銀華の怒り
西の古道を歩き始めてすぐ、
アリアは違和感に気づいた。
朝日が差しているのに、
自分の影だけが
半歩、前に出ていた。
風は吹いていない。
「銀華?」
胸の奥で、銀華の気配がざわりと揺れた。
アリア “呼んでいる”
「呼んでる?」
あれは、私が、守れなかった影
アリアは息を呑んだ。
そのとき、
古道の先の地面に落ちた“別の影”がゆっくりと横切った。
誰もいないのに。
影だけが歩いている。
アルダシールが剣に手をかける。
「影喰は“形”を探している。
あれは、“最初の犠牲者”の影だ。」
アリアの影が、
その歩く影に引かれるように揺れた。
「やめて」
アリアは後ずさった。
だが影は、
アリアの影に触れようと伸びてくる。
その瞬間
触れるなッ!
銀華の怒りが、
胸の奥で爆ぜた。
アリアの影が一瞬だけ光り、
歩く影が弾かれたように揺らいだ。
アルダシールが目を見開く。
「銀華が怒っている?」
アリアは震える声で言った。
「銀華
あなた、怒ってるの?」
アリアを 奪わせない、 二度と!
銀華の声は、
朝の静けさを裂くように鋭かった。
歩く影が、
古道の奥へ逃げるように揺れた。
その奥から、
かすれた声が聞こえた。
「〇〇
かえせ
わたしの、、、、かたち」
アリアは息を呑んだ。
「銀華
この“音”誰なの?」
アリア、 あれは、“私が守れなかった影”
「守れなかった?」
影喰が 最初に奪った“形”
私よりずっと前に
アルダシールが低く呟く。
「影喰の“始まり”だな」
歩く影が、
朝の光の中でゆっくりと西へ向かっていく。
アリアは拳を握った。
「銀華
あなたが守れなかった影なら
今度は私が向き合う。」
アリア、 ありがとう
銀華の怒りが、
アリアの背を押すように熱かった。
アリアは歩き出した。
朝の古道は明るいのに、
どこか冷たかった。
まるで、銀華の怒りだけが先に歩いているように。




