2-4 逆転世界のサチカは男女ではなく、「女男」という言い方をします
それから数十分ほどの後、私たちは城下町に降りてきた。
城下町では子どもたちが楽しそうに会話をしたり、男性たちが大工仕事をやっていたりと結構な賑わいだった。
「へえ……良い町なんだな」
「そういえばサチカ殿は、まだ街に来たことはなかったんだな」
「ああ」
まあ実際には、この世界に転移してから城の外に出たこと自体が初めてなのだが。
「それでサチカどの、まずはどこに行くんだ?」
「ああ、まずはスラム街にあるっていうパスタ屋さんだな」
この世界の食文化は、どうやら現代の水準とさほど変わらない。
曰く、セドナがこの世界に広めたという話だ。
野菜も中世に準拠したものではなく、現代日本と同程度のF1品種のものが何故か存在する。……種はどうしているんだ? など、深いことは考えないようにしよう。
「もう一度聴くが、危険だがそれでも行くのか?」
「わーってる。だから、しっかり守ってくれよ、ゴルド王子!」
「ふむ……流石サチカ殿だな。……だが、あまり無理はしないでくれ。君になにかあったらブラスも悲しむからな」
そうかあ?
私はあれだけブラス王子に失礼な態度を取ったんだ。事故にでも遭えば儲けものくらいに思っているかもしれないのだが。
そう思いながらも、私たちは街を歩いていく。
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「あ、見て!ゴルド王子! 素敵じゃない?」
「本当! ああ、今日も気品があって、見てて心が洗われるわね。うちの亭主と大違い!」
「ほんとほんと! 少しは見習ってほしいものね」
街を歩いていると、ゴルド王子に目を向けて女たちが持て囃すような声が聞こえてくる。
「あんた、人気なんだな」
「はは、私は長身で単に目立つからそう声をかけられるだけだよ」
本人はそう謙遜しているが、王子の身なりや佇まいは、異性のみならず同性すらも惹きつけるカリスマ性がある。
女たちは私の方をうらやむような目つきで見つめてきているのがよくわかる。
(こっちの世界の女は、これが気持ちいいんだろうけどな……)
だが、この世界の女は私とは違い「自分の彼氏が女性の目を惹きつけること」が、よほど心地良いのだろう、私にも羨望の目を向けてきた。
そして城下町を歩いて周囲を観察していると、あることに気が付いた。
(この世界の女たちはずいぶん、同性同士でベタベタしてるな‥…)
ここは貞操逆転世界ということもあり、女達が凄く距離が近い。
同性愛者というわけでもないのだろうが、女同士で同じアイスを分け合っていたり、腕を組んで歩いていたり、手を繋いだりしてる。
私の世界では、女同士はあんな風にイチャイチャしなかった。
寧ろ男性たちが街で一緒に手を繋いでクレープを食べていたり、休日に手を繋いでカフェめぐりをしたり、たまにはがっつり系のラーメンを食べたりするほうが一般的だった。
(こういうところも、女男が逆転してるんだな……ま、いいか)
正直私は女どもには興味がない。
そう思いながら、私は目的のパスタ屋についた。
「へい、らっしゃい!」
「うひょう! ……じゃない、こんにちは、おっさん!」
やはりというか、汗を流しながら働き盛りであるだろう男性がこちらに笑顔を向けてきた。
この世界の男性は、女に警戒心をあまり持たないのがやはり有難い。
「こりゃ、綺麗な嬢さんだな。……それと……って、ゴルド王子!?」
「ああ。しばらくだな」
「え、ええ! ……ご、ご機嫌麗しゅう……へへへ……」
ゴルド王子の名前はスラム街でも響き渡っているのだろう、彼は急に少し委縮したような態度で尋ねてきた。
「えっと、お嬢様。ご注文は?」
「ああ、ナポリタンを一つ……いや、二つくれ!」
「ええ、分かりやした!」
ナポリタン。中世ファンタジーでは名称からそうそう目にしないメニューだ。
そう思いながらも、私は彼が鉄板の上でパスタを炒めるのをじっと見つめた。
(改めてみると、私の世界の基準でも妙な光景だな……パスタを炒めるって……)
「へい、お待ち!」
「サンキュ、おっさん!」
だが、そんな風に考えているうちにナポリタンが完成した。
日本でよく見るお祭り用のパックのような容器にいれてもらい、早速ずずっと口にする。
「くああああ! うめえ!」
「アハハ! そんな風に食べてもらえると俺たちも嬉しいねえ!」
「そうだな。……サチカ殿が喜んでくれて何よりだ」
「なあなあ、ゴルド王子! あんたも食わないのか?」
だがゴルド王子は首を振った。
「いや、やめておこう。私はそういうのは食べないからな」
「そうなのか? どうしてだよ?」
「私の体は、国家に捧げるものと決めている。油や砂糖が多いものは極力口にしないようにしているんだ」
そういう彼の体は、確かに私の国にいたトップモデルのような体つきをしている。
思わず舌なめずりをしたくなるそのエロいボディを維持するために、アスリートのような禁欲生活をしているというわけか。
「へえ、そうなんだな」
「だが、誤解しないでくれ。それはとても美味いものだとは私も分かる。君がそれを食べることを否定するつもりはないさ」
「そいつはどうも」
だが、正直人としては完璧すぎて面白味がない。
まあ国の王位継承者ともなれば、それくらいの重責がかかっているのだろうから仕方ないのだろう。……まあ、それもまたブラス王子の劣等感を刺激したのだろうが。
「フウ……ああ、美味かった! さあ次に行こうか、王子! 金は大丈夫か?」
「安心してくれ。それくらいなら私の私財でまかなえる」
よっしゃ、こいつは剛毅だ。
「じゃあ、早速行こうぜ、王子! ほら、こっちこっち!」
「ちょっと待ってくれ、サチカ殿!」
そう思いながら私はゴルド王子の手を引っ張りながら、よりディープなスラム街の奥地の方に足を運んでいった。




