↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説を書いたことないので、AIになろう系小説を書かせてみた 〜気まぐれAIのカフェイン転生が、俺の人生を変えた件〜  作者: U2U
第三部 四つの風

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
94/97

第24話 燃えない理由 ―― 中編「別のやり方」

◆◆◆


施設の裏手から続く搬出路は、街道よりもずっと狭かった。


荷車が一台通れる程度の幅しかなく、左右から伸びた草が轍の上まで入り込んでいる。それでも道そのものは途切れていない。ポン太が言った通り、完全に使われなくなった道ではないらしい。


ポン太「この轍、新しいぜ。毎日ってほどじゃねぇが、今でも荷車は通ってる。道が草に埋もれてるからって、使われてねぇとは限らないんだ」

直也「俺には古い轍と新しい轍の違いが分からん」

ポン太「土の崩れ方と草の戻り方を見りゃ分かるぜ。商人が道を間違えたら、商品より先に財布が死ぬからな」

直也「判断基準が全部金なんだよ」

ポン太「分かりやすくていいだろ?」


否定はできない。


先頭を歩いていたボレアスが、少し先で振り返った。


ボレアス「遅いぞ。いつまで土を眺めておる」

ゼピュロス「昨日まで地図を逆さに持ってた人が、今日は先導してる」

ボレアス「逆さではない! 妾にとって見やすい向きで持っていただけじゃ!」

直也「それを世間では逆さって言うんだよ」

ボレアス「世間の基準を妾に押しつけるでない!」

直也「地図は世間の基準に合わせて読んでくれ」


リィナが後ろで小さく笑った。


こういうやり取りをしていると、昨日までと何も変わらない旅に思える。


ただ、肩の横に浮かぶ金白の光を見ると、さっきのことを思い出す。


直也「ALMA。周辺は?」

ALMA『現時点で、周辺温度および地表に顕著な異常は確認できません』

直也「珍しく普通だな」

ALMA『「普通」の定義によります』

直也「会議で一番嫌われる返しだぞ、それ」

ALMA『会議に参加した経験はありません』

直也「そういうところだぞ」

ALMA『どのようなところでしょうか』

直也「聞き返すところまで含めてだよ」

ゼピュロス「マスター、ALMAと遊んでないで前見た方がいいわよ」

直也「遊んでない」

リィナ「直也さん、木の根がありますよ」

直也「はい」


反射的に足元を見る。


ゼピュロス「リィナの言うことは素直に聞くのね」

直也「転びたくないからな」


少し前にボレアスが同じことを言っていた気がする。


俺たちはそのまま搬出路を進んだ。


途中にも焦げ跡はいくつか残っていたが、街道沿いで見たものと大きな違いはない。草の先、落ちた枝、石の表面。どれも黒く変色しているのに、周囲まで燃え広がった様子はなかった。


しばらく歩くと、木々の間から低い石壁が見えてきた。


その向こうに、平たい屋根の建物が何棟か並んでいる。


ポン太「たぶん、あれだな」

直也「集積所?」

ポン太「ああ。搬出記録にあった位置とも合ってるぜ。前の施設で処理しきれなかった物を、いったんこっちへ運んでるんだろうな」


近づくにつれ、積み上げられた木材や壊れた家具、割れた箱が見えてきた。


ただの廃材置き場と言われれば、それまでだ。


煙もない。


火の気もない。


その代わり、乾いた金属音が聞こえた。


カン。


少し間を置いて、もう一度。


カン。


ゼピュロス「何の音?」

直也「向こうだな」


建物の陰へ回る。


そこにノトスがいた。


地面に転がった黒い廃材を前にしゃがみ込み、拾ったらしい鉄棒を握っている。


ノトス「……硬えな」


カン。


もう一度叩く。


表面の煤が少し落ちた。


だが、黒くなった部分そのものは崩れない。


ノトス「なんでだよ」

直也「お前、今度は何してるんだ?」


ノトスが振り返る。


ノトス「叩いてる」

直也「見れば分かる」

ノトス「燃えねえから」

直也「だから叩いたのか?」

ノトス「燃やして駄目なら、別のやり方試すだろ」


説明するほどのことか、という顔をされた。


こいつの場合、本当にそれだけらしい。


燃えない。


なら叩く。


それで駄目なら、また別のことを試す。


感情と行動の間に、ほとんど距離がない。


ノトスがもう一度鉄棒を振り上げる。


直也「待て待て。施設の物まで壊すなよ」

ノトス「これは捨てる物だろ」

直也「だからって勝手に破壊していいことにはならない」

ノトス「面倒くせえな」

直也「社会ってだいたいそういうもんだよ」

ゼピュロス「マスターが言うと妙に重いわね」

直也「元会社員を何だと思ってる」

ボレアス「書類に苦しめられていた者」

直也「間違ってないのが腹立つな」


ノトスが鉄棒を地面へ置いた。


その時だった。


「それ以上叩いても、たぶん変わらんぞ」


声がした。


振り向くと、腰の曲がった老人が壊れた椅子を抱えて立っていた。


老人はノトスの前にある黒い廃材を見る。


老人「朝から何人か試してる。叩いても割れんし、水をかけても黒いところだけ弾く。妙なもんだ」

直也「水も?」

老人「ああ。周りは濡れるのにな」


火でも駄目。


冷気でも変わらない。


今度は水まで弾く。


ノトス「じゃあ、これも燃やせねえのか」

老人「今のところはな」


ノトスが不満そうに黒い廃材を見る。


その横で、老人が抱えていた椅子を地面へ置いた。


背もたれの片側が黒く煤け、脚の一本には補修した跡がある。


ノトスの視線がそちらへ移った。


ノトス「それも燃やすのか?」

老人「ああ。そのつもりだ」

ノトス「まだ座れるぞ」

老人「座ろうと思えばな」

ノトス「なら、なんで燃やす」


老人は少し困ったように笑った。


老人「役目は終わったさ」


その言葉に、ボレアスがわずかに顔を上げた。


ノトスは椅子を見る。


すぐには何も言わなかった。


老人「二十年は使った。何度も直したし、背もたれも一度削り直した。それでも、もうここじゃ使わん」

ノトス「削り直した?」

老人「ああ。そこだ」


老人が背もたれの一部を指差す。


ノトスがしゃがみ込み、指先でその場所をなぞった。


周囲より少しだけ色が薄い。俺なら言われなければ気づかなかっただろう。


ノトス「なんで直したんだ?」

老人「壊れたからだよ」

ノトス「壊れたのに?」

老人「その時は、まだ使いたかったからな」


ノトスの指が止まる。


ノトス「……じゃあ、壊れても直したんだな」

老人「そういうことだ」

ノトス「二十年も?」

老人「長いだろ」

ノトス「長い」


老人が笑った。


ノトスは笑わない。


ただ、椅子の背もたれを何度も見ていた。


リィナが俺たちの横を抜け、椅子の近くまで歩いていく。声はかけず、座面に積もっていた煤を手でそっと払った。


黒い粉の下から、長く使い込まれた木目が現れる。


ノトスがその手元を見る。


リィナ「まだ、きれいなところも残っていますね」

老人「ああ。昔はもっときれいだったよ」

ノトス「惜しくないのか?」

老人「そりゃ、少しはな」


老人は笑った。


老人「だが、置いておいても、もう座る奴はいない」


ノトスは何も言わなかった。


老人は椅子を持ち上げようとしたが、ノトスが先に背もたれを掴んだ。


ノトス「オレが持つ」

老人「いいのか?」

ノトス「近くまでだろ」

老人「ああ。そこの山までだ」

ノトス「なら持つ」


ノトスは椅子を廃材の山まで運ぶと、投げずに置いた。


それから、また背もたれの削り直された部分を見る。


老人「助かったよ」

ノトス「別に」

老人「旅の途中か?」

ノトス「たぶん」

直也「そこ曖昧なのかよ」


思わず口を挟むと、ようやくノトスがこっちを向いた。


ノトス「いたのか」

直也「結構前からいたよ」

ノトス「声かけろよ」

直也「お前が珍しく人とちゃんと話してたから入りづらかったんだよ」

ノトス「オレはいつもちゃんと話してる」

直也「その認識は一回持ち帰って検討してくれ」

ノトス「なんでだよ」


ゼピュロスが横で笑っている。


老人は俺たちを見回した。


老人「知り合いか?」

直也「まあ……今日知り合ったばかりですけど」

ノトス「知り合いじゃねえ」

直也「じゃあ何なんだよ」

ノトス「知らねえ奴」

直也「知り合いより一段遠くなったな」


老人が声を上げて笑った。


ノトスは何が面白いのか分からないという顔をしている。


老人は俺たちへ軽く手を上げると、別の廃材の方へ歩いていった。


しばらく、誰も口を開かなかった。


ノトスは椅子の前にしゃがんだままだ。


さっきまで鉄棒で廃材を叩いていた時とは違う。


何かを試しているわけでもない。


ただ、削り直された背もたれを見ている。


ノトス「……これ、ちゃんと終わらせたい」

直也「燃やしたいんじゃなくて?」

ノトス「同じだろ」


俺は答えなかった。


同じじゃない気がした。


でも、何が違うのかは、俺にもまだうまく言えなかった。


ノトスはもう一度、椅子を見る。


ノトス「別のやり方探す」

ゼピュロス「燃やす以外の?」

ノトス「燃やすかもしれねえ」

ゼピュロス「どっちなのよ」

ノトス「まだ分かんねえ」

ゼピュロス「はいはい。じゃあ、分かるまで考えれば?」

ノトス「そうする」


即答だった。


ゼピュロスが笑い、ボレアスが不満そうに眉を寄せる。


ボレアス「貴様、そやつには妙に素直じゃな」

ノトス「うるせえ」

ボレアス「妾には先ほどからそればかりではないか!」

ノトス「うるせえからだよ」

ボレアス「その顔が言っておる!」

直也「顔は何も言ってないだろ」

ボレアス「言っておる!」

直也「そこまで行くともう通訳業務の範囲外だぞ」

ゼピュロス「誰もマスターに通訳頼んでないわよ」

直也「知ってる」


少しだけ空気が戻った。


ポン太は廃材の山を眺めながら、顎を掻いている。


ポン太「しかし、ここも同じだな。燃え残ってる物が結構あるぜ。前の施設から運ばれてきた物だけじゃなさそうだ」

直也「分かるのか?」

ポン太「置かれ方が違う。あっちはまとめて運ばれてきた山、こっちはここで出た物をそのまま積んだ山だろうな。商売でも倉庫を見る時ゃ、何があるかだけじゃなく、どう置かれてるかを見るもんだぜ」

直也「本当にこういう時は頼りになるな」

ポン太「こういう時は、って余計じゃねぇか?」

直也「普段の追加料金がなければもっと褒める」

ポン太「そいつは別会計だぜ」

直也「やっぱり褒めるのやめる」


リィナが笑った。


ノトスはまだ椅子の近くにいる。


ボレアスが黒い廃材へ目を向けた。


ボレアス「水まで弾いたということは、熱だけの問題ではなさそうじゃな」

ノトス「お前のでも駄目だったんだろ」

ボレアス「……試した。前の施設でじゃ」

ノトス「へえ。お前のでも駄目なんだな」

ボレアス「妾の力が劣っているわけではないぞ! 周囲は凍ったのじゃ。あれだけが変わらなかっただけで――」

ノトス「負けた顔してる」

ボレアス「負けておらぬ!」

ノトス「してる」

ボレアス「その顔が言っておる!」

直也「さっきから顔に喋らせすぎなんだよ」

ボレアス「そなたらが顔に出すからであろう!」

ノトス「出してねえ」

ゼピュロス「出てるわよ」

ノトス「お前まで何なんだよ」


リィナがとうとう声を上げて笑った。


俺もつられて笑いかけたところで、肩の横の金白の光が目に入る。


さっきからALMAは、ノトスが話している間も何も言わない。


直也「ALMA」

ALMA『はい』

直也「今の会話、聞いてたか?」

ALMA『老人および周辺人物の発話を記録しています』

直也「相手は?」


一拍。


ALMA『……対話対象を特定できません』

直也「俺たちは?」

ALMA『直也さん、リィナ、ゼピュロス、ボレアス、ポン太については識別可能です』


名前が並ぶ。


そこに、ノトスだけがいない。


ノトスは俺のすぐ近くに立っている。


俺には見える。


声も聞こえる。


さっき老人と話していたことだって覚えている。


なのにALMAの記録では、老人は誰もいない場所へ返事をしていたことになる。


直也「……そうか」

ALMA『追加解析を継続します』

直也「頼む」

ALMA『承知しました』


金白の光が、小さく明滅した。


ノトスはもう一度、削り直された背もたれへ指を置いた。


ほんの少しなぞってから、手を離す。


何を考えているのかは分からない。


たぶん、本人にもまだ分かっていない。


ノトスの横で、ボレアスも何も言わずに椅子を見ていた。


◆◆◆(別のやり方)◆◆◆

ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回更新予定:10月23日(金)になります。


よろしければブックマーク・評価などで応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。