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小説を書いたことないので、AIになろう系小説を書かせてみた 〜気まぐれAIのカフェイン転生が、俺の人生を変えた件〜  作者: U2U
第二部 捨てられたものたち

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第19話 正しい場所へ戻す者 ―― 前編「正しい位置」

◆◆◆


「ここを離れたら、どうなる」


ボレアスの声が、まだ耳の奥に残っていた。氷の玉座に座ったまま、自分がここにいない状態を、初めて想像しようとしていた彼女の横顔。あの一瞬の沈黙の重さは、今も胸の奥に残っている。


俺は、すぐには答えなかった。答えられなかった、と言った方が正確かもしれない。


直也「分からない」


俺は正直に言った。仮説すら立てられない問いだった。この保管庫を出て、この鎖から離れて、彼女がどうなるのか。想像すらつかなかった。だが、それで終わらせたくはなかった。


直也「でも、一緒に確かめることはできるかもしれない」


ボレアスは、何も言わなかった。ただ、その視線が、少しだけ柔らかくなった気がした。氷のように張り詰めていた表情の奥に、微かな揺らぎが見えた。


未来を保証する言葉じゃない。決断を迫る言葉でもない。ただ、隣にいる、というだけの言葉だった。


それが、今の俺に言える精一杯だった。答えを持っていないくせに、それでも隣にいると言えるのは、この短い旅の中で少しずつ積み上げてきたものがあるからだと思う。かつての俺なら、こんな中途半端な言葉は口にできなかっただろう。


◆◆◆


翌日、俺たちは保管庫の様子を確認しに来ていた。崩落の跡はまだ生々しく残っているが、致命的な崩壊は起きていない。それでも、油断できる状態ではなかった。歪んだ棚の一部は、まだいつ崩れてもおかしくない角度で傾いている。壁の亀裂からは、時折、冷気が細く漏れ出していた。


リィナは、床に散らばった破片を丁寧に片付けている。誰に頼まれたわけでもなく、目の前にあるものを整えていく。その手つきには、いつもと変わらぬ丁寧さがあった。ポン太は、崩れた棚の隙間を覗き込み、何か使えそうな契約の痕跡がないか探っていた。商売人としての本能は、こんな状況でも健在らしい。時折、独り言のように何かを呟きながら、瓦礫の一つ一つを丁寧に確認している。ゼピュロスは、退屈そうに周囲を歩き回っている。時折、崩れた瓦礫を蹴飛ばしては、詰まらなそうな顔をしていた。


直也「何か変わったことは」


ALMA『構造は安定しています。ただし、以前検出した微弱な反応は、依然として残留しています』


直也「残ってるのか」


ALMA『継続しています。ただし、前回の反応以降、深部で再固定信号がわずかに増大しています』


直也「増大?」


ALMA『断定はできません。ですが、対象の固定状態を異常と判定する動きが、保管庫のどこかで進んでいる可能性があります』


頭上の光球が、静かにそのリズムを刻んでいた。壁の亀裂から漏れる冷気が、微かに揺れる。まだ原因は断定できない。それでも、消えていないという事実は、俺の胸の中に小さな熱として残っていた。あの一口が残した何かが、まだこの場所のどこかに息づいている。それだけで、悪くない兆候のように思えた。


俺は、玉座に座るボレアスへ視線を向けた。


彼女は今日も、いつもと同じようにそこにいる。姿勢を正し、鎖を纏い、何をするでもなく、ただ座っている。昨日と同じ場所に、昨日と同じ姿勢で。


俺は、ふと気づいた。


この人には、毎日がない。


朝が来て、夜が来る。それだけだ。何かを選ぶことも、何かを楽しみにすることもない。ただ、役割だけがある。今日という日と昨日という日を分ける、何の印もない。


会社員時代の俺にも、似たようなところがあったかもしれない。だが、それでも俺には、休日があり、帰る場所があり、たまに開く缶コーヒーがあった。彼女には、その全部がない。同じ場所に、同じ姿勢で、同じ役割だけを背負って、永遠に近い時間を過ごしてきたのだろう。


その気づきが、思っていたより重く胸に沈んだ。何かを変えてやりたいと思っても、今の俺には、まだ具体的な方法が見えなかった。


俺は何も聞かなかった。ただ、その事実を、静かに受け止めていた。何かを言おうとして、結局、言葉にはならなかった。今の俺にできることは、ただ気づくことだけだった。


◆◆◆


保管庫の奥、崩れた通路の先から、かすかな振動が伝わってきた。石畳を伝って、規則正しい振動が近づいてくる。


ALMA『警告。未確認の存在を検知』


ALMA『先ほどの再固定信号と、発生源が一致します。矯正機構が起動した可能性があります』


俺たちは、一斉に身構えた。リィナが片付けの手を止め、ポン太が瓦礫の陰に身を寄せる。ゼピュロスは既に、手元に翠色の風刃を形作っていた。


崩れた壁の隙間から、白い影がゆっくりと現れる。これまで見てきた修正体とは、明らかに違う質感だった。より大きく、より精緻な装甲。全身に、無数の細かいルーンが刻まれ、それぞれが淡く発光している。歩く姿には、これまでの敵にはなかった威圧感があった。まるで、この保管庫そのものの意志を体現しているかのようだった。頭部には目も口もないが、それでも、こちらを見定めているという確信めいた気配があった。


その存在は、静かに声を発した。抑揚のない、機械的な声だった。これまで戦ってきたどの修正体よりも、明確な意志のようなものを感じさせる声だった。


石畳を踏む足音一つ立てず、それでいて確かな重量感を伴って近づいてくる。


均衡執行体『対象を確認。複数の逸脱を検知』


直也「逸脱……?」


均衡執行体『貴殿らは、本来あるべき位置から外れている。矯正を実行する』


その言葉と同時に、装甲の表面に浮かぶルーンが、一斉に輝きを増した。眩い光が保管庫の壁を照らし出し、俺たちの影を長く伸ばした。


均衡執行体『対象一、直也。異物として観測された初期状態への復帰対象』


直也「初期状態……?」


背筋に、冷たいものが走った。異物として観測された、という言葉には、聞き流せない響きがあった。


均衡執行体『対象二、リィナ。規格外能力使用以前の状態への復帰対象』


リィナ「え……?」


リィナの声が、微かに震えた。規格外、という言葉が、彼女がこれまで積み上げてきたものすべてを否定するように響く。


均衡執行体『対象三、ゼピュロス。武具形態への固定対象』


ゼピュロス「は? 私の正しい位置、鞘の中ってこと?」


ゼピュロスが、目を吊り上げて反応した。


均衡執行体『対象四、ポン太。契約外侵入者として排除対象』


ポン太「おいおい、ちょっと待て。俺っちの立場、契約書のどこにも書いてねぇぞ」


普段の飄々とした態度が、初めて少しだけ揺らいだように見えた。


均衡執行体『対象五、ボレアス。永続固定の再確立対象』


その一言で、空気が変わった。


ボレアスの表情が、鋭く強張った。玉座の上で、鎖を握る指先に、力がこもるのが分かった。


均衡執行体『均衡は、正しい位置によってのみ維持される。逸脱は不具合であり、修正されるべき事象である』


直也「逸脱、不具合、修正……お前、それ全部お前の都合だろ」


均衡執行体『これは救済である』


ポン太「救済、ねぇ。旦那、こいつ、俺っちの配置転換料金まで払う気あるのか?」


直也「今それ聞くのかよ」


ポン太「大事なことだろうが。強制的に元の位置へ戻されるってことは、それなりの補償があって然るべきだ」


均衡執行体『補償の概念は存在しない』


ポン太「ケチくせぇ組織だな、おい。俺っちの契約なら、こんな一方的な条件は絶対に通さねぇぞ」


本気で憤慨しているのか、それとも緊張を誤魔化そうとしているのか、俺には判断がつかなかった。


ゼピュロスが、風刃を構えながら、挑発的に微笑んだ。


ゼピュロス「私を鞘に戻したいなら、力ずくで来るしかないと思うけど」


均衡執行体『対応します』


ゼピュロス「即答!? もうちょっと考えてから答えなさいよ!」


彼女は苛立たしげに舌打ちしたが、その目には、恐れよりも闘志が強く滲んでいた。翠色の髪が、纏う風にわずかに揺れる。


直也「会社の人事異動でもここまで問答無用じゃなかったぞ……」


俺は思わず呟いた。会社員時代、部署異動の内示すら、一応は本人の意向確認があった。これは、それ以下の扱いだった。ある意味、あの頃よりずっと分かりやすい理不尽さだった。


均衡執行体が、全身のルーンを一斉に発光させた。周囲の空間が、微かに歪む。


ALMA『警告。対象周辺の状態固定が開始されています』


直也「状態固定?」


ALMA『対象の現在状態が、過去の記録へ引き戻されようとしています』


俺は、仲間たちの顔を見回した。誰の表情にも、怯みはなかった。この短い旅の中で、それぞれが積み上げてきたものが、確かにここにある。それは、誰かに与えられたものではなく、自分たちの手で掴んできたものだった。


直也「聞いての通りだ。あいつは、俺たちを『正しい位置』とやらに戻そうとしてる」


リィナ「戻りたくないです」


リィナの声は、いつになく強かった。杖を握る手に、いつも以上の力がこもっている。


ゼピュロス「当然でしょ」


ポン太「俺っちも、今更契約外の隙間には戻れねぇな」


俺は、最後にボレアスへ視線を向けた。彼女は、まだ何も言わなかった。ただ、氷の玉座から、じっと均衡執行体を睨んでいた。その瞳には、これまでにない強い光が宿っていた。永続固定という言葉が、彼女の中の何かを逆撫でしたのは明らかだった。


沈黙が流れた。誰も動かない。均衡執行体だけが、静かにこちらを見据えていた。


均衡執行体『矯正を開始する』


その白い巨躯が、ゆっくりと前へ踏み出した。一歩ごとに、周囲の空気が僅かに歪んでいく。石畳に刻まれたルーンが、その歩みに合わせて淡く反応していた。


直也「みんな、構えろ」


俺は拳を握った。何を仕掛けてくるのか、まだ分からない。だが、退く理由はどこにもなかった。ここで引けば、積み上げてきたものすべてが、また奪われることになる。


◆◆◆(正しい位置)◆◆◆

ここまでお読みいただきありがとうござます。


【第二部 クライマックス公開スケジュール】


8/21(金)第19話 中編

8/23(日)第19話 後編

8/25(火)第20話 前編

8/27(木)第20話 中編

8/29(土)第20話 後編


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