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ダンジョンサポーター  作者: Aramaki_mai
第三章 白い封筒
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第36話 作戦会議

ダンジョンに潜る人たちの話です。

ライト文芸寄りのダークファンタジーです。


▼登場人物

エマ・ウォーカー     主人公です。

オルブライト・ケイン   白鹿のギルド長

ノル・ハーヴェイ     白鹿の探索隊長の一人

ニナ・クラーク      白鹿のギルド所属の前衛 エマの仲間

ガイ・ラザフォード    白鹿のギルド所属の前衛 特任契約者 実力者


▼主人公について

白鹿のギルドで働く二十歳前後のサポーター。

元前衛だが、今は救護、素材回収、物資管理、食料と水の配分、退路確認などを担い、探索隊を生きて帰すために働いている。


あらすじ

翌日の昼前、エマは家でオスカーと静かな時間を過ごしていた。そこへフィンが訪れ、ノルからの伝言を届ける。エマは指定された墓地近くの小屋へ向かい、ニナとともにノルから話を聞くことになる。ノルは、五階層の再調査が普通の鉱脈調査ではなく、白骸晶に関わる痕跡を探る秘密調査でもあったと明かす。さらに、その秘密がギルド内から漏れた可能性があり、六階層で三人が死にかけたのは、その漏洩と無関係ではないと告げる。ノルは二人に伏せたまま隊を率いたことを謝る。エマとニナはすぐには受け止めきれない。それでも、事件はまだ終わっておらず、白鹿は内に潜む漏洩者を見つけるために動き出そうとしていた。

墓地の近くの小屋から出る時、昼の光は少し傾き始めていた。

墓石の間を抜ける風に、乾いた草の匂いが混じっている。花を供えに来ていた女が、桶を抱えて石畳を歩いていた。石工の若い男は、削りかけの墓石の前で手を止め、通り過ぎるノルへ軽く頭を下げた。

ノルも小さく頷き返した。何もなかったように。ただの用事を終えて、町へ戻る男の顔で。

だが、背中にはまだ、小屋の中の沈黙が残っていた。

白骸晶に関わる調査を伏せたまま、五階層へ連れて行った。秘密を抱えた隊を率い、その先で情報が漏れていた可能性がある。結果として、エマとニナは六階層で死にかけた。

どれも、ノルが二人へ告げたことだった。


命令だった。必要だった。そう言える理由はいくつもある。

それでも、あの場で二人の顔を見たあとでは、どの理由も自分を守るための言葉にしか聞こえなかった。

エマは最後まで、大きな声を出さなかった。怒鳴りもしなかった。ただ、言葉を受け取るたびに、表情の奥が少しずつ硬くなっていった。

ニナは腕の布に指を添えたまま、何度か唇を結び直していた。

怒ってくれた方が、まだ楽だったかもしれない。

そう思って、ノルは自分の考えをすぐに切った。

楽かどうかで考える話ではない。

知らせずに連れて行ったのは自分だ。伏せたまま隊を率いたのも自分だ。あの場で二人が死んでいたら、命令だったという言葉は、何の役にも立たなかった。


石塀の角を曲がったところで、脇腹の奥が鈍く引きつった。

ノルは足を止めず、息だけを浅く逃がした。

白鹿の館へ戻ると、門番がノルに気づいて姿勢を正した。

「ノルさん」


ノルは小さく頷いただけで、足を止めなかった。

廊下に入ると、昼の騒がしさが少し薄れた。準備部屋の方からは、荷を運ぶ音や、水袋の数を数える声が聞こえてくる。普段通りの音だった。

だからこそ、その中に混じっているかもしれない別の耳を、ノルは無視できなかった。

ギルド長室の扉の前で、一度だけ息を整える。

叩く前に、中から声がした。


「入れ」


ノルは扉を開けた。

部屋の中には、ケインとガイがいた。

ケインは机の前に立ち、広げた帳面を見下ろしている。机には館内の簡略図と、何枚かの木札が置かれていた。

先に決めたのは、まだ大まかな方針だけだった。ここから先は、誰にどの餌を聞かせ、誰にどこまで見せるかを詰める話になる。

ガイは窓際の壁に背を預けていた。椅子は空いているのに座っていない。腰には長剣、外套は肩に引っかけただけで、いつでも動ける立ち方だった。

ノルを見るなり、ガイが片眉を上げた。


「墓地帰りにしては、顔が重いな。誰かに石でも積まれたか」


「墓地で軽い話をしてきたわけではない」


「そりゃそうだ」


ガイは軽く返したが、目は笑っていなかった。

ケインが帳面から顔を上げる。


「二人は聞いたか」


「聞きました」


ノルは扉を閉め、部屋の中央まで進んだ。


「必要な範囲だけです。白骸晶の痕跡調査があったこと。秘密が漏れた可能性があること。二人が危険の中にいたこと」


「餌の話は」


「していません」


「反応は」


ノルは少しだけ沈黙した。

エマの顔が浮かんだ。ニナが腕の布に触れた指の白さも。


「怒りより先に、受け止めようとしていました。だから、あとで効くと思います」


ガイが窓から離れた。


「怒鳴らない奴は厄介だ。こっちの胸に針だけ置いて帰る」


ノルはガイを見た。


「経験があるのか」


「何度もある。俺が悪い時は特にな」


ケインが短く息を吐いた。笑ったわけではない。ただ、場の熱を一度逃がしたような息だった。


「二人にはしばらく目を置く。表向きは怪我と毒の経過確認だ」


「ニナは動こうとします」


「止めろ」


「止めます」


「エマは」


ノルは答える前に、机の上の木札へ視線を落とした。


「止めても、理由が弱ければ動きます」


「だろうな」


ケインは机の上に伏せていた木札を、三枚だけ選んだ。

それを、少し間を置いてから一枚ずつ表に返す。

最初の札には、物資記録室。次の札には、東側書庫。最後の札には、地下保管棚と書かれていた。

どれも白鹿の館の中にある場所だった。記録が集まり、古い物がしまわれ、人の出入りもある。噂が流れても不自然ではない。だが、夜や決められた時刻に誰かが触れれば、必ず痕跡が残る場所でもあった。

ガイが木札を見下ろした。


「三つか」


「聞かせる相手を分ける」


ケインは言った。


「同じ話を広げれば、どこから漏れたか分からん。違う話を、それぞれ違う場所へ落とす」


ノルは三枚の札を順に見た。


「どれに反応するかで、近い者を絞る」


「ああ」


ケインは指先で札の位置を整えた。


「五階層の調査結果を神殿へ出す話。領主側へ証拠を添えて提出する話。古い地図を保管棚へ戻す話。どれも、相手が無視しづらい匂いにする」


「本物は」


「置かない」


ケインは即座に言った。


「奪われても、こちらの傷にならんものだけを置く。紙も、残滓も、地図も、それらしく見えるだけでいい。相手が欲しがるのは中身ではなく、そこへ手を伸ばす理由だ」


ガイが短く笑った。


「嫌な釣りだな」


「嫌な相手に使う」


ケインは顔を上げなかった。


「綺麗な網で捕れる相手なら、六階層で救助のふりなどしていない」


ノルは黙った。

その言葉で、浅い水の匂いが一瞬だけ戻った。救助を名乗った男の声。灯り。ニナが短剣を握り直した瞬間。

あの場で崩れたのは、床だけではなかった。

ガイも、もう笑っていなかった。


「で、誰にどれを聞かせる」


ケインはそこで初めて、二人を見た。


「細かい割り振りは、ここで全て口にしない。知る者を増やせば、その分だけ濁る」


ノルの目がわずかに動いた。


「俺にも伏せますか」


「必要なところだけ伝える」


ケインの声は変わらなかった。


「お前を疑っているわけではない。だが、疑っていない者にまで全部を持たせる必要はない。今は、そういう段階だ」


ノルは反論しなかった。

納得したわけではない。けれど、正しいとも思った。

ガイが肩を軽く回した。


「俺は?」


「お前には外を見る役をやらせる。館の中で誰が動くかを見るのはノルだ。外へ話が出た時、追える位置にいるのがお前だ」


「つまり、飯屋でまずい煮込みを食う仕事だな」


「勝手に食え。仕事は忘れるな」


「忘れたことはない」


ガイはそう言ってから、少しだけ口の端を上げた。


「まずい味は忘れたくても残るけどな」


ノルは三枚の木札を見た。

「見る目が足りません。三つ同時に動かすなら、俺とガイだけでは薄い」


ケインは頷いた。

「ミレイにも協力させる」


ガイが少し目を上げた。

「アスターか」


「ああ。表に立たせるな。見張りの顔をさせれば、餌だと教えるようなものだ。館内の人の流れを見るだけでいい」


ノルは短く考えた。

「どこまで話しますか」


「白骸晶の名は出さない。餌の中身も話さない。不自然に保管場所へ近づく者がいないかを見る。それだけだ」

ガイが口の端を上げた。


「あいつ、理由は聞くぞ」


「聞くだろうな」


ケインは平然と言った。

「だが、任された場所は守る」


三枚の木札は、何も語らない。

だが、そこへ流す話には、それぞれ違う匂いがある。神殿へ届くもの。領主側へ渡るもの。古い地図に関わるもの。

どれかに誰かの手が伸びる。あるいは、伸びない。伸びなかったことにも意味が出る。

それが、これから白鹿の中に落とされる餌だった。


「相手が、書類ではなく人を狙う可能性は」


ノルが言った。

ケインの目が細くなる。

ガイの軽さも、そこで少し消えた。

ノルは続けた。


「六階層では、証拠を消すために負傷者を殺しに来ました。今回、漏れ口に近づいたと悟られれば、口を封じる方向に動くかもしれません」


「だからガイを呼んだ」


ケインは即答した。

ガイは肩をすくめた。


「俺は紙より人間の方が追いやすい。逃げる奴も、殺しに行く奴も、足音が変わる」


「相手を見つけても、すぐ捕まえるな」


ケインが言った。


「尾を引けるなら引く」


「殺されそうなら?」


ガイの声が少し低くなった。

ケインは迷わなかった。


「助けろ。証拠より命が先だ」


その一言で、部屋の中の空気がわずかに変わった。

ノルはケインを見た。

ケインは帳面から目を離さない。

だが、その横顔には、ギルド長としての冷たさだけではないものがあった。


「裏切り者を炙り出すために、身内を餌として死なせる気はない」


ケインは静かに続けた。


「白鹿はそこまで落ちていない」


ガイが、珍しくすぐには茶化さなかった。

ノルは短く息を吐いた。


「分かりました」


「ただし」


ケインは顔を上げた。


「情で判断を鈍らせるな。相手が内の者でも、外の者でも、同じだ。証拠が出るまでは決めつけるな。証拠が出たら、ためらうな」


「はい」


ノルは返事をした。

その返事は、隊長としてのものだった。

けれど、胸の奥には別の重さがある。


内にいる。


その言葉は、夜のギルド長室で聞いた時よりも、今の方が重かった。

エマとニナへ話したあとだからだ。

知らされずに危険へ入った者たちの顔を見たあとで、なお次の罠を仕込まなければならない。

ケインが木札を一枚、ノルへ渡した。


「明日から流す。お前は記録係の棚卸しに立ち会え。理由は、五階層報告書の整合確認でいい」


ノルは札を受け取った。

そこに書かれている場所を見て、眉を動かさなかった。


「分かりました」


「話しすぎるな。紙を見ろ。人を見ろ。問いただすな」


「はい」


ガイが窓の外へ目をやった。

館の外では、昼のざわめきがまだ続いている。誰かがその流れに紛れて出ていくなら、追うのはガイの役目だった。


「了解」


ガイは短く答えた。

それから、ふと思い出したようにノルを見た。


「お前、その体で帳面番か。白鹿は人使いが荒いな」


「立って歩ける」


「それを言う奴は、だいたい立って歩けるだけだ」


ノルは返そうとして、やめた。

ケインが先に言った。


「終わったら治療室へ戻れ」


「まだ確認することが」


「戻れ」


短い命令だった。

ノルは少しだけ目を伏せた。


「分かりました」


ガイが扉へ向かいながら、振り返った。


「墓地の小屋で重い話をして、ギルド長室で罠を仕込んで、最後に治療室へ戻される。いい一日だな」


「良くはない」


ノルが言うと、ガイは薄く笑った。


「良くない日を、これ以上悪くしないための会議だろ」


その言葉だけは、軽口に聞こえなかった。

ケインは机の上の館内図を畳まなかった。

木札も、そのまま置かれている。

どの札も、まだ紙の上ではただの場所だった。

だが、その場所へ流す話に誰かが触れた時、白鹿の中にあるひびの位置が見える。

ノルは扉を開ける前に、一度だけ部屋を振り返った。

ケインはもう帳面を見ていた。ガイは廊下の先を見ていた。二人とも、違う方向を見ているようで、同じ場所を警戒している。


白鹿の内側。


そこにあるかもしれない小さなひびを、これから自分たちで探す。

ノルは静かに扉を閉めた。



本作品は未完成な部分や表現に納得できない箇所が随所にあります。なので、随時修正します。

シナリオや展開を変えるつもりはありません。

ご容赦ください。

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