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ダンジョンサポーター  作者: Aramaki_mai
第二章 六階層崩落
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第31話 一人だけの少女

ダンジョンに潜る人たちの話です。

ライト文芸寄りのダークファンタジーです。


▼登場人物

エマ・ウォーカー     主人公です。

ノル・ハーヴェイ     白鹿の探索隊長の一人

ニナ・クラーク      白鹿のギルド所属の前衛 エマの仲間


▼主人公について

白鹿のギルドで働く二十歳前後のサポーター。

元前衛だが、今は救護、素材回収、物資管理、食料と水の配分、退路確認などを担い、探索隊を生きて帰すために働いている。


あらすじ

白鹿の館の治療部屋で、ノルとニナは目を覚ます。エマは毒と傷の確認を受けたあと、オスカーの待つ家へ先に戻されていた。治療部屋に残った二人は、深い傷と毒の痺れを抱えながら、自分たちが生きて帰ったことを確かめ合う。昼過ぎ、灰鷹のカーラがノルの見舞いに訪れ、ニナは眠ったふりをしながら二人の静かなやり取りを聞いてしまう。少しだけ柔らかな空気が流れる一方で、六階層の暗がりと偽救助の男の記憶は、まだ消えていなかった。その夜、ニナは眠れないまま、あの場所の音と冷たさを思い出していた。

夜になると、館の中は静かになった。

昼間は何度も人が出入りした。マルタが来て、白鹿の治療係が来て、ケインの使いが来た。

水を飲め、薬を飲め、熱を測る、包帯を見る、眠れ。何度も言われた。

けれど、夜は違った。


灯りが落とされ、廊下の足音も遠くなる。

その静けさの中で、ニナは目を開けていた。

眠れなかった。


目を閉じると、暗がりが戻ってくる。

男が灯りを下げた瞬間、周りの影が深くなった。顔だけはぼんやり見えていたのに、その口元から笑みだけが消えなかった。助けに来た人間の顔ではなかった。あの笑みを見た時の冷たさが、まだ胸の奥に残っている。


細い針が灯りを横切った時の音も、耳から離れなかった。短剣で弾いた手応え。遅れた左腕。袖を裂いて皮膚に食い込んだ痛み。あの一瞬から、自分の体が少しずつ自分のものではなくなっていくようで、ニナは掛け布の中で左腕を抱え込んだ。


天井が割れる音を思い出すと、喉が詰まった。石が落ちる直前、空気が重く沈む。逃げようとしても足が遅れる。止まれば潰される。動けば針が来る。あの場所では、床も壁も天井も、全部が敵の手の中にあった。


そして、崩れた石の隙間から這い出してきた石喰い虫。


白い顎が、かちかちと鳴っていた。小さな音だったはずなのに、今はやけに大きく思い出される。石を削る音が、掛け布の下から聞こえてくるような気がして、ニナは思わず足を引いた。


治療部屋にいる。ここは館の中だ。

分かっているのに、体が先に怯える。

ニナは左腕をかばいながら、掛け布の中で小さく丸くなった。

どうして、あそこまでされたのか。


ただの事故ではなかった。ただの襲撃でもなかった。

殺す気だった。確実に。

でも、なぜ。


ニナは隣の寝台を見た。

ノルは眠っていなかった。薄暗い中で、上体を起こし、壁の方を見ている。


「ノルさん」


「眠れないのか」


「そっちこそ」


ノルは答えなかった。

ニナは少し迷ってから聞いた。


「私たち、どうして殺されかけたんですか」


沈黙が落ちた。

その沈黙で、ニナは分かった。

ノルは何も知らないわけではない。

けれど、答えを持っている顔でもなかった。


「……ただの事故じゃなかったですよね」


ノルはしばらく黙っていた。


「違う」

短い答えだった。


ニナの指が、掛け布を握った。

「じゃあ、なんで」


「それを確かめに行く」


「今からですか」


ノルは寝台から足を下ろした。ニナは慌てて体を起こしかけた。

付いていこうとした。


「すぐ戻る」

ノルは短く言って、それを止めた。

ニナは唇を結んだ。

その声は強くはなかった。けれど、ついてくるなという意味だけは分かった。


「俺にも、まだ分からない。分からないまま、お前に言う方が危ない」


「……危ない?」


「間違えた答えを渡すことになる」


ニナは黙った。

少しだけ寂しそうに目を伏せ、それからゆっくり体を戻した。

ノルは壁に手をつきながら立ち上がった。


「ギルド長と話す。分かったことは、戻ってから話す」


「エマにも?」


ノルは少しだけ間を置いた。

「もちろんだ」


その答えで、ニナはそれ以上止められなくなった。

ノルは外套を肩にかけた。

歩くたびに痛むのが分かる。それでも、彼は部屋を出ていった。

扉が閉まる。

ニナは天井を見る。それから、そっと横を向いた。

エマはもう自宅に戻されたと聞いている。軽傷ではない。毒も受けた。なのに、館に残るより家で休ませた方が落ち着くだろうと、マルタが判断したらしい。


ニナは掛け布に潜った。

急に静かになった部屋に一人だけになると、あの時の光景が脳裏をよぎる。

言葉にすると、怖くなりそうだった。

あの時、自分は死ぬのだと、頭で考えるより先に体が分かっていた。

だから、ただ丸くなった。


死にたくない。


左腕をかばい、痛む足を曲げ、掛け布の中に顔を埋める。

誰か、一緒にいてほしかった。

暗がりの中で、エマが最後に叫んだ声だけが耳に残っていた。


三人います。

二人とも、まだ帰れます。


その声が、なかなか消えなかった。

本作品は未完成な部分や表現に納得できない箇所が随所にあります。なので、随時修正します。

シナリオや展開を変えるつもりはありません。

ご容赦ください。

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