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逆転世界における現人神様の箱庭生活  作者: けちゃらー第一号被験者
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悪巧み


鳥かご作戦フェーズ3



俺たちは今回会談予定の領主館に時刻ぴったりに到着することにした。確かに先に到着して待ち構えるのも悪くはないが、それだと俺の存在が露見し報告されてしまう可能性を排除できなかったからだ。加えて観戦武官のロザリリスを連れて行って勉強させなければ。



宿から、馬車と騎兵の護衛を伴って向かう道中、俺たちは雑談をする。


「外務大臣卿と似たグレードの礼装にしたが、相手はどのように出ると思う?各自、意見を許可する。」



「そうですね。王家側はミケ様のお方だと見抜けるでしょうが、領主は無理でしょう。独立派閥は微妙です、帝国と直接国境を接していないため動きが予測しにくいです。昨日の領主は動揺が窺えますが、情報を必死に獲ろうという気概もないようでした。」



「貴族社会で~鉄則なのは~正体も分からない~服装から~身分が同じようなのだとしたら~私は~下手に出て~警戒します。」



「私も閣下に同意見です。これで領主が暴走して『ミケ様は交渉相手ではなく、外務卿のご子息様か、あるいは後継者である』と誤認したら大爆笑ですが、さすがにそんなことはないでしょうね。」



「皆様の意見には賛同しますが~もし意見を異にするならば~……。人は愚かな面をお持ちですから~私たちが思いつかないようなことを~言い出すかも~?しれません。例えば~……なぜ男が前に出ているのか!?舐めておるのか~!?見たいな?」


「「「あー……。」」」



そこまで暗愚ではないと思うが、他国から民を誘拐して奴隷にするような奴だ。俺たちの物差しでは測りきれないようなぶっ飛んだ方は、帝国のどこかに君臨しているのだ。


「そういえばそうでしたね」と頷きあっていると、領主館に到着した。ここもまた政治的な思惑と居住空間を考慮して設計された場所でしかなく、高価な板ガラスが使われていて外見を美しく飾り立てていた。


馬車を降り、外務卿の後ろに付き歩く。案内してくれる侍従が、「領主様、役人様、伯爵様は既にご入室でございます」と告げた。彼は俺たちをちらりと見たものの、何も見抜けなかったのか誰何されなかった。やがて「外務卿閣下とお付の方々、ご入室なさってください」と、会議室の大きな扉が開けられ、俺たちを案内する。ヴィーに合図すると、思いっきり殴り飛ばし剣に手をかけている。


驚愕する面子を前に、ヴィーは低くも鋭く通る声で先制した。多分情報通りなら配置は左から伯爵、役人、そして領主だ。



「この方をどなただと心得るか。お付の方だと!皇族、それも皇太子殿下への不敬であり、即刻打首に処す!」



「クソッ!」「なっ!?」「げっ!」



「ヴィー汚すな。それで貴様ら席に着いたままでいるとは、貴様ら頭が高いな。ましてや外国からの賓客に向かって『クソ』だと?私は兎も角として、皇太子殿下と同格かそれ以上の存在だ。皇族、王族より偉いとは随分と遅れた政治だ。このような場所にいるつもりはないし、貴様らの帝国への不敬行為に対しても、非常に腹立たしいものだ。帰らせて頂く。」



先制攻撃をして主導権を握るのは、政治だろうと戦だろうと当然だ。ミスは命取りとなる。命が助かるには傷口から流れ出る血を止めざるを得ないが今やれることは傷口を焦がすかのように、非常に辛い痛みを味わうことだけだ。



「お、お待ち下さい!」



おや?中年の太った女が脂汗をかきながら声を上げた。しかし、今は跪くのが先だろう。そこまで暗愚だったか、ヴィーによってすかさず彼女を咎められる。



「貴様!非礼を詫びることなくひざまずくこともないとは、何様だ!皇太子殿下、一刻も早くここを退出致しましょう。」



「殿下、ここにいる価値などございません。一旦宿に戻り、帰路の準備をいたしましょう。」



俺は何も言わずに、ただ頷いた。ここで口を開くには、まだ場の空気が十分ではない。



「護衛隊!もし怪しい動きがあれば、抜剣し切り捨てよ!この者共は我らを軽んじ不敬を働いただけでなく謝罪の言葉すらも口にしない!」


ヴィーの低くしかし芯のある声とともに、護衛隊の腰の剣に手がかけられ臨戦態勢が整う。警戒の笛が鳴り響き場は騒然とした。俺たちは出口まで急ぎ動きそのまま馬車に乗り込み、騎兵の護衛と共に宿へと戻った。


馬車に乗り急ぎ走ると少し経ってから、張り詰めていた緊張が解けたリラが、か細い声を漏らした。



「怒涛の展開で不敬であるぞ!あの場で血みどろ斬首かと思うと怖かったです……。だけど、これはこれで燃えますね……。」


続いてロザリリスが口をやっと開く。


「我が騎士団団長が言っていた意味を理解しました……貴族の面子は命より重い、と相手する時は心をせよさもなくば死が飛んでくるぞと。」



「ハハハッ、まだまだこれは序の口だ。ここに付いたからには、お前たちも学ぶんだ。貴族社会は舐められたら終わりだと教わったろ?こうならないようにするために、我々には貴族は貴族の、平民は平民の、奴隷は奴隷の、作法があるんだ。

作法は相手に攻撃を仕掛けさせず、身を守る鎧となり、剣となる。身に染みたな、貴族は代を重ね鎧を厚く剣を鋭く磨き上げてきた。敵対者を斬り殺すために。そしてアヴィエラ、よくやった!上に立つ者が、あのような公然の場で、奴隷の身分の者に叱責されるなど、悪夢でしかない。」



「兵隊さんをしていた頃が懐かしい……。あの頃は、訓練、訓練、食事、風呂、就寝、そしてたまに賊退治、と分かりやすかったです……。」



「なんだ、戻りたいか?話を通してやるぞ。彼女はこの世界に来るだけの器はないと。梱包して送ってやるぞ?」



「そんなとんでもない!『学んでこい』と、閣下はあたしを信じて送り出してくれました。それを学ばず逃げ出したら兵士として終わりです!!」


周囲の面々は良い顔をしていた。決意が固まった顔、先程の件を思い返し、次に活かそうと意気込む者、そして若者を微笑ましく見守る者。それが揃っていた。



「ヴィー、手を出してみろ。籠手もさせず、思いっきり殴ったから痛むだろう。」



ヴィーは戸惑いながらも手を伸ばす。魔法で出せるのは小さな氷しか出せないがそれをハンカチで包み、冷やしてやる。周囲の視線は気にしない。普通、こんなことはしないからだ。手元が少し赤くなっているのを見て、冷やしつつ、頭をよしよしと撫でてやる。



「リラも分かったな。皇族は優しいが、決して甘くはない。この後引き止められたら、これからあの三人の首を要求するだろう。過剰な要求だと突っぱねるかもしれないが、相手は既に失点しており挽回する隙はない。それでも閣下の元に付きたいか?」



「こんなことで芋を引くわけにはいきません!私は力がなくとも言葉があります。育ち切るまではいるつもりでございますよ!」



「外務卿、良い部下だ。しっかり育ててくれよ?」



「勿論ですとも。殿下こそ、今回の対応は100点満点の対応です。アヴィエラもよく育っています。」



馬車で帰る道中、不穏な笑い声が響き護衛たちは殺気を帯びていて市民たちも一目散に逃げ去るようであった。




宿に戻り、帰路の準備をさせていると、護衛隊長のラクトーシャから、面会を望むと侍従二人に「桶」を4個と羊皮紙を巻いた書状を持った領主が来ていると報告があった。暇じゃないと帰すのも良いが、桶の中身を考えると早めの方が良いが待たせよう。ヴィーと外務卿は、ある程度の打ち合わせをしてから話をすることを決めておく。


30分ほど待たせた間に、領主はどんな気持ちになったのだろうか。貧乏くじを引かされた二人への殺意か、後悔か、奴隷に批判されるという屈辱への憤怒かそれとも単なる怯えか。



今度は俺、外務卿、リラ、ヴィー、そして護衛の四名が、腰の剣に手をかけさせながら向かう。向かった先の会議室には床に土下座し桶を置いて待つ領主と侍従がいたが、俺たちは何も告げない。俺たちは椅子に座り、彼らを見下ろした。


「こ、皇太子殿下、は、拝謁の機会を頂き、感謝致します。つ、つきましては、私共の失態と致しまし、各部署の責任者の首をお持ちいたした次第でございます。こ、これと、私からせめてもの謝罪として、献上品でございます。

あ、明日こちらの目録の通り、輸送させて頂きますので、お納めを。この度は私共の不敬な行為、大変申し訳ありません。誠意としては足りぬかととおもいますが、後日、王家と伯爵から謝罪と献上をさせて頂きたく……。」



「皇太子殿下付きの奴隷、アヴィエラがお答えします。この度の一件では貴国の行いに非常に憤慨されており、我々としては開戦もやむ無しと考えておりましたが、殿下の優しい御心は戦火に焼かれる者を忍びないとお思いになり面会を受け入れられました。ですが、この場にいない他の方々は、いかがなされたのでしょうか。」



「そ、それは……。き、宮廷の役人と伯爵を不敬罪で一旦私の館で監禁させており、これが、終了次第裁判となる予定でご、ございます。」



領主館にいた時から気づいていただろうが、ヴィーの首には奴隷の証の首輪が嵌められ、奴隷だと公然と宣言している。さっきも身分を表明されており、心の中は煮えくり返る思いだろう。



「随分と悠長であるな?今回の会談で、外務卿たる私と皇太子様両名のお前たちで話が進む内容か?宮廷の役人は兎も角で、我々に暴言と不敬を働いた本人の首を要求させて頂く。やり方は任せるが。それぐらいのことをしでかしたのだぞ、貴様らは。期限は明日の正午までだ。

履行されなければ帰らせて頂き、この件を近く開催される夜会に他国の大使の方々を招き広めさせて頂こう。王家の権威は失墜。大義名分は我らにあり。他国と共同戦線を張り、貴様らを蝗害のように蹂躙し尽くしてやろう。ここら一帯人間は皆戦奴、草一本が生えない土地にして他国との緩衝地帯として有効活用だ。」



「そっ、それは……。」



超顔が青いよ?大丈夫かな。だけど王家は伯爵を殺さないと、他国からも攻め込まれてしまう。王国はいくつも戦線を抱える余裕はないし魔国に話を持っていったら、確実に乗られることは見えている。領主は他から目の敵にされ援軍は出してくれないだろう。

どちらを選ぶかな?今さら裏切るのも無理だし、詰んでいる。それに皇族への献上品というのは、生半可な額では済まないものだ。



「持ってきた首は丁重に葬ってやれ。暇ではないのだ、期限は明日の正午だ。夢ゆめ忘れるな?では殿下、参りましょう。」



そう言い残し、外務卿たちと共に、青から土気色になった領主を残して、俺たちは去って行った。


彼女たちが去ったのを確認すると、護衛隊長のラクトーシャを呼んだ。いかにも、俺たちを夜襲攻撃してはたまらないからな。



「殿下、聞いたっすよー?超きっついパンチをお見舞いしたそうっすね?」



「そうだ。俺の大切なヴィーが、拳が赤くなるくらい相手の侍従を殴り、首付きだ……。」



「ラクトーシャ隊長、一応分かっていると思うが、相手が乱心をして攻撃を仕掛けてくる可能性がある。警戒態勢を上げろ、街の外の騎兵にも、状況を伝えておけ。」



「はっ!外務卿の仰る通りです。ここまで追い込まれると、何をしでかすか分からないところがありますので、警戒を厳とさせていただきます。殿下もお手数ですが、寝るときは鎖帷子の着用をお願いします。あーしがもし領主の立場で乱心するとしたら夜、やけ酒を飲んで変な考えを起こした時です。」



そこから警備、脱出路、馬の用意を確認して行き、空気がピリつき張り詰めた。



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