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第九十九話 五勢を超える五勢


 第四走――


一年一組の晴真たちが


羽鳥白瀬を追って


先へ駆けていく頃


その後方では――


ガキィィン!!


激しい金属音が


鳴り響いていた


三組――下勝田武尊


五組――上勝田伊織


二人は


馬上で薙刀を交えていた


「はああっ!!」


伊織が


薙刀を振り下ろす


武尊は


その刃を正面から受けず


柄を滑らせるように


外へ流した


キィン!!


「甘い!」


伊織が


すぐさま薙刀を返す


今度は


武尊の脇腹を狙った横薙ぎ


だが――


「そっちだろ!」


武尊が


先に薙刀を突き出す


「くっ!」


伊織が


咄嗟に刃を戻す


ガンッ!!


二本の薙刀が


激突した


「ちっ!」


武尊が


舌打ちする


「まったく!」


「面倒くせぇなぁ!」


「黙れ!」


伊織が叫ぶ


「今日こそ!」


「絶対に勝つ!!」


「だから!」


武尊が


呆れたように返す


「これは桜駆けだろうが!」


「同じことだ!」


「どこがだよ!!」


口では


言い争っている二人


しかし――


その武術には


一切の隙がなかった


◇


勝田五勢


攻め


守り


崩し


誘い


騙し


勝田流の根幹をなす


五つの考え方


武尊と伊織は


幼い頃から


その五勢を学んできた


相手の攻撃を守り


姿勢を崩し


攻めを誘い


意表を突き


そして――


仕留める


だが


二人とも


それを熟知している


伊織が


薙刀を引けば


武尊は


それを《誘い》と読む


武尊が


身体を開けば


伊織は


《騙し》を警戒する


踏み込む


引く


受け流す


斬り返す


そのたびに


互いの意図を読み合う


一進一退


どちらも――


決定打を与えられない


「ちっ!」


伊織が


薙刀を構え直す


「しぶとい奴め!」


「そりゃこっちの台詞だ!」


武尊が


霊馬を寄せる


「いい加減!」


「前の一組を追わせろよ!」


「俺に勝ってから行け!」


「本当に面倒くせぇ!!」


その時――


武尊の動きが


変わった


◇


スゥ――


「……ん?」


伊織が


僅かに眉を動かす


武尊が


薙刀を持つ手を緩めた


肩の力も


抜けている


そして――


ふらり


身体が


僅かに揺れた


「……何だ?」


伊織が


間合いを測る


武尊の上体が


ゆっくりと傾く


攻めてくるのか


守りに入るのか


薙刀を振るのか


それとも――


《誘い》か?


伊織が


半馬身ほど距離を取ろうとする


だが


武尊は


追いかけるように踏み込まない


ただ――


スゥ……


滑るように


間合いへ入ってきた


「……っ!?」


伊織が


薙刀を構え直す


「何を――」


その瞬間


武尊の手が伸びた


薙刀ではない


素手


ガシッ!!


伊織の衣服を


掴んだ


「なっ!?」


伊織が


目を見開く


「何を考えている!」


「落馬するだろうが!!」


「知ってるよ!」


武尊が


にやりと笑う


そして――


身体を沈めた


「なっ!?」


伊織の上体が


引き込まれる


同時に


武尊自身も


鞍から身体を外す


二人の重心が


霊馬の背から


大きくずれた


「おい!?」


「武尊!!」


ドサァッ!!


二人は――


揃って落馬した


◇


「ぐっ!」


伊織が


地面へ転がる


咄嗟に


顎を引き


肩から背中へ


衝撃を逃がす


勝田流徒手術の受け身


だが――


ドンッ!!


それでも


馬上からの落下


衝撃は小さくない


「くっ……!」


伊織が


顔をしかめる


脇腹に


鈍い痛み


肩にも


少し痺れが残る


一方――


武尊も


地面を転がっていた


ザザッ!!


受け身を取り


すぐに立ち上がる


「……いてて」


肩を回す


「やっぱり痛ぇな」


「武尊!!」


伊織が


怒鳴った


「貴様!」


「何を考えている!!」


「何って……」


武尊が


首を傾げる


「間合いに入っただけだろ?」


「どこがだ!!」


伊織も


立ち上がる


薙刀を握り直す


「馬上から相手を引きずり落とすなど!」


「お前まで落ちてどうする!!」


「まあ」


武尊が


肩をすくめる


「落ちたのは失敗だったな」


「失敗で済ませるな!!」


だが――


武尊は


笑っていた


そして


再び


構える


いや――


構えない


両肩を落とし


膝を僅かに緩める


ゆらり


ゆらり


その身体が


自然に揺れ始めた


「…………」


伊織の表情が


変わった


「……その動き」


◇


スゥ――


武尊が


一歩


前へ出る


伊織は


薙刀を構えたまま


間合いを取る


だが――


また


近づいてくる


ふらり


ゆらり


まるで


こちらの動きに合わせて


水が流れてくるような――


奇妙な歩法


「……誘いか?」


伊織が


考える


それなら


不用意に踏み込めば


何か仕掛けてくるはず


ならば


間合いを切る


ザッ!


一歩下がる


しかし――


スゥ……


武尊が


また近づく


「……っ!」


伊織が


薙刀を突き出す


ヒュンッ!!


その瞬間


武尊の身体が


僅かに傾いた


穂先が


肩口を掠める


だが


武尊は


避けた勢いをそのまま使い


さらに一歩


間合いへ入った


「何っ!?」


伊織が


薙刀を引く


だが――


武尊は


攻撃してこない


ただ


そこにいる


「…………」


伊織の思考が


一瞬止まる


攻めか?


守りか?


崩しか?


誘いか?


騙しか?


どれだ?


五勢のどこに


当てはめればいい?


そう考えている間にも――


スゥ……


武尊が


近づいてくる


「……くっ!」


伊織が


後ろへ跳んだ


「何なんだ!」


「その動きは!!」


◇


武尊は


笑った


「分かりづらいだろ?」


「何?」


「俺もな」


ゆらり


身体を揺らす


「同じことを思ったんだよ」


伊織が


眉をひそめる


「……同じ?」


「ああ」


武尊の脳裏に


ある試合が浮かんだ


桜晴真


以前


自分が戦った相手


あの時――


晴真は


こんな動きをしていた


力を抜き


間合いを外し


触れた瞬間に


身体の中心を崩してくる


角来流剛柔体術――柔の動き


攻めているつもりが


いつの間にか


攻めさせられている


崩そうとしても


相手に


明確な抵抗がない


誘ったつもりが


逆に


自分の重心を誘導されている


「俺もな……」


武尊が


静かに言う


「あの時は」


「本当に分からなかったんだよ」


「…………」


伊織が


薙刀を構え直す


武尊は


続ける


「五勢で考えようとすると」


「答えが出る前に」


「身体を動かされちまう」


「攻めだと思えば守りになり」


「崩しだと思えば誘いになる」


「どれか一つに決めた時には」


一歩


間合いへ


「もう遅い」


「……っ!」


伊織が


薙刀を引く


「なるほど……!」


ようやく


理解した


この動きは


勝田五勢の


どれか一つではない


それゆえに――


読みづらい


五勢を考えれば考えるほど


判断が遅れる


「……他流の技か!」


伊織が


低く呟く


「そういうことだ」


武尊が


頷く


「角来流の柔だ」


「…………」


「別に」


武尊は


少し笑った


「角来流の方が勝田流より優れてるって話じゃねぇ」


「ただ――」


「今のお前には」


「相性が悪いんだよ!」


◇


「……ならば!」


伊織が


後ろへ跳ぶ


間合いを大きく開いた


「その間合いに!」


「入らせなければいい!」


左手へ


札を二枚


「《火球の術》!!」


ボボッ!!


二つの火球が


同時に放たれた


左右から


武尊へ迫る


「……ほう」


武尊が


僅かに目を細める


伊織は


すぐさま薙刀を構えた


――結界で防ぐはずだ


二発同時の火球


普通なら


結界で受ける


その瞬間


相手の身体は


僅かに止まる


そこへ


薙刀で斬り込む


だが――


本当の狙いは


斬撃ではない


斬撃を受けようとした瞬間


足を払う


転ばせ


体勢を崩したところへ


さらに攻撃を繋げる


騙しからの崩し


勝田五勢を使った


伊織の得意な連携


「これなら――」


伊織が


にやりと笑う


「どうだ!!」


だが――


武尊は


結界を張らなかった


◇


「ふっ!」


武尊が


両掌を前へ出した


身体が


僅かに沈む


腰を回し


肩から腕へ


霊力を伝える


そして――


二つの火球へ


掌を突き出した


角来流剛柔体術――《柔波掌》!!


ボォン!!


「なっ!?」


伊織の目が


見開かれる


掌から放たれた


柔らかな霊力の波


火球の進む力を


横へ流すように広がり――


ボシュッ!!


ボシュッ!!


二つの火球が


形を崩して消えた


「何だと!?」


予想外


だが――


伊織も


そこで止まるような使い手ではない


「ならば!!」


薙刀を振り下ろす


鋭い斬撃


「はああっ!!」


武尊の肩口へ――


その瞬間


武尊の雰囲気が


一変した


◇


先ほどまでの


ゆらゆらとした動き


それが――


止まる


足を踏み締め


腰を落とし


身体の中心へ


霊力を集める


「……っ!?」


伊織が


何かを感じ取る


だが


すでに薙刀は


振り下ろされていた


「ふんっ!!」


武尊が


右腕を上げた


その腕へ――


霊力が集中する


筋肉が


硬く締まる


角来流剛柔体術――剛


ガァン!!


「なっ!?」


薙刀の刃が


武尊の腕へ激突


だが――


斬れない


武尊は


霊力で硬化させた腕で


薙刀の一撃を受け止めていた


「馬鹿な!!」


伊織が


叫ぶ


「素手で!?」


「まだだ!」


武尊が


左手を伸ばす


薙刀の柄を掴む


「ふんっ!!」


ギシッ!!


霊木の柄が


大きく軋む


「……っ!?」


伊織が


引こうとする


だが


動かない


次の瞬間――


バキィン!!


「なっ!?」


霊木の薙刀が


へし折れた


「俺の薙刀が!?」


伊織の手に残ったのは


折れた柄


その瞬間


武尊が


腰を回した


右脚が


伊織の腹部へ――


「せいっ!!」


ドンッ!!


「ぐっ!?」


伊織は


咄嗟に両腕を交差させる


腹部を守る


だが――


衝撃を


完全には殺せない


「ぐあっ!!」


身体が


後方へ吹き飛んだ


ザザザッ!!


地面を転がる


「くっ……!」


伊織は


すぐさま受け身を取り


立ち上がる


だが――


その目の前に


青白い光


「……っ!?」


札術の雷撃の矢が――


凄まじい速度で迫っていた


「しまっ――!」


避けるには


遅い


「くっ!!」


その瞬間――


「伊織!!」


女子の声


ブゥン!!


目前に


結界が展開された


ドォン!!


雷撃の矢が


結界へ激突


バチバチバチッ!!


激しい雷光が散る


「……っ!」


伊織が


目を見開く


目の前には――


下勝田奈子


「大丈夫!?」


奈子が


振り返る


「伊織!」


「……奈子」


伊織が


呟く


「お前……」


「よかった!」


奈子が


ほっと笑う


「間に合った!」


「…………」


伊織は


何も答えられなかった


その視線は――


武尊へ向いていた


◇


「……ふぅ」


武尊が


大きく息を吐く


右腕を


軽く振る


「いてて……」


先ほど


薙刀を受け止めた腕


霊力で硬化させていたとはいえ


衝撃は残っている


「やっぱり」


武尊が


苦笑する


「まだ晴真みたいにはいかねぇな」


そして――


後方へ振り返る


「奉先!!」


少し離れたところ


紅蓮毛を駆る奉先が


翔太と槍を交えていた


ガキィン!!


「はははは!」


「いいぞ、翔太!」


「だから!」


翔太が


槍を弾きながら叫ぶ


「何がいいんだよ!!」


その時――


「奉先!」


武尊が


再び叫ぶ


「行くぞ!!」


「……むっ?」


奉先が


振り返る


「もう終わったのか!?」


「ああ!」


武尊が


近くの霊馬へ走る


手綱を掴み――


ひらり


鞍へ飛び乗った


「これ以上やってたら!」


「一組も二組も見失うぞ!」


「……そうか」


奉先が


少し残念そうな顔をする


そして――


翔太を見る


「残念だな!」


槍を肩へ担ぐ


「またな、翔太!」


「ふざけんな!!」


翔太が


即座に叫ぶ


「二度とやるか!!」


だが――


その顔には


笑みが浮かんでいた


奉先が


にやりと笑う


「ははっ!」


「そう言いながら!」


「嬉しそうじゃないか!」


「うるせぇ!!」


翔太が


槍を下ろす


「さっさと行け!」


「おう!」


奉先が


紅蓮毛を加速させる


ドドドッ!!


◇


その少し横では――


「じゃあね、奈子!」


将門愛理が


掌を振った


「……愛理」


奈子が


振り返る


愛理は


少しだけ笑う


「伊織のこと」


「本当に好きなんだね」


「……っ!」


奈子の頬が


僅かに赤くなる


愛理が


前方を見る


「その気持ち」


「いつか通じるといいね」


「…………」


奈子は


何も答えなかった


ただ――


愛理の背中を


静かに見つめる


「それじゃ!」


愛理が


霊馬を走らせる


「武尊!」


「待ってよ!」


「ああ!」


三組の二人が


合流する


少し後方では


宿向直人と向口愛美も


五組の本郷悟と天辺彩から


距離を取っていた


「おい!」


直人が叫ぶ


「奉先!」


「勝負は終わりだってさ!」


「何!?」


奉先が


少し驚く


「せっかく楽しくなってきたのに!」


「だから!」


直人が


呆れる


「競争だって言ってるだろ!」


愛美も


苦笑する


「私たちも、そろそろ先を急ぎましょう」


「だな!」


武尊が


頷く


「よし!」


「三組!」


「追うぞ!!」


五人が


一斉に霊馬を加速させた


◇


その場に――


上勝田伊織だけが


立ち尽くしていた


「…………」


折れた薙刀


その柄を


握り締めている


今まで――


伊織は


武尊を


最大のライバルだと思ってきた


同じ勝田流


同じ勝田五勢


同じ環境で


武芸を学んできた


だからこそ――


負けたくなかった


いや


負けるはずがないと


思っていた


それなのに――


「…………」


後半は


何もできなかった


攻めようとすれば


間合いを外され


誘おうとすれば


逆に誘われる


五勢で判断しようとするほど


後手に回った


そして――


最後は


薙刀を折られ


蹴り飛ばされた


しかも


使われたのは――


「……勝田流じゃない」


伊織が


小さく呟く


「角来流……」


その名を


口にした時


ふと


思い出したことがあった


以前


武尊が負けた試合


相手は――


桜晴真


あの時の武尊は


晴真の独特な動きに


翻弄されていた


そして


敗れた


伊織も


その試合を見ていた


「…………」


伊織は


ゆっくり顔を上げる


「……そうか」


あの試合で


負けてから


武尊は――


「……強くなっていたのか」


負けた技を


ただ警戒するのではなく


その技から学び


自分のものにしようとしていた


勝田流しか知らなかった頃の


武尊ではない


「…………」


伊織が


唇を噛む


「……くそっ」


その声には


悔しさが滲んでいた


だが――


それだけではない


どこか


自分自身への怒りもあった


「伊織……」


奈子が


そっと声をかける


伊織は


何も答えない


折れた薙刀を


見つめている


翔太も


近づいてきた


「……伊織」


「…………」


「そろそろ行こうぜ」


翔太が


前方を見る


「このままだと」


「本当に置いていかれるぞ」


伊織は


しばらく黙っていた


そして――


折れた薙刀を


静かに下ろした


「……分かっている」


小さく


答える


その声は


先ほどまでのように


怒鳴るものではなかった


◇


一方――


三組


五人が


再び一団となって


霊馬を走らせていた


その先頭


岩富奉先の紅蓮毛


その横へ


武尊が並ぶ


「なあ、武尊!」


「何だ?」


奉先が


少し考えるように


口を開いた


「さっきの技だが……」


「角来流のことか?」


「ああ!」


奉先が頷く


「勝田五勢と角来流剛柔体術は」


「相性が悪いのか?」


「まあ」


武尊が


少し考える


「そういう面はあるな」


「だが――」


奉先が


武尊を見る


「角来流の方が」


「勝田流より優れている」


「そういうわけじゃないだろ?」


「もちろんだ!」


武尊は


即答した


「だったら!」


奉先が


嬉しそうに笑う


「どういうことなんだ?」


「そうだな……」


武尊が


少し考える


そして――


「俺たちはさ」


前を見ながら


話し始めた


「勝田流の中だけで」


「ずっと競い合ってきたんだよ」


「……ほう」


「伊織も」


「俺も」


「天音だってそうだ」


「同じ流派の技を磨いて」


「同じ五勢を学んで」


「同じ考え方で」


「誰が強いか競っていた」


「…………」


奉先が


黙って聞く


「もちろん!」


武尊が


続ける


「それで強くなれないわけじゃない」


「勝田流には」


「勝田流の強さがある」


「だけどな……」


少し


苦笑する


「俺たち」


「知らないうちに」


「自分の理解できる戦い方だけが」


「正しいと思い込んでたんだよ」


「……なるほど」


奉先が


頷く


「だから」


武尊は


晴真との試合を思い出す


「あの時――」


「桜晴真と戦った時」


「俺は負けた」


「……ああ」


奉先も


頷く


「見ていたぞ」


「晴真の動きが」


「全然読めなかったんだ」


「何を狙っているのか」


「どう仕掛けてくるのか」


「五勢で考えようとしても」


「判断が遅れる」


「しかも――」


武尊が


少し笑う


「その間に」


「もう崩されてるんだよ!」


「ははは!」


奉先が


笑う


「それは厄介だな!」


「本当に厄介だったぜ!」


武尊も笑った


「だから思ったんだ」


「知らない動きなら」


「知らないままにしちゃ駄目だってな」


「……ほう」


「角来流の柔と剛」


「それを学んでみたら」


「ようやく分かってきた」


武尊が


自分の掌を見る


「柔の動きってのは」


「ただ避ける技じゃない」


「相手の力を利用して」


「その動きそのものを変える」


「そして剛は」


「ただ力任せに受ける技じゃない」


「ここぞという瞬間に」


「身体と霊力を一つにして」


「力を集中させる」


「…………」


奉先が


興味深そうに聞いている


「だが」


武尊が続ける


「だからといって」


「勝田五勢を捨てたわけじゃない」


「むしろ――」


にやっと笑う


「角来流を使うことだって、勝田五勢なんだよ!」


「……何?」


奉先が


目を丸くする


武尊は


先ほどの伊織との戦いを思い返す


「伊織は」


「俺が勝田流で来ると思っていた」


「だから」


「その動きを読もうとした」


「ところが」


「俺は柔の動きで間合いに入った」


「そこでまず――」


「相手の意表を突いた」


「騙し、だな」


奉先が言う


「そう!」


武尊が頷く


「伊織はそれを読もうとして」


「余計に考えた」


「その分だけ」


「動きが遅れる」


「誘いだ」


「なるほど!」


「そして」


武尊が


拳を握る


「柔で間合いを崩し」


「剛で薙刀を止めた」


「最後は蹴りで攻めた」


「…………」


奉先が


しばらく考える


そして――


「ははははは!!」


大きく笑った


「なるほど!」


「なるほどな!!」


「何だよ?」


武尊が


首を傾げる


奉先は


楽しそうに言う


「つまり!」


「勝田五勢というのは!」


「勝田流の技だけで」


「成り立つものじゃないんだな!」


「そういうことだ!」


「相手を見て!」


「状況を見て!」


「使えるものを使う!」


奉先が


頷く


「さっき道満が」


「桜駆けに五勢を応用していたのも」


「そういうことか!」


「武術の型としてだけじゃなく――」


「戦術として使う!」


「その通り!」


武尊が


嬉しそうに笑った


「五勢は」


「技の名前じゃねぇ」


「考え方なんだよ!」


◇


「……面白い!」


奉先が


目を輝かせる


「実に面白い!」


「……また始まった」


愛理が


後ろから苦笑する


だが――


奉先は


気にしない


「武尊!」


「何だ?」


「今度!」


「俺にも勝田五勢を学ばせろ!」


「……は?」


武尊が


驚いて振り返る


「お前が?」


「当然だ!」


奉先が


胸を張る


「岩富流の槍にも!」


「応用できることがあるはずだ!」


「ははっ!」


武尊が


嬉しそうに笑った


「いいぜ!」


「だったら!」


「俺にも岩富の槍を教えてくれよ!」


「当たり前だ!」


奉先が


即答する


「武尊!」


「強くなるためなら」


「何だって学べばいい!」


「一組の連中を見てみろ!」


「桜晴真も!」


「麻賀多道満も!」


「立身刀也も!」


「自分の流派だけに」


「こだわっていないだろう!」


「確かにな!」


武尊が


頷く


「あいつら」


「いつも何か新しいことを試してるからな!」


「そうだ!」


奉先が


笑う


「だから!」


「どんどん強くなっている!」


その時――


「ちょっと!」


愛理が


二人の横へ並んだ


「何だ?」


奉先が


振り返る


「私にも教えてよ!」


「何を?」


「勝田五勢も!」


「岩富の槍も!」


愛理が


にやっと笑う


「将門流の体術にだって」


「応用できることがあるはずでしょ?」


「おお!」


奉先が


嬉しそうに頷く


「もちろんだ!」


「じゃあ」


武尊も


笑う


「愛理の将門流も教えてくれよ!」


「いいわよ!」


三人が


笑い合う


その様子を見ながら――


奉先は


ふと


ある人物を思い出した


立身刀也


以前――


あいつは言っていた


すべての武芸を覚えたい、と


「…………」


奉先が


少し考える


あの時は


ずいぶん欲張りな奴だと


思ったものだ


だが――


今なら


少し分かる気がする


自分の知らない技


知らない流派


知らない考え方


それらを知れば


自分の武術には


まだまだ


広がる余地がある


「……ふっ」


奉先が


小さく笑った


「全部覚える、か……」


「ん?」


武尊が


振り返る


「何か言ったか?」


「いや!」


奉先が


長槍を肩へ担ぐ


「それも悪くないと思ってな!」


「……?」


武尊は


不思議そうに首を傾げた


◇


「……おい」


その時――


後ろから


低い声


宿向直人


「お前らさぁ……」


「何だ?」


奉先が


振り返る


直人は


呆れた顔で


三人を見る


「武術談義もいいけどよ」


「急がねぇと!」


「舞桜に怒られるぜ!」


「…………」


三人が


一瞬


黙った


「……舞桜?」


武尊が


首を傾げる


直人が


腕を組む


そして――


わざとらしく


声色を変えた


「こんなに差をつけられおって!」


「お前たちは何をしておったのだ!」


「……ってな!」


「…………」


武尊の顔が


僅かに引きつる


愛理も


目を逸らした


「……ああ」


小さく呟く


「それは……」


奉先が


真顔になる


「まずいな」


「だろ!?」


直人が叫ぶ


「大体!」


「お前たちが勝負ばっかりしてるから!」


「一組にも!」


「二組にも!」


「どんどん離されてるんだぞ!」


「……確かに」


武尊が


前方を見る


遠く――


土煙


そこにいるはずの


晴真たちの姿は


もう見えない


「……やべぇな」


愛理も


苦笑する


「これは怒られるね……」


奉先が


長槍を構え直す


「よし!」


「決まったな!」


「何が?」


直人が


嫌そうに尋ねる


奉先は


満面の笑み


「急ぐぞ!!」


「最初からそうしろ!!」


直人の叫び声が


響く


「愛美!」


武尊が叫ぶ


「遅れるなよ!」


「はい!」


愛美が


頷く


「ようやく競争に戻れますね!」


「……耳が痛いな」


武尊が


苦笑する


愛理も


笑った


「ほら!」


「行くわよ!」


そして――


ドドドドドドッ!!


三組


五人の霊馬が


一斉に加速する


先頭を行くのは


岩富奉先


炎のような赤毛をなびかせる


《紅蓮毛》


その背で


奉先が


楽しそうに笑った


「はははは!」


「待っていろ!」


「桜晴真!」


「麻賀多道満!」


「今度は――」


「競争で勝負だ!!」


「だから!」


武尊が


笑いながら叫ぶ


「最初からそうしろって!!」


◇


その頃――


五組


上勝田伊織は


ようやく霊馬へ戻っていた


奈子が


傍らにいる


翔太も


手綱を握り直していた


「……伊織」


翔太が


声をかける


「何だ?」


「武尊のこと」


「まだ気にしてるのか?」


「…………」


伊織は


しばらく黙っていた


そして――


「……当然だ」


低い声


「負けたんだからな」


「…………」


翔太が


少し驚く


いつもの伊織なら


負けていない


次は絶対勝つ


そう怒鳴っていたはず


だが――


今の伊織は


違った


「……あいつ」


伊織が


静かに言う


「俺の知らないところで」


「強くなっていた」


「…………」


「ならば――」


ゆっくり顔を上げる


その目には


先ほどまでとは違う


強い光


「俺も」


「知らないままではいられない」


奈子が


小さく微笑んだ


「……うん」


伊織は


折れた薙刀を収め


手綱を握る


「行くぞ」


「おう!」


翔太が


頷く


「今度はちゃんと競争しようぜ!」


「分かっている!」


伊織が


霊馬を進める


そして――


「だが!」


「武尊には!」


「絶対に負けん!!」


「……やっぱりかよ!」


翔太が


頭を抱える


奈子は


くすくす笑っていた


それでも――


翔太は


少しだけ


安心していた


武尊に負けたこと


その悔しさが


伊織を


少し変えたのかもしれない


もっとも――


「翔太!」


「何だよ!」


「早く来い!」


「今度こそ!」


「まとめて追い抜くぞ!」


「はいはい!」


翔太が


苦笑する


「分かったよ!」


奈子も


霊馬を加速させる


五組が


再び走り始めた


◇


第四走――


桜晴真たちを追う


三組


そして


五組


その後方では


それぞれの思いが


新たに動き始めていた


武尊は


晴真との敗北から学んだ


伊織は


武尊との敗北によって


自分の知らない強さを知った


そして


奉先は――


他流の武術を学ぶことに


新しい可能性を見出していた


勝田五勢


それは


単なる五つの技ではない


相手を読み


状況を読み


自分の持つ技術を


どう使うか


その考え方そのもの


そして――


どれほど優れた武術でも


知らないものには


対応できないことがある


だからこそ


学び


考え


強くなる


三組の霊馬が


さらに速度を上げる


その先には――


羽鳥白瀬を追う


桜晴真たちがいる


そして


まだ姿を見せていない


次の相手が待っている


「奉先!」


武尊が叫ぶ


「今度こそ!」


「走ることに集中しろよ!」


「無論だ!」


奉先が


大きく笑う


「勝負は――」


一拍


「追いついてからだ!!」


「……結局戦う気じゃねぇか!!」


武尊の叫び声が


蹄の音へ混じる


桜駆け第四走


先頭を巡る争いは――


まだ終わらない。

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