核
影の狩人が沈んだ地面が、静かに脈打っていた。
アリヤはアルダシールの腕を掴んだ。
「まだ終わってない
あれは、、、“潜っただけ”」
街道の土が、わずかに盛り上がった。
風が止まり、空気が重くなる。
アルダシールはアリヤを背に庇った。
「来る」
地面が裂けた。
だが、現れたものは──
先ほどの影の狩人ではなかった。
形が違う。
輪郭が違う。
“気配”が違う。
影が立ち上がった。
今度の狩人は、
人の形をしていなかった。
四足でもない。
翼でもない。
刃でもない。
“影そのもの”が、
生き物のように脈打っていた。
アリヤが息を呑んだ。
「第二形態
影の主が
“本気”を出してきた」
影の狩人は、
音もなく地面を滑った。
速い。
さっきの比ではない。
アルダシールは反射的に身をひねった。
影の触手が、彼の頬をかすめた。
皮膚が裂け、血が滲む。
アリヤが叫んだ。
「触れちゃだめ!!
あれは“形を奪う”
触れた瞬間に
あなたの身体が
影に飲まれる!」
影の狩人は、
触手を地面に突き刺し、
その反動で跳んだ。
アルダシールの頭上を越え、
背後に着地する。
速い。
動きが読めない。
アルダシールは振り返りざまに拳を叩き込んだ。
拳は影を貫いた。
だが、手応えがない。
影は形を変え、
アルダシールの腕に絡みつこうとした。
アルダシールは腕を振り抜き、
影を振り払った。
アリヤが震える声で言った。
「あれは
“形を持たない狩人”
だから
斬っても、、殴っても、、、
意味がない」
影の狩人が迫る。
アルダシールは地面を蹴り、
影の触手を避けた。
触手が地面を抉り、
石が砕け、
土が舞う。
アルダシールは息を吐いた。
「なら─
“形を持たせる”。」
影の狩人が跳んだ。
アルダシールは影の触手を掴んだ。
影が腕に絡みつく。
皮膚が焼けるように痛む。
アリヤが叫んだ。
「だめ!!
それは」
「黙ってろ!」
アルダシールは叫び、
影の触手を地面に叩きつけた。
影が揺れた。
その瞬間だけ、
影の“形”が固定された。
アルダシールはその固定された瞬間を逃さなかった。
影の“核”に拳を叩き込んだ。
影が裂けた。
影の狩人が、
初めて“声”のようなものを漏らした。
アリヤが息を呑んだ。
「今の
“核”を
殴った
影の狩人は
形を持たないけど
核だけは
固定されてる」
影の狩人は形を崩し、
地面に沈んだ。
だが
沈む前に、
アリヤの方へ触手を伸ばした。
アルダシールは叫んだ。
「アリヤ!!」
触手がアリヤの足首に触れた。
アリヤの影が揺れた。
影が、
アリヤの足元から“吸い上げられる”ように動いた。
アリヤが苦しげに声を漏らした。
「だめ
これ
“形を奪われる”
私
このままじゃ」
アルダシールは迷わなかった。
影の触手を掴み、
自分の腕に引き寄せた。
影が、
アリヤから離れ、
アルダシールの腕に絡みついた。
皮膚が黒く染まる。
アリヤが叫んだ。
「アルダシール!!
それは
あなたの“形”が」
「構わん!!」
アルダシールは叫び、
影の触手を引きちぎった。
影の狩人は、
悲鳴のような揺れを残し、
地面に沈んだ。
今度こそ、
完全に消えた。
アリヤは震える声で言った。
「あなたの腕
影に
触れたところが
黒く」
アルダシールは腕を隠した。
「気にするな。
今は
進むことだけ考えろ。」
アリヤの瞳の奥で、
銀華の光が微かに揺れた。
だが、
光は何も言わなかった。




