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アルダシールと銀華~千年の時空を駆ける鬼と狐の恋物語  作者: 秋津ネオ


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17/61

山影の哭き声(前半)

 

  酸味の風が吹き抜ける山道を、

 アルダシールとアリアの二人は南へ進んでいた。

 アリアの胸の奥には、銀華の気配が静かに眠っている。


 貴州の山は深く、谷は暗い。

 昼でも薄闇が残り、霧が尾を引くように漂っていた。


 アリアは時折、胸に手を当てていた。

 影影の声は聞こえない。

 だが、静けさが逆に不安を呼んでいた。


「南へ行けば、もっと静かになる?」

 アリアが小さく呟いた。


「静かになるかどうかは、場所による」

 アルダシールは前を歩きながら答えた。


「だが、影の主の力が弱まっているのは確かだ」


 その言葉に、アリアはほっと息をついた。

 だが、その安堵は長く続かなかった。


 山の奥から、かすかな音が聞こえた。


 ヒィ、ヒィィ


 泣き声のようで、風の音のようでもあった。


 人の声ではない。

 獣とも違う。

 どこか湿った、土の奥から響くような音。


 アリアが立ち止まった。

「今の聞こえた?」


 アルダシールは振り返り、眉をひそめた。

「聞こえた。だが、、、」


 その瞬間、彼の右腕が疼いた。

 布の下で黒い紋様が脈打つ。


「影の主の残滓か!」

 低く呟く。


 アリアの胸の奥が熱くなった。


 アリア、恐れるな。


 声がした。

 耳ではなく、内側から響く声。


 銀華の声だった。


 アリアの瞳がふっと揺れ、

 黒から金へと淡く染まった。


「銀華?」

 アリアは震える声で呟いた。


「大丈夫だ」

 その声はアリアの声に銀華の声が重なり、

 二重に響いた。


 アルダシールは息を呑んだ。

 だが、アリアの姿は変わらない。

 ただ、影だけがふわりと揺れ、

 尾のような形が一瞬だけ伸びた。


「覚醒?」

 アルダシールが呟く。


「違う」

 アリアの口から銀華の声が重なって出た。

「これは“半覚醒”。

 アリアの身体はアリアのまま。

 私は内側から力を貸しているだけだ」


 アリアは胸に手を当てた。

 心臓の鼓動が早い。

 だが、不思議と恐怖は薄れていた。


「銀華 ?あなたがわたしの中に?」


「ずっといた」

 銀華の声が優しく響く。


「お前が泣くときも、笑うときも、

 影影の声に怯えるときも。

 私はずっと、お前を守っていた」


 アリアの目に涙が滲んだ。


「 ありがとう」


「礼はいい。

 今は、あれを祓う」


 影の魔物が、再び咆哮した。


 ヒィィィィィィ!!


 谷の空気が震え、

 赤土が細かく舞い上がる。


 アルダシールの右腕が激しく疼いた。

 黒い紋様が皮膚の下で蠢き、

 熱が走る。


「くっ!影の主の残滓が……反応している!」


「アルダシール、下がれ」

 アリアの声に銀華の声が重なる。


「お前の呪いは、あれを呼び寄せる。

 アリアを守れ。

 前には出るな」



 アルダシールは歯を食いしばった。

 だが、銀華の言葉は正しい。

 右腕の黒は、影の魔物を刺激している。


「わかった。 アリア、後ろへ」


 アリアは頷いた。

 だが、その瞳は金色に揺れたままだ。


「銀華

 どうすれば?」


「簡単だ」

 銀華の声が静かに響く。


「“恐れないこと”。

 それだけで、お前の力は流れる」


 アリアは深く息を吸った。


 影の魔物が地を蹴り、

 黒い塊となって飛びかかってくる。


 アリアの影が揺れた。

 尾の影がふわりと広がり、

 その動きに合わせて風が巻き起こる。


「退け」


 アリアの声が谷に響いた。

 銀華の声が重なり、

 その一言がまるで呪のように空気を震わせた。


 影の魔物が怯んだ。

  黒い体が揺れ、後ずさる。


「 効いてる?」

 アリアが呟く。


「効いている」

 銀華の声が微笑むように響く。


「お前は“継承者”。

 九尾の血は、恐れを知らぬ」


 アリアは一歩前に出た。

 影の尾が揺れ、金色の光が足元に広がる。


「行くよ、銀華」


「行け。

 私はお前と共にある」


 アリアが走り出した。

 影の魔物が咆哮し、迎え撃つ。


 谷に、金色の光と黒い影がぶつかり合った。




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