第九十七話 追撃する者たち
第四走――
一年一組は
依然として先頭を走っていた
襷持ち――桜晴真
麻賀多道満
七曲桔梗
七曲茜
小竹菜穂
五人は
互いの位置を確かめながら
霊馬を走らせている
だが――
そのすぐ後ろ
真っ赤な霊馬
《紅蓮毛》を駆る男子がいた
三組の襷持ち――
岩富奉先
その後ろには
下勝田武尊
将門愛理
札術を得意とする男子――
宿向直人
そして
結界術を得意とする女子――
向口愛美
一年三組第四走班
五人が揃っていた
「さて!」
奉先が
長槍を肩へ担ぐ
「今度こそ!」
「五人で勝負だ!」
「奉先!」
武尊が叫ぶ
「勝負はいいけど、襷を忘れるなよ!」
「分かっている!」
愛理が苦笑する
「本当に分かってるのかなぁ……」
直人も
札を指に挟む
「まあ、奉先が正面から突っ込むのは想定通りだろ」
愛美が頷いた
「だったら私たちは、その動きに合わせましょう」
武尊は
一組の五人を見る
晴真
道満
そして
先ほど奉先を止めた三人
「油断はできないな」
紅蓮毛の速度を活かして
奉先が先行する
その左右へ
武尊と愛理
少し後方に
直人と愛美
五人が――
一つの陣形を作った
◇
「来るよ!」
茜が叫ぶ
後方から
奉先の槍
「おおおお!!」
長槍が
真正面から突き出される
だが――
「同じ手は!」
菜穂が
二刀を構える
「食わないよ!」
霊力の刃が
左右へ伸びる
キィン!!
大太刀で槍を弾き
小太刀で
奉先の進路を狙う
「ははっ!」
奉先が笑う
「そう来るか!」
その時――
「菜穂!」
道満の声
「右!」
「えっ!?」
横から――
武尊
「悪いな!」
霊木の刀を振るう
菜穂が
小太刀を戻そうとする
だが
間に合わない
その瞬間――
ヒュンッ!!
茜の手裏剣が
武尊の眼前を横切った
「おっと!」
武尊が
刀で弾く
キンッ!!
その一瞬で
菜穂が間合いを取り直す
「助かった!」
「まだ来るよ!」
桔梗の声
後方――
直人が
複数の札を放っていた
「《火球の術》!」
ボボボッ!!
火球が
三方向から迫る
しかも
一つ一つ
飛ぶ高さが違う
「上!」
「左!」
「右も!」
晴真が
札を取り出す
「じゃあ――」
霊力を
複数の札へ巡らせる
「僕も!」
ボボボボッ!!
小さな火球
次々と発動
直人の火球へ――
正確にぶつかる
ドドドン!!
空中で
炎が弾けた
「なっ!?」
直人の目が見開かれる
「何だ、その同時発動!」
晴真が笑う
「道満君と一緒に練習したんだ!」
「……道満もかよ!」
「俺はまだ何もしてないぞ」
道満が
さらっと答える
「これからするところだ」
直人の顔が
少し引きつった
「嫌な予感しかしねぇ……」
◇
「愛美!」
武尊が叫ぶ
「分かってる!」
向口愛美が
両手を前へ
霊力が
空間へ広がる
ブゥン!!
一組の進路
右側へ――
巨大な結界面
「うわっ!」
桔梗が
霊馬を左へ寄せる
だが――
左にも
ブゥン!!
別の結界
「両側!?」
茜が驚く
愛美は
霊馬を走らせながら
結界を次々と形成していく
大きな壁を
一枚作るのではない
左右へ
少しずつ
場所を変えて置く
そのたびに――
一組が走れる道が
狭くなっていく
「なるほど」
道満が
愛美の結界を見る
「上手いな」
「そうなの?」
晴真が聞く
「ああ」
道満が頷く
「止めるための結界じゃない」
「俺たちを――」
前を見る
「奉先の槍が届く位置へ追い込んでいる」
その言葉通り――
「そこだぁ!!」
奉先が
紅蓮毛を加速させる
正面
長槍
「うわっ!」
晴真が
身を伏せる
ヒュンッ!!
頭上を
槍の穂先が通り過ぎた
「危なかったぁ!」
「まだだ!」
奉先が
槍を返す
そこへ――
「晴真!」
道満が札を放つ
地面へ
三枚
「《土壁の術》!」
ゴゴゴッ!!
奉先の目前へ
低い土壁
だが――
「ぬっ!」
紅蓮毛が
軽々と跳び越える
「ははは!」
奉先が笑う
「この程度!」
だが
道満も笑った
「そうだろうな」
「何?」
飛び越えた先
桔梗の苦無が
地面へ突き刺さっている
「発動!」
ゴゴゴッ!!
今度は――
左右から土壁
「むっ!?」
奉先が
進路を変えようとする
だが――
そこには
菜穂
二刀を構え
待ち構えていた
「今度はこっち!」
大太刀の霊力刃が
奉先の槍へ伸びる
キィィン!!
「ぬおっ!」
奉先が
槍を押し返す
その間に――
晴真たちが前へ出る
「よし!」
桔梗が笑う
「抜けた!」
道満も頷く
「悪くない」
晴真が
嬉しそうに言う
「今の、五勢みたいだったね!」
「ああ」
道満が笑う
「相手を誘い込んで」
「進路を崩し」
「こちらから仕掛けた」
「うん!」
だが――
すぐに
後ろから声が響く
「まだまだぁ!!」
奉先
紅蓮毛が
土壁を跳び越えてくる
「うわっ!」
晴真が笑う
「あの人、全然諦めないね!」
「そういう奴だ!」
武尊が
後ろから叫んだ
◇
そして――
三組には
まだ一人
本格的に攻撃していない者がいた
将門愛理
「さて」
愛理が
霊馬を一気に寄せる
「私も行こうかな!」
「愛理!」
武尊が声をかける
「頼む!」
「任せて!」
愛理は
札を取り出さない
将門流
その基本にあるのは――
体術
拳
掌
肘
蹴り
そして
身体そのものを使った戦い
愛理は
馬上で身体を捻る
右掌へ
霊力が集まった
「将門流――」
《霊撃弾》!
ドンッ!!
掌から
圧縮された霊力の弾丸
「わっ!」
晴真が
身体を傾ける
霊撃弾が
真横を通過
地面へ着弾
バンッ!!
土砂が跳ね上がる
「愛理ちゃん!」
晴真が叫ぶ
「結構危ないよ!」
「競技中だからね!」
愛理が笑う
「遠慮はしないよ!」
さらに――
左掌
右掌
交互に
《霊撃弾》が放たれる
ドンッ!
ドンッ!!
「うわわっ!」
「晴真!」
道満が叫ぶ
「俺が防ぐ!」
「うん!」
道満が
札を放つ
ブゥン!!
結界
霊撃弾が激突
バンッ!!
衝撃が
結界へ広がる
「重いな……!」
愛理の霊撃弾は
単なる霊力の塊ではない
身体の捻り
腰の回転
肩から掌への連動
将門流の体術を使い
全身で生み出した力を
霊力へ乗せて放っている
それゆえ――
小さな霊撃弾でも
威力が高い
「くっ!」
道満が
さらに札を追加
結界を補強する
だが――
その一瞬
霊馬の速度が落ちる
「道満君!」
晴真が叫ぶ
「僕がやる!」
「待て!」
道満が
すぐに止めた
「晴真!」
「何?」
「必要以上の大技は使うな!」
「え?」
「今ここで全部吹き飛ばしたら」
「後ろの組まで巻き込むぞ!」
「あっ!」
晴真が
後方を見る
確かに――
他の組も
徐々に近づいている
「そっか!」
道満が続ける
「俺たちの仕事は」
「三組を倒すことじゃない」
「凛に襷を渡すことだ!」
「うん!」
晴真が
札を構え直す
「だったら――」
小さな火球を
複数発動
ボボボボッ!!
それを――
愛理の霊撃弾へ
正確にぶつける
ドドドン!!
「おっ!」
愛理が
目を輝かせる
「やるね!」
晴真も笑う
「ありがとう!」
「褒めてないわよ!」
「ええっ!?」
◇
その頃――
一組と三組の後方
二組
そして五組が――
着実に距離を詰めていた
◇
二組第四走班
先頭にいるのは
襷持ち――
羽鳥白瀬
羽鳥家
代々
特殊な能力を受け継ぐ家
その力の詳細は
他家の者には
あまり知られていない
白瀬は
前方の一組と三組を
静かに見ていた
その横を走る男子
飯重重成
立身流の門下生
表佐倉で暮らした経験があり
立身刀也とも
以前から親しい
そして何より――
立身刀優に
強い憧れを抱いている
「白瀬」
重成が声をかける
「前の二組」
「相当やり合ってるな」
「うん」
白瀬が頷く
「このままなら追いつける」
「だな」
重成が笑う
「刀也のいる一組が相手だからな」
「簡単には勝たせてもらえないと思ってたけど」
前方を見る
「まさか三組が、あそこまで食い下がるとは」
その横から――
「ねえねえ!」
吉見美琴
札術を得意とする女子
ただし
その術の使い方は
一般的な札術とは少し違う
「そろそろ私も仕掛けていい?」
指に挟んだ札を
くるりと回す
「まだ」
白瀬が答える
「えー!」
「せっかく準備してきたのに!」
「使う時は必ず来るから」
「はーい」
美琴は
少し不満そう
だが――
その隣の少女は
もっと楽しそうだった
生谷茶々
結界術と呪術を組み合わせた
独特の術を扱う少女
「ふふふ」
茶々が
前の組を見て笑う
「誰に使おうかなぁ」
「何を?」
重成が尋ねる
「もちろん」
茶々が
嬉しそうに答える
「私の結界呪術」
「…………」
重成が
嫌な顔をする
「お前」
「また変な代償を考えてるんじゃないだろうな?」
「変?」
茶々が首を傾げる
「失礼ね」
一拍
「ちょっと恥ずかしいだけよ」
「それが変なんだよ!」
美琴が吹き出す
「茶々のちょっとは信用できないからね!」
「もう!」
茶々が頬を膨らませる
その時――
「お嬢さんたち!」
軽い声
染井野湊
鏑木流弓術の門下生
鏑木与一とは
弓の腕を競い合う仲
そして――
容姿の良さでも
勝手にライバル視している
「そんなに難しく考えなくてもさ」
湊が
にこっと笑う
「俺の弓で道を開けてあげるよ!」
「はいはい」
美琴が
適当に返す
「湊はいつも格好いいねぇ」
「おっ!」
「分かってくれる?」
茶々まで
にやにや
「与一君より?」
「当然!」
湊が
胸を張る
「弓の腕も!」
「顔も!」
「俺の方が上!」
重成が
呆れる
「与一と仲いいくせに」
「ライバルだからな!」
「本人の前でも言える?」
「もちろん!」
即答
だが――
白瀬が
ふと湊を見る
「湊」
「ん?」
「頼りにしてるからね」
「…………」
湊が
固まった
「え?」
白瀬が
少し笑う
「弓、期待してる」
「…………お、おう」
急に声が小さくなる
「ま、任せとけ……」
美琴と茶々が
顔を見合わせる
「…………」
にやっ
「ねえ」
美琴が小声で言う
「さっきまであんなに調子よかったのに」
「本当ねぇ」
茶々も笑う
「白瀬の前だと」
「途端に大人しくなるんだから」
「聞こえてるぞ!」
湊が叫ぶ
だが――
顔が赤い
白瀬は
不思議そうに首を傾げる
「どうしたの?」
「何でもない!」
湊が
慌てて前を向く
普段なら
女子生徒へ軽口を叩くのは得意
けれど――
本当に好きな相手にだけは
どうしても
一歩踏み込めない
それが
染井野湊だった
◇
さらに――
五組第四走班
こちらも
一組と三組の戦いを見ながら
距離を縮めていた
その中心にいる男子
上勝田伊織
襷持ち
槍
太刀
徒手武術
陰陽術
どれも高い水準で修める
勝田五勢についても
深い理解を持つ実力者
だが――
今
伊織が見ているのは
一組ではない
三組
その中にいる――
下勝田武尊
「…………」
伊織の目が細くなる
「武尊……!」
その声には
強い対抗心
隣を走る女子が
ため息をついた
下勝田奈子
勝田五勢を修める少女
伊織を支える存在であり――
誰よりも
伊織の味方でいたいと願っている
「伊織」
「何だ?」
「また武尊のこと?」
「当然だろ!」
伊織が
即答する
「アイツにだけは負けられない!」
「はいはい」
奈子が笑う
「分かってる」
「だったら――」
伊織が
槍へ手を伸ばす
「今のうちに追いついて」
「まとめて抜くぞ!」
「任せて!」
奈子も
武器を構える
その横で――
一人の男子が
深いため息
和田翔太
勝田家を主君と慕う家に生まれた少年
勝田家自体は、主君家臣の間がらとは、思っていないのだが、周りの家々がその関係を大事にしている。
伊織と武尊
二人の関係に――
誰よりも頭を悩ませている
なぜなら
勝田天音から
頼まれているからだ
――翔太
――武尊と伊織の仲を
――何とか取り持ってあげてくださいね
「…………」
翔太が
遠い目をする
――天音様
――それが一番難しいんですよ……
「翔太!」
伊織が叫ぶ
「何ぼんやりしてる!」
「いや……」
翔太が
苦笑する
「伊織」
「勝つのはいいけどさ」
「もう少し普通に勝てないか?」
「普通?」
伊織が
眉をひそめる
「何を言ってる」
「勝つためなら」
「使える手は全部使う!」
「それが勝負だろ!」
「……そう言うと思った」
翔太が
ため息をつく
伊織は
勝利に対して
異常なほど執着する
どんな手を使ってでも勝つ
その考え方を
従姉妹の詩織から
嫌がられていることも――
翔太は知っていた
「伊織」
奈子が
優しく声をかける
「私は伊織の味方だから」
「分かってる」
伊織が頷く
「だから奈子」
「しっかりついてこい!」
「うん!」
奈子が笑う
翔太は
またため息
「……やれやれ」
だが――
前方を見ると
表情が引き締まる
「まあ」
「今はレースだ」
「伊織」
「何だ?」
「前の二組」
「速度が落ちてる」
伊織が
にやっと笑った
「分かってる!」
「ここで一気に――」
霊馬を加速させる
「追いつくぞ!!」
奈子も
翔太も
その後ろへ続いた
◇
一方――
先頭
一年一組と三組
その戦いは
さらに激しくなっていた
「直人!」
武尊が叫ぶ
「晴真たちの前!」
「了解!」
宿向直人が
札を三枚
同時に放つ
ヒュンッ!!
そのうち一枚が
晴真の前方へ
残る二枚は――
左右
「また火球!?」
晴真が
札を構える
だが――
「違う!」
道満が叫んだ
「晴真!」
「術式を見ろ!」
「えっ?」
晴真が
飛んできた札を見る
そこに書かれた文字
火球ではない
「……風?」
次の瞬間――
ゴォッ!!
札から
突風
「うわっ!」
前方から
強い風が吹きつける
さらに左右から――
別の風
三方向の風が
一組の霊馬を揺さぶる
「くっ!」
菜穂が
体勢を立て直す
「前へ出られない!」
その瞬間――
「愛美!」
「はい!」
向口愛美が
結界を展開
ブゥン!!
風に押されて
速度を落とした一組の前へ
今度は
薄い結界面
「うわっ!」
桔梗が
慌てて手綱を引く
「止まっちゃう!」
「道満君!」
晴真が叫ぶ
「どうする!?」
道満は
前方の結界を見る
そして――
後方
奉先
武尊
愛理
直人
愛美
三組の五人
「なるほど」
道満が
少し笑う
「完全に連携してきたな」
「笑ってる場合!?」
茜が叫ぶ
「いや」
道満が
札を構える
「いい機会だ」
晴真を見る
「晴真!」
「うん!」
「結界を壊すぞ!」
「分かった!」
晴真が
札を一枚
構える
霊力が
一気に圧縮される
だが――
道満が
付け加えた
「ただし!」
「全部吹き飛ばすな!」
「……え?」
「壊すのは」
結界の中央ではなく
右端を指差す
「そこだけでいい!」
「なるほど!」
晴真が
笑った
「そういうことね!」
◇
晴真が
札を放つ
一枚
だが
発動するのは――
小さな火球
「《火球の術》!」
ボッ!!
愛美が
少し眉を上げる
「その程度では!」
だが――
次の瞬間
火球が
結界の一点へ接触
ドンッ!!
通常の火球とは
比べものにならない衝撃
「……っ!?」
愛美の目が
見開かれる
「霊圧が……!」
一見
初級術
だが
霊力が
異常なほど圧縮されている
結界全体を壊すほど
巨大な術ではない
しかし――
一点だけ
破るには十分
パキンッ!!
右端の結界が
砕けた
「よし!」
道満が叫ぶ
「桔梗!」
「はい!」
「道を!」
桔梗が
苦無を放つ
地面へ――
二本
「発動!」
ゴゴゴッ!!
左右の土が
低く盛り上がる
結界の割れ目へ向かって
霊馬が走りやすい
一本の道
「茜!」
「任せて!」
手裏剣が
後方へ飛ぶ
狙いは
追ってくる武尊たちの足元
「ちっ!」
武尊が
霊馬を横へ振る
だが――
愛理が
前へ出る
「その程度!」
掌を構える
「《霊撃弾》!」
ドンッ!!
手裏剣が
霊撃弾で弾かれた
「やるな!」
茜が
楽しそうに笑う
その横
菜穂が
二刀を構える
「じゃあ!」
「こっちは私が!」
奉先の槍が
再び迫る
キィィン!!
「はははは!」
奉先が
嬉しそうに笑った
「いいぞ!」
「その調子だ!!」
「本当に楽しそうだね、あの人!」
菜穂が叫ぶ
◇
だが――
晴真たちが
一つの攻撃を防ぐたび
霊馬の速度は
僅かに落ちる
結界を避ける
進路を変える
札を放つ
敵の槍を受ける
その一つ一つは
ほんの僅かな減速
だが――
繰り返せば
大きな差になる
そして
三組も同じだった
晴真たちへ攻撃するために
進路を変え
間合いを詰め
術を使う
そのたびに――
自分たちの速度も落ちていく
結果――
先頭の二組だけが
互いに足を引っ張り合う形になっていた
「……おい」
武尊が
ふと後ろを見る
「奉先」
「何だ!」
「まずいぞ」
「何が?」
「後ろ!」
奉先が
振り返る
すると――
ドドドドドッ!!
後方から
大量の蹄の音
「……むっ?」
二組
羽鳥白瀬たち
そして――
五組
上勝田伊織たち
一気に
距離を詰めてきていた
「ははは!」
奉先が笑う
「いいではないか!」
「もっと面白くなる!」
「面白がってる場合じゃない!」
愛理が
思わず叫ぶ
「私たちまで抜かれるよ!」
「おお!」
奉先が
ようやく気づく
「それは困るな!」
「今さら!?」
武尊と愛理の声が
揃った
◇
一方――
一年一組
道満も
後方の異変へ気づいていた
「晴真」
「うん?」
「少しまずいな」
晴真が
振り返る
そこには
先ほどまで
見えなかった二組と五組
「うわっ!」
「もうあんなところまで!」
桔梗も
表情を引き締める
「道満君」
「どうする?」
道満は
少し考えた
相手が三組だけなら
五勢で対応できる
だが――
二組
五組
それぞれに
実力者が揃っている
しかも
襷持ちだけを見ても――
羽鳥白瀬
上勝田伊織
どちらも
簡単な相手ではない
「……このまま」
道満が呟く
「三組だけ相手にしてたら」
「後ろに飲み込まれるな」
「じゃあ」
晴真が
笑う
「どうする?」
「そうだな……」
道満が
後方を見る
奉先
武尊
愛理
直人
愛美
そして
さらに迫ってくる
二組と五組
「まずは――」
「走ることを優先する」
「無理に戦わない」
「うん!」
道満が
札を構える
「ただし」
少し笑う
「相手が仕掛けてきたら」
「必ず一手返す」
晴真が
嬉しそうに頷く
「五勢だね!」
「ああ!」
◇
その時――
「おーい!」
後ろから
明るい声
染井野湊
二組が
ついに追いついてきた
「一組!」
「三組!」
「ずいぶん楽しそうじゃん!」
重成も
笑いながら声をかける
「先頭争いに!」
「俺たちも混ぜてもらうぞ!」
その横
白瀬が
静かに前を見る
「みんな」
「ここからだよ」
「うん!」
美琴が
札を構える
茶々も
嬉しそうに笑った
「ふふっ」
「誰にしようかなぁ」
「茶々!」
重成が叫ぶ
「変なことすんなよ!」
「まだ何もしてないでしょう!」
その少し後ろ――
五組
「武尊!!」
大きな声
上勝田伊織
その目は
一直線に
下勝田武尊へ向いている
武尊が
嫌そうな顔をする
「……伊織か」
伊織は
にやっと笑う
「やっと追いついたぞ!」
「今日こそ!」
「お前を抜いてやる!」
「だから」
武尊が
ため息をつく
「俺だけじゃなく、一組も二組もいるだろ!」
「うるさい!」
「まずはお前だ!」
「もう!」
奈子が
隣から声をかける
「伊織!」
「襷を忘れないでね!」
「分かってる!」
翔太も
大きなため息
「……天音様」
小さく呟く
「前途多難です……」
◇
三組
二組
五組
次々と距離を詰めてくる
一年一組の五人は
顔を見合わせた
桔梗が
苦笑する
「ねえ」
「これって……」
茜も
頷く
「すごく大変なことになってない?」
菜穂は
二刀を構え直す
「でも!」
笑う
「面白くなってきたじゃん!」
「菜穂ちゃん!」
晴真が
嬉しそうに頷く
「僕もそう思う!」
「……お前ら」
道満が
呆れたように笑う
「頼むから」
「勝負そのものを楽しみすぎるなよ」
だが――
その道満自身も
少し笑っていた
追う者
追われる者
その立場が
目まぐるしく変わろうとしている
第四走――
一組
三組
二組
五組
四つの組が
ついに
一つの集団へ近づき始めた
そして――
その中心にいるのは
依然として
一年一組
桜晴真
晴真は
襷へ手を添える
「凛ちゃん……」
その顔が浮かぶ
最終走で
自分たちを待っている仲間
「絶対――」
ぎゅっと
襷を握る
「一番で届けるからね!」
道満も
静かに頷いた
「そうだな」
「ここからが本当の勝負だ」
後方――
紅蓮毛の蹄の音が
再び大きくなる
その横には
二組
そして五組
晴真が
前を向いた
「よし!」
「みんな!」
「行くよ!!」
「おう!!」
第四走――
五つの走班の中でも
最も激しい戦いになると言われる区間
その理由を――
一年一組は
今まさに
身をもって知ろうとしていた




