黒く蝕まれた右腕と、緑光の治癒室
石の舟が金属製の船着き場に滑り込むと、緑褐色の鱗を持つ者たちが静かに道を開けた。
舟から降り立ったアルダシールは、欠けた直刀の柄を固く握りしめていた。周囲を取り囲む異形の者たちは武器を持たず、その出で立ちは微かな光沢を放つ未知の繊維で編まれた衣に包まれている。彼らの背後には、地上の大都すら凌駕する幾何学的な建築群と、天を貫く巨大な金属質の円筒が緑色の光を放ってそびえ立っていた。
「警戒を解くがいい、地上の猛き者よ」
群れの中から、ひときわ体格の良い幹部らしき一人が進み出た。顎は動いていないのに、その声は直接頭の中に響いてくる。
「俺たちをどうするつもりだ」
アルダシールは家族を背にかばい、低い声で唸った。だが、その強気な言葉とは裏腹に、限界を超えた彼の肉体は悲鳴を上げていた。特に直刀を握る右腕は、先ほどからひどく重く、感覚を失いかけている。大理の街で泥の兵士たちを斬り捨てた際、微かに跳ねた泥の飛沫が腕に付着していたのだ。
幹部の冷徹な視線が、アルダシールの右腕へと向けられた。
「その腕。次元の腐肉に触れたな。そのままでは数日のうちに全身が黒く染まり、泥の傀儡へと成り下がるぞ」
言われて初めて、アルダシールは自らの右腕を一瞥した。袖口から覗く皮膚が、まるで墨を流し込んだようにどす黒く変色し、その不気味な染みが血管に沿って肩の方へと這い上がろうとしている。激闘の熱で麻痺していたが、命を直接削り取るような冷たい痛みがそこにあった。
「まずはその穢れを払う。我らに従え」
幹部が静かに背を向けて歩き出す。罠かもしれない。だが、この暗黒の浸食を前にして、地上の医学では到底太刀打ちできないことだけはアルダシールにも痛いほどわかっていた。
彼らが通されたのは、緑色の柔らかな光に包まれた、円形の広々とした部屋だった。
塵一つない清浄な空気の中央に、滑らかな白石の寝台が置かれている。幹部の促しに従い、アルダシールはそこに右腕を横たえた。
幹部が寝台の傍らで不可視の操作を行うと、天井から温かな淡い緑色の光の束が降り注ぎ、黒く変色した右腕を包み込んだ。
刃物を当てられることも、苦い薬草を塗られることもない。ただ光が肉を透過するにつれて、血管にこびりついていた黒い泥の呪いが、朝日に溶ける霜のように跡形もなく消え去っていく。強張っていた筋肉がほぐれ、失われていた熱と健やかな感覚が指先まで一瞬にして戻ってきた。
「すごい。パパの腕、すっかり元通りになったよ」
息を呑んで見守っていたアルスが弾かれたように声を上げた。メイファも両手で顔を覆い、安堵の涙をこぼしながら深く息を吐き出す。
その光景を見て、アルダシールはついに欠けた直刀から手を離し、強張っていた肩の力を抜いた。彼らが本当に命を奪うつもりなら、このような手間をかけるはずがない。この圧倒的な技術を持つ者たちは、明確な善意で自分たちを救ってくれたのだ。
「治療に感謝する。俺はアルダシールだ」
「まずは休むがいい、アルダシール。その腕の治癒には、お前の内なる体力を著しく消費しているはずだ。この部屋で心ゆくまで眠り、目覚めた後に食事の席を用意しよう。お前たちが地上で何を見てきたのか、その時にゆっくりと聞かせてもらう」
幹部は静かに一礼し、部屋を後にした。残された家族は、清潔で温かい寝台の上で身を寄せ合い、過酷な逃避行の中で初めて、泥の恐怖から完全に解放された深い安らぎの眠りについた。




