古い記録板の文字が勝手に頭に流れ込んできて、大昔の星の戦争について語らされている
円筒形の空間を埋め尽くす黒い金属板が、すべて微かに鳴り響いていた。
アルスの小さな指先がその表面を滑るたび、冷たい緑色の光が波紋のように広がっていく。
メイファは息を詰めて見守るしかなかった。
目の前にいる我が子は、確かに五歳のアルスだ。しかし、その口から漏れ出る声は、まるで遠い場所から届く風の音のように低く、冷ややかだった。
「ねえ、お母さん。ここにはね、ずっと昔のことが書いてあるよ」
アルスは振り返りもせず、ただ光る盤面を見つめている。
「お空が真っ黒になって、違う形の大きな生き物たちが、たくさん降ってきたんだって。この地面の中に眠っている、キラキラした宝物を奪い合うために」
白い鱗の長老が、長い髭を床に揺らしながら、細い目をさらに細めた。
「……そこまで詳細に読み解くか」
「うん。みんな、すごく強くて、すっごく怖かったんだ。トカゲの形をした人たちも、そのとき一生懸命に戦ったんだよ。でも、お空から来た別の生き物たちの力が強すぎて、地面の中に隠れるしかなかったの」
アルスの指が次の盤へと移る。衣服の袖から、うっすらと白い蒸気が立ち上り、書庫の乾燥した空気に消えていく。
「地上の人間たちはね、その戦いを見ていたの。上から降ってくる火の粉や、地面が裂けるのを見て、それを『神様の喧嘩』だと思い込んじゃったんだ。だから、嘘のお話をたくさん作って、本に残したんだよ。でも、本当は神様なんかじゃなくて、ただの泥棒の集まりだったんだ」
メイファの胸の奥で、嫌なざわつきが広がった。
この子が語っている内容は、地上のどの歴史書にも、どの神話にも存在しない。だが、アルスの声を聞いていると、それが否定できない絶対の事実として脳裏に焼き付いてくるのだ。
「そのときから、この世界の仕組みは、歪んじゃったみたい」
アルスがぽつりと呟いた。
「戦いが終わった後も、上のお空にいる『アレ』は、ずっと僕たちのことを見張ってる。人間たちがまた勝手なことをして、宝物をめちゃくちゃにしないようにって。だから……」
そこまで言ったとき、アルスの身体がビクリと跳ねた。
少年の瞳の奥で、金色の燐光が激しく明滅する。
「アルス!」
メイファは今度こそ、引き止める冷気を振り払って我が子のもとへ駆け寄った。その小さな肩を抱きしめた瞬間、アルスの身体から信じられないほどの熱が伝わってきた。体の奥に眠る宿命の刻印が、地底の波長と完全に重なり、暴走を始めようとしている。
そのとき、書庫の重い扉が、内側からの圧力で激しく吹き飛んだ。
立ち込める白い蒸気の向こうから、凄まじい足音が響いてくる。




