフってやつは……)
開始と同時にクリフは凄まじい速度の剣裁きを披露してきた。
だが、それを剣でいなすブラス王子。……とはいえ、ブランクがあるためだろう、ややぎこちない動きを見せている。
「ブラス様あああああ! まけないでええええ!」
そんな様子を見て、凄まじい大声を出すキュプラ。その声量は恐らく声楽で鍛えていたのだろう、周囲で爆音を飛ばす鳴り物にも負けていない。
(おお、すげーな、キュプラ! ……よし、もっと頑張って応援してやれ!)
これで、私ではなくキュプラの方が婚約者にふさわしいことが分かるだろう。
そう思いながらも試合を見ていた。
(ん? ……あれ、少しずつだけど押してる?)
最初こそ防戦一方だったブラス王子だが、どうやら先にクリフの方がスタミナ切れを起こし始めたのか、徐々に速度が落ち始めている。
「いいですわ、ブラス王子! そこです! 虚虎斬です! ううん、閃光砲! もっと派手にやってください!」
そんな風に大声でアドバイスをするキュプラ。
残念ながら私はこの世界の『スキル』についての知識はないから、ああいう応援は出来ない。ただ出来るのは、あの二人の姿を見ていることだけだ。
……だが、次の瞬間。
クリフが一瞬だけ手に持っていた剣の力を緩めた。その刹那、ブラス王子の飛び込み付きが彼の手元を正確に射貫き、手元を撃ち落とした。
「とどめだ!」
そしてブラス王子は剣を反対向きに持ち替え、クリフの肩口に強烈な一撃を叩き込む。
「ぐ……!」
峰打ちとはいえ、剣は良質な鋼の棒だ。
その一撃をしたたかに受けたクリフは、その場でに崩れ落ちた。
「勝負あり!!」
「きゃあああああ! ブラス王子、素敵いいいい!」
そして「ブラス王子の勝利とともに、キュプラは凄まじいファンファーレとともに大喜びで両手を振り上げた。
私はキュプラの方を見ると、彼女はニコニコとこちらを見て笑みを浮かべてきた。
「いかがです? 『私の』ブラス王子の勝ちですわね! サチカさんも嬉しくなくって?」
「あ、ああ。まあそうだけど……」
「早速一回戦突破のお祝いに行きましょう? セドナ!」
「へい、準備はできていやす」
そういうとセドナは水筒とタオルを用意してきた。
なるほど、勝利のあとの差し入れということだろう。気の利かない私と違って、この二人は本当に用意がいい。
そしてそれらを手に持つとキュプラは私に尋ねてきた。
「さて、サチカさん。あなたも一緒にブラス王子の勝利を祝いませんこと?」
「ええ?」
確かに、王子が勝ったことを祝うのが本来婚約者として正しいことだろう。
だが私は何も労いの品を用意していない。それに『キュプラこそ婚約者にふさわしい』ことを教えておかないと、私は『断罪エンド』を楽しめない。
(ここは花を持たせてやらないとな、キュプラに……)
それに、私は先ほどの試合の様子を見て、やるべきことが出来た。
そう思って、私は首を振った。
「いや、私は他にやることがあるからな」
「あら、そうなんですの? 折角私が誘って上げていますのに」
「悪いな、キュプラ」
そういって私は立ち上がる。
その瞬間に、私は水筒の中からどこか甘ったるい、独特の香りがすることに気が付いた。
「そういえばさ、その水筒の中身ってただの水か?」
「まさか、私がそんなつまらないものを持ってくるわけないじゃない! ……ねえ、セドナ?」
「ええ。実はこいつは『力の霊薬』なんすよ。飲むと攻撃力が一時的に上昇するドーピングアイテムっす」
「そう。これを飲めば、きっとこの試合でもきっと勝てますわ!」
「へえ。そんなものを用意するなんて、流石だな、二人とも」
なるほど、ブラス王子を勝たせるためにサポートするということか。
なんて優しい婚約者なんだ、キュプラは。後でこのことはゴルド王子にもしっかり報告しておこう。
「それじゃ、私はちょっと抜けるな。次の王子の試合までには戻ってくるよ」
そういうと、私は救護室に向かって走り出した。




