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小説を書いたことないので、AIになろう系小説を書かせてみた 〜気まぐれAIのカフェイン転生が、俺の人生を変えた件〜  作者: U2U


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第9話(6)親切な関所と、泥だらけの裏契約 ―― 完璧な静寂と、不純物の残り香

◆◆◆


内壁ゲートの重厚な壁を抜けた先。そこには、俺が想像していた以上の「静寂」が横たわっていた。


「……ここ、呼吸の仕方まで決められそうだな」


俺は思わず足を止め、自分の吐息がその空間を汚しているような錯覚に陥った。

床は鏡のように磨き上げられた白磁。壁は継ぎ目一つない滑らかな金属。

空気は完全に濾過され、チリ一つ舞っていない。

そして何より、そこを行き交う人々の動きが異常だった。


歩幅は全員が60センチ。腕を振る角度は30度。

誰一人として足音を立てず、誰一人として視線を泳がせない。

外郭ポルトマーレが「プラモデル」だとしたら、ここは「精密機械の内部」だった。


リィナ「……皆さん、すごく綺麗です。でも、なんだか……見ていて胸が苦しくなります」


リィナが俺の服の裾をギュッと掴む。彼女の小さな震えが、俺の腕を通して伝わってきた。

この世界の「正しさ」は、もはや暴力に近い。


ALMA『報告。この領域の環境整合性は、過去最高値を更新しました。個人の生体反応が周辺のグリッドに完全に同期しています。……直也さん、ここでは沈黙さえも「記録」の一部として管理されています』


俺たちは、その「完璧すぎる点検列」の脇を、ポン太の先導で慎重に通り過ぎようとしていた。

点検列に並ぶ人々は、係員と向き合い、一糸乱れぬ所作で通行証を差し出している。


係員「本日も正しい1日をお過ごしください。あなたの存在に感謝します」

通行人「感謝します。正しい理に従います」


そのやり取りが、幾重にも重なって響く。言葉はどこまでも丁寧だが、その響きは虚空を滑るように無機質だ。答えが「正しい形」へ収束していく空気が、俺たちの自由をじわじわと削り取っていく。


ゼピュロス「あはは! こういうの、嫌いじゃないけどね! 風を吹かせる隙間もないくらいキチッとしてて、逆にお掃除しがいがあるんじゃない?」


直也「お前は本当に性格が悪いな。……いいか、ここは面白がるところじゃないぞ。一歩間違えれば、俺たちもあの行列に並ばされるんだからな」


俺がゼピュロスを窘めていると、ふと、視界の端に違和感ズレが飛び込んできた。

完璧に整えられた白磁の床。その上に、一筋の汚れがあった。


直也「……あ」


それは、泥だった。

点検列に並ぶ人々の中に、たった一人だけ、泥だらけの靴跡を引きずっている旅人がいた。

その男は、完璧なリズムで並ぶ群衆の中で、ほんのわずかに姿勢が崩れていた。

周りと同じ青い服を着ているはずなのに、その襟元はヨレ、通行証を持つ指先は震えている。


誘導員の言葉も、そこだけは微妙に噛み合っていない。


係員「……ご案内いたします。あなたの歩みには、15パーセントの不純物が混入しています」

旅人「……あ、ああ……すみません、次は、正しく……」


旅人の挨拶が、他の連中と一文字だけ違う。

そのたった一箇所の「ズレ」が、静まり返った空間の中で、悲鳴のように激しく響いた。


直也「おい、あれ……」


俺がその例外に目を向けようとした瞬間、ポン太が俺の腕を強く引いた。

その顔は、これまで見たこともないほどに固く、真剣だった。


ポン太「……旦那、あれは見るんじゃねぇ。見れば見るほど、料金が跳ね上がる。あいつに関わるってことは、この世界の『親切な修正』を真っ向から買うってことだぜ」


直也「見ないほうがいいって言われると、余計に見ちゃうだろ」


ポン太「冗談じゃねぇ! 俺っちはガイドだ、心中相手じゃねぇんだよ。……今は、ただ通り過ぎる。それが俺たちの『裏契約』の条件だ」


ポン太は吐き捨てるように言い、俺たちを促して先へと急いだ。

確かに、あの旅人の周囲には、見えない圧力が渦巻いているようだった。

親切な誘導員たちが、笑顔のまま、その「不純物」を包囲し始めている。

それは救済という名の、徹底的な排除に見えた。


俺たちは視線を落とし、ポン太の背中を追った。

心臓の鼓動が耳の奥でうるさいほどに鳴っている。

この息苦しさから早く逃げ出したい。そう思って早足になったその時。


不意に、鼻腔をくすぐる匂いがあった。


直也「……っ?」


立ち止まることは許されない。だが、その匂いは強烈だった。

この濾過され尽くした無機質な空間には、およそ似つかわしくない、焦げたような、香ばしい香り。

それは、焙煎された豆が放つ、深い苦味の予感。


直也「……コーヒーの匂い、した気がする」


俺は思わず呟いた。

中核区画の奥深く。あの完璧すぎる点検列のさらに先から、その香りは漂ってきていた。


ゼピュロス「今それ言う? 周りはあんなにピリピリしてるのに、マスターの頭の中はいつも泥水のことばっかりだね!」


直也「今だから言うんだよ。……あそこに、俺が探してる『不純物』があるはずだ」


俺は、自分の決断を再確認するように、泥に汚れた靴で白磁の床を踏みしめた。

正面の入り口で「正解」を書き込まれ、美しい人形にされるよりは。

ポン太のセコい条件を飲み、泥だらけの裏契約を結んででも、自分の足で「間違い」を選び続けたい。


俺たちの前進は、もはや後戻りできない段階に入っていた。

ポン太は、契約更新の代償として増えた縛りを一つ一つ数え上げるように、厳しい足取りで導線を進む。

信用レベル1。首の皮一枚で繋がった俺たちの旅は、いよいよこの交易都市の深部へと入り込んでいく。


通路の突き当たり、次のエリアへと続く巨大な扉が開こうとした、その時。


背後の点検列で、あの泥だらけの旅人が、ゆっくりとこちらを振り返った気がした。

感情の読み取れないその視線と、一瞬だけ重なったような錯覚。


直也は扉の向こうに広がる、さらなる「正しさ」の海へと、迷わず足を踏み入れた。


◆◆◆完璧な静寂と、不純物の残り香◆◆◆

第9話、ここまで読んでいただきありがとうございました。

中核区画の内側に入ったことで、景色は綺麗になりましたが、息苦しさはむしろ増してきました。

次回からは、その中心側へ進んでいきます。

第10話のスタートになります。

次回更新日は3月27日(金)です。

よろしくお願いします!

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