3-4 手順も何も無視して、ただ踊り狂うのも悪くない
「だ、脱衣ポーカー……ですって!?」
「ああ、ポーカーのルールくらい知ってるだろ? まずカーテンを閉めてっと……」
まぶしいくらいに明るい部屋で王子の裸体を拝むのもいいが、こういうのは暗い間接照明でやるほうが楽しい。
そう思いながら私はカーテンを閉じた。
「まずは気分を上げねーとな。こんなお上品な音楽なんてつまんねーから、曲も変えるぜ?」
そして音楽版を取り換えた瞬間、凄まじい爆音と共にロックのような曲が流れてきた。
私が吟味した、一番派手でパワーがあり、そして気分の盛り上がるミュージックだ。
「うわあ! 凄い音……!」
「な、なんて下品な歌……!」
「へへへ、いいだろこの曲! ゴルド王子の部屋からガメて来たんだぜ!」
「あ、兄上の部屋から?」
「何てことするのですか、サチカさん!? 次期国王の部屋から盗みをするなんて……!」
驚いた表情をした二人を見て、私はまず『掴み』はバッチリと思いながら私は王子の口に手をかざす。
「おっと、声がでけーよ、ブラス王子」
「も、もが……」
「ガメたことがバレたら、兄貴に殺されちまうだろ? 秘密にしておいてくれよな?」
「あ、そ、そうだな……」
よし、これで私は立派な窃盗犯だな。
こんな奴を城に置いておこうなんて、きっとブラス王子も思わないだろう。さて、追い打ちをかけておこう。
「けどいい曲だろ、これさ! テンションブチ上がらねえ?」
ゴルド王子はなぜこんな魔道板を隠し持っていたのか。
こういうのはみんなでガンガン聞く方が楽しいに決まってるのに。
そう思いながらブラス王子に尋ねてみた。
「うん。こんな曲は聞いたことないけどさ……」
「ポーカーの前にさ、まずは思いっきり踊り狂おうぜ?」
そういいながら私はリズムに合わせて体を動かしてみた。
それを見て、思わずキュプラは呆れた表情を見せてきた。
「な、なんて酷い踊り……!」
「そりゃそうだ! 私はダンスなんてやったことないからな。ほら、ブラス王子も踊んなよ!」
「踊るって言っても、この曲の振り付けなんて分からないよ……」
「そうですわよ、サチカさん! 私たちはこんな庶民の音楽なんて聴いたりしませんもの!」
まあ、それがこの時代の正常な反応だろう。
だけど私は、そんなことはくだらないとばかりに笑い飛ばしてやった。
「アハハ! いいんだよ、細かいことはさ! リズムに合わせて好きに体を動かしゃさ! ほら、庶民も貴族も男も女も、みんなで一緒に滅茶苦茶に踊ろうぜ?」
「……え? 好きに踊っていいの?」
「ああ! ダンスパーティーってそんなもんだろ? ほら、今は王族のことなんか忘れちまって、ただのバカ集団になってさ?」
「サチカさん、あなたって人は……王子をバカにするのも大概にしてください!」
キュプラは私に対して呆れたような表情を見せた。
まあ当然だろう。一方のブラス王子は、
「う、うん……! そうだね!」
そういいながらリズムに合わせて体を揺らし始めた。
最初はぎこちなかったが、徐々に滑らかな動作でワルツのステップをベースにした、オリジナルのダンスを披露し始める。
「おお、いいじゃんか! やっぱ基礎ができてんな!」
「そう?」
「け、けどこんな風にアドリブで踊るなんて初めてだよ……下手じゃないかな、僕は……」
元々舞踏の経験があるためか、リズムもしっかりとれているし、私のやるような『アホ踊り』じゃない。だが、別に私は王子の『上手な踊り』が見たくてこの曲を持ってきたわけじゃない。一緒に楽しむためだけに持ってきたのだ。
「んなことどうでもいいだろ? ダンスも音楽も、正しく踊るんじゃねえよ、楽しく踊るためにあんだからさ! ほら、もっと激しく踊らねえと!」
そしてもう一つの理由は、王子の揺れる尻を見つめるためだ。
激しいダンスは王子のボディラインを美しく揺さぶり、私の股間も熱くさせる。
「楽しい、か……そうか……そうだね、ダンスってそういうものだったな……なんか、忘れていたな……」
そういうと王子は吹っ切れたように踊りを始めた。
一方のキュプラはあまり表情がすぐれない。まあそれは当然だろうが。
「まったく! こんな変なことやって、おかしな癖がついたらどうしますの、サチカさん?」
「あん? そんときゃそんとき考えようぜ? ただ、今はさ。『今』を楽しまなきゃ、損じゃんか!」
流石はキュプラだ。
私が好き勝手にやるのをきちんと止めてくれる。私が断罪された後、しっかりとブラス王子のことを頼むぞ。
ーーーーーーーーーーー
それからしばらくして。曲が一巡したあたりで私とブラス王子は一緒にはあはあと息を荒げていた。
「はあ、はあ……」
「ど、どうだよ、ブラス王子? そのきったねー顔、前よりもっと汚くなったじゃんか!」
ああ、なんていい顔なんだろう。
汗ばんで服が少し空けて美しい鎖骨が見えるのを見て、私は思わずごくりと唾をのんだ。
「あはは、そりゃそうだろ? これだけ汗かいちゃさ……」
「ああ、にしても暑いな……っと」
「うわあ!」
「ちょ、サチカさん!」
「え?」
私が上着を脱ぐと、二人は驚いた子をした。
ああそうか、この世界は『貞操逆転世界』だったか。女の私が肌を晒すのはあまり好ましくないということだな。
だが、それこそが私の狙いだ。『慎み深さもないふしだらな女』なんて、きっとこの世界じゃ断罪の対象になって然るべきだからだ。
「いいんだよ、こいつはハンデだからな」
「ハンデ?」
「そ。……言ったろ、これからやるのは『脱衣ポーカー』だってな。……ちょっと休んだら、早速始めようぜ? 負けた奴が一枚脱いでって、全裸になるまで勝負するってことでいいよな?」
そういいながら私はトランプを切り始めた。
「な……本気で始めるつもりなんですの、サチカさん! その……だ、脱衣ポーカーなんて?」
「ああ。別に、キュプラは脱がなくていいぜ? 女の裸に興味はねえしさ」
「そ、そういう問題じゃなく……!」
「へへ、ところでブラス王子は、参加するよな? ギャンブルなんてやったことねえだろ?」
「……そ、それはそうだけど……」
育ちのいいブラス王子がギャンブルなんてやったことがないことは、元よりセドナから聞いている。やはりというべきかブラス王子は頷いた。
「ぼ、僕は構わないけど、その……じゃあ、サチカさんは……僕が勝ったら……」
「あん? そりゃ、脱ぐに決まってんだろ。まあ、私の裸なんかを見てーっていうならだけどさ」
「…………」
そういうと、ブラス王子は少し考えるような表情を見せた。
(あれ、やっぱり見たくないのかな……)
元の世界だったら『女の裸なんか男性は見たくない』というのが普通だった。
だがここは貞操逆転世界だ。私のような非モテ女の体でも魅力は感じるかもと思ったが、違うのか?
そう思ったが、しばらくした後、
「……その、このことはさ……」
「勿論秘密にしてやるよ。3人だけで内緒にするってことでいいよな?」
「わ、分かった……それなら始めようか。サチカさん」
「おう!」
さて、あんたのその綺麗な裸体を拝ませてもらうとするか。
そう思いながら私はトランプを配り始めた。




