観測エラー
異常は、微小な誤差から始まった。
観測ログの片隅。
未来計算の補助ノードが、ほんのわずかな誤差を返した。
最初に異常を発見した観測官は、 それを入力ミスだと思った。
未来計算は狂わない。
狂うはずがない。
だから再計算を実行した。
結果は同じだった。
誤差率
0.00000031%
だが数秒後、別系統のノードで同一誤差が検出される。
続いて複数ノードで同様の誤差が発生した。
未来計算ネットワークは即座に再計算プロセスを起動する。
再計算。
失敗。
再計算。
失敗。
三度目の再計算でも結果は変わらなかった。
演算室の空気が変わる。
未来計算は間違えない。
間違えているなら、原因は外部にある。
原因解析開始。
数秒後。
画面に一つの名前が表示された。
柳端。
解析結果:観測点干渉。
複数要因は検出されない。
単一干渉源。
観測官 柳端。
結果表示。
該当観測点 一件。
演算室が静まる。
あり得ない。
単独の観測官が、 未来計算全体へ影響を与えることはない。
だが画面には、 一つの名前だけが表示されていた。
柳端。
同時刻、未来確率の再算出が実行される。
統合確率
94.2%
94.1%
93.9%
変動幅は小さいが、減少傾向は一方向に固定されていた。
別の観測圏でも異変が起きていた。
時間遅延層。
第七観測圏。
未来予測と現実の誤差が、 初めて許容値を超えた。
五秒後に変わるはずだった信号が、 変わらない。
予測された未来が、 現実にならない。
優先世界の確定が完了していない。
観測官による確定処理が実行されていない場合、
アルゴリズムは確定条件を満たせず、再計算を繰り返す。
世界は収束せず、未来は確定しない。
観測ネットワークは再び計算を行う。
だが結果は同じだった。
原因。
観測官干渉。
ログ末尾に新規状態が追加される。
観測状態
不確定
未来確率が、さらに揺れる。
統合確率
93%
残存確率
7%
当該変化は、まだ上位管理系に報告されていない。
地上では通常の夜が維持されている。
人は眠り、街は静かで、明日が来ると信じている。
だがその夜。
一人の観測官が、世界の選択を拒否していた。
未来計算は、 初めて未来を失った。
世界はまだ動いている。
だが、 どこへ向かうのか誰にも分からない。
その原因は一人。
柳端。
管理局史上初の、 予測不能要因だった。
(前提条件の破綻)
このエラーは、収束しない未来を生成し続けている。
エラー源――観測官 柳端。




