最終話、それがハスキー
しばらく悪あがきをしていたロイも、おっちゃん職員の熱意に次第にほだされ始めた。
(うーむ、そこまで言うのであれば、
その方の誘いに乗ってやってもよいが、
気持ちが整うまで、今しばらく控えておれ)
やがて、意を決したロイはビクビク震えながらも、少しずつ木を降り始めた。
だが、その途中でも、偉そうに――
《よいか、くれぐれもしくじるでないぞ。
万が一、ワシに何かあったら、多々では済まさんからな。
犬の恨みは末代まで祟ると、確と心得よ!》
――と、悪態を吐きまくった。
後日、一連の救助作業について飼い主のロジャーは以下のように述べている。
いや~っ、さすが、プロですね。動物の扱いに慣れてますよ。
でね、ウチのロイなんですが、ビビりながらも、少しずつ木を降り始めたんですよ。
でもね、降りる途中で職員の方を見下ろすように――
『ワンッ! ワワワワンッ! ワンッ、ワワワンッ、ワワワンッ!!』
――って吠えまくったんです。
いや~っ、飼い主として恥ずかしかったな。
また、枝の上ではリスが――
(ヘタレ)
――と短くツッコミを入れたとか、入れなかったとか。
様々な思いが交錯する中、救出作戦開始から二〇分後、
ロイは無事に地面へ到着した。
おっちゃん職員は額の汗を手で拭って一息吐いた。
「ふーっ、よく、頑張ったね。えらい、えらい」
ロイは自分のガンバリを労うおっちゃん職員に満面の笑みを向けてシッポを振った。
《その方、この難局を一つのしくじりなく乗り切るとは、実にアッパレ! 大儀であった!》
しかし、おっちゃんにはただの“ワンワン!”にしか聞こえないので、
当然、ロイの頭を撫でて、飼い主のロジャーの方へ促した。
「よーし、よーし。さあ、飼い主さんが待ってるよ。行っておいで」
促されたロイが飼い主のロジャーを見つけると、全力で駆け寄り、シッポをブンブン振りまくった。
これにロジャーも相好を崩して応えた。
「ついさっきまで、拒否柴だの、へっぴり腰で吠えまくるだの、
やりたい放題だったのに、地面に降りた途端、まるでウソように、
思いっ切りシッポ振って喜ぶなんて、現金なヤツだな」
だが、ロジャーがあまりの態度の変わりっぷりを茶かすと、
ロイは慌てて抗弁した。
《あ、主よ、これは断じてワシの意志ではない!
こやつ(シッポ)が勝手に暴れておるのじゃ!》
もちろんこれも、ロジャーには“ワンワン!”にしか聞こえない。
職員たちは、この飼い主と愛犬の微笑ましいやり取りに、思わず笑顔をこぼした。
翌日、この騒動を聞き付けた地元紙の取材に対し、飼い主のロジャーはこう答えている。
本当に我が愛犬ながら、呆れましたよ。
でも、これがハスキーなんだなって、改めて思いました。
えっ、“叱ったか”って?
いいえ、そんなことしませんよ。
無駄ですから。
あなたもハスキーを飼えば、わかりますよ。
また、木の上から事の成り行きを見守っていたリスが、思わず頬袋を膨らませながら、
身体を小刻みに震わせ、まるで笑いを必死に耐えているように見えたことが、
同行していた若い職員から報告されている。
《おしまい》




