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第九話 宮小路町での木刀探し?


 チーム研修の発表を週明けに控えた、最後の週末。


黒桜寮では朝から――。


「よし!」


刀也が元気よく立ち上がった。


「今日は木刀探しだ!」


「……ごめんね、刀也」


晴真が申し訳なさそうに笑う。


「まだ気にしてたのかよ」


「だって僕が折っちゃったんだし」


数日前。


春花から教わった霊装武具を試した晴真は、道満の霊木製の居合刀を依代に霊気の刃を作り出した。


そして――。


バキッ!


刀也が受け止めた木刀を見事に真っ二つにした。


「ちゃんとしたの買うから!」


「ああ!」


刀也は嬉しそうに笑う。


「どうせなら、すげえ木刀探そうぜ!」


「うん!」


そこで二人が向かうことにしたのが――。


宮小路町。


以前、晴真たちが訪れた陰陽術道具店。


おたから屋だった。


あの店では、かつて龍姫が使っていた札という、とんでもない掘り出し物を見つけている。


ならば。


「刀也に合う木刀もあるかもしれないよ」


という晴真の提案で、正臣と黒桜寮の監督生に外出許可をもらったのだった。



「じゃあ行こうか」


晴真と刀也が黒桜寮の玄関へ向かおうとした、その時だった。


「晴真」


「ん?」


声を掛けてきたのは隼人だった。


「俺も行っていいか?」


「もちろん」


晴真はすぐに頷く。


「一緒に行こうよ」


「ありがとう」


すると――。


「お頭」


迅がひょこっと顔を出した。


「珍しいですね」


「…………」


隼人の眉がぴくりと動く。


「お前も行くんだよ」


「俺も?」


迅が自分を指差す。


「忍び組の買い出しもする予定だっただろ」


「あー!」


「忘れてたのか?」


「いやいや、覚えてましたよ、お頭」


「絶対忘れてただろ」


すると今度は。


「だったら、お頭」


茜と桔梗がやってくる。


「私たちも行く」


「忍具見たいし」


さらに。


「私も行く」


綾女まで現れた。


そして真顔で。


「お頭」


「…………」


隼人はしばらく黙った。


「……もう好きに呼べ」


「あっ」


迅が笑う。


「諦めた」


夏休みのチーム研修以来。


忍び組の指揮を執っていた隼人を、迅がふざけて「お頭」と呼び始めた。


それがいつの間にか茜、桔梗。


ついには綾女にまで広がり――。


最近では忍び組全員が隼人を「お頭」と呼んでいる。


最初こそ必死に訂正していた隼人だったが。


もう完全に諦めたらしい。


「行くぞ」


「へい、お頭!」


「はい、お頭」


「分かった、お頭」


「……お前ら楽しんでるだろ」


四人が揃って目を逸らした。



「待て」


さらに声がする。


道満だった。


「俺も行く」


「道満君も?」


「ああ」


道満は晴真たちを見る。


「お前らだけで行かせたら、何をするか分からんからな」


「またまたぁ」


刀也がにやにやする。


迅もすぐに乗っかる。


「本当は自分も行きたいんだろ?」


「違う」


「素直じゃないですねぇ、道満様」


「うるさい」


道満が二人を睨む。


そこへ――。


「道満様が行かれるのでしたら」


紅葉がすっと現れた。


「わたくしもご一緒いたしますわ」


「紅葉も来るのか?」


「もちろんです」


嬉しそうに答える紅葉。


迅が刀也へ小声で言う。


「分かりやすいな」


「だな」


「聞こえてますわよ!」


「うおっ!」


二人が逃げる。


「まったく……」


紅葉は頬を赤くしていた。



「それなら俺たちも行こうか」


声を掛けてきたのは与一だった。


隣には太一。


「僕もちょうど弓具を見たかったんだ」


「俺も剣の手入れ道具を見たいしね」


最近。


この二人はよく一緒にいる。


与一も太一も比較的真面目で、物事をじっくり考える性格。


チーム研修を通じて話す機会が増えた結果、意外と気が合うことが分かったらしい。


そして――。


「豪太!」


太一が声を掛ける。


「お前も行こうぜ」


「おお! いいぜ!」


豪太も加わる。


この三人も最近よく一緒にいる組み合わせだった。


弓の与一。


剣の太一。


槍の豪太。


得意な武器はまったく違うが。


武具について話し始めると、なぜか延々と盛り上がる三人でもある。


「よし」


刀也が人数を数える。


「これで――」


「ちょっと待って!」


今度は美鈴の声。


美鈴が凛と小夜を連れてやってきた。


「男子ばっかりで遊びに行く気?」


「遊びじゃねえよ!」


刀也が即座に突っ込む。


「木刀買いに行くんだよ!」


「同じようなものでしょ」


「違う!」


美鈴は気にせず笑う。


「じゃあ私たちも行く!」


凛も頷く。


「せっかくのお休みですし」


小夜も小さく笑った。


「私も……行きたいです」


「もちろん!」


晴真が笑う。


「みんなで行こうよ」


そして。


「一、二、三……」


与一が数える。


十五人。


「……結局」


苦笑する。


「いつものメンバーじゃないか」


「本当だ!」


晴真が笑う。


最初は。


晴真と刀也。


たった二人で木刀を探しに行く予定だった。


それが――。


気がつけば。


いつもの十五人。


全員参加になっていた。


「いつものことだな」


道満が呆れる。


「いいじゃん!」


刀也が笑う。


「みんなで行った方が楽しいだろ!」


「それはそうだけどな」


道満も僅かに笑った。


そして 凛が「みんなの許可も貰ってくるね」


許可をもらいに行った。



黒桜寮を出ようとした時。


「あっ!」


晴真が何かを思い出した。


「ねえ、みんな」


「どうしたの?」


凛が振り返る。


晴真の顔が嬉しそうになる。


「せっかく宮小路町まで行くんだから――」


少し間を置いて。


「佐倉茶屋『麗らか』にも行こうよ!」


「賛成!」


美鈴が真っ先に食いついた。


「流石、晴真君!」


「分かってるねぇ!」


凛も嬉しそうに笑う。


「久しぶりに行きたいです!」


「わたしも……」


小夜も小さく手を上げる。


紅葉も。


「悪くありませんわね」


茜と桔梗も顔を見合わせる。


「甘いもの!」


「食べたい!」


女子たちの目的が一瞬で木刀から甘味へ変わった。


刀也が呆れる。


「お前ら、俺の木刀買いに行くんだからな?」


「分かってるって!」


美鈴が笑う。


与一が晴真を見る。


「でも晴真」


「なに?」


「麗らかに行きたいって――」


にやり。


「本当は自分が行きたいだけじゃない?」


「…………」


晴真が目を逸らした。


「餡蜜……食べたい」


「やっぱり!」


わはははは!


十五人の笑い声が黒桜寮の玄関に響いた。


「じゃあ決まり!」


刀也が元気よく拳を上げる。


「目的地――宮小路町!」


「まずは俺の木刀!」


美鈴が続く。


「その後は麗らか!」


「逆にするな!」


「どっちでもいいじゃん!」


「よくねえ!」


「刀也」


晴真が笑う。


「ちゃんと先に木刀探すから」


「お前が一番信用できねえんだよ!」


「えぇ!?」


再び笑いが起こる。


こうして――


刀也の木刀一本を探すためだったはずの買い物は。


いつの間にか


一年一組いつものメンバー総出の、宮小路町へのお出かけになったのだった。

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