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第九十八話 飛翔と結界呪術


 第四走――


一年一組


桜晴真たちは


依然として先頭を走っていた


その後ろでは――


三組


岩富奉先


下勝田武尊


将門愛理


宿向直人


向口愛美


五人が


激しく追い上げている


そして


さらに後方――


ドドドドドッ!!


「武尊ぉぉぉ!!」


聞き覚えのある声


武尊が


嫌そうに振り返る


「うわぁ……」


そこには――


五組


上勝田伊織


その後ろには


下勝田奈子


和田翔太


本郷悟


天辺彩


五人が


一気に距離を詰めてきていた


伊織は


まっすぐ武尊を指差す


「武尊!」


「今日こそは!」


「お前を倒す!!」


「……面倒くさいのが来たなぁ」


武尊が


心底嫌そうな顔をする


「おいおい!」


翔太が


伊織の横から叫ぶ


「二人とも!」


「これは勝負じゃなくて競争だからな!」


「何だって同じだ!」


伊織は


即答した


「絶対に勝つ!!」


「いや!」


翔太が


頭を抱える


「同じじゃねぇから!」


武尊も


呆れたように言う


「意味分かんねぇな……」


「翔太!」


「何とかしろよ!」


「俺が言っても聞かねぇよ!!」


「お前、天音から頼まれてるんだろ!?」


「頼まれてるから困ってんだろうが!」


二人のやり取りなど


伊織は


全く聞いていない


「行くぞ、武尊!」


「お前なぁ……!」


◇


その時――


「伊織!」


下勝田奈子が


横へ並ぶ


「他の人たちは私たちが抑えるから!」


にっこりと笑う


「頑張って!」


「おう!」


伊織が


嬉しそうに答える


「任せろ!」


「おいおい……」


武尊が


奈子を見る


「奈子!」


「煽るなよ……!」


「別に煽ってないよ?」


奈子は


さらりと答える


「私は伊織を応援してるだけ」


「それを煽ってるって言うんだよ!」


その横から――


「悪いけど!」


将門愛理が


霊馬を寄せる


「邪魔しないでね!」


前方


晴真たちを見る


「一組に離されちゃうから!」


「そうはいかないわ!」


奈子が


札を構える


「《火球の術》!」


ボッ!!


火球が


愛理へ飛ぶ


「おっと!」


愛理は


札を使わない


右掌を突き出し――


「将門流――《霊撃弾》!」


ドンッ!!


圧縮された霊力の弾丸が


火球へ激突


バァン!!


炎が


空中で弾けた


「へぇ!」


奈子が


楽しそうに笑う


「やるじゃない!」


「そっちこそ!」


愛理も


にやっと笑う


「やろうっていうの?」


「いいわよ!」


再び


霊力を掌へ集める


「受けて立つわ!」


「望むところ!」


奈子が


さらに札を取り出す


火球


それを


愛理が《霊撃弾》で撃ち落とす


ドンッ!


バァン!!


火花が散る


「伊織!」


奈子が叫ぶ


「こっちは任せて!」


「頼んだぞ!」


「だから!」


愛理が叫ぶ


「勝手に私の相手を決めないでよ!」


だが――


その顔は


少し楽しそうだった


◇


「はははは!」


奉先が


笑い声を上げた


「何だ!」


「お前たちだけ楽しそうじゃないか!」


「楽しかねぇよ!!」


武尊が


即座に叫ぶ


奉先は


槍を担いだまま


周囲を見渡す


そして――


一人の男子に


目を止めた


「ほう……」


和田翔太


翔太は


嫌な予感がした


「……何だよ?」


奉先が


にやり


「俺の相手は――」


槍を向ける


「お前だな!」


「はぁ!?」


翔太が


思わず叫ぶ


「何で俺が!」


「岩富奉先を相手しなきゃならねぇんだよ!」


「学年でもトップクラスの槍使いだろ!」


「俺が相手になるかっつうの!」


「ははは!」


奉先が


さらに笑う


「よく言うぜ!」


「何?」


「お前――」


槍を構え直す


「和田翔太だろ?」


「……そうだけど?」


「勝田流の槍を使わせれば」


「学年でもトップクラスの腕だと聞いているぞ!」


「…………」


翔太の顔が


引きつる


「誰だよ」


「余計なこと言った奴……」


「楽しみだな!」


奉先が


紅蓮毛を寄せる


「岩富の槍と!」


「勝田の槍!」


「どちらが上か!」


「勝負といこうじゃないか!」


「誰も戦うなんて言ってねぇだろうが……」


翔太は


深いため息をつく


だが――


腰に備えていた槍へ


手を伸ばした


スッ――


槍を構える


それまで


面倒くさそうだった翔太の雰囲気が


変わる


無駄な力が抜け


穂先は


僅かに奉先の中心を外している


突くためでも


受けるためでもない


どちらへも


瞬時に移れる構え


奉先の目が


輝いた


「……ほう!」


「いい構えだな!」


「そりゃどうも」


翔太が


苦笑する


「褒められても嬉しくねぇけどな!」


「行くぞ!」


「だから!」


翔太が


叫ぶ


「話を聞けって!!」


ヒュンッ!!


奉先の槍


一直線


翔太の肩へ


だが――


カンッ!!


翔太の槍が


僅かに動く


真正面から受けない


穂先を


外へ流す


「むっ!」


奉先が


槍を引こうとする


その瞬間――


翔太の槍が


下から絡んだ


「おっ!?」


槍の柄を


僅かに押し上げる


そのまま


奉先の右肩へ――


突き


ヒュンッ!!


「ははっ!」


奉先が


上体を反らす


穂先が


胸元を掠める


「いいぞ!」


「いい!」


「だから楽しむなって!」


翔太が


槍を戻す


だが――


その口元も


僅かに笑っていた


◇


少し後ろでは――


「……何でこうなるかな?」


宿向直人が


呆れたように呟く


隣で


向口愛美も


苦笑していた


「みんな、勝負のことしか考えてませんね……」


すると――


「同感だよ」


前方から


男子が


声をかけた


五組


本郷悟


その手には


札


「俺も札術が得意なんだけどさ」


「お前も?」


直人が


少し驚く


「そう」


悟が笑う


「なのに、うちの班」


「伊織と武尊の勝負に巻き込まれてるだろ?」


「……分かる」


直人が


深く頷く


「こっちも奉先に振り回されてる」


「だよなぁ!」


二人


妙に意気投合


一方――


愛美の前には


一人の女子


天辺彩


「あなた、結界術が得意なんでしょう?」


彩が尋ねる


「はい」


愛美が頷く


「あなたも?」


「そうなの」


彩が


少し嬉しそうに笑う


「しかも、お互い……」


後ろの男子たちを見る


「チームメイトに振り回されてるみたいね」


「……本当に」


愛美も


苦笑する


「親近感が湧きます」


四人が


顔を見合わせた


そして――


「まあ」


直人が


札を構える


「とりあえず戦うか」


「だな」


悟も


札を取り出す


愛美


彩


二人も


結界を形成


「お互い、頑張りましょう」


「ええ」


妙に穏やかな会話


だが――


次の瞬間


ボボボッ!!


札術が激突


ブゥン!!


結界が


次々と形成される


「いや!」


直人が叫ぶ


「お前の札術、結構速いな!」


「そっちこそ!」


悟が笑う


「同時発動できるんじゃん!」


「それなりにな!」


「じゃあ!」


「もう少し本気でいくか!」


「おう!」


こちらはこちらで――


すっかり盛り上がっていた


◇


その様子を


少し先頭から見ていた道満


「…………」


しばらく


無言


そして――


「晴真!」


「うん?」


「今だ!」


「何が?」


「三組と五組が!」


道満が


後方を指差す


「完全に戦い始めた!」


「……あっ!」


晴真が


目を輝かせる


「確かに!」


「これなら!」


「一気に離せる!」


「そういうことだ!」


道満が


三人を見る


「桔梗!」


「茜!」


「菜穂!」


「一気にいくぞ!」


「了解!」


「任せて!」


「よーし!」


一年一組


五人が


一斉に霊馬を加速


晴真も


愛馬の首筋を撫でる


「行こう、月桜!」


だが――


その時だった


「行かせませんよ」


澄んだ声


「……え?」


晴真が


振り返る


いつの間にか――


すぐ後ろ


一人の女子生徒が


霊馬を並べていた


白い肌


長い黒髪


整った顔立ち


そして――


どこか


人間離れした雰囲気


「……あれ?」


晴真が


目を細める


その少女を見た瞬間


ふと――


二人の姿が


頭に浮かんだ


ミヅチ


そして


チヨヒメ


もちろん


姿が似ているわけではない


ただ――


まとっている空気


霊力の気配


人間とは


少し違う


何か


「……君」


晴真が


声をかけようとする


だが――


少女は


前を向いたまま


「湊」


「お願い!」


「了解、白瀬!」


後方から――


男子の声


染井野湊


霊装武具の弓を構えていた


《端麗》


湊が


弓へ霊力を巡らせる


「術式解放――」


《神箭》!


ギィィン!!


弓へ


青白い光


一瞬


弦が強く震える


そして――


ヒュンッ!!


二本の矢


それが


通常の矢とは比べものにならない速度で


一直線に飛んでいく


「速っ!」


茜が叫ぶ


だが――


矢は


晴真たちへ向かわない


前方


地面


ドスッ!!


ドスッ!!


「……あれ?」


晴真が


不思議そうに見る


次の瞬間――


二本の矢に


刻まれた術式が


光った


ゴゴゴゴゴッ!!


「うわっ!?」


地面が


一気に盛り上がる


土


岩


それらが


前方へ押し上げられ――


巨大な土壁


「ええっ!?」


晴真が叫ぶ


「道が!」


「塞がれた!」


道満が


すぐに叫ぶ


「速度を落とせ!」


五人の霊馬が


一斉に減速


「くっ!」


晴真が


前を見る


「これじゃあ――」


その瞬間


ヒュンッ!!


後方から――


新たな矢


狙いは


晴真


しかも


先ほどより


さらに速い


「晴真君!!」


桔梗が


叫ぶ


だが――


晴真は


振り返っていなかった


にもかかわらず――


金色の瞳が


僅かに輝く


金桜眼


背後から迫る


一本の矢


その軌道を――


捉える


「よっと!」


晴真が


右手を後ろへ伸ばした


パシッ!!


「…………え?」


湊の目が


見開かれる


掴んだ


あの速度の矢を


振り返りもしないで――


素手で


だが


それだけではない


晴真は


矢の勢いを完全に殺さず


身体を捻る


手首を返し――


「お返し!」


ヒュンッ!!


矢を


そのまま投げ返した


「なっ!?」


湊が


慌てて首を傾ける


シュッ!!


矢が


顔のすぐ横を通過


「うわぁぁぁ!!」


湊が叫ぶ


「危ないだろうが!!」


「えっ!?」


晴真が


目を丸くする


「自分が射ってきたのに……?」


「顔だぞ!」


湊が


真剣な顔


「顔に傷がついたらどうするんだ!」


「俺の顔は!」


「大事なんだぞ!」


「……ああ」


晴真が


苦笑する


「ごめん」


「次は身体を狙うね!」


「そこなら許す!」


「許すんかい!!」


茜と桔梗の声が


揃った


「顔は絶対駄目だ!」


湊が


さらに念を押す


「…………」


菜穂が


呆れた顔


「私、無理だわ」


「うん」


茜も頷く


「私も」


桔梗も


「私もかな……」


「はぁ!?」


湊が


目を見開く


「無理って何だよ!」


弓を持ち直す


「こんなに容姿端麗な俺の!」


「どこが無理なんだ!?」


「そういうところ!」


茜が


即答


「自分で言うの」


桔梗も


苦笑する


「やめた方がいいと思うよ」


菜穂は


さらに容赦がない


「なんか気持ち悪いよね!」


「…………」


その後ろ


二組


吉見美琴


生谷茶々


二人が


静かに頷いていた


「分かる」


「本当に」


「お前らまで!?」


湊が


叫ぶ


そして――


胸を押さえる


「ぐっ……!」


「気持ち悪い……」


「……俺が?」


「…………」


どうやら


かなりの深手を負ったらしい


「大丈夫?」


晴真が


少し心配そうに聞く


「お前には言われたくない!」


「ええっ!?」


◇


「でもさ」


茜が


道満を見る


「それなら道満君の方が――」


「うん!」


桔梗が頷く


「クールだけど」


「時々すごく優しいし」


「格好いいよね!」


菜穂も


「晴真君みたいに」


「優しくて穏やかな男子の方がいいよね!」


「分かる!」


「うんうん!」


三人が


楽しそうに頷き合う


「…………」


湊が


ゆっくり道満を見る


「……麻賀多道満」


「何だ?」


道満は


札を構えたまま


振り返る


「お前……」


湊の目が


鋭くなる


「与一の他にも!」


「俺の美男子道を阻む奴がいるとは!」


「…………」


道満が


眉をひそめる


「何を言っている?」


「勝負だ!」


湊が


弓を構える


「麻賀多道満!」


「受けて立て!」


「……?」


道満が


不思議そうな顔


「もう勝負しているだろう?」


「桜駆けで」


「そういうことじゃない!」


湊が叫ぶ


「どっちがモテる男かという勝負だ!」


「…………」


道満


一拍


「そういうのは――」


「与一とやれ!」


「お前も対象だ!」


「意味が分からん!」


「行くぞ!」


「話を聞け!」


湊が


弦を引く


ヒュンッ!!


矢が


一直線に道満へ


「まったく……!」


道満が


札を放つ


ブゥン!!


結界


キィン!!


矢を受け止める


「……ほう」


道満の目が


僅かに細くなる


「腕は確かなようだな」


湊が


得意そうに笑う


「当然!」


「俺を誰だと思ってる!」


「顔にこだわる変な奴だろう?」


「違うわ!!」


◇


「晴真!」


道満が叫ぶ


「何!?」


「お前は!」


前方の土壁を指差す


「あれを何とかしておけ!」


「ええっ!?」


晴真が


目を丸くする


「丸投げ!?」


「俺はこいつの相手をする!」


「ちょっと!」


「道満君まで勝負楽しんでない!?」


「違う!」


道満が


矢を防ぎながら叫ぶ


「術の発動を妨害されているだけだ!」


「ほんとかなぁ……」


晴真が


苦笑する


「じゃあ……」


後ろを振り返る


「菜穂ちゃん!」


「手伝って――」


その時


ガキィン!!


「……え?」


菜穂は


すでに戦っていた


相手は――


飯重重成


しかも


二人とも


霊馬から降りている


「ちょっと!」


晴真が


叫ぶ


「いつの間に!?」


◇


「はぁっ!!」


菜穂が


二刀を振り抜く


左手の大太刀


右手の小太刀


二つの刃へ――


霊力が流れる


ブゥン!!


霊力の刃が


伸びた


だが――


「遅い!」


重成が


身体を沈める


右の小太刀を避け


左の大太刀を――


自分の刀で受け流す


キィン!!


そのまま


一歩


踏み込む


「っ!」


菜穂が


大太刀を引こうとする


だが


重成の方が速い


ヒュンッ!!


一刀


鋭い斬撃


菜穂が


小太刀で防ぐ


ガンッ!!


「くっ!」


押し込まれる


重成の剣


立身流


全身へ霊力を巡らせ


瞬発力を高める


《巡らせ》


その技術によって


一歩の踏み込み


刀の返し


全てが速い


一方――


菜穂は


二刀


左右から


角度を変えて攻撃する


しかも


霊力の刃によって


間合いが変わる


力と手数の菜穂


速度と精度の重成


ガンッ!


キィン!!


ガァン!!


激しい打ち合い


「へぇ!」


菜穂が


笑う


「シゲシゲ!」


「刀也と同門なんでしょ?」


「……は?」


重成が


一瞬動きを止める


「シゲシゲ!?」


「うん!」


「重成だからシゲシゲ!」


「何だその呼び方!」


「いいじゃん!」


菜穂が


大太刀を振り抜く


「呼びやすいし!」


「勝手に決めるな!」


重成が


踏み込み


斬撃を受け流す


菜穂が


今度は小太刀で突く


「でさ!」


「何だ!」


「刀也とどっちが強いの?」


「……!」


重成が


僅かに笑う


「入学する前は――」


踏み込む


「引き分けだな!」


キィン!!


菜穂が


二刀で受ける


「へぇ!」


「凄いじゃん!」


「今はどうかな!」


重成が


刀を返す


「俺だって!」


「ずっと修練してきたからな!」


「いいねぇ!」


菜穂が


楽しそうに笑う


「じゃあ!」


二刀を大きく開く


「私にも見せてよ!」


「その立身流!」


「望むところ!」


また――


激しい剣戟


ガガガガン!!


「……菜穂ちゃん」


少し離れたところ


晴真が


呆然としていた


「楽しそう……」


◇


「晴真君!」


桔梗が


霊馬を寄せる


「土壁!」


「あっ、そうだった!」


晴真が


前を向く


「茜ちゃん!」


「うん!」


「桔梗ちゃんも!」


「行くよ!」


三人が


前へ出ようとする


だが――


「させないよ!」


女子の声


前方に


二人


吉見美琴


生谷茶々


「…………」


晴真が


目を丸くする


「今度は君たち!?」


美琴が


にやっと笑う


「そういうこと!」


指に札を挟む


右手――火


左手――水


「ちょっと面白い術」


「見せてあげようか?」


晴真が


興味深そうに見る


「火と水?」


「そう!」


美琴が笑う


「五行の相性だけ考えたら」


「組み合わせない方がいい術だけどね!」


「へぇ!」


「じゃあどうするの?」


「こうするの!」


美琴が


二枚の札を放つ


ボッ!!


火球


そして――


バシャッ!!


水球


二つが


空中で重なる


ジュウウウウッ!!


大量の蒸気


「うわっ!」


桔梗が


驚く


「何これ!?」


高温の蒸気が


前方へ広がった


「熱っ!」


茜が


慌てて霊馬を下げる


美琴が


得意そうに笑う


「火で水を沸騰させたの!」


「水を加熱して蒸気にする!」


「それだけ!」


晴真が


目を輝かせる


「すごい!」


「基本の術だけで!」


「こんな使い方ができるんだ!」


「でしょ!」


美琴も


嬉しそうに笑う


「……って!」


「感心してる場合じゃないでしょ!」


「あっ!」


晴真が


慌てて札を構える


「そうだった!」


茶々は


そんな二人を見て


呆れたように言う


「もう!」


「術の話になると、すぐこれなんだから!」


そして――


「白瀬!」


後ろを振り返る


「ここは任せて!」


「先に行って!」


「うん」


羽鳥白瀬が


静かに頷いた


その瞬間――


ふわり


「…………え?」


晴真が


目を見開く


白瀬の霊馬


その四肢が――


地面から離れた


「……あれ?」


茜が


呆然とする


「馬が……」


桔梗も


口を開けたまま


「浮いてる?」


白瀬は


霊馬に跨がったまま


ゆっくりと高度を上げていく


風遁の気配はない


札術も


結界術も


発動した様子がない


ただ――


白瀬と霊馬が


空へ浮かび上がっていく


「えええええっ!?」


三人の声が


揃った


「飛んでるぅぅぅ!!」


白瀬が


少しだけ振り返る


そして


小さく微笑んだ


「お先に失礼します」


そのまま――


土壁の上を越えていく


「ちょっと!」


晴真が叫ぶ


「ずるくない!?」


だが――


白瀬は止まらない


羽鳥家の特殊能力――《飛翔》


眷属の血を受け継ぐ一族に伝わる


人間の術とは


異なる力


晴真が


その姿を見上げる


「……ああ!」


さっき感じた


不思議な気配


ミヅチやチヨヒメと


どこか似ている


あの感じ


「もしかして……」


晴真が


何かに気づきかけた


その時――


「よそ見してる場合?」


茶々が


にやっと笑った


◇


ブゥン――


「……え?」


晴真の周囲


薄紅色の光


地面


空間


四方へ――


結界が形成される


「晴真君!」


桔梗が叫ぶ


だが


すでに遅い


結界が


一瞬で閉じた


その内部にいるのは――


晴真


そして


茶々


「ふふふ……」


茶々が


嬉しそうに笑う


「捕まえた!」


晴真が


周囲を見る


「結界?」


「そう!」


茶々が


得意そうに胸を張る


「でもね!」


「ただの結界じゃないの!」


指を立てる


「私の得意な――」


結界呪術


「《恥辱の恩賞》!」


薄紅色の結界へ


さらに


赤い文字のような術式が浮かぶ


「……へぇ」


晴真が


興味深そうに見ている


茶々が


にやっと笑った


「この結界の中ではね」


「あなたが隠している――」


「恥ずかしいと思うこと」


「それを口にしない限り!」


一拍


「まともに霊力を集められなくなるのよ!」


「……え?」


晴真が


首を傾げる


茶々が


さらに説明する


「恥ずかしい秘密を告白すれば」


「呪いの条件が満たされる」


「そうすれば霊力が戻るの!」


「でも!」


「秘密を言わない限り」


「霊力操作が乱され続ける!」


晴真が


ぱちぱちと瞬きをする


「へぇぇ!」


「すごいね!」


「でしょ!」


茶々が


嬉しそうに笑う


「呪術と結界を合わせたら」


「こんなことまでできるんだよ!」


「面白い!」


晴真が


結界を見回す


「呪いの条件が」


「結界の中だけに適用されるんだ!」


「すごく合理的だね!」


「…………」


茶々が


少し黙る


「……あれ?」


何か


反応がおかしい


本来なら――


隠している秘密を


無理やり言わされる


その恐怖


羞恥心


そして


霊力操作ができなくなる焦り


それらで


相手の心を乱す術


なのに――


「ねえ茶々ちゃん!」


晴真が


嬉しそうに聞く


「これ!」


「どんな条件を付けてるの?」


「……何で?」


「だって!」


「結界と呪術を組み合わせる方法なんて」


「初めて見たから!」


「…………」


茶々の眉が


ぴくり


「ちょっと!」


「あなた!」


「今、自分がどういう状況か分かってる!?」


「うん!」


晴真が頷く


「結界の中!」


「そうじゃない!!」


茶々が


叫ぶ


「霊力をまともに使えないのよ!?」


「え?」


晴真が


首を傾げる


そして――


「そうなの?」


「そうなの!!」


「うーん……」


晴真が


自分の丹田へ意識を向ける


霊力


丹田から


霊脈へ


そして――


全身へ


巡らせる


スゥゥゥ――


「…………」


茶々が


目を細める


「……あれ?」


晴真の身体から


霊力が


自然に立ち上がる


しかも――


乱れていない


「……え?」


茶々が


目を見開く


晴真は


自分の手を見る


「なんだか……」


霊力を


掌へ集める


「普通に集められそうなんだけど?」


「…………」


茶々が


固まった


「……嘘」


「だって」


「この結界の中では――」


その時――


晴真の瞳が


輝いた


金色の瞳


その奥に


一瞬


銀色の光が差す


そして――


桜の紋が


鮮やかに浮かび上がった


金桜眼


「…………っ!?」


茶々の表情が


一変する


「その目……!」


晴真が


振り返る


「ん?」


「まさか……」


茶々が


一歩後ずさる


「金桜眼!?」


「うん」


晴真が


不思議そうに頷く


「そうだけど?」


「ええええっ!?」


茶々が


叫んだ


「何で!?」


「何で金桜眼が!」


「龍姫様以来」


「現れていないとされているのに!」


「…………」


晴真が


目を丸くする


「えっ?」


「茶々ちゃん、知ってるの?」


「知ってるわよ!」


茶々が


思わず叫ぶ


「呪術を扱う家には」


「言い伝えがあるの!」


「金桜眼の持ち主には――」


声が


少し小さくなる


「呪術が効かないって……」


「へぇ!」


晴真が


驚く


「そうなんだ!」


「…………」


茶々が


じっと晴真を見る


「……あなた」


「知らなかったの?」


「うん!」


晴真が


頭を掻く


「金桜眼のこと」


「まだよく分からないんだよね」


「…………」


茶々が


深いため息をつく


「……何なのよ」


「この人……」


◇


だが――


次の瞬間


茶々の目が


鋭くなった


「でも!」


「まだ終わりじゃないわ!」


「え?」


「金桜眼に呪術が効きにくくても!」


茶々が


両手を広げる


「結界術まで効かないわけじゃないでしょ!」


ブゥン!!


薄紅色の結界が


さらに強く輝く


「私だって!」


「結界術には自信があるんだから!」


晴真が


周囲を見る


「うん!」


「結界の作り方も綺麗だし」


「結構強そうだね!」


「でしょ!」


茶々が


思わず笑う


だが――


すぐに


はっとする


「……って!」


「褒めてる場合じゃないでしょう!」


晴真は


にこっと笑った


「じゃあ」


「ちょっと試してもいい?」


「何を?」


晴真が


右手を前へ出した


掌


そこへ――


霊力が集まる


「……え?」


茶々が


目を見開く


淡い金色


それが


次第に濃くなる


晴真は


丹田から巡らせた霊力を


掌の一点へ――


圧縮


さらに


霊圧を高める


ゴォォォォ……


「……ちょっと」


茶々が


顔を引きつらせる


「何するつもり?」


「結界」


晴真が答える


「壊すね!」


「えっ!?」


「だって、先に行かないと!」


「ちょっと待ちなさい!」


茶々が


慌てる


「それ!」


「普通の霊力じゃないでしょ!?」


晴真が


少し首を傾げる


「普通に霊力を集めただけだよ?」


「普通じゃないわよ!!」


そして――


「行くよ!」


晴真の掌から


金色の光


《霊撃砲》!!


ドォォォォォン!!


「きゃあああっ!!」


茶々が


思わず頭を抱える


金色の霊力が


一直線に放たれる


狙いは


茶々ではない


前方


結界の一点


そして――


その先にある土壁


バァァァン!!


薄紅色の結界が


一瞬で砕け散る


さらに――


ドゴォォォォン!!


土壁へ激突


巨大な風穴が


一気に開いた


「…………」


茶々


呆然


結界が消えたことで


外の景色が戻る


その先には


ぽっかりと穴の開いた土壁


「……嘘」


茶々が


小さく呟く


晴真は


自分の手を見る


「よし!」


そして


笑う


「通れるね!」


「…………」


茶々が


ゆっくり振り返る


「……あなた」


「何?」


「結界を破るだけなら」


土壁を見る


「ここまでやる必要あった!?」


「え?」


晴真が


少し考える


「だって!」


「土壁も邪魔だったから!」


「……ああもう!」


茶々が


頭を抱える


「金桜眼って!」


「こんなに面倒くさいの!?」


◇


「晴真君!」


茜が叫ぶ


「何遊んでるの!」


「ええっ!?」


晴真が


目を丸くする


「遊んでないよ!」


「本当かなぁ!」


桔梗が


苦笑する


その横――


「菜穂!」


茜が


さらに叫ぶ


「そっちも!」


「いつまで戦ってるの!」


菜穂は


重成と剣を交えながら


「ちょっと待って!」


ガンッ!!


「シゲシゲ!」


「続きはまた今度!」


「だから!」


重成が


叫ぶ


「シゲシゲって呼ぶな!」


「ははっ!」


菜穂が笑う


「じゃあね!」


霊力の刃を


大きく振るう


重成が


一歩引く


その隙に――


菜穂が


霊馬へ飛び乗った


「よし!」


「行こう!」


その少し先では――


「道満君!」


桔梗が


叫んでいた


「遊んでないで行くよ!」


「遊んでない!」


道満が


結界を展開しながら叫ぶ


「こいつがしつこいんだ!」


「誰がしつこいって!?」


湊が


さらに矢を番える


「勝負はまだついてないぞ!」


「……まったく」


道満が


ため息をつく


そして――


にやっと笑った


「そういえば」


「何だ!」


「弓の勝負だったな」


「そうだ!」


湊が


得意そうに笑う


「鏑木流弓術の実力!」


「見せてやる!」


「なら――」


道満が


札をしまう


「俺も弓で返そう」


「……は?」


湊が


首を傾げる


道満の手に


弓はない


「お前」


「弓なんか持ってないだろ!」


「ああ」


道満が


右手を上げる


霊力が


集まり始める


「だから――」


空間へ


霊力が伸びる


弧を描き


一本の弦のような形を作る


「……え?」


湊が


目を見開く


霊力で形成された


弓


さらに――


左手


そこへ


巨大な霊力が集まる


一本の矢の形


「ちょっと待て!」


湊が叫ぶ


「それ!」


「どう見ても弓術じゃ――」


道満が


笑う


「行くぞ」


霊力の弦を


大きく引き絞る


《霊撃箭》!!


ドォン!!


巨大な霊力の矢が


一直線に放たれた


「うわぁぁっ!?」


湊が


慌てて霊馬を横へ寄せる


だが――


霊撃箭は


広い霊力を纏っている


完全には


避けきれない


「くっ!」


湊が


弓を構える


「《神箭》!」


ヒュンッ!!


霊力の矢と


神箭が――


激突


ドォン!!


「ぐっ!!」


湊が


体勢を崩す


「重っ!!」


その瞬間――


「湊!」


茶々が


駆けつける


両手を前へ


「《結界》!」


ブゥン!!


霊撃箭の前に


半透明の結界


ドォォン!!


激突


「くっ……!」


茶々の身体が


後方へ押される


霊馬も


数歩後ずさる


「茶々!」


湊が


驚いて振り返る


「大丈夫!?」


「だ、大丈夫!」


茶々が


歯を食いしばる


「でも!」


「これ……!」


結界が


軋む


ミシッ!!


「重すぎる……!」


その一瞬――


道満が


霊力を弱める


霊撃箭が


霧のように消えた


「…………」


湊が


呆然とする


そして――


道満を見る


「おい!」


「何だ?」


「今の!」


「弓術じゃないだろうが!」


「体術じゃねぇか!!」


道満が


少し考える


「……そうかもな」


にやっ


「そうかもな、じゃねぇよ!」


湊が叫ぶ


「弓の形してるだけじゃねぇか!」


「だが」


道満が


さらりと答える


「矢は飛んだぞ」


「そういう問題じゃない!!」


◇


「道満君!」


晴真が


大きく手を振る


「こっち!」


土壁


そこには――


金色の霊撃砲によって開いた


大きな風穴


「通れるよ!」


菜穂も


霊馬を走らせながら叫ぶ


「シゲシゲ!」


「またね!」


「誰がシゲシゲだ!!」


重成の声が


後方から響く


茜が


手裏剣を構える


桔梗も


苦無を指に挟む


「晴真君!」


「行こう!」


「うん!」


道満が


ようやく前を向く


「まったく……」


後ろを振り返る


湊


重成


美琴


茶々


そして――


空へ飛び去った白瀬


「二組も」


小さく笑う


「なかなか厄介な連中だな」


晴真も


頷く


「うん!」


「でも!」


金色の瞳が


僅かに輝く


「すっごく面白い術が多かったね!」


「……お前」


道満が


呆れたように笑う


「またそれか」


「あはは!」


だが――


晴真は


すぐに前を見る


「白瀬ちゃん!」


「あの子、先に行っちゃった!」


「分かってる!」


道満が


霊馬を加速させる


「晴真!」


「うん!」


「行くぞ!!」


五人が


一斉に駆け出した


土壁の風穴を抜け――


再び


第四走のコースへ


◇


後方では――


「…………」


生谷茶々が


まだ


晴真の走り去った方向を見ていた


「金桜眼……」


小さく呟く


自分の《恥辱の恩賞》


あれほど綺麗に


呪術と結界を組み合わせた術


なのに――


晴真には


呪術がほとんど作用しなかった


しかも


晴真本人は


その理由を


よく分かっていない


「……何なのよ」


茶々が


むっとする


「せっかく!」


「恥ずかしい秘密を聞けると思ったのに!」


美琴が


横から笑う


「茶々」


「何?」


「相手が悪かったんじゃない?」


「……どういうこと?」


「だってあの子」


美琴が


晴真の背中を見る


「色恋より」


「術の仕組みの方が気になるみたいだし」


「…………」


茶々が


さらにむっとする


「……本当に!」


「調子が狂うわ!」


そこへ


湊が


割って入る


「俺も調子が狂うぜ!」


「何?」


「麻賀多道満!」


湊が


悔しそうに拳を握る


「顔だけじゃなく!」


「あんな変な技まで使いやがって!」


「…………」


美琴と茶々


顔を見合わせる


そして――


「顔の勝負はしてなかったと思うけど」


「うん」


「少なくとも道満君は」


「相手にしてなかったよね」


「…………」


湊が


再び胸を押さえた


「ぐはっ……!」


その横


重成が


霊馬へ乗り直す


「お前ら……」


深いため息


「もういいから」


前を見る


「白瀬を追うぞ!」


「……あっ!」


四人が


同時に顔を上げる


すでに――


羽鳥白瀬は


大きく先行していた


「そうだった!」


美琴が叫ぶ


「私たち!」


「襷持ちを守らないと!」


「分かってるわよ!」


茶々が


慌てて霊馬を走らせる


湊も


弓を構え直す


「よし!」


「今度こそ!」


「俺の格好いいところを――」


「はいはい!」


「行くわよ!」


「最後まで聞け!!」


◇


第四走――


先頭争いは


さらに激しさを増していた


三組と五組が


互いに戦っている間に


一組は距離を広げた


だが――


二組


羽鳥白瀬の《飛翔》


その力によって


新たな先頭争いが始まろうとしている


そして


晴真と道満もまた――


まだ知らない


羽鳥家に伝わる


眷属の血


そして


その力が


この桜駆けで


どこまで発揮されるのかを


晴真が


空を見上げる


「道満君!」


「何だ?」


「空を飛ぶ相手って――」


少し考える


「どうやって追いつけばいいんだろう?」


道満も


空を見る


そして――


にやっと笑った


「決まっているだろう」


「え?」


「飛んでいるなら――」


道満が


前方を指差す


「降りてくる場所を考えるんだ!」


「……あっ!」


晴真の顔が


一気に明るくなる


「なるほど!」


道満が笑う


「勝田五勢――」


「次は《誘い》だ!」


第四走


まだまだ――


勝負は終わらない

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