尾を喰らうもの
祠の奥から響く足音は、
人のものとは思えないほど、
ゆっくりと、重く、湿っていた。
コツ、コツ、
霧の中で、音だけが近づいてくる。
アリアの影が揺れた。
遅れて、もう一度揺れた。
胸の奥で、銀華の気配が眠りの底から浮かび上がる。
アリア
来る
「銀華?」
返事はない。
だが、確かに“目を開けかけている”気配があった。
アルダシールはアリアの前に立ち、右腕の黒い紋様を押さえた。
「この気配、影の主ではない。
だが、人でもない」
霧が揺れ、
祠の奥から“影”が姿を現した。
人の形をしている。
だが輪郭が揺れ、
足元は地面に触れていない。
アリアを見た瞬間
影は動きを止めた。
まるで、懐かしいものを見つけたかのように。
アリアの胸が熱くなる。
「 あなた、誰?」
影は答えない。
ただ、アリアの方へ一歩、近づいた。
その瞬間、銀華の声が、アリアの内側で震えた。
アリア
それは、、“私の尾”
アリアは息を呑んだ。
「尾?」
影が、かすかに揺れた。
その揺れは、
まるで“九つの尾のうちのひとつ”が形を失いながら残った残影のようだった。
アルダシールが低く言う。
「封じられていたのは、
銀華の力の一部か」
影はアリアに手を伸ばした。
触れようとしているのではない。
確かめよう”としている。
アリアは胸に手を当てた。
「銀華、どうすれば?」
銀華の声は弱く、遠い記憶を探るようだった。
「この村
私は、守っていた
だが、尾がひとつ」
影が震え、祠の奥の空気が軋んだ。
影の口がゆっくりと開いた。
声は、風のようにかすれていた。
「た、り、な、い」
アリアは眉を寄せた。
「足りない?」
影は続けた。
「尾、ひとつ、 喰われた」
アルダシールの表情が険しくなる。
「喰われた?」
影は崩れかけながら、アリアの方へ顔を向けた。
「南へ 、喰った者いる
取り戻せ
九つ、そろえ、、、」
アリアの胸が強く脈打つ。
銀華の気配が、眠りながらも震えていた。
アリア
行け
私の尾を取り戻せ
影の輪郭が崩れ、霧に溶けていく。
最後に、祠の奥で“何か”が笑った。
アリアの影が、わずかに遅れて揺れた。




