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第八十八話 五つの走班


 「じゃあ――」


正臣が黒板の前へ立つ


「チーム編成を発表するぞ!」


その言葉に


教室の空気が一気に変わった


桜駆けは


ただ霊馬で速く走ればいい競技ではない


一つの走班は五人


その中の一人が《襷持ち》となり


残る四人が


襷持ちを守り


道を作り


敵を妨害しながら次の走班へ繋ぐ


五人で一つ


そして


五つの走班で一つの組


誰と組むのか


誰が襷を持つのか


それによって


戦い方そのものが変わる


皆が


固唾を呑んで黒板を見る


正臣が


最初の五人を書いた


「第一走班!」


黒板へ並ぶ名前


青菅隼人


根郷綾女


富里太一


飯田遊喜


そして――


「襷持ちは」


最後の名前を書く


麻倉迅


「俺!」


迅が自分を指差す


「そうだ」


正臣が頷く


続けて――


「第二走班!」


先崎誠


萩山剛


弥富ひなた


馬渡紗月


そして


襷持ち――鏑木与一


与一が静かに頷く


「分かりました」


「第三走班!」


正臣が次々と書く


臼井千尋


高崎秀


寺崎学


畔田樹


そして――


襷持ち――江原美鈴


「私かぁ!」


美鈴が少し驚く


その横で


千尋たちが顔を見合わせる


「この五人――」


秀が気づく


学も頷いた


「いつもの結界柱組だ」


美鈴の目が輝く


「なるほどね」


そして――


「第四走班!」


ここで


教室の視線が少し集まる


正臣が書いたのは


麻賀多道満


七曲桔梗


七曲茜


小竹菜穂


そして――


襷持ち――桜晴真


「僕だ」


晴真が黒板を見る


道満も


その組み合わせを見つめる


最後に――


「第五走班」


立身刀也


岩名豪太


麻賀多紅葉


木之子小夜


そして


正臣が最後の一人を書く


襷持ち――麻賀多凛


「凛」


「はい!」


先ほど皆から託されたばかりの


最後の襷


一年一組のアンカーだった


◇


すると――


黒板を見ていた豪太が


突然


勢いよく立ち上がった


「ほら見ろ!」


「えっ?」


凛が驚く


豪太は


少し離れた隼人を指差す


「一緒じゃないか!」


隼人は


第五走班の名前を見る


豪太


紅葉


小夜


刀也


そして凛


「…………」


豪太が


――凛は俺が守るぞ!


と言った時


隼人は


――まだ一緒のチームと決まってないだろう!


と突っ込んだ


それが――


「……本当に一緒だったのかよ」


隼人が呆れた声


豪太は


嬉しそうに胸を叩く


「凛!」


「俺が守るぞ!」


凛が笑った


「よろしくね、豪太君」


「おー!」


「任せておけ!」


「単純だなぁ」


隼人が呟く


教室から笑い声が上がる


◇


刀也は


別のところを見ていた


第四走班


晴真


道満


桔梗


茜


菜穂


「へぇ」


刀也が晴真を見る


「晴真と道満、一緒なんだな」


「うん」


晴真も黒板を見る


「そうだね」


道満も腕を組み


「そうだな」


何気ない返事


だが――


周囲の何人かは


すでに意味を察していた


晴真と道満


一年一組でも


特に規格外の二人


それを


同じ第四走へ置いた


正臣が


ぱんっ!


手を叩く


「そこに気づいたか」


皆が正臣を見る


「第五走班」


「つまりアンカーが大事なのは言うまでもない」


黒板の


《第五走》


その横へ


大きく丸を描く


「最後に襷を持ってゴールする」


「ここには当然――」


「どのクラスも絶対的に信頼できる奴を置いてくる」


正臣は


別のクラスの名前を例に出す


「三組なら――」


奉先


「あるいは」


舞桜


ざわっ


教室が少し騒めく


奉先の槍


舞桜の実力


どちらが最後に出てきても


簡単な相手ではない


「五組なら」


正臣は少し苦笑


「俺の妹――天音だろうな」


道満が


合同合宿で戦った相手を思い出す


「天音か……」


確かに


アンカーを任せるには十分すぎる相手


だが――


正臣は言った


「でもな」


「どれだけアンカーが強くても」


第四走を指差す


「ここでどういう状態で襷をもらうかによって」


「勝負は大きく変わる」


「…………」


皆が黒板を見る


「例えば」


「十馬身離された状態でアンカーへ渡したらどうする?」


「どんなに強くても」


「その差を全部ひっくり返すのは簡単じゃない」


逆に――


第四走で


一位へ出る


敵を消耗させる


進路を作る


良い状態で第五走へ繋ぐ


それができれば


アンカーは


自分の走りに集中できる


「だから――」


正臣が


晴真と道満を見る


「俺は第四走へ」


少し笑う


「うちのクラスの双璧を置いた」


「…………」


教室の皆が


納得したように頷く


晴真


道満


この二人なら


たとえ前三走で多少の遅れが出ても


何かを起こしてくれる


そう思わせる力がある


美鈴が笑う


「確かに」


千尋も


「晴真君と道満君なら」


秀が続く


「多少遅れてても」


学も頷く


「凛にいい形で渡してくれそう」


正臣が


二人を見る


「任せたぞ」


「晴真」


「道満」


晴真


「はい!」


道満も


「はい!」


二人の返事が


ほぼ同時に響いた


その直後


道満が黒板を見ながら呟く


「なら――」


「?」


晴真が見る


道満は


少し笑った


「俺と晴真の仕事は簡単だな」


「何?」


「凛へ渡す時には――」


凛を見る


「一位にしておけばいい」


「……!」


凛の目が開く


晴真も


すぐ笑った


「うん!」


「そうしよう!」


正臣が苦笑する


「簡単に言いやがる」


だが


その顔は嬉しそうだった


◇


「ただし!」


正臣の声が


一段強くなる


「お前ら」


皆が姿勢を正す


「忘れるな」


「一年一組は――」


黒板を叩く


「他のクラスからも強敵だと思われてる」


「…………」


少し空気が引き締まる


そして――


正臣が


迅を見る


「特に迅」


「え?」


迅が嫌そうな顔をする


「何です?」


「多分お前――」


一拍


「最初から狙われるぞ」


「なんでぇ〜!?」


教室から笑い


迅だけ


本気で嫌そう


「そんなぁ……!」


正臣は容赦なく言う


「当たり前だろ」


「第一走は全クラスが同時に出る」


「一番密集する区間だ」


さらに――


「相手から見れば」


「一組の先頭を潰せば、その後ずっと有利になる」


道満が手を上げる


「先生」


「なんだ?」


「しかし」


「なぜそこまで一組が狙われると?」


正臣が


じーっ


皆を見る


「……お前ら」


「忘れてるのか?」


「?」


「相手が油断していたとはいえ――」


少し声を落とす


「お前らは」


「裏佐倉を代表する三人の当主を倒してるんだぞ」


「…………」


皆


一瞬黙る


迅


豪太


晴真


あの一件を思い出す


「あっ……」


迅が小さな声


正臣はため息


「そりゃ警戒されるだろ」


「他の四クラスからすれば」


「一組は真っ先に潰しておきたい相手だ」


迅が頭を抱える


「だからって四クラス全部俺狙うの!?」


「可能性はある」


「嫌だぁぁぁ!」


教室から笑い


しかし正臣は


すぐ真剣な顔に戻る


「だから第一走班」


黒板を見る


迅


隼人


綾女


太一


遊喜


「お前らの仕事は――」


迅を見る


「勝つことじゃない」


「え?」


「まず」


「リタイアしないことだ」


迅が黙る


「開始直後の混戦で」


「無理に全員を倒そうとするな」


「迅」


「お前は《疾風脚》を使って」


「まともにぶつからず抜けろ」


次に


隼人と綾女を見る


「隼人」


「綾女」


「はい」


「おう」


「お前たちは忍びの技を使え」


「偵察」


「撹乱」


「囮」


「進路変更」


「相手に迅の本当の位置を掴ませるな」


二人が頷く


「そして」


太一


遊喜


「お前ら二人は」


「必要な時だけ正面から大技を叩き込め」


「道を開け」


太一が


「なるほど」


遊喜も


「倒すためじゃなくて、抜けるためですね」


「そうだ」


正臣が頷く


第一走


求めるのは――


速度


「迅」


「お前は一位じゃなくてもいい」


「襷を持ったまま」


「次へ繋げ」


迅が


少し真剣な顔になる


そして――


「分かりました」


◇


「次」


第二走班


誠


剛


ひなた


紗月


与一


正臣は


襷持ちの与一を見る


「与一」


「はい」


「お前は襷持ちだが」


「ただ前を走るだけじゃない」


「全体を見ろ」


与一の目が


少し鋭くなる


「誰が前へ出るか」


「どこから敵が来るか」


「どの道を通すか」


「全部見ながら指示を出せ」


「はい」


「そして――」


正臣が弓を引く仕草


「弓で敵の動きを止めろ」


与一が頷く


「誠」


「はい」


「お前の《結界棒》」


「実戦で使え」


「はい!」


「与一とひなたの矢を使って」


「進路そのものを作れ」


ひなたも


嬉しそうに返事


「はい!」


正臣が続ける


「真正面から全部倒す必要はない」


「相手が通りたい場所を塞ぐ」


「こっちが通りたい場所を空ける」


「それだけで十分だ」


そして


剛を見る


「剛」


「近づいてくる奴は任せた」


「おう!」


「紗月」


「はい」


「状況に応じて」


「前にも後ろにも入れ」


「分かりました」


第二走は――


制圧


遠距離から


戦場そのものを作り変える班だった


◇


「第三走班」


正臣が


少しだけ笑う


千尋


秀


学


樹


美鈴


五人も


正臣を見る


「お前らは――」


一拍


「あれをやれ」


美鈴が


にやっとする


「あれですね?」


「ああ」


「合宿で身につけた」


「お前ら五人のやり方だ」


五人の表情が変わる


刀優の結界柱


一人では再現できない


なら――


五人で分担する


千尋


防御


秀と学


攻撃術


樹


進路封鎖


そして


美鈴が


全てを繋ぎ


一つの結界陣として動かす


正臣が笑う


「披露してこい」


「他のクラスの度肝を抜いてやれ!」


美鈴


「はい!」


千尋


秀


学


樹


四人も


「おう!」


第三走


求めるのは――


組織力


一人ではできない


だから


五人で完成させる


それこそが


この班の強さだった


◇


「そして――」


正臣の声が


少し低くなる


「第四走」


空気が変わる


晴真


道満


桔梗


茜


菜穂


「ここは――」


正臣が言う


「おそらく一番の激戦区になる」


晴真が首を傾げる


「どうして?」


「各クラスとも」


「アンカーへ良い形で繋ぎたいからだ」


「ああ」


晴真も納得


最終走の一つ前


ここで


順位を上げたい


敵を削りたい


できるだけ有利な位置で襷を渡したい


当然


各組の主力が集まってくる


「道満」


「はい」


「お前が分析しろ」


「相手の配置」


「術」


「動き」


「全部見て指示を出せ」


「分かりました」


「作戦を組み立てろ」


そして――


晴真を見る


「晴真」


「はい!」


「お前は――」


少し考え


「好きにやれ」


「えっ?」


教室から笑い声


道満が


「先生!」


と声を上げる


正臣も笑う


「ただし!」


道満を見る


「晴真が何か思いついたら」


「お前が形にしろ」


「…………」


道満が


晴真を見る


晴真も


道満を見る


「道満君、よろしく」


「今から嫌な予感しかしない」


また笑い声


正臣は


桔梗


茜


菜穂を見る


「そして三人」


「はい!」


「この二人を支えてくれ」


桔梗が苦笑


「かなり大変そうですね」


茜も


「特に晴真君の方が」


「なんで!?」


菜穂が笑う


「でも任せて」


三人とも


特定の一芸に偏るより


状況に合わせて動ける


器用さを持っている


晴真が突破口を開く


道満がそれを戦術へ組み込む


三人が


空いた場所を埋め


後ろを支え


崩れた形を整える


第四走――


爆発力


正臣が


晴真たちを見据える


「ここで――」


「勝負をひっくり返せ」


晴真


「はい!」


道満


「任せてください」


◇


そして――


「最後」


正臣が


第五走班を見る


刀也


豪太


紅葉


小夜


そして


凛


「ここは説明するまでもないな」


正臣が言う


「皆で繋いできた襷を――」


凛を見る


「ゴールまで持っていく」


凛が


ぎゅっと拳を握る


「はい」


「小夜」


「はい」


「《森羅聴》で」


「敵の位置」


「障害」


「奇襲」


「全部拾え」


「はい」


「紅葉」


「はい」


「凛の側面を守れ」


「承知しました」


「豪太」


「おう!」


「正面」


「任せろ!」


「刀也」


「おう!」


正臣が笑う


「前を斬り開け」


刀也が


にやっと笑った


「そのつもりだ」


そして――


紅葉が


凛へ寄る


「凛」


「うん?」


紅葉は


自分の薙刀へ手を置く


そして小夜を見る


「黒桜の薙刀双花がついてます」


「…………」


小夜が


少し恥ずかしそうに頷く


「はい」


凛が二人を見る


紅葉


小夜


二人の薙刀


凛を守る


二輪の花


刀也も


自分の刀を肩へ担ぐ


「凛」


「何?」


「お前の走る道は――」


笑う


「俺が斬り開いてやるぜ!」


豪太も


胸をどんと叩く


「俺は絶対守ってやる!」


「…………」


凛は


少しだけ目を潤ませ


けれど


すぐ笑った


「うん」


「みんな――」


「よろしく!」


四人


「おう!」


第五走


そこに必要なのは――


信頼


◇


正臣は


黒板へ向き直った


五人の襷持ちへ


一本の線を引く


迅


↓


与一


↓


美鈴


↓


晴真


↓


凛


「これが――」


正臣が言う


「一年一組の走順だ」


皆が


黒板を見る


「第一走」


迅を見る


「《速度》」


「混戦をかわして抜ける」


「第二走」


与一を見る


「《制圧》」


「遠距離から戦場を作る」


「第三走」


美鈴を見る


「《組織力》」


「五人が一つになって進む」


「第四走」


晴真を見る


「《爆発力》」


「停滞した流れをぶち壊す」


そして――


最後


凛を見る


「第五走」


少し笑う


「《信頼》だ」


教室が


静かになる


正臣は続ける


「一番速い奴だけ集めたわけじゃない」


「一番強い奴だけ並べたわけでもない」


迅には


隼人たちがいる


与一には


誠たちがいる


美鈴には


千尋たちがいる


晴真には


道満たちがいる


そして――


凛には


刀也


豪太


紅葉


小夜がいる


さらにその後ろには


それまで走ってきた


一年一組全員がいる


「一人で勝つ競技じゃない」


正臣が言う


「前の奴が作ったものを」


「次の奴が受け取る」


「そしてまた次へ渡す」


「最後に」


凛を見る


「全部を背負ってゴールする」


「…………」


凛が


ゆっくり頷く


正臣は


今度こそ教師らしい


落ち着いた笑みを浮かべた


「お前らがここまでやってきたことを」


「そのまま見せてこい」


「はい!」


全員の返事が揃う


◇


正臣は


最後に一度だけ教室を見渡した


明日になれば


もう助言はできない


走るのは


この子たち自身


考えるのも


選ぶのも


助け合うのも


全部――


一年一組だ


「よし!」


正臣が声を上げる


「今日はもう余計なことするな!」


「道満!」


「はい?」


「札の調整始めるなよ!」


「……しません」


「晴真!」


「はい!」


「新しい術を思いついても試すな!」


「えー」


「えー、じゃない!」


笑い声


「迅!」


「はい!」


「今夜走り込みとかするな!」


「なんで俺だけそんな具体的なんですか!」


「やりそうだからだ!」


さらに笑いが広がる


正臣も笑い


そして――


「今日は早く寝ろ!」


「明日に備えろ!」


「はい!」


晴真が


周りを見る


道満


凛


刀也


迅


与一


小夜


豪太


隼人


紅葉


美鈴


そして


一年一組のみんな


「じゃあ――」


晴真が笑う


「明日、頑張ろう!」


一瞬


皆が顔を見合わせ


そして――


「おう!!」


大きな声が


教室いっぱいに響いた


桜駆け――


開幕まで


あと一日


速度


制圧


組織力


爆発力


そして――


信頼


五つの力を


一本の襷へ繋いで


一年一組は


いよいよ本番へ挑む

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