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サポーターの役割

ダンジョンに潜る人達の話です。


エマが主人公です。

オスカーは身内

ニナは親友&同じギルドの同僚


▼主人公の基本設定

名前:エマ・ウォーカー

年齢:20歳くらい

ギルド歴:10年

元DPS で ギルドの意向でサポートへ配置転換された

サポートの役割:救護/料理/素材回収/物資管理/運搬等 多岐にわたる


この物語のギルドは、ダンジョン内で採れる素材の回収を専門に請け負う組織です。

魔物の牙や皮、鉱石、薬草、魔石などを回収し、

それを商会や工房、研究機関へ卸すことで利益を得ています。

ただ魔物を倒すだけの集団ではなく、探索、戦闘、救助救援、採取、解体、運搬、物資管理まで含めて、

ひとつの仕事として成り立たせた大手組織です。そのギルドで働く人物達の物語

場面は変わり、薄暗いダンジョンの奥。

湿った石壁に、松明の火が揺れていた。

つい先ほどまで響いていた魔物の咆哮は消え、今は負傷者の荒い息遣いと、

装備を整える金属音だけが残っている。

責任を背負っている人間ほど、追い詰められると誰かを責めたくなる。

悪意があるわけじゃない。焦っているだけだ。怖いだけだ。

それくらい、エマにもわかる。

わかるけれど、何度も同じ場面を見せられると、さすがにうんざりする。。

最初は我慢できた。自分が飲み込めば済むと思っていた。

けれど最近は、その我慢が少しずつ、できなくなっている。

「なんで管理できてないの?」

隊長の声が、休息中の空気を裂いた。

「スクロールの数、減りすぎてる」

エマは腰の革袋を開き、残りの巻物を確認した。数は、予想よりも確かに少ない。

だが、それは無駄に使ったからではない。

「言ったよね。抑えてって。緊急性のない怪我には、ポーションや薬草を優先してって」

回復用のスクロールには即効性がある。

戦闘中、今すぐ傷を塞がなければ命に関わる場面では、迷わず使うべきものだ。

一方で、時間に猶予があるなら、遅効性のポーションや薬草で処置する。

白魔導士がいないパーティでは、それが常識であり、物資を保たせるための基本でもある。

そんなことは、エマもわかっている。

わかっているからこそ、腹が立った。

「すみません」

エマは表情を崩さず、静かに答えた。

「直前の二戦が、想定より長引いたためです」

隊長は眉を寄せ、副隊長へ視線を向けた。

「そんなに時間、かかってた?」

副隊長はすぐには答えなかった。

言い出しづらそうに、わずかに間を置く。

「……少し、かかりすぎていたかもしれない」

戦闘に集中しすぎると、時間の感覚は麻痺する。

ほんの数分のつもりが、実際には倍以上経っていることもある。

予定通りに進んでいない焦りがあるのだろう。

隊長は苛立ちを隠しきれていなかった。

「大事なことは、もっと早く相談してほしい。お願いします」

――いや、だから今、相談してるんだけど。

エマは心の中で突っ込んだ。

しかも、一回目の戦闘後にも、スクロールの減りが早いとは伝えた。

それが頭に入っていなかったのか。聞いていなかったのか。それとも、焦りで受け止める余裕がなかったのか。

どちらにしても、今それを口にすれば、話はこじれる。

エマは顔にも態度にも出さないよう、必死に取り繕った。

「わかりました。次からはそうします」

副隊長の顔をちらりと見る。

彼は、仕方ない、とでも言いたげな顔をしていた。だが、特にフォローはない。

その小さな沈黙が、妙に寂しかった。

物資報告は、通常なら戦闘二回ごとに行うことが多い。

今回もその流れに従っていた。

ただ、潜り始めた時点から減りが早いことは感じていたし、隊長にも伝えていた。

でも伝わっていなかった。いや、たぶん、頭に入ってこなかったのだ。

予定通りに進んでいない焦りが、必要な情報を弾いてしまっている。

――酒の神様。今すぐこの人を正気に戻して。

エマは胸の内で、半ば本気で祈った。

しばらくして、隊長は気持ちを整えたのか、エマのすぐ横に腰を下ろした。

一呼吸置いてから、少し声を落として尋ねてくる。

「スクロールの減りが早い理由は?」

エマは考える素振りを見せた。実際には、答えはもう出ている。

「チームの連携がぎこちなくて、負傷が増えています」

隊長の眉がわずかに動いた。

エマには、その理由もなんとなくわかっていた。

隊長の意図が、チーム全体に伝わっていない。

伝わっていたとしても、今のメンバーの性格や能力では、その指示を実行しきれていない。

けれど、それを真正面から言う気にはなれなかった。

以前、別のパーティで良かれと思って率直に伝えたことがある。

そのせいで、その後ちょっとやりづらくなり、しばらく気まずい空気を引きずることになった。

――率直すぎて悪かった、ってやつだね。正しい指摘が、正しく届くとは限らない。

むしろ、人を傷つけることだってある。

人間は、本当に面倒くさい。

隊長は役職柄、メンバーを育てながら成果も出さなければならない。

死が現実として存在するこの空間で、育成と収益を両立させる必要がある。

それがどれほど大変か、エマにもわかる。

一時期は、自分もそこを目指していた。

だからこそ、理解できる。

理解はできる。

だが、同じような場面を、別の人間、別のパーティで何度も味わってきた。

正直、もううんざりしていたのだ。

最初は、自分が我慢していれば済んだ。

けれど最近は、耐えきれず言い返すことが増えている。

――なんでだろう。

エマは小さく息を吐いた。

――でも今回は耐えた。偉いぞ。

隊長はしばらく黙ったあと、口を開いた。

「連携か。それは私も感じてた。そこは、皆と話す」

そこで一度、言葉を切る。

「それより、エマはどうなの? スクロールの消費を抑えられたと思う場面は、なかったの?」

エマは記憶を辿った。

前の戦闘。

その前の戦闘。

負傷者の位置。

魔物の数。

攻撃組の動き。

使ったスクロールの枚数。

結論は変わらない。

ない。

無駄にした場面はなかった。

むしろ、使わなかったら死者が出ていた。

それなのに、こういう聞き方をされると、胸の奥がざらつく。

信じていないのか。

全体の状況が見えていないのか。

それとも、責任の置き場を探しているだけなのか。

必死なのはわかる。

でも、だからといって、こちらが何も感じないわけではない。

言葉にできないもやもやが胸に溜まる。

そして最終的に、頭に浮かぶのはひとつだけだった。

――だめだ。今の私に必要なのは、正論じゃなくて酒だ。

エマは、そんな本音を微塵も顔に出さず、神妙な面持ちで顔を上げた。

「最善を尽くしたと思う」

少し弱い言い方だった。エマ自身、それに気づいた。

だから、すぐに言い直す。

「尽くした」

隊長はエマの目を見て、短く頷いた。

「わかった。物資はどれくらい持ちそう?」

「安全に見て、あと一日」

エマは即答した。

「それ以上は、全員が戻ってこられなくなる可能性が高い」

隊長はその言葉を聞くと、ゆっくり立ち上がった。

そして攻撃組の方へ歩いていく。

その背中から、感情は読み取れなかった。

――ほんとにわかった?

エマは心の中で呟いた。


サポーターの仕事は忙しい。

隊長が各メンバーと連携について話し始める。

その間に、エマはポーションと薬草を使って負傷者の治療を行った。

傷口を洗い、薬草を当て、包帯を巻く。

痛みに顔をしかめる者には水を渡し、動ける者には次の準備を促す。

治療が終わると、今度は食事の支度だ。

火を起こし、携帯食を温め、消耗した者から順に食べられるように配る。

話し合いが終わる頃には、食事の準備もほぼ終わっていた。

そこからさらに、魔物の素材回収に取りかかる。

エマは黙々と作業を進めた。

刃を入れる位置。

皮の剥ぎ方。

骨や牙の外し方。

使える部位と捨てる部位の見極め。

解体の速度と丁寧さには、少し自信がある。

――はい、ここ褒めるところ。

もちろん、誰も褒めてはくれない。

メンバーが食事をしている間も、エマは作業を続けた。

ようやく解体を終えると、冷めかけた食事を一気に口へかき込む。

その間に、他のメンバーは次の戦闘に備えて装備を整えている。

サポーターは、常に動き続ける。

治療。

物資管理。

食事。

素材回収。

荷物の整理。

状況報告。

撤退判断の提案。

パーティが円滑に回るように。

誰かの無理が、誰かの死につながらないように。

この閉鎖空間で、全員が生き残れるように。

それが、エマの役割だった。

しばらくして、隊長が全員を見渡した。

「皆、準備はいいか?」

副隊長がすぐに答える。

「大丈夫。出発できる」

他のメンバーたちも、少し遅れて返事をした。

「いける」

「問題ない」

「大丈夫です」

副隊長だけが即答だった。

――中間管理職の鑑。ご苦労様です。

エマは心の中で、そっと労った。

隊長は全員が揃ったのを確認すると、改めて口を開いた。

「皆、聞いてほしい」

その声に、メンバーたちの視線が集まる。

隊長は一人ひとりを見るように、ゆっくりと言葉を続けた

「まず、全員生きてここにいる。それが何よりだ。よくやってくれた。だが物資は心もとない。

予定していたほどの成果も出ていない。あと一日が勝負だ。可能な限り魔物を狩り、素材を集める。

ここからは連携を崩すな。全員で帰るぞ」

隊長の声に、わずかに緊張が混じる。

副隊長が即座に答えた。

「了解」

少し遅れて、各々が返事を返す。

「了解」

「了解です」

エマも、最後に短く頷いた。

「了解」

胸の奥にはまだ、もやもやが残っている。

それでも、やることは変わらない。

生きて、全員で帰る。それが私の目標だ。



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