駆けつけた父親が過保護すぎて、地底の長老と緊迫した口論を始めてしまった
蒸気の向こうから飛び込んできたアルダシールは、床を蹴るなり、メイファとアルスを遮るようにして立ちはだかった。その右手には、まだ青白い余熱を残す直刀が握られている。
「そこから離れろ!」
アルダシールの怒号が、円筒形の書庫に鋭く響き渡った。彼の肩は激しく上下し、こめかみには青筋が浮き出ている。修練場での死闘の直後だ、全身から発せられる闘気が、周囲の空気の温度をさらに押し上げていた。
「あなた!」
メイファはアルスの体を抱きしめたまま、夫の背中にしがみついた。その背中があるだけで、凍りついていた心臓がようやく動き出すような気がした。
「怪我は無いか、メイファ。アルス、お前、その目はどうした」
アルダシールは視線を長老から外さないまま、低く、しかし焦燥を孕んだ声で問いかけた。少年の瞳の奥で明滅する、金色の異様な光が、彼の胸をざわつかせている。この頭痛だ。修練場で限界を超えたときから続く、脳髄をギリギリとしめつける痛みが、息子の呼吸と完全に重なっている。
(間違いない。俺のこの右腕にある熱と、アルスがここで引き起こしている何かは、同じ場所から流れてきている)
白い鱗の長老は、直刀の切っ先を向けられても、ただ静かに髭を揺らすだけだった。
「騒々しいな、地上の迷い人よ。我らはその幼き者に何も強いてはおらん。彼自らが、眠っていた古い記憶の扉を開けたのだ」
「ふざけるな」
アルダシールが一歩前へ踏み出す。床の金属板が、彼の靴底の熱で小さく爆発のような音を立てた。
「五歳の子供に、世界の成り立ちだの、大昔の空の戦争だの、そんな不気味な話を理解できるわけがない。お前たちが何か術をかけたんだろう!」
「パパ、違うよ」
メイファの腕の中で、アルスが衣服の袖を引いた。その声は、驚くほど平坦で、どこか遠い。
「トカゲのじいじは、何もしてない。僕の頭の中にね、最初からこの絵が入ってたの。お空の上の大きなアレが、何度も何度も、全部を綺麗に消しちゃう絵」
「アルス、もう喋るな」
アルダシールは胸が締め付けられるような痛みを覚えた。我が子の口から、そんな冷徹な言葉を聞きたくはなかった。彼は長老を強く睨みつけた。
「おい。あんたたちの目的は何だ。俺たちをここに連れてきて、この子に何をさせる気だ」
長老の虹色の膜で覆われた目が、ゆっくりとアルダシールを捉えた。
「我らの目的など、とうの昔に失われた。かつて星々の大戦に敗れ、この地の底へ逃げ延びたときから、我らはただの観測者に過ぎん。だが、お前たちは違う」
「何が違う」
「お前たちの体に刻まれたその熱、その渇きだ。地上でいくら代を重ねようと、それは消えぬ。天の意思が、いつか再びすべてをリセットするための『引き金』として遺した、呪いのような刻印なのだからな」
「黙れ!」
アルダシールが吠えた。その声に呼応するように、彼の持つ直刀から、凄まじい白い霧が噴き出す。
「世界の仕組みがどうあろうと、そんなものは知ったことか。俺はただ、この子と、この人を守る。そのために、俺はこの宿命の力をねじ伏せてみせる!」




