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アルダシールと銀華~千年の時空を駆ける鬼と狐の恋物語  作者: 秋津ネオ


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再会した師兄は、半分が泥でできていた

 霧の奥で、再び銅鑼が鳴った。


「ゴォォン」


 その響きに合わせて、先ほど斬り伏せたはずの死体兵たちが、関節をギチギチと不自然に鳴らしながら再び立ち上がる。斬口からは血の代わりにどす黒い霧が噴き出し、泥濘を汚していた。


「メイファ、下がっていろと言ったはずだ」


 アルダシールが刀を構え直すが、メイファは動かない。その視線は、兵たちの向こう、断崖の上に立つ一状の「影」に釘付けになっていた。


 影は、長い錫杖を手にし、顔を奇怪な木彫りの仮面で覆っている。だが、その仮面の隙間から漏れ出る呪文の、あの独特の低く震える旋律を、メイファは知っていた。


「嘘よ!羅師兄なの?」


 メイファの唇が、戦慄に震える。


 かつて雲南の秘境で、彼女に薬草の知識と護身の術を教えた優しき兄弟子。安禄山の軍勢に村が焼かれた際、戦火に消えたと聞かされていた男だ。


「羅師兄! 答えて! なぜこんな無体な真似を!」


 断崖の上の影が、ゆっくりと仮面を外した。


 月の光に照らされたその顔は、右半分が焼けただれて消失し、左半分は、生きている人間とは思えぬ鈍い色の「泥」のような物質で継ぎ接ぎされていた。


「メイファか。懐かしいな。だが、今の私は羅ではない。安大将軍に『永遠の命』を授かった、ただの器だ」


 羅と呼ばれた男が錫杖を地面に叩きつけると、峡谷の地面から無数の「黒い手」が這い出し、アルダシールの足首を掴んだ。


「その男を渡せ、メイファ。その男の血には、我らが主が求める『不老の鍵』が眠っている。それを差し出せば、お前も、その稚児も、泥の楽園へ迎え入れてやろう」


「ふざけるな!」


 アルダシールが地を這う腕を断ち切る。だが、手応えはやはり枯れ木を斬るように虚しい。メイファは、自分の知る「兄」の変わり果てた姿に、刀を握る手が止まってしまっていた。


「パパ、あのおじさん、中が空っぽだよ。ただの泥の人形だよ」


 アルスの無垢な、そして残酷な指摘が、峡谷の静寂を切り裂く。


「メイファ、目を覚ませ! あいつはもう、お前の知っている男じゃない!」


 アルダシールの咆哮が、泥濘の闇を揺らす。


 かつての恩愛か、あるいは生き抜くための非情か。


 泥にまみれた峡谷で、一家は、己の血に流れる宿命を試される最大の岐路に立たされていた。




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