揺れる感情
日が経つにつれ、私は自分の心の変化を無視できなくなっていた。
この男が憎い。許せない。
そう何度も何度も自分に言い聞かせてきたはずなのに――
レイヴェルは、相変わらず私と同じ寝室で眠る。
捕虜のはずの私は、監禁されるわけでもなく、ただ彼の隣で夜を迎えるのが当たり前になっていた。
それは、あまりにもおかしいのに。
キスやハグをしても、彼はそれ以上のことを求めてこない。
まるで、私が“特別なもの”であるかのように扱う。
「……またそんな顔をする」
ふいに落ちた低い声に、はっと意識が引き戻された。
彼の琥珀色の瞳が、私の表情を探るように細められている。
「何のこと?」
努めて平静を装いながら問い返す。
けれど、レイヴェルはじっと私を見つめた。
まるで、私の心の奥を覗き込むように。
「……その目だ」
低く囁かれる言葉に、心臓がひどく跳ねた。
「たまに、ひどく傷ついた顔をする」
優しくもなく、同情でもなく――
ただ、静かに事実を指摘するような声音だった。
「……」
何も言えなかった。
レイヴェルの琥珀色の瞳が、私の内側を暴こうとするみたいで。
自分ですら認めたくない感情を、無遠慮に掬い取ろうとするみたいで。
――そんな目で、私を見ないで。
言葉にしようとしたけれど、喉の奥で声がかすれて消えた。
彼の指がそっと頬を撫でる。
以前なら、その手を振り払っていたはずなのに。
――どうして、今は拒絶できないの?
心が軋むように揺れる。
この手に何度も裏切られ、痛みを刻まれてきたのに。
こんな仕草ひとつに、どうしてこんなにも胸がざわつくの?
「……お前は、俺のものになればいい」
耳元で囁かれる甘い声音に、思わず息を止めた。
「……違う……私は……」
否定の言葉を口にしようとする。
でも、言葉は喉の奥で詰まったまま、何も出てこない。
こんなはずじゃなかった。
私は、この男のせいで全てを失ったのだ。
裏切られて、誰も信じられなくなって、戦場で命さえ落としかけた。
なのに――
「……お前は、俺の手の中でしか生きられなくなる」
レイヴェルの囁きが、耳元をかすめる。
その瞬間、押し殺していた感情に気づいてしまった。
私は、もしかしたら――
幸せに生きられるのかもしれない。
ただ穏やかに――この男の腕の中でなら。
そんな考えが脳裏をかすめた瞬間、心臓がひどく痛んだ。
違う。違う。違う。
私は彼を憎んでいる。裏切られて、すべてを奪われて、それでもまだ――。
それなのに、どうして。
どうして、彼の温もりに安らぎを感じてしまうの?
どうして、彼の腕の中にいると、ほんの少しでも“守られている”と思ってしまうの?
――そんな自分が、たまらなく悔しくて。
たまらなく……苦しい。
もう、二度と恋なんてしたくなかったのに。
こんな想いは、もう二度と抱きたくなかったのに。
それなのに、私はまた――
彼に心を囚われてしまいそうになっている。




