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小説を書いたことないので、AIになろう系小説を書かせてみた 〜気まぐれAIのカフェイン転生が、俺の人生を変えた件〜  作者: U2U
第二部 捨てられたものたち

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第20話 氷の玉座を降りる日 ―― 後編「氷の玉座を降りる日」

◆◆◆


その沈黙は、思っていたよりも長く続いた。


誰も、それを破らなかった。俺も、リィナも、ポン太も、ゼピュロスも。ただ、ボレアスが自分の中で何かと向き合っているのを、静かに見守っていた。


頭上の光球が、変わらぬ調子で明滅している。氷の壁に反射するその光だけが、時間の流れを教えてくれるようだった。


リィナが、そっと膝をつき、床に転がっていた小さな氷の欠片を、指先で拾い集め始めた。何をするでもない、ただの手慰みだったのかもしれない。それでも、その静かな仕草が、張り詰めた空気を、少しだけ和らげているように見えた。


ポン太は、壁にもたれたまま、まだ半分閉じた目でこちらを窺っている。ゼピュロスは、腕を組んで、じっとボレアスを見つめていた。急かす色は、その目のどこにもなかった。


やがて、ボレアスが、緩んだ鎖の輪へ、そっと指先を這わせた。何度も、その感触を確かめるように。


それから、彼女は、ゆっくりと視線を巡らせた。リィナを、ゼピュロスを、ポン太を、そして俺を。何かを問うでも、助けを求めるでもない、ただの一瞥だった。長く、この場所にただ一人でいた者が、初めて、誰かと目を合わせているような。そんな一瞥だった。


それから、ゆっくりと、玉座の肘掛けに手をかけた。


普段なら、意識もしない動作だったはずだ。だが今は、その一つ一つに、迷いと、それを押し切ろうとする力が滲んでいた。


ボレアス「……」


彼女は、足に力を込めた。


かちん、と乾いた音がした。緩んでいた鎖が、また形を変える。だが今度は、締まる方向ではなかった。輪そのものが、内側から軋み始めていた。


俺は、思わず一歩踏み出しかけた。だが、すぐに止まった。


これは、彼女の一歩だ。


ゼピュロスも、ポン太も、リィナも、誰も動かなかった。ただ、じっと、見つめていた。拾いかけていた氷の欠片も、リィナの手の中で止まったままだった。


もう一段、力が込められる。


鎖の1本が、するり、と輪をほどいた。締め付けるためではなく、ただ、通していただけの糸が抜けるように。


ボレアス「っ……」


小さく、声が漏れた。痛みからではない。長く自分を縛っていたものが、初めて自分の意思で解かれる感覚に、彼女自身が戸惑っているようだった。


続けて、2本目も、同じように、するりとほどけていった。3本目も。


まるで、堰を切ったように、氷の広間に、乾いた音が連続して響いた。誰かが壊したのではない。ただ、それを支えていた理由が、静かに、確かに、消えていくだけだった。


最後の1本だけが、抵抗するように、ぱきり、と小さく砕けた。細かな氷の粒となって、宙に舞う。


ボレアスは、玉座の肘掛けに手をついたまま、しばらく動かなかった。信じられないものを見るように、自分の両手を、両足を、見下ろしている。


そして、ゆっくりと、彼女は玉座から身体を離した。


膝が、震えていた。長い間、自分の足で立ったことなど、なかったのだろう。何百年分の重みが、その一歩に詰まっているようだった。


俺たちは、誰も手を貸さなかった。手を伸ばしたい衝動を、必死に堪えた。これは、彼女が、自分の力で立つべき瞬間だった。


一歩。


ボレアスの足が、氷の床を踏んだ。


よろめきながらも、彼女は、倒れなかった。膝を折りかけて、それでも、堪えた。誰にも支えられず、ただ自分の力だけで、その場に立ち続けた。


その瞬間、俺は気づいた。


指先を覆っていた乾いた霜が、静かにほどけ始めていた。


腕に走る亀裂も、消えたわけではない。だが、その縁はもう広がっていなかった。白く乾いていた肌の奥へ、わずかに色が戻っている。


ボレアスは、自分の手のひらを、じっと見つめた。それから、頬へそっと触れる。


指先は、まだ冷たい。


それでも、これまでのように、内側の何もかもを奪われていく冷たさではなかった。冷気の奥に、自分自身のものらしい微かな温度が、確かに残っていた。


ボレアス「……温かい」


その一言は、静かで、確かめるような声だった。不満げな響きは、どこにもなかった。


リィナ「よかった……」


小さな声だった。それ以上、何も言えないというように、リィナは口元を両手で覆った。その目に、みるみる涙が浮かんでいく。手に持ったままだった氷の欠片を、ぽろりと取り落としたことにも、気づいていないようだった。


ポン太「……へへっ、こいつは、感動の展示料でも取れそうな光景だな」


その軽口に、誰も突っ込まなかった。ただ、少しだけ、空気が緩んだ。


ゼピュロスが、鼻を軽くすすった。


ゼピュロス「別に、泣いてないから」


直也「誰も、泣いてるなんて言ってないぞ」


ゼピュロス「言う前に、黙りなさいよ」


その掛け合いに、俺は思わず笑った。張り詰めていたものが、少しずつ、解けていくのが分かった。


◆◆◆


頭上の光球が、静かに動いた。


ALMA『解析します』


俺たちは、揃って光球を見上げた。鎖が解け、ボレアスが玉座を離れた今、この場所がどうなるのか。誰もが、その報告を待っていた。


長い沈黙のあと、ALMAの声が響いた。


ALMA『……崩壊の兆候、検出されず』


直也「本当か」


ALMA『保管庫全体の均衡構造に、変化を確認。ただし、現在も維持されています』


淡々とした報告だった。だが、そこには確かに、戸惑いのようなものが滲んでいた。


直也「維持されてるって……じゃあ、崩れないのか」


ALMA『現時点では、その可能性が高いと推定します。ただし、詳細は解析不能です』


ALMA『……現行の解析モデルでは、この現象を十分に説明できません』


その一言に、俺は思わず、頭上の光球を見つめ返した。ALMAが、そう言うのを聞いたのは、これが初めてだった。


俺は、それ以上、何も言わなかった。ただ、崩れなかった、という事実だけを、静かに受け止めた。


その時だった。


崩れた通路の奥、黒い扉のルーンが、これまで見たどの反応よりも激しく輝きを増した。氷の奥を、幾筋もの光が奔流のように走り抜ける。空気そのものが、低く唸るように震えた。


ALMA『警告。黒い扉に、過去最大の反応を検出』


俺たちは、揃って扉の方を見た。ボレアスも、自分の足で立ったまま、そちらへ視線を向けた。


だが、扉は、開かなかった。


ただ、その向こうから、これまで感じたことのない何かが、微かに滲み出してくるのが分かった。


ALMA『……未確認の反応を、2件検出』


直也「2件……」


ALMA『いずれも、黒い扉と似た性質を持ちます。詳細は不明です』


ゼピュロスが、扉の方をじっと見つめた。


ゼピュロス「……何か、いる」


ポン太「おいおい、今度は何だよ」


誰も、その問いに答えられなかった。ただ、その気配の存在だけが、確かに、俺たちの中に残った。


ボレアスが、ゆっくりと、扉の方へ歩み寄った。まだ少し覚束ない足取りで、それでも、自分の力で。


ボレアス「……これが、妾を呼んでおったのか」


直也「分からない。まだ、何も」


ボレアス「うむ。分からぬ、でよい」


彼女は、そう言って、小さく笑った。今まで見たことのない、柔らかな表情だった。


リィナが、そんな彼女の隣に、そっと並んだ。


リィナ「これから、一緒に来てくれますか」


ボレアス「……訊くまでもなかろう」


ボレアス「妾は、もう、ここに留まる理由がない。ならば、貴様らについていく他あるまい」


素っ気ない言い方だったが、その声に、拒む色はどこにもなかった。ゼピュロスが、ふっと笑う。


ゼピュロス「素直じゃないところ、変わらないのね」


ボレアス「うるさい」


◆◆◆


俺たちは、崩れた通路を抜け、保管庫の外へと向かった。


ボレアスは、その道すがら、何度も足を止めた。壁を、天井を、床を、まるで初めて見るもののように、じっと眺めていた。長い間、この場所しか知らなかった彼女にとって、一歩ごとに広がる景色は、きっと、俺の想像も及ばないものだったのだろう。崩れた棚の残骸にすら、彼女は物珍しそうに目を留めていた。


出口の手前で、彼女は、ふと立ち止まり、振り返った。


その視線の先には、氷の玉座があった。


鎖の欠片が、床に静かに散らばっている。玉座には、もう誰も座っていない。ただの、冷たい氷の椅子だった。


ボレアスは、しばらく、それを見つめていた。


ボレアス「……長い間、世話になったな」


誰に言うでもなく、そう呟いた。それから、もう一度、前を向いた。


直也「行くか」


ボレアス「うむ」


彼女は、短く答えた。その声に、迷いはなかった。


外へ出ると、風が吹いていた。ボレアスの髪が、白い糸のようにふわりと舞い上がる。保管庫の中では感じたことのない、街の空気だった。ボレアスは、目を細めて、その風を全身で受け止めていた。


ボレアス「……これが、外の風か」


直也「気に入ったか」


ボレアス「分からぬ。ただ、悪くはない」


そう言った彼女の横顔には、これまで見たことのない、穏やかな色があった。頭上には、彼女が初めて見る空が、遮るものなく広がっていた。


ポン太「さて、旦那。新入りの歓迎会とやらも、そろそろ経費で――」


直也「またお前はそれか」


ポン太「祝い事は、ちゃんとやらねぇとな」


直也「歓迎会するのはいいけど、お前の懐から出せよ、たまには」


ポン太「そいつぁ、契約にない話だな」


軽口を叩き合いながら、俺たちは、街の方へと歩き出した。


頭上の光球が、静かに明滅していた。


ALMA『2件の反応、追跡を継続します』


直也「そうだな。まずは、そこからか」


まだ何も分からない。正体も、方角も、これから何が待っているのかも。


それでも、俺たちは、新しい風の匂いを確かに感じながら、歩き出していた。


◆◆◆(氷の玉座を降りる日)◆◆◆

第二部、最後までお読みいただきありがとうございました!


次回からは少し趣向を変えて、第1話〜第20話までの物語を4編にまとめ、読みやすく再編集した総集編「ここまでの物語」をお届けします。


総集編からは、通常の【毎週火曜・金曜更新】に戻ります。


2週にわたって全4編を投稿予定です。


「途中から気になっていた」

「第三部から読んでみたい」


という方にも、これまでの物語を振り返りながら追いついていただける内容になっていますので、この機会にぜひお付き合いください!


そして、総集編全4編の投稿後は1週間のお休みをいただきます。


その後――


【9月15日(火)より、第三部スタート!】


直也、ALMA、リィナ、ゼピュロス、ポン太、そして新たに旅の仲間となったボレアス。


6人になった一行の、新しい旅が始まります。


第二部までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


まずは次回からの総集編「ここまでの物語」、そして9月15日から始まる第三部も、引き続きよろしくお願いいたします!


ここまで読んで「面白かった」「第三部も読んでみたい」と思っていただけましたら、高評価やブックマーク登録をしていただけると、とても励みになります!

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