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第九十六話 追われる者の五勢


 第四走――


一年一組は


先頭を走っていた


しかも――


かなりの差をつけて


「いやぁ!」


桜晴真が


嬉しそうに振り返る


「美鈴ちゃんたち、すごかったね!」


「まったくだ」


麻賀多道満も頷く


「途中で何があったのかは分からないが、あの差から一位で戻ってくるとはな」


「結界柱を使った作戦も、相当上手くいったんだろうね!」


「それだけじゃないだろう」


道満が笑う


「運も味方したんだろうさ」


美鈴たちが


一度は最後尾になったことも


水虎から四組を救ったことも


誰も通ったことのない近道を抜けたことも――


二人はまだ知らない


ただ


美鈴たちが最後まで諦めず


襷を届けてくれたことだけは


確かだった


「さて!」


晴真が前を向く


「僕たちも頑張らないとね!」


「そうだな!」


その後ろを走るのは――


七曲桔梗


七曲茜


小竹菜穂


一年一組第四走班


五人は


横に広がりすぎないよう


互いの位置を確認しながら


霊馬を走らせていた


「ねえ、道満君」


桔梗が声をかける


「この先、どういう作戦で行くの?」


「そうだな……」


道満が少し考える


そして――


「五勢でいくか!」


「五勢?」


晴真が振り返る


「勝田五勢のこと?」


「ああ、そうだ」


勝田五勢――


攻め・守り・崩し・誘い・騙し


勝田流の根幹となる


五つの考え方


一つの決まった型ではなく


相手の動き


間合い


状況に応じて


五勢を使い分け


技を派生させる


「でも、道満君」


晴真が首を傾げる


「僕たち、剣術で戦うわけじゃないよ?」


「だから面白いんじゃないか」


道満が笑う


「勝田五勢は、剣だけに使うものじゃないだろう?」


「確かに!」


道満が


後方へ視線を向ける


「今の俺たちは追われる立場だ」


「相手が何を仕掛けてくるか分からない」


「ここで細かな作戦を決めても、予想外のことが起きれば全部崩れる」


桔梗が頷く


「確かに、そうだね」


「だから――」


道満が指を一本立てる


「相手の行動を見て、その場で作戦を組み立てる」


「相手が攻めてきたら守る」


「隙があれば崩す」


「必要なら誘い込む」


「そして騙す」


「最後はこちらから攻める」


菜穂が


少し難しそうな顔をする


「でも、それだと受け身に回りすぎない?」


「相手が来るのを待ってばかりじゃ、いつか追いつかれちゃうよ」


「そうだよね」


茜と桔梗が頷いた


すると――


「あっ、分かった!」


晴真が声を上げる


「五勢って、必ず最後は守りで終わらないんだよね!」


「ほう?」


「相手の攻撃を受けても、それで終わりじゃない」


晴真が笑う


「守って、相手を動かして、こっちが何か仕掛ける!」


「だから道満君は――」


「その場で作戦を立てるけど、その作戦は必ず僕たちから何か仕掛けて終わるようにするんだよね!」


道満が


満足そうに頷いた


「そういうことだ!」


「なるほど!」


菜穂が笑う


「ただ受けに回るわけじゃないんだね!」


「うん!」


晴真も頷く


「それなら追われる側でも、相手に主導権を渡さずに済むよね!」


「ただ……」


茜が


遠慮がちに口を開いた


「私たち、勝田五勢の手解きを受けたわけじゃないけど……大丈夫かな?」


「大丈夫だ!」


道満は即答した


「三人とも器用だからな」


「俺と晴真だけで戦うより、ずっと手数も増える」


「三人なら上手くやれるさ!」


「えっ……」


桔梗が目を丸くする


「そ、そうかな?」


茜も


少し頬を赤くした


「道満君にそう言ってもらえると、嬉しいね」


菜穂は


にやっと笑う


「へぇ!」


「道満君、私たちのこと結構評価してくれてるんだ!」


「当たり前だろう?」


道満は


不思議そうな顔


「同じ一組の仲間なんだからな」


「…………」


三人が顔を見合わせる


「道満君って……」


「こういうところあるよね」


「あるある」


「ん?」


道満が首を傾げる


晴真も


同じように首を傾げた


「何の話?」


「……晴真君も同じだから!」


「ええっ!?」


五人が笑う


だが――


その時だった


◇


ドドドドドドッ!!


「ん?」


最初に気づいたのは


菜穂


後方から――


凄まじい蹄の音


「何か来る!」


晴真たちが振り返る


遠くの道


土煙


その中から――


真っ赤な馬体


「うわっ!」


晴真が目を見開く


「赤い!」


全身を炎のような赤毛に覆われた霊馬


その毛並みは


走るたびに光を反射し


まるで燃え盛る炎のように見える


紅蓮毛


霊馬の中でも希少な種類であり


優れた瞬発力と速度を持つ


名だたる迅馬の一種


そして――


その背にいる男子


長槍を構え


一直線にこちらへ迫ってくる


「奉先!」


道満の表情が変わる


三組の槍使い――


奉先


「ははははっ!」


豪快な笑い声


「見つけたぞ!」


紅蓮毛が


さらに速度を上げる


「速っ!」


茜が叫ぶ


「もう追いついてくる!」


「単騎で来たのか!?」


桔梗も驚く


だが


奉先は止まらない


「桜晴真!」


「麻賀多道満!」


長槍を構える


「勝負だ!!」


「うわっ!」


晴真が慌てる


「いきなり!?」


「菜穂!」


道満が叫ぶ


「来るぞ!」


「任せて!」


菜穂が


霊馬の背で


身体を起こす


そして――


二本の刀を抜いた


右手――小太刀


左手――大太刀


どちらも


霊木で作られた刀


「おっ!」


奉先が


楽しそうに笑う


「お前が相手か!」


「そういうこと!」


菜穂が


にやっと笑う


「簡単には通さないよ!」


◇


ヒュンッ!!


奉先の槍が伸びる


鋭い突き


狙いは――


菜穂の肩口


「っ!」


菜穂は


左手の大太刀で


槍の穂先を外へ弾く


キィン!!


さらに――


右手の小太刀を


槍の柄へ当てる


二本の刀で


槍を挟むように押し流す


「ほう!」


奉先が目を細める


「やるな!」


間髪入れず


槍が戻る


今度は――


横薙ぎ


ブンッ!!


菜穂が


身を伏せる


頭上を


槍が通り抜ける


そのまま大太刀を


下から振り上げた


だが――


奉先は


余裕の笑み


「惜しいな!」


「その間合いでは――」


槍を引く


「届くまい!」


長槍


大太刀


小太刀


武器の長さでは


圧倒的に奉先が有利


菜穂が斬りかかろうとしても


奉先は


馬を半歩離すだけで


間合いの外へ逃げられる


しかも――


紅蓮毛


菜穂の霊馬より


明らかに速い


「さて!」


奉先が


再び槍を構える


「どうする!」


「ん?」


菜穂が


笑った


「そうかな?」


左手


大太刀を――


突き出す


「だから!」


奉先が笑う


「届くわけ――」


その瞬間


ブゥン!!


大太刀の切っ先から――


霊力が伸びた


「――っ!?」


刀身の先へ


青白く輝く


霊力の刃


まるで


大太刀そのものが


一瞬で長くなったように――


奉先へ迫る


「何っ!?」


咄嗟に


槍を横へ


キィィン!!


霊力の刃を


受け流す


「おい!」


奉先が


目を見開く


「それ!」


「霊装武具ではないだろう!」


「残念!」


菜穂が笑う


「普通の霊木刀だよ!」


「何だと!?」


「霊力を通せるものなら――」


菜穂が


右手の小太刀を構える


「何だって依代にできるんだよ!」


そして――


ブゥン!!


小太刀からも


霊力の刃が伸びた


「なっ!」


今度は


右から斬撃


奉先が槍で受ける


キィン!!


だが――


菜穂は


止まらない


右の小太刀を引くと同時に


左の大太刀を――


突き出す


「こっち!」


ヒュンッ!!


「くっ!」


奉先が


紅蓮毛へ合図を送る


ザザッ!!


急停止


霊力の刃が


鼻先を掠めた


「危ねぇ!」


奉先が


思わず笑う


「面白い!」


菜穂の二刀流


右手の小太刀で


細かな動きを作り


左手の大太刀で


大きな間合いを支配する


しかも――


そのどちらも


霊力の刃によって


長さが変わる


斬れると思った距離から


斬撃が届く


届かないと思った距離から


突きが伸びる


「へへっ!」


菜穂が笑う


「槍の方が長いって?」


「まだそう思う?」


「はははは!」


奉先が


心底楽しそうに笑った


「いいぞ!」


「いい!」


だが――


次の瞬間


紅蓮毛が


地面を蹴った


ドンッ!!


急発進


「えっ!?」


菜穂の表情が変わる


「速い!」


先ほどまで


間合いを外していた奉先が


今度は自分から――


距離を詰める


「ならば!」


槍を引き絞る


「伸ばす前に突けばよい!」


一直線


鋭い突き


菜穂の正面へ――


「くっ!」


だが


その時


ヒュンッ!!


横から――


何かが飛んだ


「むっ!?」


奉先が


槍を返す


キィン!!


弾かれたのは――


手裏剣


しかも


ただの手裏剣ではない


霊力を帯びた


霊装武具


「菜穂!」


茜が叫ぶ


「一人で遊ばない!」


「遊んでないって!」


「なら私たちも混ぜてよ!」


茜が


次の手裏剣を構える


「行くよ!」


ヒュヒュンッ!!


二枚


奉先へ飛ぶ


「小癪な!」


奉先が


槍を回す


キンッ!!


キィン!!


軽々と払う


「この程度!」


だが――


「それだけじゃないよ!」


今度は


桔梗


苦無を投げる


一本


二本


「ぬっ!」


奉先が


再び槍で弾く


キィン!!


苦無が


地面へ落ちた


「ははっ!」


奉先が笑う


「どうした!」


「外れたぞ!」


桔梗が


にやっと笑った


「ううん」


「当たりだよ!」


「何?」


地面へ刺さった苦無


そこに施された――


術式


淡く光る


「発動!」


ゴゴゴゴゴッ!!


「なっ!?」


奉先の目前


地面が――


盛り上がる


土


岩


それらが


一気に押し上げられ――


巨大な土壁となった


「むおっ!?」


奉先が


咄嗟に手綱を操る


紅蓮毛が


横へ跳ぶ


ドドンッ!!


土壁を回避


「くっ!」


だが――


進路を大きく変えられた


その隙に


一年一組は


前へ出る


「よし!」


桔梗が笑う


「成功!」


「今の良かったね!」


茜も笑う


「へへっ!」


菜穂が


二本の刀を構え直す


「二人とも助かった!」


◇


少し先――


晴真が


その戦いを見ていた


「すごい!」


目を輝かせる


「三人とも、すごいね!」


道満も


満足そうに笑う


「言っただろう?」


「器用だって」


晴真が頷く


「うん!」


「しかも今の――」


「五勢になってたね!」


「気づいたか」


道満が笑う


菜穂が――


守り


槍を受け


間合いを維持する


霊力の刃で


届かないと思わせた距離から突く


騙し


奉先を引きつけ――


誘い


茜の手裏剣で


攻撃を止める


その間に


桔梗の苦無が地面へ刺さる


崩し


土壁で進路を変え


その隙に――


一年一組は前へ進む


攻め


「全部繋がってる!」


晴真が


嬉しそうに笑う


「うん!」


「勝田五勢って、やっぱり面白い!」


「だろう?」


道満が


頷く


「しかも」


「俺たちの作戦通りに動いたわけじゃない」


「三人がその場で考えて」


「それぞれの得意な技を繋いだ」


「そうだね!」


晴真が


後ろの三人を見る


「菜穂ちゃん!」


「桔梗ちゃん!」


「茜ちゃん!」


「すっごく格好良かったよ!」


「えっ!?」


菜穂が


嬉しそうに笑う


「本当!?」


「うん!」


「やった!」


桔梗も


少し照れながら笑う


「晴真君、ありがとう!」


茜は


得意そうに胸を張った


「まだまだできるよ!」


「頼もしいな!」


道満が笑う


その時――


後方から


再び豪快な笑い声


◇


「はははははっ!!」


奉先


土壁を回避しながら


槍を肩へ担ぐ


「面白い!」


「実に面白い!」


その顔は――


怒っていない


むしろ


嬉しそうだった


「桜晴真!」


「麻賀多道満!」


声を張り上げる


「お前たちばかりと思っていたが――」


菜穂たちを見る


「他にも!」


「なかなかできる奴がいるじゃないか!」


「……え?」


菜穂が


一瞬きょとんとする


桔梗も


茜も


顔を見合わせた


奉先は


満面の笑み


「いいぞ!」


「ますます楽しくなってきた!」


「何なの、あの人……」


桔梗が


小声で呟く


茜が


苦笑


「普通、止められたら悔しがるよね?」


菜穂は


楽しそうに笑った


「でも、嫌いじゃないな!」


「菜穂もそっち側!?」


その時――


ドドドドドッ!!


後方から


さらに蹄の音


「奉先!」


女子生徒の声


三組


第四走班の仲間たちが


追いついてきた


その中に――


将門愛理


「もう!」


愛理が


呆れたように笑う


「なんでそんなに嬉しそうなの?」


「おお、愛理!」


奉先が


振り返る


「見ろ!」


菜穂たちを指差す


「一年一組!」


「桜と麻賀多だけじゃないぞ!」


「なかなか面白い奴らがいる!」


「はいはい」


愛理が


笑う


「あなたが楽しそうなのは分かったから」


「ちゃんと襷のことも考えてよね」


「無論!」


奉先が


胸を張る


「俺は勝つために走っている!」


「本当に?」


「本当だ!」


「さっき、思いっきり勝負を楽しんでたように見えたけど?」


「勝負を楽しまなくてどうする!」


「……やっぱり」


愛理が


ため息をつく


そのやり取りに


晴真が笑った


「あはは!」


「なんか刀也君みたい!」


道満が


深く頷く


「俺も今、同じことを考えていた」


「ね!」


「戦える相手を見つけたら」


「すぐ嬉しそうになるところまで似ている」


「確かに!」


一方――


菜穂が


二本の刀を構え直す


「さて!」


桔梗も


苦無を指に挟む


茜が


手裏剣を構える


五人の視線が――


後方へ向いた


奉先


将門愛理


そして


三組の第四走班


先ほどまでと違い


今度は――


相手も五人揃っている


道満が


小さく笑った


「晴真」


「うん?」


「五勢――」


「ここからが本番だな」


「そうだね!」


晴真が


襷へ手を添える


そして――


三人を見る


「桔梗ちゃん!」


「茜ちゃん!」


「菜穂ちゃん!」


「はい!」


「いつでも!」


「任せて!」


晴真が


満面の笑み


「じゃあ――」


「みんなで行こう!」


道満も


札を構える


「相手が五人になったなら」


「こちらも五人で相手をするだけだ!」


奉先が


それを見て――


にやり


「いいぞ!」


槍を構える


紅蓮毛が


地面を蹴る


「さて!」


奉先が叫ぶ


「みんな揃ったところで――」


「もうひと勝負行こう!!」


第四走


一年一組と三組


五人対五人


桜晴真と麻賀多道満


そして――


七曲桔梗


七曲茜


小竹菜穂


三人の実力が


いよいよ本格的に試される


だが


一年一組には


もう一つ――


大きな強みがあった


相手の行動を見て


その場で考え


五人の力を組み合わせること


決められた作戦だけに頼らず


状況によって形を変える


勝田五勢


そして――


その五勢をどう使うかは


五人の発想次第


晴真が


楽しそうに笑う


「道満君!」


「何だ?」


「なんだか――」


「面白くなってきたね!」


道満が


呆れたように笑った


「お前もか!」


二人の笑い声が


蹄の音へ混じる


その背後から――


奉先の紅蓮毛が


再び猛然と迫ってきた

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