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知らないままでいたくない

ダンジョンに潜る人達の話です。



登場人物

エマ・ウォーカー     主人公です。

ノル・ハーヴェイ     白鹿の探索隊長の一人

ニナ・クラーク      白鹿のギルド所属の前衛 エマの仲間


▼主人公の基本設定

名前:エマ・ウォーカー

年齢:20歳くらい

性別:女性

ギルド歴:10年

元DPS で ギルドの意向でサポートへ配置転換された

サポートの役割:救護/料理/素材回収/物資管理/運搬等 多岐にわたる


この物語のギルドは、ダンジョン内で採れる素材の回収を専門に請け負う組織です。

魔物の牙や皮、鉱石、薬草、魔石などを回収し、

それを商会や工房、研究機関へ卸すことで利益を得ています。

ただ魔物を倒すだけの集団ではなく、探索、戦闘、救助救援、採取、解体、運搬、物資管理まで含めて、

ひとつの仕事として成り立たせた大手組織です。そのギルドで働く人物達の物語

いつまでも、ここに立っているわけにはいかない。報告書を仕立てなければならない。起きたことを、言葉にしなければならない。


あの人が死んだことも。

自分が助けられなかったことも。

ニナと別れた後、エマはゆっくりと息を吐き、館の奥へ向かった。

詰所の横にある、サポーター用の準備部屋。その扉の前に、ノルが立っていた。

「エマ」


今度は低い声だった。


エマは足を止めた。ノルの顔を見た瞬間、ニナの前でどうにか押し込めたものが、また胸の奥で重く沈んだ。

「領主側への引き渡しは終わった。あとは向こうの仕事だ」


エマは小さく頷いた。

「……あの人は」


言いかけて、喉が詰まった。

ノルは少しだけ目を伏せた。

「遺体も、引き渡した」


その言葉で、胸の奥が冷たくなった。

助けられなかった人。名前も知らない人。

もう、遺体と呼ばれるものになってしまった。


ノルはしばらく黙ってから言った。

「あれは、お前の失敗じゃない」


エマは顔を上げなかった。

「でも、助かりませんでした」


「そうだ」

ノルの声は厳しかった。


「助からなかった」

その言い方に、エマの指先がわずかに震えた。慰めの言葉ではなかった。けれど、嘘でもなかった。

ノルは言葉を曲げなかった。

「現場では、そういうことがある。誰かが間違えたから死ぬとは限らない。正しいことをしても、間に合わない時がある」


エマは唇を噛んだ。

「だったら……私は、どうすればよかったんですか」

ノルはすぐには答えなかった。

「今のお前にできることは、やった」


「でも」


「だが、次にできることを増やすことはできる」

エマはそこで、初めて顔を上げた。

ノルは続けた。

「スクロールを持っているだけじゃ足りない。使えば済むわけじゃない」

エマは黙っていた。


「現場で何を見るか、何を先にするか、何をしないか」

ノルの声は低かった。


「そういうことを知っている奴と、知らない奴では、結果が変わることがある」

エマの胸の奥で、何かが痛んだ。

「……私が知らなかったから、ですか」


「そうは言っていない」


ノルは静かに言った。

「だが、知らないままでいいとも言わない」

エマは何も言えなかった。胸がきゅっと縮んだ。でも、目を逸らせなかった。

知らない。

あの人が助からなかったことを、それで片づけることはできない。自分の手に残った感触も、消えない。それでも、その言葉だけが胸の奥に引っかかった。

知らなかったなら。知ることは、できるのかもしれない。

エマは震える手を握りしめた。

「……知れば」


声はかすれていた。

ノルは黙っていた。先を急がせることも、代わりに言ってやることもしなかった。

エマは言葉を探した。

「知れば、次は……違うことができますか」

ノルはすぐには頷かなかった。

「必ず助けられるとは言えない」

エマの胸が、少し沈んだ。

「死ぬ時は死ぬ。どれだけ腕のいい白魔導士がいても、間に合わない時はある」

エマは唇を噛んだ。

ノルは続けた。

「だが、何も知らないままよりは、できることが増える」


「できること……」


「助ける手順を覚えることじゃない。何を見て、何を疑うかを覚えることだ」

ノルの声は低かった。

「スクロールも同じだ。使えば終わりじゃない。使う前に見ることがある。使った後にしなければならないこともある」

エマは黙って聞いていた。

あの時のことが、また浮かんだ。浅くなっていく呼吸。冷えていく指先。頼りなく揺れて、消えていったスクロールの光。

自分は、ただ必死だった。効いてほしいと願っていた。助かってほしいと祈っていた。

けれど、何を見ればよかったのか。何を先にすべきだったのか。何をしてはいけなかったのか。何も分かっていなかった。

「……そんなことまで、サポーターが知るんですか」


エマが呟くと、ノルは短く答えた。

「知っている奴はいる」

冷たい言い方だった。でも、嘘ではなかった。

「魔物を倒す腕とは別だ。だが、帰ってくるためには必要な腕だ」

帰ってくる。その言葉が、エマの中に残った。

奥へ進むことではない。魔物を倒すことでもない。宝を持ち帰ることでもない。生きて戻ること。誰かを、生きたまま戻すこと。

エマは自分の手を見た。血はもう落ちている。けれど、指先はまだ覚えている。

それでも、この手でできることが、まだあるのなら。

「私は……」

声が震えた。


ノルは黙って待っていた。

「私は、助けたかったです」

口にした途端、胸の奥が痛んだ。それは、ずっと分かっていたことだった。でも、言葉にすると、思っていたより苦しかった。


「でも、助けられませんでした」


「そうだ」

ノルはまた、はっきりと言った。

「助けられなかった」


エマは目を伏せた。その事実は変わらない。どんな言葉を並べても、あの人は戻らない。

「……それでも」

エマは手を握った。

「何も知らないままなのは、嫌です」

声は小さかった。けれど、言ってから、少しだけ息ができた。

何ができるのかは、まだ分からない。誰に聞けばいいのかも、どこから始めればいいのかも分からない。それでも、知らないままでいたくない。

それだけは、はっきりしていた。

ノルはしばらくエマを見ていた。やがて、静かに言った。

「なら、その気持ちは捨てるな」


エマは顔を上げた。

「今すぐ答えにしなくていい。きれいな言葉にしなくてもいい。だが、忘れるな」

ノルは準備部屋の扉から身を離した。


「報告書を書け。起きたことを、できるだけ正確に残せ」


「……はい」


「そのあとで考えろ。お前が次に何を知るべきか」


エマは胸の前で、報告用の板を抱え直した。

あの人の名前は知らない。なぜあの場所まで来たのか、何を思って倒れたのかも知らない。けれど、助けられなかったことだけは、忘れない。

忘れないまま、次に何を知るのかを考える。


今はまだ、それだけでよかった。

前書きの設定情報を修正しました。

本作品は未完成な部分や表現に納得できない箇所が随所にあります。なので、随時修正します。

シナリオや展開を変えるつもりはありません。

ご容赦ください。



ノルがエマに対しての助言で同じ意味のことを2回言ってました。確認不足です。

お許しください。

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