二、拒否柴
その後、ロイが自力で降りられないことに気付いたロジャーは、すぐさま動物保護管理局へ連絡。
ほどなくして、職員が二人到着した。
そのうちの一人、ぽっちゃりした優しげなおっちゃん職員が木を見上げながらロジャーに訊いた。
「あれが、問題のワンちゃんですね」
「ええ、そうです」
地上から固まるロイを見ていたおっちゃん職員は呆れ気味に言った。
「ドブにはまるハスキーはよく見ますが、登った木から降りられないのは初めてです」
「リスを追いかけたノリで登ったまではいいが、今度は降りることができない。お恥ずかしい話です」
「まあ、ハスキーには、ありがちな話ですね」
現状を一通り確認したおっちゃん職員は若い職員に言った。
「車からあれ持ってきて」
「はい」
しばらくして若い職員は「キャッチポール」と呼ばれる先端に輪が付いた小型・中型動物用捕獲器を手に戻ってきた。
若い職員からキャッチポールを受け取ったおっちゃん職員は木の根元からロイへ慎重に近付いた。
「大丈夫だよ、怖くないよ〜。ゆっくりでいいからね」
届きそうな距離まで縮めると、おっちゃん職員は輪っかをそっとロイに掛けようとしたが、
ここで、ロイの無駄に高いプライドが発動した。
《触るでないッ! ワシは自力で下りる故、そこに控えておれッ!》
ロイは強がってみせるものの、内心は――
(無理じゃ! 無理じゃ! 絶対無理じゃ! 誰か、助けてくれぇぇぇ!)
――という具合に、内と外の乖離がひど過ぎて草が生えるレベルである。
おっちゃん職員がどうにかロイの首に輪っかを掛けるが、
今度は輪っかに顔をが埋まるくらい前脚を突っ張って激しく抵抗。
これについて、飼い主のロジャーは後にこう語っている。
いや~っ、飼い主のボクが言うのも何ですが――
『ハスキーのくせに、拒否柴(注1)かよ!』
――って、思わず大声でツッコんでしまっいましたよ。
注1:拒否柴とは「柴犬が散歩中に突然動かなくなったり、飼い主の意向に逆らって自分の意思を示す行動」と、飼い主さんには甚だ迷惑な悪癖である。
また、幹の物陰からこれを聞いたリスが枝の上で――
(ププププッ)
――と、吹き出しそうになったとか、なかったとか。
そして、その後もおっちゃん職員はロジャーをなだめながら、笑みを絶やさずロイに
「まあまあ、飼い主さん、落ち着いて。ロイくーん、大丈夫だよ~っ。ゆっくりでいいよ~っ。焦らずね〜っ」
と優しく語り語り掛け、根気よく誘導し続けた。
まさにプロフェッショナル。




