第九話 宮小路町での木刀探し?
チーム研修の発表を週明けに控えた、最後の週末。
黒桜寮では朝から――。
「よし!」
刀也が元気よく立ち上がった。
「今日は木刀探しだ!」
「……ごめんね、刀也」
晴真が申し訳なさそうに笑う。
「まだ気にしてたのかよ」
「だって僕が折っちゃったんだし」
数日前。
春花から教わった霊装武具を試した晴真は、道満の霊木製の居合刀を依代に霊気の刃を作り出した。
そして――。
バキッ!
刀也が受け止めた木刀を見事に真っ二つにした。
「ちゃんとしたの買うから!」
「ああ!」
刀也は嬉しそうに笑う。
「どうせなら、すげえ木刀探そうぜ!」
「うん!」
そこで二人が向かうことにしたのが――。
宮小路町。
以前、晴真たちが訪れた陰陽術道具店。
おたから屋だった。
あの店では、かつて龍姫が使っていた札という、とんでもない掘り出し物を見つけている。
ならば。
「刀也に合う木刀もあるかもしれないよ」
という晴真の提案で、正臣と黒桜寮の監督生に外出許可をもらったのだった。
◇
「じゃあ行こうか」
晴真と刀也が黒桜寮の玄関へ向かおうとした、その時だった。
「晴真」
「ん?」
声を掛けてきたのは隼人だった。
「俺も行っていいか?」
「もちろん」
晴真はすぐに頷く。
「一緒に行こうよ」
「ありがとう」
すると――。
「お頭」
迅がひょこっと顔を出した。
「珍しいですね」
「…………」
隼人の眉がぴくりと動く。
「お前も行くんだよ」
「俺も?」
迅が自分を指差す。
「忍び組の買い出しもする予定だっただろ」
「あー!」
「忘れてたのか?」
「いやいや、覚えてましたよ、お頭」
「絶対忘れてただろ」
すると今度は。
「だったら、お頭」
茜と桔梗がやってくる。
「私たちも行く」
「忍具見たいし」
さらに。
「私も行く」
綾女まで現れた。
そして真顔で。
「お頭」
「…………」
隼人はしばらく黙った。
「……もう好きに呼べ」
「あっ」
迅が笑う。
「諦めた」
夏休みのチーム研修以来。
忍び組の指揮を執っていた隼人を、迅がふざけて「お頭」と呼び始めた。
それがいつの間にか茜、桔梗。
ついには綾女にまで広がり――。
最近では忍び組全員が隼人を「お頭」と呼んでいる。
最初こそ必死に訂正していた隼人だったが。
もう完全に諦めたらしい。
「行くぞ」
「へい、お頭!」
「はい、お頭」
「分かった、お頭」
「……お前ら楽しんでるだろ」
四人が揃って目を逸らした。
◇
「待て」
さらに声がする。
道満だった。
「俺も行く」
「道満君も?」
「ああ」
道満は晴真たちを見る。
「お前らだけで行かせたら、何をするか分からんからな」
「またまたぁ」
刀也がにやにやする。
迅もすぐに乗っかる。
「本当は自分も行きたいんだろ?」
「違う」
「素直じゃないですねぇ、道満様」
「うるさい」
道満が二人を睨む。
そこへ――。
「道満様が行かれるのでしたら」
紅葉がすっと現れた。
「わたくしもご一緒いたしますわ」
「紅葉も来るのか?」
「もちろんです」
嬉しそうに答える紅葉。
迅が刀也へ小声で言う。
「分かりやすいな」
「だな」
「聞こえてますわよ!」
「うおっ!」
二人が逃げる。
「まったく……」
紅葉は頬を赤くしていた。
◇
「それなら俺たちも行こうか」
声を掛けてきたのは与一だった。
隣には太一。
「僕もちょうど弓具を見たかったんだ」
「俺も剣の手入れ道具を見たいしね」
最近。
この二人はよく一緒にいる。
与一も太一も比較的真面目で、物事をじっくり考える性格。
チーム研修を通じて話す機会が増えた結果、意外と気が合うことが分かったらしい。
そして――。
「豪太!」
太一が声を掛ける。
「お前も行こうぜ」
「おお! いいぜ!」
豪太も加わる。
この三人も最近よく一緒にいる組み合わせだった。
弓の与一。
剣の太一。
槍の豪太。
得意な武器はまったく違うが。
武具について話し始めると、なぜか延々と盛り上がる三人でもある。
「よし」
刀也が人数を数える。
「これで――」
「ちょっと待って!」
今度は美鈴の声。
美鈴が凛と小夜を連れてやってきた。
「男子ばっかりで遊びに行く気?」
「遊びじゃねえよ!」
刀也が即座に突っ込む。
「木刀買いに行くんだよ!」
「同じようなものでしょ」
「違う!」
美鈴は気にせず笑う。
「じゃあ私たちも行く!」
凛も頷く。
「せっかくのお休みですし」
小夜も小さく笑った。
「私も……行きたいです」
「もちろん!」
晴真が笑う。
「みんなで行こうよ」
そして。
「一、二、三……」
与一が数える。
十五人。
「……結局」
苦笑する。
「いつものメンバーじゃないか」
「本当だ!」
晴真が笑う。
最初は。
晴真と刀也。
たった二人で木刀を探しに行く予定だった。
それが――。
気がつけば。
いつもの十五人。
全員参加になっていた。
「いつものことだな」
道満が呆れる。
「いいじゃん!」
刀也が笑う。
「みんなで行った方が楽しいだろ!」
「それはそうだけどな」
道満も僅かに笑った。
そして 凛が「みんなの許可も貰ってくるね」
許可をもらいに行った。
◇
黒桜寮を出ようとした時。
「あっ!」
晴真が何かを思い出した。
「ねえ、みんな」
「どうしたの?」
凛が振り返る。
晴真の顔が嬉しそうになる。
「せっかく宮小路町まで行くんだから――」
少し間を置いて。
「佐倉茶屋『麗らか』にも行こうよ!」
「賛成!」
美鈴が真っ先に食いついた。
「流石、晴真君!」
「分かってるねぇ!」
凛も嬉しそうに笑う。
「久しぶりに行きたいです!」
「わたしも……」
小夜も小さく手を上げる。
紅葉も。
「悪くありませんわね」
茜と桔梗も顔を見合わせる。
「甘いもの!」
「食べたい!」
女子たちの目的が一瞬で木刀から甘味へ変わった。
刀也が呆れる。
「お前ら、俺の木刀買いに行くんだからな?」
「分かってるって!」
美鈴が笑う。
与一が晴真を見る。
「でも晴真」
「なに?」
「麗らかに行きたいって――」
にやり。
「本当は自分が行きたいだけじゃない?」
「…………」
晴真が目を逸らした。
「餡蜜……食べたい」
「やっぱり!」
わはははは!
十五人の笑い声が黒桜寮の玄関に響いた。
「じゃあ決まり!」
刀也が元気よく拳を上げる。
「目的地――宮小路町!」
「まずは俺の木刀!」
美鈴が続く。
「その後は麗らか!」
「逆にするな!」
「どっちでもいいじゃん!」
「よくねえ!」
「刀也」
晴真が笑う。
「ちゃんと先に木刀探すから」
「お前が一番信用できねえんだよ!」
「えぇ!?」
再び笑いが起こる。
こうして――
刀也の木刀一本を探すためだったはずの買い物は。
いつの間にか
一年一組いつものメンバー総出の、宮小路町へのお出かけになったのだった。




