変わりゆく支配
その夜、レイヴェルの抱擁は、いつもと違っていた。
「……なに?」
戸惑う私の唇を、彼はゆっくりと塞いだ。
いつもと違う。
いつものように支配するキスではなく、どこか愛おしむような――
「……俺は、お前を手放すつもりはない」
静かに紡がれた言葉に、心臓が跳ねる。
「……今度は何を企んでいるの?」
疑念を滲ませながら睨みつけると、レイヴェルはただ静かに抱き寄せた。
その手つきは優しく、けれど決して逃がさない強さを持っている。
「何も企んでなんかいない」
「嘘。……また私を騙そうとしているのね。私を陥れようと……!」
声を張り上げる。
胸の奥にあるのは、怒りなのか、それとも――恐れなのか。
「……城に戻ったら式を挙げよう。妻になってくれ」
その言葉を聞いた瞬間、時間が止まったようだった。
心臓がひどく跳ね、次の鼓動を忘れたかのように凍りつく。
――妻?
彼は今、何と言ったの?
あまりにも自然に、まるでずっと前から決まっていたことのように、静かに告げられた言葉。
それが、どうしようもなく私を混乱させる。
こんなもの、信じられるはずがない。
「……ふ、ふざけないでよ……っ!」
握りしめた拳が、自分でも気づかないうちに震えていた。
「そうやって、また私を甘い言葉で騙すのね……!」
涙が込み上げる。
憎しみも、怒りも、哀しみも、全部がぐちゃぐちゃに混ざって胸を締め付ける。
私は、もう二度と、あなたを信じたりしない――。
拒絶しようとしたのに、言葉が震える。
「私をどこまで地獄に突き落としたら気が済むのよ……!!」
感情が爆発するように、涙が滲む。
息が苦しい。
過呼吸になりそうだった。
「……はあ、はあ……っ」
視界がぼやける。
息を整えようとしても、胸が締め付けられるようで、呼吸がうまくできない。
こんなこと、今さら言われても――信じられるはずがない。
彼は私を裏切ったのに。
私を戦場へ追いやったのに。
私は彼を憎んでいるのに。
「……ごめんな、ごめん」
ふいに、強く抱きしめられる。
子供をあやすように、静かに、けれどしっかりとした腕の力。
「…………」
何も言えなかった。
ただ、震える肩を預けるしかなかった。
裏切られたのに、傷つけられたのに。
この腕の中にいると、何もかもがどうでもよくなりそうになる。
私の心は、もうとっくに彼に支配されているのだろうか。
それが、ひどく、悔しくて――。
それ以上に、苦しくて仕方がなかった。




