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第十話 宮小路町のおたから屋


 チーム研修の発表を目前に控えた、最後の週末。


一年一組の十五人は、揃って宮小路町へ向かっていた。


目的はもちろん――。


「今日は絶対、俺の木刀だからな!」


刀也が念を押す。


「分かってるって」


迅が笑う。


晴真は申し訳なさそうに刀也を見る。


「ちゃんと僕が買うからね」


「当然だ!」


「ごめんってば」


そもそもの原因は晴真である。


春花から教わった霊装武具を試した結果、刀也の木刀を真っ二つにしてしまったのだから。


だが――。


十五人も揃えば、話題は自然と来週の発表へ移っていく。


「三組、どんな布陣で来るかな」


与一が言う。


「影也は道満を警戒するでしょうね」


凛が考える。


「奉先君と舞桜さんをどうするかも問題です」


「七曲響もいる」


隼人が付け加える。


迅が笑った。


「まあ、考えても仕方ないだろ」


「俺たちは俺たちのやることやればいいんだよ」


「珍しくまともなこと言ったな」


「お頭、ひどくない?」


「誰がお頭だ」


「お頭」


綾女がぼそり。


「綾女まで……」


笑いが起こる。



やがて話題は――。


最近、皆が夢中になっている霊装武具へ移った。


「なあ」


太一がふと呟く。


「この前から考えてたんだけどさ」


「何を?」


刀也が聞く。


太一は両手で巨大な刀を作るような仕草をする。


「霊装武具って、刀身を大きくできるだろ?」


「ああ」


「だったらさ」


目が輝く。


「霊装武具でめちゃくちゃデカい刀を作って――」


ブンッ!


「その状態で大斬刃を撃ったら、斬撃もデカくなるのかな?」


「おお!」


刀也が食いつく。


「それ俺もやってみてえ!」


「理屈ではあり得るな」


道満も顎へ手を当てる。


「ただ、大きくするほど霊力消費も増えるだろう」


「問題はどこまで大きくするのが効率的かだな」


「じゃあ研究してみようぜ!」


「面白そうだな」


道満もすっかり乗り気だった。


「俺は居合刀の方も気になる」


「晴真がやったやつ?」


与一が尋ねる。


「ああ」


道満は自分の腰へ手を添える。


「刀身の長さを自由に変えられるなら――相手は間合いを掴めない」


太一がすぐに理解する。


「普通の刀だと思って避けた瞬間、伸ばすのか」


「そういうことだ」


「逆に短くするのも使えそうだね」


与一が言う。


「長い刀身を見せておいて、懐へ入られた瞬間に短くするとか」


「なるほど!」


刀也が目を輝かせる。


「やべえな霊装武具!」


剣術。


間合い。


霊力。


大斬刃。


男子たちは完全に剣術談義へ夢中になっていた。


一方――。


少し後ろでは。


「私は餡蜜!」


美鈴が言う。


「麗らかに着いたら絶対頼む!」


凛も楽しそうに笑う。


「私は抹茶と白玉も気になります」


「わたしも……白玉」


小夜が小さく頷く。


紅葉も口元を緩める。


「季節限定の甘味もあるかもしれませんわね」


茜と桔梗も盛り上がる。


「何種類か頼んで」


「みんなで分ける?」


「それいい!」


そこへ。


「僕も!」


晴真が当たり前のように混ざっていた。


「僕、餡蜜食べたい!」


「晴真君、分かってるね!」


「餡蜜おいしいよね!」


「うん!」


晴真は女子六人に囲まれて、完全に馴染んでいる。


その様子を前から眺める刀也と迅。


「……なあ」


「なんだ?」


「あいつ」


刀也が晴真を指差す。


「完全に女子だなぁ」


迅が真顔で頷いた。


「俺も今そう思った」


ぴくっ。


女子たちが一斉に振り返る。


そして――。


「甘いものは正義です!」


見事に声が揃った。


晴真も。


「うん!」


「お前まで言うのかよ!」


わはははは!


そんなこんなで。


十五人は賑やかに宮小路町へ入っていった。



「着いた!」


晴真が店を見上げる。


陰陽術道具店――おたから屋。


以前。


龍姫が使った札という、とんでもない掘り出し物を見つけた店だ。


カラカラ。


扉を開ける。


「いらっしゃ――」


店主が十五人を見て固まる。


「……また随分連れてきたな」


「おっちゃん!」


刀也が前へ出た。


「まず俺の木刀からだからな!」


後半は仲間たちへ向けている。


「はいはい」


「分かってます」


「麗らかは逃げませんから」


「絶対だからな!」



店主に霊木の木刀を何本か出してもらう。


刀也は一本ずつ握った。


ブン。


「うーん……」


次。


ブンッ。


「これも違う」


さらに一本。


「……なんかなぁ」


「贅沢な坊主だな」


店主が呆れる。


刀也は値札を見る。


「値段の割には、なんかなぁ……」


「お前な……」


その横で晴真が木刀を眺める。


「ねえ、おっちゃん」


「なんだ?」


「霊木の木刀って、なんで普通の木刀よりいいの?」


「ああ」


店主が一本手に取る。


「霊木は霊気を通しやすいんだ」


「霊気を流すことで硬質化するし、霊力を使った剣技なんかも使いやすくなると言われてる」


「そうなんだ!」


刀也が聞いていた。


「おっちゃん」


「今度はなんだ」


「試してみていい?」


「おっちゃんって……」


店主がため息をつく。


「まあいい」


「向こうでやっとくれ」


「この前、お前らが術を試した場所だ」


「ありがとう、おっちゃん!」


「もう好きに呼べ……」



店の裏手。


刀也は高級な霊木の木刀を構えた。


霊力を巡らせる。


「行くぜ!」


踏み込む。


「大斬刃!」


ズバァン!!


巨大な斬撃が飛ぶ。


「おお!」


太一が声を上げる。


「前の木刀より全然いい!」


「確かに」


刀也も頷く。


「数段いいんだけど……」


木刀を見る。


「なんか物足りねえんだよな」


「何が?」


「分かんねえ」


道満がしばらく考える。


そして。


「刀也」


「ん?」


「お前、最近は霊装武具で剣の稽古をしていたよな」


「ああ」


道満は店主を見る。


「店主さん」


「霊木の見本の棒を一本借りてもいいですか?」


「これか?」


加工前の霊木の棒を渡される。


道満はそれを刀也へ差し出した。


「これで刀を作ってみろ」


「あっ!」


刀也も気づく。


「なるほど!」


霊木の棒を握る。


霊力を流し――。


「霊装武具!」


ブォン!


霊気が刀の形へ変わる。


「なっ!?」


店主が目を見開いた。


「なんだそれ!」


「霊気の刀か!?」


「そう!」


刀也は構える。


その瞬間。


「うお……!」


「どうした?」


「これ、すげえぞ!」


刀也の顔が輝く。


「霊力の通りが半端ねえ!」


そのまま踏み込む。


「大斬刃!」


ズバァァァン!!


先ほどとは明らかに違った。


斬撃の大きさ。


勢い。


そして安定感。


「すげえ!」


豪太が叫ぶ。


道満は霊木を見つめる。


「霊木を依代にすると、霊気が安定するのか」


「霊木の力で霊装武具を構成する霊気の質まで高まっているみたいだな」


刀也は完全に気に入った。


「おっちゃん!」


霊木の棒を掲げる。


「この枝売ってくれ!」


「いやいや!」


「そりゃ売り物じゃない!」


「えー!」


「頼むよー!」


「駄目だ!」


「そこをなんとか!」


店主は頭を抱える。


「まったく……」


その時。


ふと何かを思い出した。


「そういや……」


店の奥を見る。


「ちょっと待ってろ」



しばらくして。


店主が古びた箱を持って戻ってきた。


「こんなガラクタならあるんだけどな」


「ガラクタ?」


蓋を開ける。


中にあったのは――。


一本の奇妙な木刀。


立派な柄と鍔。


しかし。


「……折れてる?」


刀也が覗き込む。


刀身は、鍔から僅かに残っているだけだった。


「ほとんど柄と鍔しか残ってないんだ」


店主が言う。


「かなり古い物らしい」


「ただ、使われている霊木は相当貴重なものだ」


道満が短い刀身を見る。


「これは……」


そこには。


火炎の術式が刻まれていた。


「火炎の術式?」


凛も覗き込む。


「折れちまったんですか?」


与一が尋ねる。


「たぶんな」


店主は肩をすくめる。


「刀身がほとんど残ってないから、ずっとガラクタ扱いだった」


「でも」


刀也を見る。


「さっきみたいに刀身を霊気で作れるなら、使えるんじゃないかと思ってな」


道満が木刀をじっと見る。


「……これって、まさか」


与一も気づく。


「たぶん」


太一も頷いた。


「きっとそうだ」


「なんだよ!」


刀也が三人を見る。


「俺にも教えてくれよ!」


道満が答える。


「これ――」


木刀を持ち上げる。


「霊装武具を使うことを前提に作られた木刀なんじゃないか?」


「マジで!?」


店主まで驚いた。


「このガラクタが、さっきの術用なのか?」


「おそらく」


「坊主!」


「おう!」


「試してくれ!」


「任せろ!」



刀也が木刀を握る。


「……!」


すぐに違いが分かった。


「すげえ」


「どうした?」


「霊力がめちゃくちゃ通る」


短い刀身へ霊力を流す。


「霊装武具!」


ブォン――!


美しい刀身が現れた。


これまで刀也が作ったどの霊装武具よりも。


密度が高く。


形が整い。


揺らぎも少ない。


「きれい……」


小夜が呟く。


「すげえ……」


刀也自身も見惚れていた。


そこで晴真が短い霊木部分を見る。


「ねえ刀也君」


「ん?」


「火炎の術式が書いてあるんだから――」


にこっと笑う。


「火炎の術が使えるんじゃない?」


「おお!」


刀也の目が輝く。


「やってみるぜ!」


術式へ霊力を送る。


「火炎!」


しかし。


「…………」


何も飛ばない。


「失敗?」


美鈴が首を傾げた。


その瞬間。


ボッ!


「うおっ!?」


刀身が赤々と燃え上がった。


「…………!」


炎を纏う霊気の刀。


刀也の口が開く。


「マジか……」


そして。


「カッケェェェェ!」


刀を掲げる。


「炎の刀だぞ!」


「すげえ!」


「格好いい!」


豪太と迅が大騒ぎ。


太一も目を輝かせた。


「刀也!」


「なんだ!」


「ちょっと大斬刃撃ってみろよ!」


「おう!」


刀也が炎の刀を構える。


そして。


袈裟斬り。


「大斬刃!!」


ズバァァァン!!


炎を纏った斬撃が飛んだ。


「うおおおお!」


「ヤベェ!」


「格好よすぎる!」


男子たちは大騒ぎ。


刀也も完全に決めた。


「おっちゃん!」


「これにする!」


「いくら!?」


「いくらも何も……」


店主は苦笑する。


「それ、ガラクタだから値段なんてないんだよ」


「え?」


店主は十五人を見る。


「毎回、君たちは面白いもんを見せてくれるな」


そして刀也へ笑う。


「持ってきな、それ」


「マジで!?」


「ああ」


「ありがとう、おっちゃん!」


「だからおっちゃんって……」



すると。


迅がすぐに店主へ詰め寄った。


「なあ、おっちゃん!」


「今度はなんだ!」


「他にはもうないのかよ?」


「何?」


太一も来る。


「俺も欲しい!」


豪太まで。


「槍のはないの?」


紅葉と小夜も。


「薙刀用もありますの?」


「わ、わたしも……気になります」


そして。


綾女がぼそり。


「……忍刀」


「お前ら一斉に喋るな!」


店主が叫ぶ。


「分かった! 分かった!」


頭を掻く。


「倉庫を探してくるから待ってろ!」


「おお!」


「頼むぜ、おっちゃん!」


「ったく……」


ぶつぶつ言いながら、店主は倉庫へ向かった。



その間。


晴真と刀也は普通の木刀を選び直していた。


「これは?」


「おっ」


刀也が握る。


軽く振る。


「これいいな」


「じゃあこれにしよう!」


「本当に晴真が買うのか?」


「もちろん」


晴真は笑う。


「僕が折っちゃったんだから」


「じゃあ遠慮なく!」


「うん!」


こうして普段の稽古に使う木刀も無事決まった。


一方――。


道満は。


店の奥で、一振りの刀を見つめていた。


他の商品とは明らかに扱いが違う。


店の一番良い場所。


丁寧に飾られた居合刀。


古い物だ。


だが。


不思議な存在感がある。


「…………」


道満がじっと見ていると。


「なんだ坊主」


戻ってきた店主が声を掛けた。


「気になるか?」


「はい」


道満は素直に頷く。


店主の表情が少し柔らかくなった。


「あれはな」


居合刀を丁寧に手に取る。


「龍姫様と共に、裏佐倉のために戦った英雄――」


道満を見る。


「夜叉丸様の刀だと言われている」


「……!」


道満の目が見開かれる。


晴真も振り返った。


「夜叉丸さん?」


「そうだ」


店主は刀を大切そうに持つ。


「もっとも、本物かどうかは俺にも分からん」


そして。


ゆっくり鞘から抜いた。


スッ――。


「え?」


刀也が首を傾げる。


出てきたのは。


普通の刀身ではなかった。


短い。


まるで途中から折れてしまったような――。


僅かな霊木の刀身。


「これも……折れてる?」


晴真が尋ねる。


「俺もずっとそう思ってた」


だが。


道満は違うところを見ていた。


「……術式」


短い刀身には。


美しい文字で――。


びっしりと術式が刻み込まれていた。


晴真も覗き込む。


「すごい……」


一つではない。


幾重にも重なる術式。


それでいて乱雑ではなく。


一つの模様のように美しく整っている。


店主は愛おしそうに刀を眺めた。


「俺は夜叉丸様をとても尊敬していてな」


「この刀が本当に夜叉丸様の物かどうかは分からない」


「だが――」


笑う。


「素晴らしい一品だろ?」


「はい」


道満は即答した。


店主は先ほど刀也が手に入れた木刀を見る。


そして夜叉丸の刀を見る。


「やっぱりこれも――」


「さっきの霊装武具って術を使うための刀なのかい?」


道満はしばらく刀身を観察する。


「……たぶん」


「やっぱりか……」


その時。


晴真が不思議そうに道満を見る。


「これって――」


「道満君のご先祖様が使ってたものなの?」


「そうなるな」


道満が頷く。


「夜叉丸様は、麻賀多宗家の祖先にあたる方だから」


「へぇー!」


すると店主が道満をまじまじと見る。


「待て」


「お前さん……麻賀多宗家の子なのか?」


「はい」


「父は麻賀多道継――」


「道継さんの息子さんか!?」


「え?」


突然、店主の声が大きくなった。


「父をご存じなんですか?」


「知ってるも何も!」


店主が懐かしそうに笑う。


「学生時代、えらい世話になったんだよ!」


「父が……」


道満は少し意外そうだった。


店主は道満を見る。


そして。


手の中にある、夜叉丸のものと伝わる居合刀を見る。


少し迷ってから――。


道満へ差し出した。


「なあ坊主」


「はい?」


「ちょっと――」


店主の表情が真剣になる。


「こいつを試してもらえないかい?」


「……俺が?」


「ああ」


「麻賀多宗家の血を引くお前さんなら」


古びた居合刀を見つめる。


「もしかしたら――」


「この刀が本当は何のために作られたのか、分かるかもしれん」


道満は差し出された刀を見る。


夜叉丸。


先代の銀桜眼。


自分たち麻賀多宗家の祖先。


そして。


春花から聞いた言葉を思い出す。


――夜叉丸様は、鋼の刀を霊装武具で斬ったことがあります。


「…………」


道満はゆっくり手を伸ばした。


「分かりました」


そして――。


夜叉丸の刀を受け取った。

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