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4-3 「弟のありのまま」を受け止めてくれている、そうゴルド王子は誤解しています

「はあ!」

「でりゃ!」


試合場では、すでに試合前の練習が始まっていた。

イケメンの男性たちが派手に汗を飛ばしながら剣をぶつけ合うその姿に、私は思わずよだれをこぼした。


「うっひょー! いいじゃん、この雰囲気……いつになくみんな気合入っててさ!」


今日の『練習試合』には、貴族のお偉いさんも視察にくる。

当然だが将兵たちは士官の道に繋がることもあり、みな気合いが入っている。



「……サチカ? どうかな、この格好」

「え? ああ、悪い。……うお、ブラス。かっこいいじゃん、そのかっこ!」

「そ、そうか?」


そしてブラス王子も、いつもの稽古着ではなく、正装をしている。

その佇まいは、思わずその場で引き倒したくなるような姿だった。


(けど、やっぱりこの世界の男性は露出が控えめだよなあ……)


この世界は乙女ゲームの世界のようだが、やはり『貞操逆転世界』ということもあり、あまり肌を露出しない。私たちの世界のようにもっと胸元や股間を強調するような服装だったら良かったのに。


「来たのか、ブラス。……また試合ができるようになって、嬉しいぞ」


そう思っていたら、隣からまた流麗な声とキラキラしたオーラを感じて振り向いた。

ゴルド王子だ。彼が出てきた瞬間、周囲の女たちは「きゃあ!」「素敵!」という黄色い声が聞こえてきた。


「あれ、ゴルド王子じゃん。……すげーな、その格好」


ブラス王子の服装が実用面を第一とした質素な服装だとしたら、彼の服装は周囲を鼓舞することを目的とした艶やかなものだった。豪奢ながらもきちんと着こなしているその姿は男性をも魅了する。


「む……」


その私の発言に少し嫉妬するような表情をするブラス王子。……可愛いな、こういう顔見るの。


「まだ復帰からあけたばかりだから、あまり無理はするなよ、ブラス」

「分かってるよ、兄上。……僕もやれるところまではやるよ」

「ああ、お互いに頑張ろう」

「じゃあ僕も練習するから。……サチカ、僕も僕なりに頑張るから……退屈しないなら、見ていてほしい」

「ああ。楽しみにしてるからな」


そういうと、ブラス王子は試合場の方に向かっていき、準備運動をし始めた。




ーーーーーーーーー


ブラス王子が周りの兵士と一緒に素振りと型稽古をやっているのを見ながら、ゴルド王子は私に対して頭を下げてきた。


「……ありがとう、サチカ殿。あなたのおかげだな」

「何の話だよ?」

「ブラスは、前日に話していたんだ。……サチカに励ましてもらえた分、僕も少しずつ出来ることをやりたい、勝てなくても試合に出るってな」

「別に私はなにもしてねーぞ? キュプラのおかげだろ?」


彼に斬られるようなことなら散々やったが、別に彼を立ち直らせようと思って何かをしたことは一度もない。あれは単にキュプラが彼を「頑張れ」と励まし続けたおかげだと思うのだが。


「ははは! サチカ殿は流石、謙虚だな。……まあ、そういうことにしておくとするか。……だが、まったくブラスは……自分の本当の強さが分かっていないな」

「本当の強さ?」

「ああ。……見てくれ、あいつの動きを」


そういうと、ゴルド王子は練習中のブラスの姿を指さした。

どうやら相手は近衛兵と思しき兵士だ。


「……いきます、王子!」

「よし、こい!」


そして近衛兵の剣がヒュン、と光ったかと思うと次の瞬間に、


「そこ!」

「! ……ありがとうございました……!」


ブラス王子が一瞬で背後を取り、首筋に剣を突きつけた。



「……すげーな、ブラス王子」

「そうだろう? あいつは自分の実力を見誤っている」


そうゴルド王子は得意そうに笑みを浮かべた。こういう弟の活躍を自分事のように喜べるところが、劣等感の強いブラス王子とは違うんだな。……正直完璧すぎてムカつくが。


「……以前の御前試合でも、体調を崩していなかったら受かったはずだったんだ。奴の潜在能力は、私などより遥かに上のはずだ」

「へえ。……けど、今はまだゴルド王子の方が強いんだろ?」

「ああ。だが、私が抜かれるのも時間の問題だろう。……だから、サチカ殿」


そういうと、ゴルド王子は私の手を握り、はっきりと言ってきた。



「仮にあいつが試合に負けたとしても……あいつの成長は長い目で見てほしい」


その真剣なものいいから、私は思わず気圧されたが、少し困惑した。


……まったく、何をいってるのだろう。あいつの武勇が優れていたらなんで私があいつを好きになるんだ? 武勇が何だろうが、あいつはあいつだ。ただ美味そうな肢体を持った、ご馳走でしかない。



(ったく、くだらねえな……。男性の魅力は顔と若さだろ? どうもこの『貞操逆転世界』の奴らとはそりが合わねえな……)


だが、周りから『素敵な女』と誤解されるのも飽きてきたところだ。

そう思いながら私は首を振って答える。そろそろ本性を少し見せてやろう。


「嫌だよ。長い目で見るつもりはないね」

「……そうか……」

「だって私はさ。そんな先のことを考えてんじゃねえ。『今のあいつ』にしか興味ねえよ」

「今、あそこにいるあいつ?」


そう、今『正装で剣を閃かせる、あそこの王子』の姿がエロくてそそる。

それだけで十分なんだ、私には。


「私はさ。今日はあいつが勝つのを見に来たんじゃない。ただ、試合をする姿を見に来たんだよ。あの正装で剣を振って、戦っている姿が見れれば、それで十分だ」

「…………」

「つまり、あいつが勝とうが負けようが、どうでもいいんだよ。くだらねえ」

「……ふ……」


私はあいつの見た目にしか興味がないし、勝つか負けるかも興味がない。今日試合だって、あの服装をした王子を見て、今夜のオカズにするために来ただけだ。



「ハハハ! ……流石サチカ殿だな!」


……そう発言したつもりだが、ゴルド王子は豪放に笑い出した。



「はあ?」

「ブラスに『勝て』とは言わず『あそこに立ったこと』そのものを認めてくれるとはな。……やはり、私の見立ては正しかった。……そなたがブラスの婚約者で良かったと思う」

「おい、ちょっと待てよ! 何か誤解してないか?」

「別に誤解はしていないさ。……それでは、私も稽古を始めるとしよう」



そういうと、彼もまた試合前の準備をするべく試合場に向かっていった。



「……まったく、何だってんだか……」


そう思いながらも私は用意してもらえた特別席に座った。




ーーーーーーーーーーーーーー

それから少しののち。


「さて、第一試合は……あれ、いきなりブラスじゃんか!」


そう思いながら私は試合場に目を向けると、ブラス王子がこちらに手を振ってきた。

それを見てこちらも声をかけようとしたが、


「きゃあああああ! ブラス様アアアア!」

「頑張って~~~!」


そんな声援が後ろから響いてきた。

……なるほど、あいつも女性陣から人気なんだな。まあイケメンだし当然か。

そう思いながらチラリと横を見た。



「あら、サチカさん」

「キュプラ! 元気だったか?」


隣にいたのはキュプラだった。

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