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ハプロB51 鬼と狐  作者: 秋津ネオ
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ペルシャ最後の夜と黒炎の影

西暦六五一年。

日本ではまだ飛鳥時代、聖徳太子の死からわずか十数年しか経っていない頃だった。

奈良も平安も存在せず、都は木と土でできていた。

大化の改新が行われ、ようやく国の形が整い始めたばかりの時代。


その同じ年、遠く西の大地で、ひとつの巨大な帝国が終わろうとしていた。


その名をペルシャといった。

東西を結ぶ大きな道の真ん中にあり、四百年ものあいだ広い大地を治めてきた国だ。

西へ行けばローマの国があり、東へ行けば中国の国がある。

南には海が広がり、北には山と草原が続いていた。


どこへ行くにも遠く、どこから来るにも遠い。

だからこそ、この土地には多くの民族が行き交い、さまざまな文化が混ざり合っていた。


ペルシャの人々は火を神聖なものとして崇めていた。

火は光であり、秩序であり、真実の象徴だった。

神殿では聖なる火が絶えることなく燃え続け、戦士たちはその火に誓いを立てて戦場へ向かった。

商人は旅の前に火に祈り、母は子の成長を火に願った。

火はこの国の心そのものだった。


この国は長い歴史の中で、幾度も危機を乗り越えてきた。

ローマと争い、遊牧民と戦い、砂漠の民とも衝突した。

それでも帝国は生き延び、文化を育て、交易を守り続けてきた。


しかし、どんな国にも終わりは来る。


長い戦争が続いた。

西のローマとの争いは国の財を奪い、東の遊牧民との戦いは兵士たちを疲れさせた。

さらに疫病が広がり、人々は疲れ果てていった。

畑は荒れ、街は静まり、兵士たちの数も減っていった。


そこへ南から異民族の軍勢が押し寄せた。

砂漠を越え、山を越え、帝国の都へ迫ってきた。

彼らは勢いがあり、信仰に燃え、戦いを恐れなかった。


ペルシャの兵士たちは勇敢に戦った。

火の神に誓いを立て、最後まで剣を握りしめた。

しかし、長い戦争で弱り切った帝国に、もはや耐える力は残っていなかった。


都は包囲され、城壁は崩れ、街は炎に包まれた。


その日、ペルシャ帝国は滅びた。


空は赤く染まり、黒い煙が太陽を覆い隠した。

街路は瓦礫と死者で埋まり、かつての栄光は跡形もなく崩れ落ちていった。

人々は逃げ惑い、兵士たちは最後まで戦ったが、もはやどうすることもできなかった。


帝国が燃える中、ひとりの少年がその光景を見つめていた。

名はアルダシール。

まだ若かったが、体は大きく、腕は太く、握力は大人を凌いでいた。


村の老人たちは彼を見るたびに言った。


「この子には、巨人の血が流れている」


黒海の北に住んだと伝わる“オーガ”と呼ばれる巨人の民。

その血が、遠い祖先から彼に受け継がれていた。


アルダシールはその言葉の意味を深く考えたことはなかった。

ただ、家族と共に羊を追い、山を歩き、火の神に祈りを捧げる日々を過ごしていた。


しかし、帝国の滅亡は彼の人生を大きく変えた。


家族は失われ、故郷は炎に飲まれた。

仲間もいなくなった。

アルダシールは剣を握りしめたまま、しばらく動けなかった。

戦士としての誇りも、火の神への誓いも、すべてが崩れ去ったように思えた。


だが、彼は死を選ばなかった。

生き延びることを選んだ。

戦士としてではなく、ひとりの人間として。


アルダシールは北へも東へも向かわなかった。

そこには敵がいた。

彼が選んだのは西だった。


砂漠と山脈の狭間にあるオアシス都市、クチャやホータン。

そこには同じように亡国の民が集まり、傭兵として生きる者たちがいた。


アルダシールはその中に身を置いた。

戦うことでしか生きられなかった。

だが、彼の戦いぶりは異様だった。


重い剣を片手で振り、馬上の敵を叩き落とし、

影のように迫る刺客を一瞬で斬り捨てた。


西域の戦場では、彼の名はすぐに広まった。


彼はまだ知らなかった。

この西域での戦いが、やがて彼を長安へ導くことを。

そしてその先で、ひとりの女と出会い、

運命が大きく動き出すことを。


だが今はまだ、誰も知らない。

炎の中を歩く男も、

影に怯える少女も。


物語は、ここから始まる。

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