山影の哭き声(後半)
谷に響く衝突音は、雷のようだった。
アリアの金色の光と、影の魔物の黒がぶつかり合い、
赤土の地面が震えた。
アリアは押し返されながらも、踏みとどまった。
胸の奥で銀華の声が響く。
恐れるな。
お前の足は、まだ折れていない。
「 うん!」
アリアは地を蹴った。
影の魔物が腕のようなものを伸ばし、
黒い爪でアリアを薙ぎ払おうとする。
アルダシールが叫んだ。
「アリア、下がれ!」
「大丈夫、銀華がいる!」
アリアの影が揺れ、尾の影がふわりと広がる。
その動きに合わせて、金色の風が巻き起こった。
影の魔物が怯む。
黒い体がひび割れ、煙のように揺らぐ。
「 効いてる、、、もっと!」
アリアが前へ踏み込むと、
銀華の声が静かに告げた。
アリア。
最後は“言葉”だ。
「言葉?」
九尾の力は、形ではなく“言”に宿る。
お前の声で、命じろ。
アリアは息を吸った。
胸の奥が熱く、光が脈打つ。
影の魔物が再び咆哮し、
黒い塊となって突進してくる。
アリアは一歩も引かず、
その黒を正面から見据えた。
「消えろ!」
その瞬間、アリアの声に銀華の声が重なり、
二重の響きが谷全体を震わせた。
金色の光が爆ぜた。
影の魔物の体に亀裂が走り、
黒い煙が吹き出す。
ヒィィィィィィィィ!!
泣き声が悲鳴に変わり、
影の魔物は崩れ落ちた。
黒い影が地面に溶け、
赤土に吸い込まれるように消えていく。
アリアはその場に膝をついた。
金色の瞳がゆっくりと黒に戻る。
「 終わった?」
銀華の声が、優しく答えた。
終わった。
よくやった、アリア。
アリアは胸に手を当て、
小さく笑った。
「 銀華、ありがとう」
礼はいい。
お前が“恐れなかった”から勝てた。
アルダシールが駆け寄り、アリアを支えた。
右腕の黒はまだ疼いていたが、
先ほどのような激しさはない。
「アリア、無事か?」
「うん、ちょっと疲れただけ」
アルダシールは安堵の息をついた。
その表情には、驚きと誇りが混じっていた。
「お前の中の銀華
本当に、強いんだな」
アリアは照れたように笑った。
「わたしじゃないよ
銀華が」
違う。
“お前”が強いのだ。
銀華の声が、静かに響いた。
アリアは胸の奥が温かくなるのを感じた。
谷を抜ける風が、酸味を含んで吹き抜けた。
影の魔物が消えたことで、
空気が少し軽くなったように感じる。
アルダシールは南の空を見た。
「 雲南は、まだ遠い。
だが、、、、」
アリアが続けた。
「でも、行ける気がする。
銀華がいるから」
銀華の声が、微かに笑った。
行こう、アリア。
南へ。
お前の“本当の場所”へ。
アリアは頷いた。
「うん、行こう」
アルダシールも歩き出す。
「次の村までは、半日の道のりだ。
休みながら進もう」
アリアは立ち上がり、
南へ続く山道を見つめた。
酸味の風が、背中を押すように吹いた。




