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小説を書いたことないので、AIになろう系小説を書かせてみた 〜気まぐれAIのカフェイン転生が、俺の人生を変えた件〜  作者: U2U
第三部 四つの風

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第21話 新しい風と、新しい旅 ―― 中編「初めて見る世界」

◆◆◆


市場へ続く通りは、朝の陽気に負けないくらい賑わっていた。石畳の両脇に露店が並び、色とりどりの布や籠が積まれている。空には、どこかで焼いているパンの匂いが漂っていた。


宿を出てすぐ、ボレアスの足が止まった。


ボレアス「……これは、何じゃ」


彼女が指差した先には、ただの荷車があった。野菜を山積みにした荷車が、御者の掛け声と共に石畳を進んでいく。それだけの、何でもない光景だった。だが、彼女の目には、それすらも珍しい何かに映っているらしい。


直也「荷車だよ。野菜を運んでる」


ボレアス「なぜ、車輪だけであれほどの重さが動く」


直也「……車輪だからだろ、としか言えないな」


ALMA『補足します。車輪は、物を引きずるより少ない力で重量物を移動させるための構造です』


直也「お前、それ最初から言えよ」


ALMA『質問されていませんでしたので』


直也「俺が説明に詰まってたの、見てただろ」


ALMA『はい。観測していました』


直也「観測すんな、助けろ」


答えになっていない答えを返すと、ボレアスは納得のいかない顔のまま、それでも歩き出した。


ボレアス「この世界は、妾の知らぬ道理で満ちておるのじゃな」


直也「まあ、大抵の世界はそんなもんだよ」


ボレアス「貴様は、それを平然と受け入れておるのか」


直也「受け入れてるっていうか……分からないことは分からないままでも、案外どうにかなるって知っただけだ」


ボレアスは、その答えに何か思うところがあったのか、しばらく黙り込んだ。だが、数歩も進まないうちに、また足が止まる。今度は、呼び込みの声に反応していた。


「新鮮な魚だよ、今朝獲れたばかり!」


ボレアス「あの者、何を売っておる」


直也「魚だよ。大声で客を呼んでるんだ」


ボレアス「あのように叫ばねば、魚は売れぬのか」


直也「叫ばなくても売れるとは思うけど、まあ、慣習だな」


ゼピュロスが、少し呆れたように肩をすくめた。


ゼピュロス「一つ一つ説明してたら日が暮れるわよ、マスター」


直也「じゃあどうしろって言うんだよ」


ゼピュロス「放っておけばいいのよ。そのうち慣れるって」


市場に足を踏み入れてから、この調子だった。パン屋の匂いに立ち止まり、果物屋の色鮮やかな山に立ち止まり、遠くで鳴る鐘の音にまで立ち止まる。長く氷の玉座に縛られていた彼女にとって、この街の全てが、初めて触れる情報の洪水なのだろう。


ゼピュロスが、少し先を歩きながら振り返った。


ゼピュロス「ちょっと、いちいち止まらないでよ。全然前に進まないじゃない」


ボレアス「……仕方なかろう。全部初めて見るのじゃ」


ゼピュロス「素直に言うようになったじゃない」


ボレアス「事実を述べたまでじゃ」


ポン太が、荷物を担ぎ直しながら口を挟んだ。


ポン太「へへっ、その調子だと市場を出るだけで日が暮れるぞ、姫さんよ」


ボレアス「姫さんと呼ぶな」


ポン太「じゃあ何て呼びゃいいんだ」


ボレアス「……ボレアスでよい」


ポン太「へいへい、ボレアスの姉御」


ボレアス「姫よりましじゃが、微妙にずれておる」


ポン太「じゃあボレアスさんでどうだ」


ボレアス「……それでよい」


ポン太「決まりだな、ボレアスさん」


存外あっさりと落ち着いた呼び方に、ポン太は満足げに頷いた。ボレアスの方も、それ以上文句は言わなかった。そんなやり取りを交わしながらも、彼女の足は、また何かに引き寄せられるように止まっていた。リィナが、その隣でくすくすと笑っている。


リィナ「賑やかなところ、初めてですもんね。無理もないです」


ボレアス「賑やか、というより……騒がしい。だが、悪くはない」


その一言に、リィナは嬉しそうに目を細めた。何気ない一言にも、彼女の変化が滲んでいることに気づいているのだろう。


少し先では、ポン太が布屋の店主と何やら真剣な顔で向き合っていた。


ポン太「この値段は流石にねぇだろ、旦那」


店主「これでも安くしてるんだよ、兄さん」


ポン太「じゃあこっちの端切れも込みでどうだ。装備の補修に使う」


店主「……仕方ねぇな。それで手を打とう」


値切り交渉が成立した瞬間、ポン太は満足げに端切れの束を懐へしまい込んだ。ボレアスは、その一部始終を、興味深そうに眺めていた。


ボレアス「あの男、金を減らす代わりに、何か別のものを引き出しておったな」


直也「よく見てるな」


ボレアス「妾も、交渉というものを、少しは学ばねばならぬと思うてな」


その言葉に、俺は少し驚いた。役目のためではなく、自分の意思で何かを学ぼうとする。それもまた、彼女にとっては新しい一歩なのだろう。


会社員だった頃、俺は交渉事をポン太のように器用にこなせたことがなかった。言われた値段をそのまま受け入れるか、諦めて引き下がるか、そのどちらかしか知らなかった。ボレアスが今、その駆け引きを興味深そうに見つめている姿は、どこか昔の自分を見ているようでもあった。


ボレアス「妾も、いずれ挑んでみようか」


直也「無理はするなよ。あいつの交渉術、年季が違うぞ」


ボレアス「望むところじゃ。氷の力より、口先の力の方が、まだ勝手が分からぬだけじゃ」


その物言いに、俺は思わず笑った。負けず嫌いなところは、玉座にいた頃から少しも変わっていないらしい。


◆◆◆


しばらく歩いた先、日差しの強い広場の一角に、行列ができていた。子どもたちが、器を片手に楽しそうに走り回っている。


ゼピュロス「あ、あれ、氷菓子の屋台だ」


ボレアス「氷菓子……氷を、食うのか」


店主が、その言葉を耳に挟んで笑った。


店主「違う違う、お嬢ちゃん。凍らせた甘い蜜だよ。食べてみりゃ分かる」


リィナが、人数分の器を買い求め、それぞれに手渡した。木の匙が刺さった、白く固まった塊が、日差しの下でうっすらと冷気を纏っている。


ボレアスは、その器を、両手で恐る恐る包み込んだ。


ボレアス「これは、妾の得意な冷気に近い……ような気がする」


直也「食ってみろって」


促されるまま、彼女は匙で一口すくい、口へ運んだ。


一拍の沈黙。


ボレアス「……甘い」


呟くように言ってから、もう1口。今度は少し大きく。


ボレアス「冷たい」


3口目。匙を持つ手が、心なしか速くなっている。


ボレアス「……甘い」


その様子を、ゼピュロスがにやにやしながら眺めていた。


ゼピュロス「あんた、めちゃくちゃ気に入ってるじゃない」


ボレアス「……確認作業じゃ」


ゼピュロス「便利な言葉ね、それ」


ボレアス「便利ではない。事実じゃ」


そう言い張りながらも、彼女の匙は止まらなかった。器の底が見える頃には、口元にほんの少し、蜜の跡が残っていた。それに気づいたリィナが、そっと布を差し出す。


リィナ「口元、ついてますよ」


ボレアス「……む」


慌てて拭う仕草に、ゼピュロスがまた笑った。ポン太も、氷菓子の値札を眺めながらちらりとこちらを見て、口の端を緩めていた。


直也「旅らしくなってきたな」


誰に言うでもなく呟いた言葉に、隣を歩くリィナが小さく頷いた。


リィナ「ボレアスさんが甘いもの好きだったなんて、意外でした」


直也「本人も知らなかったんじゃないか、そんなの」


リィナ「そうかもしれません。知らなかったこと、これからいっぱい見つかりそうですね」


その言葉には、からかいではなく、素直な楽しみが滲んでいた。俺は、ふと足を止めて振り返った。少し先で、ボレアスがまた別の屋台の前で立ち止まり、ゼピュロスに何かを問いかけている。その光景は、もうすっかり見慣れた旅の一場面になりつつあった。


◆◆◆


食べ終えた器を屋台へ返し、俺たちは市場の奥へと歩を進めた。ゼピュロスが「次はどこ行くの」と辺りを見回し、リィナは雑貨屋の店先に並ぶ小物を眺めている。それぞれが思い思いのペースで歩く、気ままな時間だった。


露店が途切れる辺り、荷車が1台、車輪を溝に取られて立ち往生していた。御者が、額の汗を拭いながら、何度も車輪を押している。通りかかった別の商人が、それを手伝いながら声をかけた。


「またか。今週、これで3度目だぞ」


「最近、こういうことが増えたよなあ」


「ああ、街道がどうもおかしい。荷車が何度も引っかかるんだと」


「橋も、少しずつ使いづらくなってるらしいぜ」


「まあ、雨続きだったからな。地盤が緩んでるだけだろう」


深刻な調子ではなかった。ただの世間話、天候のせいだろうという、その程度の会話だった。荷車はほどなく溝から抜け、御者は軽く手を挙げて礼を言うと、何事もなかったように歩き出していく。誰も眉一つ動かさず、すぐに別の話題へ移っていった。


俺は、それを聞き流しながらも、頭の片隅にその一言だけを、静かに留めておいた。天候のせいだと誰もが納得している。それなら、それでいい。ただ、妙に引っかかる感触だけが、胸の奥に小さく残った。


ボレアス「直也、どうかしたか」


直也「いや……なんでもない」


そう答えながらも、視線だけは、商人たちが去っていった方角にしばらく残っていた。


◆◆◆


頭上の光球が、不意に、いつもより長く明滅した。


ALMA『解析を継続します』


直也「どうした?」


ALMA『問題ありません』


その返事に、俺は一度は頷きかけた。だが、光球の明滅は、それで収まらなかった。


わずかな間があった。


ALMA『……継続します』


同じ言葉を、もう一度。


これまでのALMAなら、分からないものは解析不能だと、そのまま報告していた。処理に時間がかかることはあっても、「問題ありません」と言ったあとで、同じ言葉だけを重ねることはなかった。


市場の喧騒は、変わらず続いている。ボレアスは次の屋台へ向かい、ゼピュロスと何かを言い合っていた。


俺も、その後を追った。


ただ、2度目の「継続します」だけが、小さな棘のように頭に残った。


◆◆◆(初めて見る世界)◆◆◆

ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回更新予定:9月22日(火)になります。


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