第50話 家に戻る道
ダンジョンに潜る人たちの話です。
ライト文芸寄りのダークファンタジーです。
▼登場人物
エマ・ウォーカー 主人公です。
オスカー・ウォーカー エマの弟
サイモン・レック 白鹿のギルドを襲撃した、素性の知れない謎の男。
▼主人公について
白鹿のギルドで働く二十歳前後のサポーター。
元前衛だが、今は救護、素材回収、物資管理、食料と水の配分、退路確認などを担い、探索隊を生きて帰すために働いている。
あらすじ
四年前、ガイ・ラザフォードは深層の別の端にいた。遠くで崩落と人の声のようなものを聞きながらも、近くで倒れていた別の負傷者を見つけ、その命を連れて地上へ戻る。後に、その同じ日にグレン・ヘイルの隊が戻らなかったことを知るが、ガイはエマにもグレンにも会っておらず、何が起きていたのかも知らなかった。ただ、届かなかった声だけが、今も記憶に残っている。そして現在、オスカーが戻らない夜を前に、ガイはもう一度「届かなかった」では済ませられないと感じていた。
家へ戻る道は、分かっていた。
東通りを抜けて、魚屋の角を曲がる。夕方になると荷車が増えるから、端を歩く。石畳の欠けたところは杖の先が引っかかるので、少しだけ遠回りして、香草売りの店の前へ出る。そこから二つ目の細道を入れば、家の屋根が見える。
何度も通った道だった。
目を閉じても歩ける、とまでは言わない。けれど、どの石が傾いているか、どの戸口の前で犬が吠えるか、どこで杖の音が大きく返ってくるかくらいは覚えている。
それなのに、オスカーの足はそちらへ向かなかった。
袋は、もうほとんど空だった。
豆は拾わなかった。拾えなかった。地面に散ったものを一粒ずつ拾うたびに、通りの端で見ていた誰かの目が背中に刺さる気がした。根菜は泥を払って入れた。香草は半分潰れている。匂いだけは残っていて、それがかえって嫌だった。
エマは、香草の匂いに気づくだろうか。
気づいたら、何と言うだろう。
また喧嘩になるだろうか。
それとも、今度こそ何も言わずに、傷を探すような目で自分を見るだろうか。
その顔を思い浮かべた瞬間、オスカーは足を止めた。
杖の先が乾いた石畳を叩く。
一度。
音だけが前へ進んで、すぐに夕方の町の中へ吸われた。
市場は片づき始めていた。木箱を積み上げる音、店の戸板をはめる音、売れ残った野菜を布に包む女の声。人はまだ多い。けれど、昼の賑わいとは違う。みんな帰る先を持っている顔をしていた。
オスカーは、通りの端に寄った。
袋の紐が手の中でねじれている。切れかけたところを結び直したせいで、指に当たる。肘を少し曲げるだけで痛みが走った。
ロイの声が、まだ耳の奥に残っていた。
姉ちゃんに言えばいいだろ。直してもらえばいい。お前はそれでいいんだから。
違う、と言いたかった。
でも、何が違うのかまでは言えなかった。
エマに直してもらってきた。エマに守られてきた。エマが働いた金で食べている。杖も、服も、薬も、家の火も、全部どこかでエマにつながっている。
それを違うと言うなら、自分は何を返せるのか。
袋の中の潰れた香草が、指先に匂いを残した。
本当なら、鍋に入れるはずだった。
エマが帰る前に、豆を煮て、根菜を切って、少しだけ香草を散らす。疲れている時の姉は味を濃くしたがるから、塩は遠くに置く。そう考えていた朝の自分が、ずいぶん遠くにいる気がした。
「ウォーカーの弟、見た?」
近くで声がした。
オスカーは思わず顔を上げた。
豆屋の女だった。店先の台を拭きながら、隣の男に聞いている。声は大きくない。けれど、オスカーの耳にははっきり入った。
「昼頃なら見たぞ。足の悪い子だろ」
「エマちゃんが探してたんだよ。まだ帰ってないって」
息が、喉の途中で止まった。
エマが。
探している。
男は台を片づけながら言った。
「どこへ行ったかまでは知らねえな。ロイたちが騒いでたのは見たが」
「またかい」
豆屋の女の声が低くなった。
「誰か止めなかったのかね」
男は答えなかった。
オスカーは、それ以上聞けなかった。
足が勝手に動いた。家へ向かう道ではない。市場の裏手へ抜ける方だった。積まれた空箱の間を抜け、荷車の影を避ける。急げば足がもつれる。分かっているのに、杖をつく間隔が乱れた。
エマが探している。
また、自分のせいで。
昨日、あれだけ言い合った。姉さんは疲れていた。顔色も悪かった。手だって震えていた。それなのに、自分は家を出た。帰らずに、こんなところでうろついている。
帰ればいい。帰って、謝ればいい。
そう思った。
でも、次に浮かんだのは、扉を開けた時のエマの顔だった。
心配して、怒って、ほっとして、それからまた自分を見てしまう顔。
怪我をしていないか。誰に何をされたのか。なぜ言わなかったのか。どこが痛むのか。そうやって見る顔。
大事にされている顔。その顔が、苦しかった。
オスカーは古い倉庫通りへ入った。
市場の声が、背中の方で薄くなる。ここは昼間でも人の出入りが少ない。大きな倉庫がいくつも並び、戸はほとんど閉まっている。扉の金具は錆び、壁際には使われなくなった荷車が寄せられていた。麻袋の破れた端から、古い麦殻のようなものがこぼれている。
水音はしない。代わりに、乾いたものばかりがあった。
石畳をこする風の音。木箱の隙間で鳴る薄い板の音。油の染みた縄の匂い。
鉄錆と埃が混じった、喉に引っかかる空気。
オスカーは倉庫の壁に手をついた。息が上がっている。悪い方の足が重い。肘も痛い。袋を持つ手に力が入らず、結び直した紐がまたほどけそうになっていた。
ここまで来て、何をしているのだろう。
家へ帰る道は、すぐ後ろにある。
なのに戻れない。探されるのは苦しい。探されないのは、もっと怖い。
どちらを選んでも、自分が嫌になる。
「帰らなかったんですね」
声がした。
オスカーは振り返った。
倉庫の影に、サイモンが立っていた。
前に会った時と同じように、急に現れたように見えた。けれど、よく見るとそうではない。倉庫の壁際に置かれた荷車のそば、最初からそこにいたのだろう。外套の裾には埃がついている。片手には細い革の手袋を持ち、腰には小さな鞄があった。
「……見てたんですか」
声が硬くなった。
サイモンは近づかなかった。
「歩く音がしました」
「それで、僕だと?」
「杖の先が石を叩く間隔は、人によって違います」
オスカーは杖を握り直した。
「気味が悪いですね」
「そうですね」
あっさり認められると、返す言葉がなくなる。
サイモンは、オスカーの袋を見た。中身が少ないことも、紐が結び直されていることも、肘の動きが悪いことも、たぶん見えている。それでも、すぐに何かを聞こうとはしなかった。
それが余計に腹立たしかった。
「何ですか」
オスカーは言った。
「また、泣けとか、帰れとか、選べとか言うんですか」
「泣けとは言っていません」
「同じです」
「帰れとも言っていません」
「でも、帰った方がいいって思ってるんでしょう」
サイモンは少しだけ首を傾けた。
「あなたは、そう言われたいんですか」
「違います」
すぐに言った。早すぎた。
自分でも分かった。
サイモンは急かさなかった。古い倉庫の軒先で、破れた荷札が風に揺れている。書かれていた文字はもう読めない。どこかへ運ばれるはずだったものの札なのに、荷だけが消え、札だけが残っていた。
「探されていましたね」
サイモンが言った。
オスカーの喉が詰まった。
「……聞いたんですか」
「市場の声は、よく通ります」
「姉さんは関係ない」
「そうでしょうか」
「関係ない」
今度は少し強く言った。
サイモンは反論しなかった。反論しないまま、静かに言う。
「大事にされるのは、苦しいですか」
オスカーは睨んだ。
「そういう言い方、やめてください」
「では、別の言い方をします」
サイモンは、ほんの少しだけ声を落とした。
「見つけられた瞬間、また何もできない場所へ戻される気がする。違いますか」
オスカーは口を開きかけた。
違う、と言うつもりだった。けれど、言えなかった。
何もできない場所。
それは家ではない。エマのそばでもない。椅子でも、台所でも、寝台でもない。
たぶん、自分の中にある場所だった。
足が悪いから仕方ない。危ないから家にいて。
無理しなくていい。何もしなくていい。
そう言われ続けるうちに、いつの間にかそこへ座らされていた。
エマがそうしたかったわけではない。分かっている。姉さんは自分を傷つけたかったわけじゃない。むしろ、守ろうとしてくれた。
だから、余計に逃げ場がなかった。
「姉さんを悪く言わないでください」
オスカーは低く言った。
「悪くは言っていません」
「今のは、そう聞こえました」
「あなたがそう聞いたのなら、そうなのかもしれません」
「ずるいです」
「ええ」
また認める。
オスカーは息を吐いた。怒りたいのに、怒りがうまく続かない。サイモンは優しくない。けれど、こちらを責めてもこない。そのせいで、言い返す相手を見失う。
「僕は、帰れないわけじゃない」
「はい」
「道も分かってる」
「そうでしょう」
「帰ればいいだけです」
「では、なぜここにいるんですか」
その問いは、静かだった。
倉庫通りの奥で、荷車の車輪が小さく軋んだ。誰かが動かしたのか、風で揺れただけなのか分からない。
オスカーは袋の紐を握った。
「……今のまま帰りたくないだけです」
言ってから、唇を噛んだ。言わされた気がした。
でも、嘘ではなかった。
サイモンは、その言葉をすぐ拾わなかった。拾われないせいで、逆にオスカーの中に残る。
今のまま帰りたくない。
汚れた袋を持って、肘をかばって、杖の革を剥がされて、ロイたちに笑われて、エマに探されて。
そのまま帰れば、また何かが壊れる。
エマが悪いわけではない。でも、自分が帰れば、エマはまた自分を守ろうとする。
守られれば、自分はまたその場所へ戻る。
「今のまま帰りたくないなら」
サイモンが言った。
「別の帰り方もあります」
オスカーは顔を上げた。
「何ですか、それ」
「今から、私はダンジョンへ潜ります」
言葉の意味が、一拍遅れて届いた。
オスカーはサイモンを見た。
「……今から?」
「ええ」
「なぜ」
「仕事です」
サイモンは短く答えた。
「深い場所に、確かめるものがある」
「一人で?」
「いいえ」
サイモンの視線が、倉庫通りの奥へ向いた。
オスカーもつられてそちらを見る。閉じた倉庫扉の前に、いくつかの影があった。灯りは絞られている。荷を背負った男が一人、革紐を締め直している。別の誰かが細長い筒を布で包んでいた。顔はよく見えない。白鹿の探索隊のように声を掛け合っているわけではない。けれど、これからどこかへ出る者たちの空気だけはあった。
荷の匂いがする。油。革。乾いた薬草。鉄。
誰も、オスカーを不思議そうには見なかった。
それが、少しだけ気になった。
けれど、すぐにサイモンの声が戻ってきた。
「彼らは先に行く準備をしています」
「……探索者なんですか」
オスカーが聞いた。
「そう名乗ることもあります」
「変な言い方ですね」
「仕事によって、名は変わります」
サイモンはオスカーへ視線を戻した。
「あなたを迎えに来たわけではありません。ここで会ったのは、偶然です」
偶然。
その言葉を、オスカーはすぐには信じなかった。
けれど、サイモンの背後には実際に荷を整える者たちがいる。自分を誘うためだけに用意された芝居だと言い切るには、動きが淡々としすぎていた。
「僕に、何をしろって言うんですか」
「何も」
「何も?」
「今のあなたにできることは、多くありません」
胸の奥に、鋭く刺さった。
オスカーはサイモンを睨んだ。
「……はっきり言いますね」
「嘘を言えば、来ますか」
「行くなんて言ってません」
「そうでした」
サイモンは少しだけ頷いた。
「なら、戻りますか」
戻る。家へ。エマのところへ。
オスカーは後ろを見なかった。
見れば、道を思い出す。曲がる角、傾いた石、家の扉。全部、思い出してしまう。
「その深い場所に、何があるんですか」
自分の声が、思ったより小さかった。
サイモンはすぐには答えなかった。
倉庫の奥で、誰かが低く咳をした。荷車の車輪止めが外される音がする。彼らは待っている。けれど、長くは待たない。そういう空気があった。
「治せないと言われたものに触れた記録があります」
サイモンは言った。
オスカーは息を止めた。
足が。
その言葉は、口にしなくても胸の中で形になった。
「……足が治るってことですか」
「約束はしません」
サイモンの返事は早かった。
「治ります、と言えば嘘になります」
「じゃあ」
「ですが、変わった例がある」
「誰の」
「記録です。名は残っていません」
「そんな話、信じろって言うんですか」
「信じなくていい」
サイモンは静かに言った。
「私は、あなたに信じてほしくて話しているわけではありません」
オスカーは眉を寄せた。
「じゃあ、何で」
「あなたが、今のまま帰りたくないと言ったからです」
言った。
確かに、言った。
でも、それを使われた気がした。
「足が治れば、全部よくなるなんて思ってません」
オスカーは言った。
「姉さんと喧嘩したことも、今日のことも、なかったことにはならない。ロイたちが言ったことも、僕が怒ったことも、何も消えない」
「ええ」
「姉さんだって、急に僕を見る目を変えたりしない」
「そうでしょうね」
「じゃあ、意味ないじゃないですか」
サイモンは、そこで少しだけ目を細めた。
笑ったのではない。ただ、何かを測るような目だった。
「全部は変わりません」
彼は言った。
「足が治っても、昨日の言葉は残ります。今日踏まれた豆も戻らない。傷ついた肘も、そのままです」
オスカーの手に力が入った。
言わなくていい。そう思った。
そこまで言わなくていい。
けれど、サイモンは続けた。
「それでも、立つ場所は変わります」
古い倉庫の扉が、風で小さく鳴った。
「少なくとも、同じ椅子には座らずに済む」
オスカーは動けなかった。
同じ椅子。
家で火を見て、鍋をかき混ぜて、エマの帰りを待つ。怪我をしていないか心配しながら、帰ってきた姉に怒れず、怒った後で自分を責める。外で何かされても隠して、隠したことに気づかれないように笑う。
それが嫌だったのか。
エマのことが嫌なのではない。家が嫌なのでもない。
ただ、そこにいる自分が嫌だった。
「治った足で帰れば、お姉さんの前で、同じ顔をしなくて済むかもしれません」
サイモンの声は低かった。
オスカーは唇を噛んだ。
「そんな言い方」
「嫌いですか」
「ずるいです」
「そうでしょう」
「分かってて言ってますよね」
「はい」
はっきり認めた。
オスカーは笑いそうになった。
笑えるはずがないのに、喉の奥が変に震えた。
「あなた、悪い人ですね」
「そう見えますか」
「見えます」
「なら、戻るべきです」
サイモンは、少しも困らなかった。
そのことが、またオスカーを立ち止まらせた。
戻るべき。
そう言われると、戻れない。
命令されているわけではない。引き止められているわけでもない。助けてやると言われているわけでもない。
ただ、道が二つある。
片方は、知っている道。もう片方は、知らない道。
知っている道の先には、エマがいる。
エマの手がある。声がある。心配する目がある。きっと、温かい食事もある。あの家には、自分の椅子もある。
戻れば、たぶん泣ける。
怒られて、謝って、またうまく言えなくて、それでもきっと、エマは自分を家に入れる。
それが分かっているから、苦しかった。
「僕が行ったら、邪魔になりますよね」
オスカーは言った。
「なります」
サイモンは即答した。
オスカーは少しだけ息を呑んだ。
「そこも嘘をつかないんですね」
「つけば、歩きやすくなりますか」
「……なりません」
「なら、言いません」
サイモンは倉庫通りの奥を見た。荷を整えていた者の一人が、短く手を上げた。声は出さない。急かしているのだと分かった。
「あなたを守るためだけの余裕はありません。私は、仕事で行く。連れもいる。道も楽ではない。戻るなら、今です」
戻るなら、今。
その言葉は、扉のようだった。
閉じる前の扉。
オスカーは胸元に手をやりかけて、途中で止めた。服の下には、母の祈り紐がある。いつもあるものだ。今日は少しだけ、紐の感触が近く感じた。
なぜかは分からない。
ただ、触れたら帰ってしまいそうで、手を下ろした。
「姉さんに、何て言えばいいんですか」
聞いた後で、自分がもう行く方のことを考えていると気づいた。
サイモンも気づいただろう。
けれど、顔には出さなかった。
「治った足で帰ってから、考えればいい」
優しい言葉ではなかった。
ひどい言葉だった。
治るかどうかも分からない。帰れるかどうかも分からない。なのに、帰ってから考えればいいなどと、まるでその先があるように言う。
オスカーは、その先を見てしまった。
扉の前に立つ自分。
杖なしで。
エマが振り返る。
驚いて、怒って、泣きそうになって、それからきっと名前を呼ぶ。
オスカー。
その声を想像した瞬間、胸の奥が痛くなった。
「……行けば、帰れるんですか」
「帰る道を失わない者だけが帰れます」
「分かりにくいです」
「分かりやすい言葉は、だいたい嘘になります」
オスカーは息を吐いた。
「本当に、悪い人だ」
サイモンは答えなかった。
倉庫通りの奥で、荷車がゆっくり動いた。車輪が乾いた石畳を噛み、低い音を立てる。灯りを絞った小隊が、影の中で形を変えた。誰もオスカーに声をかけない。見てはいる。けれど、待ってはくれない。
行くなら、自分で歩くしかない。
オスカーは袋を見下ろした。
泥のついた根菜。潰れた香草。切れかけの紐。
これを持って行くのか。そう思って、少しだけ迷った。
捨てることもできた。
でも、捨てたら、本当に帰らない人間になる気がした。
袋の中で、潰れた香草がかすかに匂った。
帰れば、鍋に入れるはずだったものだ。
オスカーは袋を握り直した。軽い。ひどく軽い。けれど、空ではない。
杖をつく。
一度。
乾いた音が倉庫通りに響いた。
サイモンは振り返らなかった。ただ、歩き出す前に少しだけ横へずれた。通れるだけの幅を空ける。手は差し出さない。
その方がよかった。
オスカーは一歩進んだ。
足は痛い。肘も痛い。袋の紐は指に食い込む。
それでも、歩ける。
家へ戻る道は、後ろにあった。
どの角を曲がればいいかも、どの石畳で杖が滑るかも、エマが待っている家の扉も、全部知っていた。
知っているのに、振り返らなかった。
「サイモンさん」
男が足を止める。
「これは、命令じゃないですよね」
サイモンは、前を向いたまま答えた。
「あなたの選択です」
その言葉を、オスカーは受け取った。
受け取ってしまった。
古い倉庫の扉が背後で鳴った。夕方の影が、石畳を長く伸びている。市場の声はもう遠い。家の灯りも見えない。
オスカーは、サイモンの背中を追った。
家へ戻る道ではない方へ。
前書きの設定情報を修正しました。
本作品は未完成な部分や表現に納得できない箇所が随所にあります。なので、随時修正します。
シナリオや展開を変えるつもりはありません。
ご容赦ください。




