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杭打ちの伝令  作者: にに部
第一章 「春失くし」
31/34

30 狂乱の舞い



「……」


 有鱈は、まず南の方、ヴィルビのボロ屋の安否を確認しようとした。

 分明には見えないが、そちらの民家が襲撃されたようには見えない。

 どうやらコンキリオウは、威嚇のために化け物たちを行かせただけで、攻撃はさせなかったらしい。


「ふぅ」


 一応は、胸をすりおろす。


 だが、安心できる状態とは程遠い。

 そもそも、なぜあの怪物たちは戻ってきているのだ?

 もしや、司令塔、『美の女神』との連結が失われた混乱からなのだろうか。

 まずは本能的に、主が最後に居た場所まで帰還しようとしているのか?


 結論は出せない。

 が、それよりも重要なのは実際の状況だ。

 人殺しの化け物たちが、まだ住民が残っているこっちの城下町へ集まって来ている。

 状況は更に困難になったということだ。


「────」


 街の方を見下ろす。

 まだ夜明けまでは遠いが、軒の下には殆ど灯りが点けられていることが見える。

 道に出てうろうろしている人数もある。

 どうやら、砦の爆発を見たのが原因らしい。


「────」


 彼らは右往左往している。

 このままほっといていると、彼らがどんな終焉にあうのかなど、明白だ。


 彼らは、『餌食』となるだろう。


「……クッ」


 だが、ヴィルビ姉貴の息子、フィーゼのことがまだなのだ。

 今一番大事なのは、あの少年の確保のはず。

 再度邸へ突入して、彼を探さなければならない。


 だが、住民たちが危険だと分かっていて、それを全部見逃して捜索するというのは。


 どうすれば、いいのか。


「……ク、ウッ」


 拳に力を入れすぎた。

 爪先が掌を刺すのが分かる。


 思い出すことは、あの二つの碧さだ。

 未だに、困った時には彼女のことを思い出してしまうのだ。


(……クィレアクト、お前だったら、どうしていた?)


 だが、彼女はもうここにはいない。

 自分でどうにかしなくてはならない。

 自分で決めなければならない。


 それはとてつもなく恐ろしいことだけど、やるしかない。


 有鱈は舌打ちをした。

 そして、門楼の塔の矢狭間の上に立ち上がった。


「────注目せよ!!! ご領主様からのお伝だ!!!」


 大きな声で、住民たちに告げる。


 幸い、雪も風もあまりない、久しぶりの天気の優しい夜である。

 だから、その声は良く伝えられる。


 街の中の人々の眼光が、こっちに向けられることが闇の中でも分かった。

 ある人は家の中から、窓越しで砦の方に目を注ぐ。


「ただいま、南から人食いの怪物が攻めて来ている!!!」


 その報せだけは、事実そのままである。


「街の中で兵士たちが迎撃をするから、お前らは西のあの大きな堂宇に避難して、周りが落ち着くまで絶対そこを出るな!!!」


 人々が怯えて、当惑するのが分かる。

 でも、その言伝の意味だけはしっかと伝えられた。


「────」


 疑問を唱える者はなかった。

 いきなりの命令のわりには素早く従って、住民たちは西の方へ移動して行く。


 しかし、『堂宇』という語彙は少し妙だったかも知れない。

 が、この街の大きな建物だと言ったら北の砦と西の教会しかいない。

 それが何を指しているかは明らかだった。


 何で、この街の兵士が、教会を教会と呼ばないで、敢えて『堂宇』と称するのか。

 やはり、そんなことに疑問を覚える者はいない。


「────よし」


 もともとこの街は面積が狭くて、住民の残り数も少なくなっていた。

 おかげで、その避難は相当な速さで行われた。

 最近の失踪事件の連続のせいで、人々が既に緊張状態だったのも原因だったろう。

 ここまで化け物たちが踏み入れる前までは、『堂宇』の大門は閉ざせそうだ。


「?」


 だが、有鱈を訝しげな表情にさせる二つの点が、砦を囲む濠のあたりに見えた。

 それは騎乗している人のようで、何か長い羽織を纏っている。どうも住民には見えない。

 彼らにもこっちの話は聞こえたはずだが、『堂宇』まで移動する気はなさそうに見える。


 その服の様式からして、有鱈には思い当たることがあった。

 今は、ほっといても別状はないだろう。


 有鱈は右折した。

 壁に凭れているディギタリスに目を向ける。

 彼女は怪物の接近を知った途端、生殖器の部屋で感じたことと同じ恐怖に陥っているようである。


「こんなはずじゃ……何で初任務でこんなことに……私はどうしたら……」


 そんなことを、ぶつぶつ言っている。


「おい」


「……っ、なによ」


 話かけてくんな、とでも言いたげな顔をして、こちらを睨む。


「どうせもう、終りでしょ? 怪物の浪が見えなかったの? せめて最後ぐらいは静かにさせてよ。頼むから、ほっといて」


「騎士って奴らは、みんなそんなに諦めが早いのか?」


 有鱈は彼女に呆れてしまう。


「……まぁ、しかたねぇか」


 だが、自分に誤りがあることがすぐ分かった。


 ここで普通の反応をしているのは、ディギタリスの方なのだ。

 おぞましい怪物が攻めて来ているという状況だ。

 あんな小娘に、絶望するなって言っても、無理な要求に決まっているじゃないか。


「まぁ、とにかく、良く聞けよ。お前の力が必要になれそうだから」


「……なによ、私に出来ることが何があるっていうの? どうせ何も出来ない、『小娘』だよ?」


「お前、俺の背中に風穴開けようとした時の勢いはどこに行ってんだ? 少しは気をしっかりしろ!」


 有鱈は矢狭間から降りて、彼女のところへ近寄る。

 そして、へたれ状態の彼女の片腕を掴んで、立ち上がらせる。


「お前、そしてお前の……えーと、ソーなんとかは──」


「──ソーフォイオール!!」


 デカ女の不満げな声が鳴り響く。


「はいはい、騎士ちゃんとソ―ちゃんだな」


 耳がほじりながら、有鱈は適当にそう言った。


「とにかく、お前らは『目』が良いようだな。遠くからでも標的を狙えるんだろ?」


「それは、そうなんだけど」


 疑り深い表情で、赤毛の少女は応じる。


「お前らは今から、ここの高台から、近寄る奴らのことを全部ぶっ放せ」


 言いながら、有鱈は指を弾いて、何かを打つ仕草をする。


「出来るだけ多く倒せる方がいいけど、暴走して魔力切れにならないように、気を付けろ。あの一発一発って、魔力の消耗がけっこう激しいんだろ?」


 聞いていて、ディギタリスは眉根を寄せる。

 少しこの男の態度が信じられなかったのだ。


 ……あんなに多い数の、恐ろしい形の化け物が寄せられているのに。

 この男は、まるでここで生き抜くことが当たり前のことのように、言っている。

 認めたくはなかったが、その態度が、彼女をとても安心させた。


「……分かったわ」


 ディギタリスは頷いた。


「よし。じゃあ、今から始めろ」


 その言葉に促され、ディギタリスは右手を遠くへ伸ばす。

 すると、空中のソーフォイオールの杖から光線が放たれる。

 それは、南の門から入ったばかりの一頭の頭部を破壊した。


 ディギタリスは、少しは元気を取り戻した。

 あの化物の群れは、自分の魔術でも殺せると知ったからだ。

 生殖器の部屋の中で出くわしたあの二人よりは、ずっと各の落ちる種類のようだった。


「良いぜ。その調子で、続けろよ」


 そう言い残して、有鱈は再びさっきの矢狭間の上に立った。


「待って! あんたは、どうするつもりなの?」


 有鱈は、自分の肩越しでディギタリスの方を一瞥した。


「俺は? ヘッ」


 一瞬、確かに。

 その顔の上には、笑いが浮かんだ。


 いつの間にか、彼は両手にそれぞれ杭を強く掴んでいる。

 杭打ちは、口を開けた。


「──是非を齎す」


「は?」


 ディギタリスは、それがうまく理解できなかった。

 しかし、その言葉には聞き覚えがある。


 そうだ。

 それはついさっき見ていた、影灯籠の最後に──


 それに気づいた時には、杭打は跳ね上がっていた。


「な──」


 そのまま、男は地面にまでまっしぐらに落下した。





 彼が着地したところは、ちょっとした広場だ。

 それは、砦の入口に繋がる、跳ね橋の正面に位置している。

 しかし、広場と言っても、街の規模にあう小さいところだ。

 それでも、このあたりの区画の空間では一番広々とした場所である。


 どうせ、泥浴びの化物たちはこっちへ向かって近づいている。

 だったら、こっちから追う必要はない。

 接近する奴らを、悉く返り討ちにする。

 それが有鱈の考えだった。


 南の方へ向かって、有鱈は突っ立つ。


「あ、貴方は──」


 すると、後ろから、ある男の狼狽した声音が聞こえた。


「────」


 直後、有鱈の左側頭部に、何かが凄まじい速度で襲いかかった。


 有鱈は、それを容易く片手の杭を以て弾く。


「……」


 有鱈は、後ろを一瞥する。


 すると、二人の男子が馬の上でいた。

 二人とも砦の壁の上の赤毛の少女と同じ羽織だ。

 さっき矢狭間の上で見かけたあの二人である。


 一人は有鱈より少し年上に見える、黒髪の男だ。

 驚いた様子で、口を開けたままこっちを見ている。


 もう一人の男は、ずっと幼い。

 麹塵の色をした、分け目のつけられた髪の下、硬い表情をして、有鱈を睨んでいる。

 そして、彼は右手をこっちへ伸ばしている。その動作は、今の攻撃と何か相関があるようだ。


 少し目を転がせて、有鱈は自分を襲ったものが何なのかを探した。

 すると、道端の上で鉄球みたいなものを見つけた。

 どうやら、麹塵色の髪の少年が飛ばしたのは、あの鉄球だったらしい。


「……今はお前の曲芸に付き合ってらんねぇ」


 有鱈は、主に幼い方の騎士に言った。


「せめてもの、ここへ来てる奴らを全部殺した後にしろ!」


 それだけ言い、杭先で南を指した。

 そっちから、奇妙でおぞましい吠える音が近づくのが分かる。


「! …………チッ」


 どうやら、話がまるで通じない相手ではないらしい。

 あの幼い騎士の方は、すんなりと右手を下ろしたのである。

 すると、鉄球は彼の元へ飛んで行き、羽織の下へ隠れた。


 有鱈も彼らから視線を戻し、再び南方を見た。


「さぁ、来るぜ」


『美の女神』から祝福されし子供たちが、すぐ近くまで来ていた。





❖   ❖   ❖





 それから──

 三人の騎士たちは、景色を見物する見物人となった。

『見物』という表現が、実に正しい。


 ソワンコール班長はさておくとしよう。

 しかし、顧問騎士エンセヴと、壁上のディギタリスは、攻撃するすべはあったはずだ。

 それでも、彼らが介入する余地はない。

 有鱈の前まで怪物たちが攻め込んで来てからは、ずっとそうだった。


 杭打が見せてくれたものは──狂乱の舞いだった。


 有鱈は、広場を囲む色んな物を踏み台にして、縦横無尽に動く。

 まるでどっちが天空でどっちが大地なのかを忘れたかのようだ。

 そんな動きで、ただ杭だけを以て、近づくものをつんざいて行く。


 一匹を仕留めるたび、一つの杭を使い切る。

 怪物の醜い胴体は貫かれて、壁際や地上に、『固定』される。


 しかし、最初に持っていた杭は二梃だったはずだ。

 当然、二匹の後は武器を失うべきだったが、

 その後でも、彼は次々と新しい敵を杭を以て貫く。


 使い魔の観察眼を通じて、ディギタリスははっきりと見た。

 男は、その手首から何度も何度も杭を抜いていた。

 まるで、鋼で出来ている身体のように、

 繰り返し、彼は杭を抜き、それで怪物を刺し肉にする。


 たまに、その手から杭が投げられ、それは凄まじい勢いで飛んでいく。

 すると、杭はそれに当たったものを、一定の所に『繋ぎ止める』。

 そして、貫通されたものは、もう動けない体になる。


 たとえ一撃で生き延びたとしても、固く固定されてしまった。

 貫かれた怪物は身悶えるが、それから逃れることが出来ない。

 もう直に、生命力をもれなく零せられてしまい、やがては息絶える。





 だが、その狂乱の舞いがどれほど華麗だと言っても、無敵ではない。

 有鱈は、たまに危うい境遇に会う。

 そして、運悪く乗り切れない時もあるのだ。

 例えば、今のように。

 彼の背中を、奇形の巨大なサソリに似た怪物が、尻尾で狙って来る場合──


「──ッ」


 しかし、その尻尾の先は、いきなり爆発される。

 有鱈は、やっとその敵に気づいた。

 サソリの頭部と呼べる部分を、杭を以て地面にぶっ刺す。


「────」


 耳障りの奇声を上げたその怪物は、やがて動作を停止する。


「……ヘッ、まあ、やるじゃねぇか」


 有鱈は壁上の二人を瞥見して、呟いた。


 そして、すぐさま、狂乱の舞いに戻る。





「……す、すごい。これほどの実力者だったとは」


 ソワンコール班長は、全くの部外者となっていた。

 彼は、馬の上でその戦いを見つめながら、感嘆する。


「これでは、あの男ひとりで全部やっつけられるかも知れないですね」


「……杭打、『碧い魔女』のしもべの力……」


 隣のエンセヴは呟いた。

 そして、彼特有のニヤケ面に戻る。


「何が『曲芸』ですかね。僕の『重り』より、あなたの『杭』の方がずっと華麗に舞うじゃないですか」


 彼は、なぜかとても上機嫌そうだった。


「班長、僕たちも、住民たちが避難したあの教会の方へ、行きましょう」


 エンセヴはソワンコールに話しかける。


「はっ? で、でも……」


 班長はためらう。

 騎士として、敵を前にして避難するというのが、流石に気にいらなかったらしい。


「どうせ、僕たちに出来ることなど何一つないですよ」


 エンセヴはニヤケ面のままで、言う。


「それなら、もしもの場合に備えて、教会の住民を守りに行くのが良いじゃないですか?」


 言い訳みたいだが、それでソワンコールは少し納得することが出来た。


 何より、杭打の舞いが自分に言い続けていたのだ。

 自分に出来ることなど何もない、と。


「……そうですね、行きましょう」


 班長は頷く。


 二人は、教会の方へ出発した。





❖   ❖   ❖





「あの男は、いったい……」



 砦の門楼の上。使い魔ソーフォイオールは、そう言った。


 本来なら、そんな話をする余裕も無く、魔術をぶっ放し続けるべきだった。

 しかし、下には広場では、怪物を虐殺する『舞踊』が行われている。

 おかげで、こっちは手を休ませているのだ。


「さきほどは、まるでわたくしたちに大役を担がせるとでもいいたいように頼んだのに」


 呆れた口調で、ソーフォイオールは言った。


「これでは、わたくしたちは、ただ客席の観客ですね」


「……」


 それを見つめる赤毛の少女騎士の眼光は、やけにきらびやかだ。

 何か危険な衝動を含んでいる。


「ソーフォイオール」


 ディギタリスは使い魔を呼ぶ。すこししゃがれた声だ。


「はい?」


「彼があの怪物たちを全部倒したら……彼の足を撃て」


「えっ」


 長い金髪を靡かせて、ソーフォイオールは相棒の方に向かう。

 彼女に呼吸をする必要はないのだが、それでも息が詰まった気になったようだ。


「いい? 殺したら絶対駄目よ。生きたまま捕まえるのよ」


 あのおかしな眼光のまま、ディギタリスは空中の使い魔を見る。


「必ず足を撃って、動きを封じるのよ。手加減はいらないわ」


 その声音は冷酷というより、焦っているようだった。

 欲しいものが目の前にある。

 でも、それを見逃すかも知れない。

 そういう、子供じみた強欲、それゆえの焦燥。


 ソーフォイオールは、相棒の幼い頃を思い出した。

 その頃も、欲しい人形のことで親にせがむ時に、彼女は似たようになっていた。

 しかしあの頃は、小さい子供だから、かわいいおねだりとして見ることが出来た。

 でも、今は……。


「……」


 答えはしなかった。

 それでも、分かっている。自分はそれに従うしかない。

 それが盟約の決まりだからだ。


 使い魔は、杖の狙い先に、杭打の足を置いた。


 もうすぐだ。

 すでに、怪物の数はかなり減っている。

 壁の上の二人は、それがゼロに至ることを待つのである。


 しかし──


「えっ」


 いきなり、門楼の下から大きな振動が伝わった。


 何事かと見ていると、異変の正体はすぐに分かる。

 砦に出入りするための跳ね橋が、下ろされているのだ。


 しかし、それをしたのは、誰だ?

 地獄同然のあの砦の中に、誰か生き残りの人々がいたというのか?

 ディギタリスは理解ができず、そこから出るものを確認しようとした。


「────」


 もともと規模が大きくない建物だ。

 それはあの跳ね橋も同じで、下ろされる速度もかなり早い。

 しばらくして、その端っこが濠の向こうの地面に着いた。

 それで、砦の内外は完全に繋がれた。


 杭打の方もこの事態に驚いているようだ。

 彼は動きを止めて、その出入り口の方へ目を注いでいる。


「これは──」


 俯瞰していたディギタリスは、そんな声を出した。


 橋の上に現れたのは、幾十の子供であったのだ。

 全て少年のようで、女の子は見かけない。


 それらの正体について疑問を覚えるやいなや、新しく気づいたことがある。

 子供たちの頭の側部に、穴が開けられている。

 あんな負傷をしてでも歩ける人間など、あるはずもない。

 つまり、あれは、形が人間の少年に酷似しただけで、


「彼らもまた、泥浴び──」


 打ち倒すべき敵である。


「────」


 なのに、それを目撃した杭打の様子はおかしい。

 釘付けになって、怪物たちへの攻撃を完全に止めていた。


「なぜ、あの男は止まっているんですか?!」


 空中の使い魔が怒声に似た声を出した。


 まだまだ彼の周囲には敵が沢山あるのだ。

 そして新しく現れた疑問がある。

 緊張を緩むにはまだ早すぎるではないか。


 それを、彼が一番よく分かっているはずだ。

 なのに、どうして?





「…………」


 有鱈は、ただ見ているしかなかった。


 彼の視線の先にあるのは──

 先列の、周りの少年よりもずっと小さい子だ。

 右頬には、大きな火傷の痕が現れている。

 髪の色は、ヴィルビ姉貴と同じく、褐色に緑青色が混じったもの。


 いや、他の特徴など並べるまでもない。

 一瞬で彼だと分かった。

 だって、あまりにも似すぎているのだ。

 ヴィルビ姉貴と。グンデルと。そして、ルェモア兄貴の面影と。

 その造形の、全てが。


 しかし、ただ一つ。


 ────『彼は湖のような、潤んだ丸っこい目をしている』


 姉貴から言われたその特徴だけが、少年からは見当たらなかった。


 彼の瞳は、死者の色をしている。





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