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4-2 彼女は何を言ってももはや「聖女」と扱われます

「なあブラス? 今日の稽古終わったらさ、アイス食べに行かないか?」

「いいな、それ! 実は僕も食べたかったんだ」

「今日の試合に勝ったら奢ってやるからさ、頑張んな?」

「いいのか? よし、頑張るよ」



ブラス王子と脱衣ポーカーをやってから数週間が経過した。

流石にあれは「いくらなんでも、もう二度とやるんじゃない」とゴルド王子に厳命されたので、するのは避けるようにしている。


代わりに彼と一緒にジャンクフードを食べたり、普通に盤上遊戯をやったりして毎日過ごしている。


ブラス王子もあれから体調も良くなってきているためか、以前のような絶望的な表情をすることはなくなり、剣の稽古も少しずつだが参加できるようになっている。


「それで試合は勝てそうなのか?」

「どうだろうな……。兄上は僕よりずっと強いから……難しいかもな。けど、出来るだけのことはするよ」


そして今日は、久しぶりの練習試合だ。

練習試合と言ってもトーナメント形式となっており、勝者にはささやかだが景品が与えられる本格的なものだ。


(はあ……)


私は、イケメンたちを間近で見れる剣の稽古に付き合うことは割と好きだ。

だから、彼の試合を見に行くこともそんなに苦痛ではない。


ため息の理由は、別のところにある。

……そう、シンプルに欲求不満なのだ。


「ああ……。なあ、ブラス?」

「なんだ?」

「ブラスはさ、私に抱かれたいとか思わないのかよ?」


そういうとブラス王子は少し寂しそうに笑って答える。


「それはもちろんだ。けど、僕はそこまで浅ましい男ではないよ」

「はあ? どういうことだよ?」

「サチカ、君は魅力的過ぎる。一度でも君を抱いたら……きっと連日連夜求めてしまうだろう」

「いいじゃんか、それ! 何がダメなんだよ!」


そう尋ねるが、ブラス王子はいつも決まった答えをいう。


「決まっているだろ? ……剣の腕も取り戻さず、社交の場でも活躍できず、君に迷惑をかけているのに……それなのに夜だけ求める、そんな男に僕はなりたくないんだ。僕はこれ以上君に甘えるのは申し訳なくてね」


その発言に、私は心の中で大きなため息をついた。


(はあ……。私の元居た世界の女と同じこと言ってるな、こいつは……)


私や読者の感性からしたら寧ろ『何かが出来るわけではないが、浮気はせず夜だけは旺盛に求めてくる美少年』なんて、こちらに都合がよすぎて詐欺を疑うレベルだ。


だが、どうやらこの世界の男性は『社会的に結果を出さないと異性に愛されない』と思い込んでいる。


少し呆れながらも、私は王子の肩をバンバンと叩きながら近くの柱の影を指さした。


「そんな細かいこと気にすんなよ! つーか、私の体で気持ちよくなれるんなら、それでいいじゃんか! さ、抱かせろよ王子! そっちの物陰で10分で済ませるからさ!」


だが、いつものようにブラス王子はフッと嬉しそうに笑うだけだった。


「ハハハ、そうやって試合前に冗談を言ってくれると、緊張がほぐれるよ」

「はあ?」

「僕が試合前で緊張していることを見抜いてくれたんだな。……まったく、君には救われっぱなしだな」

(だからそうじゃないってのに……)


どうやら私は王宮内ではひどく誤解されていることがわかった。

兵士からは「いつも気にかけてくれる優しい女」と思われており、ブラス王子からは「粗野な言動で切れ者な本性を隠した、慎み深い女」と思われているようだ。


そのため私がどれほど誘っても、なぜか「王子を力づけるための方便であり、本気ではない」と解釈されてしまう。


……そしてなにより……。


「そうだ、サチカ」

「なんだよ」

「今度港に、新しい香油が届くそうだ。よかったら見に行ってみないか?」

「香油ねえ……私はそういうの興味ないんだけどなあ……」

「そうなのか?」

「ああ、この世界の女達みたいに着飾るのは好きじゃねえからさ。それより、美味いものを食いてえな。町外れにあった屋台、またいかねえ?」

「……いいのか? そんな安い店で?」

「そりゃ、ブラスも一緒に来るならな。腹いっぱい食わせてくれるんだろ?」

「……ああ、分かった! 今週にでも予定を作るよ」


そう、王子は信じられないことに、こんなスケベで馬鹿で、身だしなみにも興味がない私に好意を持ってしまったようだ。


過去数週間の記憶をあたっても、私は王子に対してやったことは、


・引きこもっている王子の顔を罵倒した

・高カロリーなジャンクフードを山程持ってきて食わせた

・派手なダンスミュージックでどんちゃん騒ぎをした

・挙句に脱衣ポーカーでインチキして、パンツ一丁にひん剥いた

・朝から晩まで王子を抱くことしか考えておらずセクハラ発言を繰り返した


といったところだ。

……うん、我ながらひどいな。読者の女達も、私のような『昭和のスケベ女』が令和のこの時代に現れたことに驚いているに違いない。


(けど、誤解なんだよなあ……王子が私なんかを好きな理由は全部……)


……だが、ブラス王子がこんな風にチヤホヤしてくれるのは、恐らく今だけだ。

いずれ化けの皮が剥がれて、王子に愛想をつかされるに違いない。そう一瞬不安に思ったが、私はすぐに考えを改めた。



(待て……。むしろ、今のこの状況って最高に美味しくね?)



こうやって王子と時間を過ごすのは楽しい。そして、もし誤解が『解けて』私が見限られたとしても、今度は『嘆きの修道院』でハーレム生活が待っている。即ちどちらに転んでも最高の時間を過ごせるのだ!


なら、何を悩むことがある。そう思って私は腕を差し出す。


「なあブラス? ……稽古場まで腕、組んで歩かねえ?」

「え? いいのか?」

「ああ。ほら」

「……あ、ああ。僕が組むほうなのか」


そういえばこの世界は、男性が腕を差し出す側だったな。……まあ、元の世界で私が腕を差し出しても組んでくれる男性はいなかったのだが。


(だめだ、元の世界のことは忘れよう……)


とりあえず未来のお楽しみは未来に考えるとして、私は『今、ここで』王子と一緒にいる時間を過ごすことにしよう。


私は『今が良ければそれでいい』がモットーなんだ。

そう思いながら、稽古場に向かっていった。

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