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3-1 セドナはいわゆる言ったこと「だけ」は守るタイプです

それから数日後、キュプラの部屋で。


「はあ……。この殿方も良いですし、彼も捨てがたいですし……」

「キュプラさん、何をやってるんですかい?」


使用人のセドナはいつものように、キュプラの好きなフルーツを器用に切り分けながら、そう尋ねる。


「勿論、私があのバカ王子と結婚した後にパーティにお呼びする殿方のリストですわ?」

「へえ……。ちょっと見せていただけやすか?」

「ええ。けど、ブラス王子には絶対にばらさないでよね? ばらしたら、あなたの命はないと思いなさい?」

「へへ、分かってやすよ。絶対に『あっしから、ブラス王子には』言ったりしやせん」

「それなら安心ね。あなた、約束は絶対に守るから。……はい」


セドナは言った約束「は」必ず守ることをキュプラは知っていた。

セドナは彼女が見ていたリストを確認する。



「へえ、この方は確か王宮の近衛兵長で、彼は隣国の第三王子っすね……。見た感じ、容姿と家柄で選んでやせんか?」

「そりゃそうよ。この方々を連れて街を歩いてごらんなさい? きっと、みんな私のほうを見て羨ましがるわよね? ……もう、それが楽しみで!」

「そりゃ、気分は良いっすけど……。ブラス王子の気持ちはどうなるんで?」

「別に、あのバカ王子に何かとやかくいう勇気はないですわ。裏でデートしてても、こっそり彼らを愛人にしても、文句を言えないわよね、あの気弱な王子なら」

「そうっすかねえ……」



キュプラはなみなみと注いだウイスキーをグビッと飲みながら、洋ナシをポイと口に放り込む。その粗野な姿は、先日サチカが見せていた態度とあまり差はない。

セドナは少し心配そうに尋ねる。


「あの、酒ッてはそんな一気に飲むもんじゃありやせんよ。もっとゆっくり……」

「うるさいですわね。あんた、いつそんな意見できるほど偉くなったのかしら?」

「あ、いえ……意見というか、これは助言っすけど……」

「あのね、私はそうやって指図されるのが嫌いなんですわ? だから、あのバカ王子の后になって、誰にも何も説教されない立場になりたいのですもの!」

「はあ……」


それ以上の議論は無意味と悟ったのだろう、セドナは少し呆れたような表情で彼女を見つめた。


「ったく、本当にあの王子の尻を叩くのも大変よねえ……。けど、少しずつ回復してきてるみたいじゃない」

「ええ。それもこれもみんな、皆さんのおかげっすね?」

「違いますわ? ……この『私の』おかげですわよね? まあ、セドナ。あんたに教わったやり方のおかげもありますけど、実行したのは私ですもの!」

「……そうっすね……」


セドナはそう答えながら、近くに置いてあった本を手に取った。

これはセドナが、ブラス王子に頼まれて書庫への保管を頼まれたものだ。


「この政治の本も経済の本も……全部読破したそうっすね」

「うんうん、良い調子ですわね」

「せっかくなんで、キュプラさんも読まれては? 結構大事なことが書いてありやすし、読みやすいっすよ?」


そういいながら本を差し出すセドナ。だがキュプラは、


「嫌ですわ? こんな本を読むなんて面倒ですもの」


呆れたような表情で首を振り、本を乱雑に投げ捨てた。



「ちょっ……! この本、いくらすると思ってるんすか?」

「うるさいですわね。本くらい、買いなおせば済むことじゃない。どうせお金持ちなんですから、この城は」

「そういう問題じゃないっすよ。写本って高いんすから……」


ぶつぶつそういいながらも、セドナはその本に大きな傷がないことを確認し、安堵したように机の上に戻した。


「はあ……。それにしても、猫を被るのも疲れますわね? あとどれくらいであのバカ王子は、完全に復帰すると思いますの、セドナ?」


その様子を尻目に、ぶはあ、とウイスキーを煽りながらため息を漏らすキュプラ。

彼女は洋ナシを食べきったあと、その手をセドナの服でぬぐう。だが彼にとってはそれは慣れっこなのか、気にする素振りを見せずに尋ねる。



「そうっすね……。あっしの見立てではそう時間はとられないと思いやすが……」

「正直、さっさと結婚して私は好き勝手に過ごしたいのよね……。あのバカな女を『嘆きの修道院』に送り込んで、

「……ええ……」


嘆きの修道院は『不老と不妊の魔法をかけられた上で、永遠に若い男たちの慰み者になる』という一種の懲罰施設だ。


だが、サチカが『貞操逆転世界』から来た存在であり、それゆえに『嘆きの修道院』送りになる断罪エンドを自分から望んでいることはセドナも知らない。

そのため彼は少し暗い表情を見せて答える。


「まあ、あまり酷いことはしたくないっすよ、あっしは……」

「いいじゃない、あんなバカな女がどうなっても。それよりも、次の手を教えてくださいませんこと?」

「次の手、ですか?」

「そうですわ。こんな面倒な猫かぶり生活、もう嫌になってきましたもの。だから、王子をさっさと社会復帰させる方法を教えてくださいませんこと?」

「なるほど、そういうことっすか……。だったら次は『先回りして、やるべきことをどんどん促すこと』がいいっすね」

「先回り?」


そういうと、キュプラは少し驚いたような表情で尋ねる。


「ええ。ブラス王子はまだ本を読んだり、軽く剣を振ったりといったことしかできていやせん。けど、復帰したら社交パーティなんかにも参加することにもなりやすよね?」

「勿論よね。……まあ、たまには彼を連れて歩くこともやってあげますわ? あのバカ王子、顔だけは素敵ですもの」

「……はあ……」


そう笑う


「なんで『次の課題』をどんどん教えて上げていくんすよ。そうすれば王子もやるべきことを自覚しやすから」

「なるほど、いいアイデアですわね? セドナ、あなたも私が后になったら取り立てて上げますわ?」

「そいつは嬉しいっすね」

「そうね。そうしたら、寝所に読んであげても宜しくってよ? もし子ができてもブラス王子との子どもとして育てるから、心配はしなくて良いですから」

「はは、そいつはゴメンこうむりやす。そもそもあっしは子どもが作れないんで」


そんな風にいいながら、セドナはドアの向こうに軽くウインクをした。




……彼女は気づくべきだった。

今日はセドナが自室のドアをきちんと閉めていなかったことに。






ーーーーーーー


「薄々そうだとは思ってたが……ここまでひどかったとは……」



扉の向こうには、ゴルド王子がいた。

彼は先日セドナに『キュプラの身辺について教えてくれ』と頼んでいた。


そして返ってきた答えが『一度彼女の自室での様子を見たほうがいい』ということだった。その意味を理解したゴルド王子は、彼女の言動の前に頭を半ば抱えるように死ながら呟く。



「すまん、ブラス……。私は、なんて怪物を招き入れてしまったんだ……」


ゴルド王子は堅物で真面目だが、それゆえに『自分以外の人間も、真面目な人間である』という思考回路を持ってしまっている。


本人も自覚はしていたが、それでもキュプラの本心を見抜けず婚約者候補として招き入れたことを後悔しながら、一人呟く。


「だが……今はまだ、彼女は必要か……」


ブラス王子の目線ではキュプラは『一生懸命自分を励ましてくれる素敵な婚約者候補』であることをゴルド王子は本人から聞いている。


疑うことを知らないブラス王子が彼女の本性を今の段階で知ってしまったら、ブラス王子は今以上に頑なに心を閉ざしてしまう可能性は高い。


そのため、彼はセドナとも相談して『ブラス王子が完全に復帰できるめどが立つまでは、彼女を泳がせておくこと』に決めた。



「だが……時が来たら、覚えておけ、キュプラ……。確実にこの城から叩きだしてくれるからな……」


そうつぶやきながら、彼は腰の剣をぐっと握りしめた。

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