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小説を書いたことないので、AIになろう系小説を書かせてみた 〜気まぐれAIのカフェイン転生が、俺の人生を変えた件〜  作者: U2U
第二部 捨てられたものたち

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第18話 黒い扉は、選択に応える ―― 後編「扉の向こう」

◆◆◆


翌日は保管庫へ行かなかった。俺たちは宿で休みながら、これまでの観測記録を整理した。


整理と言っても、新しい発見があったわけじゃない。ALMAが並べる波形を眺めては、これは違う、これも違う、と消していくだけの作業だった。それでも、その一日は必要だったと思う。昨日の自分の失敗を、頭の中で何度も反芻するには、ちょうどいい時間だった。


選ばせようとしていた。その事実は、思い返すたびに、じわりと胸の奥を重くした。


そして翌々日、俺たちは再び黒い扉の前に立っていた。


ただし、今日は温石を持ってきていない。検証用の道具も、手順書も、何一つ用意していなかった。


ボレアスが、玉座から俺たちを見下ろす。その視線には、露骨な警戒があった。


ボレアス「今日は何を試すつもりじゃ」


直也「何もしない」


ボレアス「……は?」


彼女は、心底わけが分からないという顔をした。


ゼピュロス「何もしないためにここまで来たの?」


直也「そうだよ」


ゼピュロス「暇じゃない、それ」


直也「暇だな」


俺は素直に認めた。実際、今日ここへ来た理由を、うまく説明できる気はしなかった。ただ、何もしないという状態を、一度きちんと作っておきたかった。それだけだ。


リィナが、床に散らばったままだった氷の破片を、静かに片付け始めた。誰に頼まれたわけでもない。ただ、目の前に散らかったものがあるから、片付ける。それだけの動きだった。彼女はボレアスに何も尋ねず、何も求めず、黙って手を動かしている。


ポン太は、崩落で転がってきたらしい金属片を拾い上げ、しげしげと眺めている。使えるかどうか値踏みしているらしい。ゼピュロスは壁にもたれて、退屈そうに髪をいじっていた。時折、思い出したように小さく欠伸をしている。


誰も、ボレアスに何も聞かなかった。


俺は、少し離れた場所に腰を下ろして、ただそこにいた。何をするでもなく、崩れた天井の隙間から落ちてくる氷の粒を、ぼんやりと眺めていた。


しばらくして、ボレアスが小さく身じろぎするのが見えた。玉座の上で、座り直す。それから、また少しして、姿勢を変える。視線が、俺たちの間をせわしなく行き来していた。指先が、意味もなく鎖に触れては離れる。


何度か、口を開きかけて、やめる。


これまで、俺たちが訪れる時には必ず目的があった。調査、質問、検証。彼女にとって、俺たちは何かを求めてくる存在だったはずだ。


なのに今日は、誰も何も求めない。


ボレアス「……本当に何もせぬのか」


直也「この前、やりすぎたからな」


ボレアス「ふん」


彼女は鼻を鳴らして、そっぽを向いた。だが、その後もやはり落ち着かない様子だった。


そして、俺は気づいた。


ボレアスの視線が、時折、黒い扉へ向いている。


一度ではない。二度、三度。会話が途切れるたび、彼女は自分を縛る鎖の先にあるその扉を、ちらりと見る。すぐに逸らす。だが、また見る。


聞きたかった。


扉が気になるのか。何か知っているのか。喉元まで、その質問が出かかった。舌の先で、言葉が形になりかけていた。


だが、聞かなかった。


前回、俺はそれで失敗したばかりだ。俺が問いかけた瞬間、それは彼女の関心ではなく、俺が要求した答えになってしまう。


俺は黙って、視線を自分の膝へ落とした。


ALMA『直也さん。前回検出した反応について、追加の解析が完了しました』


頭上の光球が、淡く明滅する。


直也「何か分かったか」


ALMA『既存のルーン構文との照合を行いました。結論から申し上げます。完全一致する構文はありません』


直也「……そうか」


期待していなかったと言えば嘘になる。だが、そう簡単に答えが出るとも思っていなかった。


ALMA『ただし、部分的な傾向は検出されています』


直也「傾向?」


ALMA『命令、解錠、解除、認証。これら既知の機能ルーンとは一致しません。ただし、対象の状態ではなく、対象から外へ向かう、何らかの指向を示している可能性があります』


直也「指向?」


ALMA『何かを望む、問う、向かおうとする。そのいずれかに近い可能性があります。ただし、翻訳精度は低く、断定できません』


望む、問う、向かう。


どれも、装置の説明書には出てこない言葉だった。


俺は、思わず顔を上げた。


直也「分かってる。断定はしない」


俺は、黒い扉を見上げた。継ぎ目のない黒い表面。氷のルーン。何度見ても、その意味は読み取れない。


だが、少しだけ、見え方が変わりつつあった。


これまで俺は、この扉を攻略対象として見ていた。正しい条件を入力すれば開く装置。鍵を探し、手順を調べ、いずれ突破するべき障害物。


だが、もし本当に、この扉が「意思」に近い何かへ反応しているのだとしたら。


外から正解を探すという行為そのものが、根本的に的外れなのかもしれない。鍵穴を探し続けている間、扉はずっと別のものを待っていたことになる。


俺は、それ以上その考えを口に出さなかった。まだ仮説にすらなっていない、感覚のようなものだった。


保管庫の中に、静かな時間が流れた。


リィナの片付ける音。ポン太が金属片を叩く音。ゼピュロスの小さな欠伸。どれも、この場所には不釣り合いなほど日常的な音だった。


そして、その静けさの中で、ボレアスが口を開いた。


ボレアス「……貴様は」


俺は顔を上げた。彼女は、俺ではなく、黒い扉の方を見ていた。


直也「なんだ」


ボレアス「貴様は……この向こうに何があると思う」


その問いに、俺は少し驚いた。


これまで、この扉について何かを尋ねるのは、いつも俺の側だった。彼女が自分から扉の話を持ち出したのは、初めてのことだ。しかも、守り方でも、封じの仕組みでもなく、向こう側に何があるのかという問いだった。


俺は、少し考えた。


これまでの俺なら、仮説を並べていたかもしれない。保管庫の中枢がある、封じの機構が眠っている、あるいは何もない。思いつく限りの可能性を、彼女に提示していただろう。


だが、今日はやめた。


直也「分からない」


ボレアス「……分からぬ、か」


直也「ああ。ALMAにも分からない。俺にも分からない」


それだけ言って、俺は口を閉じた。


知りたいのか、とは聞かなかった。開けてみたいのか、とも聞かなかった。それを聞いた瞬間、また前回と同じことになる。


長い沈黙が流れた。


ボレアスは、じっと黒い扉を見つめていた。氷の玉座に座ったまま、身動き一つせずに。その横顔からは、何を考えているのか読み取れなかった。


誰も、彼女を急かさなかった。


やがて、彼女の唇が、微かに動いた。


ボレアス「……妾は」


そこで、一度止まる。


自分でも、これから何を言おうとしているのか、まだ分かっていないような、そんな間だった。


ボレアス「……少しだけ、知りたい」


それは、驚くほど小さな声だった。自分の言葉に、自分で戸惑っているような響きだった。


開けたい、とは言わなかった。出たい、とも言わなかった。ただ、知りたい。それだけの言葉だった。


だが、その一言が出た瞬間。


黒い扉のルーンが、変化した。


これまで一定のリズムで明滅していた光の一部が、初めて別の輝きを見せる。これまで読み取れなかった一画が、うっすらと浮かび上がったようにも見えた。氷の奥を、一筋の光が静かに走る。同時に、ボレアスを縛る鎖の1本が、鈴のような音を小さく鳴らした。


ALMA『……反応を確認』


扉は開かない。鎖も外れない。ただ、確かに、何かが応えた。


そして今回は、ボレアス自身がそれを見ていた。


ボレアス「……何じゃ、今のは」


彼女の声には、明らかな動揺があった。自分が何かを口にした直後、扉が反応した。その事実に、初めて直面したのだろう。目を見開いたまま、扉と自分の手元を交互に見ている。


俺は、扉を見つめたまま言った。


直也「……また反応したな」


それ以上は、何も言わなかった。


やっぱり選択が条件だったんだ、とも言わなかった。もう一度何か言ってみてくれ、とも言わなかった。他に知りたいことはあるか、とも聞かなかった。


ALMAも、追加の解析を試みようとしていたが、情報が足りないらしく、すぐに沈黙した。


直也「今日は、ここまででいい」


ボレアス「……調べぬのか」


直也「調べたいけどな」


俺は少し笑って、立ち上がった。


直也「今やったら、また同じことしそうだから」


ボレアスは、何も言い返さなかった。


俺たちは荷物をまとめ、黒い扉に背を向けた。リィナが片付けた氷の破片は、隅に綺麗に寄せられている。ポン太は結局、金属片を懐に入れていた。後で請求書に載せるつもりなのだろう。


出口へ向かおうとした、その時だった。


ボレアス「……直也」


俺は足を止めた。


名前で呼ばれたのは、たぶん初めてだった。


これまで彼女は、いつも「貴様」だった。それが、今は違う。


直也「なんだ」


ボレアスは、すぐには答えなかった。


ボレアス「もし妾が――」


そこで、言葉が止まる。


彼女は、ゆっくりと視線を巡らせた。自分が座る氷の玉座。手足を縛る何本もの鎖。崩れかけた棚と、凍りついた通路。そして、黒い扉。


ひとつひとつを、確かめるように見ていく。


この場所の、全てを見た。


自分がここにいない可能性を、初めて想像しているように見えた。役割を持たない自分。止める者ではない自分を。


少なくとも、これまで彼女の口からそんな問いを聞いたことはなかった。


長い時間をかけて、彼女は何かを、少しずつ組み立てているようだった。


そして、ようやく、その言葉が出た。声は小さかったが、確かに俺の耳へ届いた。


ボレアス「ここを離れたら、どうなる」


◆◆◆(扉の向こう)◆◆◆

ここまでお読みいただきありがとうござます。


【第二部 クライマックス公開スケジュール】


8/19(水)第19話 前編

8/21(金)第19話 中編

8/23(日)第19話 後編

8/25(火)第20話 前編

8/27(木)第20話 中編

8/29(土)第20話 後編


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