幕間『―隠れ家の夜と、ちゃっかり猫―』
火の粉がぱちりと弾けて、また静寂が戻った。
ファナは毛布にくるまったセレーナの寝息を聞きながら、焚き火の明かりを見つめていた。
逃げてきたばかりの森の小屋。
まだ安心はできない。明日も、未来も、霧の中だ。
けれど今この瞬間だけは──
小さくても、あたたかな命が確かに傍にある。
その時だった。
ミシ……と、木の床が小さくきしむ。
ファナが顔を上げると、影の奥から、見慣れた黒猫がひょっこりと現れた。
「……ファニャン……」
にゃあ。
いつも通りに鳴いて、彼はスタスタと歩いてくる。
いつの間に荷物へ紛れ込んだのか、ちゃっかりここまでついてきていた。
ファナの膝にひょいと飛び乗ると、彼は丸くなり、目を細めて喉を鳴らす。
「ほんと、ちゃっかり……」
思わず笑って、ファナがそっと撫でたとき──
彼のしっぽが、ぽん、とファナの手の甲に触れた。
その瞬間、ファナの胸の奥に、声なき声がそっと届いた。
「やっと、ここまで来たね。
もう、自分で歩いていけるね」
ファナは目を閉じて、小さく頷く。
「……うん。やっと……そうなれた気がする」
焚き火の揺れる光の中で、セレーナはすやすやと眠っている。
ファニャンも穏やかな寝息を立てていた。
ファナは二つのぬくもりを感じながら、そっと呟く。
「……ありがとう。ちゃんと、見ててくれたんだね」
少なくとも、今夜だけは──
もう、怖くはなかった。




