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2-5 兄王子には彼女が才女に見えている

「ふう……いやあ、食ったなあ……こりゃ、晩飯はもういいな!」


どうせ城に戻っても、体によさそうな質素な飯が待っていると考え、私は腹いっぱい屋台飯を味わいつくした。

ゴルド王子はそれを咎めることなく、私に対して尋ねてきた。



「ハハ。ずいぶん食べたな、サチカ殿。……ところで、この町はどうだった?」

「え? ……そうだなあ……」


そのゴルド王子の目は少しこちらを試しているようだった。


(ああ、そういうことか……)


どうも私が深謀遠慮を持って城下町に来たと思っているのだろう。

……よし、ここで私が『ただのバカ』だということを見せてやろう。



「マジ最高だったぜ? 鍛冶屋連中の筋肉、やばかったしさ! それに汗をかいて家を修理してる大工のセクシーっさっつったらもうやべえよ! それにこの屋台飯もどれも美味くて最高だったし、一緒に食ってる男性も肌が綺麗でマジ良い感じだったな」



どうだ、思ったことをそのまま言ってやった。

私がただ男と食い物のことしか考えていないバカだと分かったのだろう。その発言にゴルド王子は一瞬驚いたような表情をしたが、


「……なるほど、やはりそれが目的だったか……」

「そう! 分かった?」

「ああ……流石にな」


おお、分かったか。私は『ブラス王子の婚約者にふさわしくない人』だと。

これなら断罪エンドしてもらえる日も遠くないはずだ。


「ところで、屋台の食事をなぜ、もう一つずつ買ったんだ?」

「ああ、残りは部屋に帰ってから食うつもりだからな」

「……なるほど」


無論これは嘘だ。

本当はこいつらは今夜ブラス王子の部屋に持っていくつもりだ。


(ふふ、楽しみだな……)


今夜私は、ブラス王子からの好感度を思いっきり下げに行くつもりだ。

……まあ、正直あの王子の顔を見に行きたいというのもあるのだが。



(あの王子が私と付き合ってくれるんなら、まあ嘆きの修道院に行けなくても我慢はできるんだけどなあ……)


正直、私は昨日の一件でブラス王子のことを少し好きになっている。


……とはいえ、私が好きなのは大半ブラス王子の外見だ。王子のもとに足を運びたいのも、『単にブラス王子と一緒に時間を過ごしたいだけ』で、彼の将来のことなんか何も考えてない。


(ハハ、こんなんだから前世ではモテなかったんだろうな、私は)


残念ながら、キュプラの優しさやおもいやりにたいして私は勝てそうもない。


もしそうなら、私に恋愛で勝ち目はないだろうし、それならそれで仕方ない。

ならばこそ私は『今』王子のあの顔をタップリと拝んでおこう。あわよくば、王子を怒らせて『無理やり抱かれる』やり方でたっぷりと堪能できれば良いのだが。


そう思いながらも、私はゴルド王子に護衛されながら帰途に就いた。





ーーーーーー


「やはり、サチカ殿は素晴らしい女性だな……」



その帰途の途中、ゴルド王子はそう思っていた。



「視察中、私に声をかけてくる貴婦人には目もくれず、働く男にばかり目を向けていた……。庶民がどう生活し、何を生業にしているのかをじっくりと視察していたのだろうな……」


無論、実際は単に彼女が『男の体を嘗め回すように見ていた』だけなのだが、貞操逆転世界から来た彼女のその行動意図は、当然ゴルド王子には読めていなかった。



「それに、彼女の観察眼も素晴らしい。男たちの肌つやや体つきまでしっかりと記憶にとどめているとは……しかも、庶民と同じものを食べて毒がないか、体に悪くはないかまで身をもって体験するとは……」


無論これも彼女は男性を性的な目で見ていただけなのだが。

だが、これもまた真面目なゴルド王子には発想にすら至らなかった。



「どうしたんだ、王子?」

「あ、いや……」

「ちょっと暗くなってきたな。悪いけどさ、手、繋いでくれないか?」

「え? ……あ、ああ……」


一瞬おどろいた表情を向けながらも、ゴルド王子は彼女の手を握る。



「へへっ。……なんか嬉しいな、こうやって手を握ってもらえるのは」

「……そうか?」

「ああ。ゴルド王子の手はあったかいな。安心するぜ」


(そして、出会って二日目の私に対しても、こんな風に人懐っこく接してくる、か……)


無論これも、元の世界で彼女が男たちからバカにされ、手を握ることを拒否されていたことが理由なのだが。


(ブラス……。彼女を幸せにしてやってくれよな……)


そう思いながら、ゴルド王子はそっと彼女の後姿を見て微笑んだ。

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